-23-   「affair」



朝食をビュッフェで済ませた後、部屋に戻る二人。


「ねぇ、いい天気だけど…どうするの?」


「そうだな…外でデートでもするか。
英国ではほとんどデートらしいデートしてないしな。」

「…そうね。」

嬉しそうにしている彼女を見て自分も嬉しいと感じる。

「じゃ、定番のドライブでも行くか…」



フロントで車を手配してもらう。

オープンカーは目立つ気がするので普通の2シートのもので。




青空の下、二人は笑顔で出かける。


ハンドルを握る彼はせっかくだからと海岸沿いを走る。



「わぁ…キレイ。 もう11月だから泳げないわね…」

「そうだな。次は夏に来るか…」

「えぇ、そうね…」


助手席で彼女はいつも彼の横顔を見つめる…





サンタモニカまで足を伸ばす。



腕を組んで歩く二人は何処からどう見ても幸せなカップル。
2年間、離れ離れだったとは思えぬほど、甘いムードのデート。




夕陽の落ちる波打ち際をミュールを脱いではしゃぐ彼女を見つめる。

まだ乙女な花嫁を見て嬉しさを隠しきれない…




すっかり夕陽も落ち、海と空が混ざり合う…

浜辺で二人が寄り添い、星空を見上げていた。




「不思議ね… あの中で…引き裂かれたのに… 今こうしてあなたと見てる…」

「そうだな…」


彼は優しく抱き寄せ、その細い肩を撫でていた。





「そろそろ…戻ろうか?」

「えぇ。」


彼女の手を取り立ち上がろうとした時、後頭部に激痛を覚え昏倒する…
突然の出来事に驚く。

「リチャードっ!?」

彼女が振り返ると6人の男たちが立っていた。

「!! 何なさるの?! リチャード! しっかりして!!」

彼の身を案じて抱きつこうとするが二人の男に引き離される。

「イヤ!離して!!」


自分の前に立つ男…
リーダーらしい、自分よりふたまわりは大柄な短髪アッシュヘアの男が
好色の目で彼女を上から下へと見る。


「ひょ〜♪ 後姿じゃわかんなかったけどー、めっちゃいい女じゃん!!」

「イヤ!離してっ!!」

男たちの下品な目にさらされ、肌が粟立つ。

もう一人の男が彼女を羽交い絞めにする。

「イヤ!!…いやぁ!!」

何とか逃れようと暴れるが無駄だった。
前のリーダーの男がサバイバルナイフを出してきた。

目の前の刃の大きさに首の後ろに冷たい汗が流れる。

「…こ、殺すなら彼と一緒に殺して!!」

「誰がそんなもったいない…こうするんだよ。」

ナイフの刃をワンピースの胸元に入れ、一気に縦に引き裂く。

「きゃああああッ!!」

白い肌に薄くナイフの通った後。
ブラもパンティも引き裂かれていた。

「こりゃーマジで大当たりだな♪」

男は嬉々として彼女の白い胸を鷲掴む。

「いゃあっ!!」

砂浜に押し倒される華奢な身体。


リーダーの男は濡れてもいない秘所に反り返った赤黒いモノを突き立てる。

「いやぁ…痛い!! やめてぇ…」

苦痛で顔が歪んでもその美貌は損なわれていなかった。

「くッ…きついけど…いいぜ!!」



4人の男に両手足を押さえつけられていた彼は彼女の悲痛な悲鳴で目覚める。
手足を押さえている男たちを睨むが動けない。

「…ッ!! ファリア!! 何だ貴様ら…!!」

「目覚めんのははえーな、こいつ…」

「こんな優男に…」

4人の男たちは口々に彼をけなす。

何とか彼女の声のするほうに目を向けたリチャードの眼に映ったのは…
大柄な男に陵辱されている愛しい彼女の姿。

「!! くそっ!!」

彼の怒りは一瞬で頂点に達した。
4人の男は一気に弾き飛ばされる。

「「「「!!?」」」」

飛ばされた男たちは4方でそれぞれに呻く。
彼は夢中で犯している男を背後から引き剥がし、思い切り殴打した。
身体ごと吹っ飛び、砂の上を転がっていく。
既に白目をむいていた。

上半身を嬲っていた男はその一瞬で怯え、腰が抜けた上に失禁してしまう。



自分の腕の中に取り戻したファリアは気を失っていた。

痛々しい陵辱の痕―

ジャケットを脱ぎ、彼女に掛け抱きしめる。

「う…すまない。僕が…僕がふがいないばっかりに…」



遠くからパトカーのサイレンが近づいてきた。
通行人の誰かが通報したらしい。

しかし彼の耳には届いていなかった…




一気に5台のパトカーが到着した。
警官達はその光景に驚く。


5人の男たちが倒れ、1人は完全に腰が抜け怯えていた。
倒れている大柄な男はだらしなく下半身を露出したままの姿。


その中で黒髪の乙女を抱きしめ泣いている青年の後姿―



一目で何が起こっていたか解る警官達。
その中のひとり、マッケンジー警部が青年の前に回りこむ。

「!!」

近づくとはっきりと解った。
乙女はかなり悲惨な状況だということに。

「おい!! 救急車を呼べ!!
大丈夫かね…君…?」

肩をゆすられやっと顔を上げる。

「僕は…平気です。僕のファリアが!!僕の妻が!!」

「!!」

すぐにやってきた救急車からストレッチャーが降りてくるが
彼は下ろそうとせず、抱き上げて救急車に乗り込む。


昏倒している男たちも一応乗せる。
ただひとり怯えている男を警察へと連行した。


リーダー格の男のあごは砕けていた…





病院に着くと二人とも緊急処置室へと運ばれる。
意識を失ったままの彼女を診察台に下ろす。


「う…ファリア…ッ!!」

医師たちが診察処置を始める。

「君も…こっちへ。」

他の医師に引っ張られ隣の処置室で彼も傷の手当てを受ける。
右の拳が裂け、出血していた。
後頭部にも殴られた痕がある。

「…痛むか?」

消毒液が沁みるがそんなことも感じない。

「いいえ。大丈夫です。 それより…僕の妻は…?」

若い青年の言葉を聞いて驚く医師。

「君の奥さんなのか…彼女は。」

「はい。まだ式をして10日も経っていません…」

「新婚旅行中…か、可哀相に…」


処置が終ると手には包帯、顔には擦り傷が滲んでいた。

「どうして、彼女がこんな目に…」

怒りで拳を震わせる青年を見て医師は告げる。

「実はここ2ヶ月ほどの間に6件の同様の事件があってね…」

「!?」

「君たちが7件目の被害者だ。 
今までの被害者も男性が怪我を負わされて、女性が乱暴されている。 
酷いのは男性の両手足、骨折。女性が流産したケースも…」

医師は瞳を閉じていた。

「なんて…ヤツらだ!! デスキュラ以下だ!!」

憤慨する青年と同じ気持ちの医師。

「そうだ。人間じゃない!」






「女性の処置が終わりました。Drがお呼びです。」

看護婦が彼を呼びに来た。

医師は彼女を診察した結果を伝える。

「君は…被害女性の…ご主人のようだね?」

「はい。どうしてそれを?」

「結婚指輪だよ。 すぐに解るさ。」

「あ。はい… それで僕の妻は?」

ふうと溜息をついて医師は話し出す。

「…外陰部には傷がある。」

「!!」

「しかし内壁は…思ったより少ないよ。やはり精神的ショックが大きいだろうね。」

「…はい。」

  (怖かっただろう… 痛かっただろう… 僕がちゃんと守っていれば…)



悔しさで震える青年を見て医師は言葉を続ける。

「夫の君も怪我を負っているが… 今までの被害者の中で一番の軽傷が不幸中の幸いだ。」

「…そうですか…」

その事を言っても気休めにしかならないと解っていても
あえて医師は告げた。



そこへ警部たちが現場検証を終えてやってきた。

「すまない。被害者達の容態は?」

警部と顔見知りらしく、すぐに返答する。

「あぁ、マッケンジー警部。…今、ご主人に説明を。」


警部は青年の怪我の様子を見る。
右手に包帯。顔にはテープ。



「ご主人…やはりそうか。」

「ん?気づいていたのか?」

「あぁ、二人とも結婚指輪を…。」

「新婚旅行中だそうだよ。」

「!! それにしても…君。 よくひとりで6人をあの状態に出来たものだ。
何か格闘技でも…?」

問いかけてきた警部に問いかえす。

「…あの、僕達の名は、公表されるのですか?」

「え…」

思いがけない言葉に警部も医師も驚く。

「出来れば、表沙汰にしたくないんです。
彼女の名誉もありますから。」

医師と警部は顔を合わせた。
お互いうなずく。

「…わかりました。 Drも守秘義務があるから大丈夫だ。」


おもむろに話し出す青年。

「…僕は英国から来た、…リチャード=ランスロットと申します。」

「「!!」」


医師も警部も驚きの目で彼を見る。
そういえば新聞で顔を見た気がした。

「確か…地球連邦・ビスマルクチームの?」

「えぇ。ですから…表沙汰には…」

「あぁ。確かに元・ビルマルクチームというならヤツらの怪我もわかるさ。
あの男の怯えようにもな。
戦争を生き抜いた彼に睨まれれば…ああもなる。」

医師の言葉は的を得ていた。


「…そうか。ところで奥さんの方は?」

「怪我を負ってはいるが… 今までで最小の被害だよ。
心理的ショックの方が心配だね。」

「…わかった。」



そこへ彼女の処置をしていた、看護婦が声を掛けてきた。

「あの、先生。 女性の意識が戻りました。」

リチャードは慌てて隣の処置室に駆け込む。

「ファリア!!」

「あ…リチャード…」

力なく横たわる痛々しい姿。
彼女の手を握り、謝る。

「すまない… ファリア。 僕が…僕がふがいなくて… ごめん…」

めったに見せない涙を流す頬にそっと触れる。

「あなたのせいじゃないわ。…私… 抵抗したのに……ごめんなさい。
守れなかった…。」

お互い謝る二人を見て驚く警部と医師。
今までの被害女性達はパートナーをなじっていたことが多かった…




そっと彼女を抱きしめる青年を見て、医師たちは目の前の二人の愛情の深さに感動を覚える。


「Dr。 この二人をホテルに戻しても大丈夫かね?」

「あぁ。」

「わかった。パトカーで送ろう。」

医師は彼に近づく。

「…ランスロットさん。 ひとついっておきます。
これから3日間はセックス禁止です。 彼女の傷に障りますから。」

「…はい。」






二人は警部のパトカーに乗せられホテルに戻ることに。
浜辺に置き忘れられていた荷物も乗っていた。

彼女は病院着のままだったのでシーツで包まれて彼に抱き上げられて乗り込む。


「…大丈夫か? 傷…痛まないか?」

「…えぇ。なんとか。
あなたこそ、頭…大丈夫?それに…手…」

「あぁ。君に比べれば浅い。」

そっと彼の頬に触れる細い指先。

「ありがとう。リチャード…助けてくれて。」

「いや、そう言われるのは心が苦しいよ。
ちゃんと君を守れなかった。夫失格だ。ごめん。」

「いいの…いいのよ、もう…」

「ファリア…」

彼女の涙を拭う指先が震えていた。



二人のやり取りを聞いていたパトカーの運転席の警官とマッケンジー警部は
切なさを感じていた。


「…ランスロット君。 ホテルの地下駐車場に付けるが…それで構わないかね?」

「はい。お願いします。」



ホテルの地下駐車場へ付けられると彼女を抱き上げて降りる。

「明日に事情聴取に伺います。」

「解りました。」




二人はエレベーターで最上階のスィートルームへと。



ベッドに下ろすリチャード。

「ごめんなさい。手間かけさせて。」

「いいや、愛する妻の君に手間なんてないさ。」


ベッドから離れようとする彼を呼び止める。

「…ファリア?」


「お願い。そばにいて…」

「嫌じゃないのか…? あんな目にあって…?」

「あなたは嫌じゃない。…お願い。」

「…あぁ。」


彼女が怖がるかと思い隣のリビングで休むつもりだった。
静かにベッドに入る。

「…リチャード…」

「ん?」

「お願い。キスして…」

「あぁ。」


優しく唇を重ねる。




「無理してないか? 大丈夫か?」

「えぇ…大丈夫よ。」

優しく指の背で彼女の頬を撫でる。

「僕… 君に謝りたいんだ。
その…僕は…機内で… 僕はあの男たちと同じだ。
君に同意を求めることなく無理やり抱いた。いや…犯した。
すまない…」


いきなり謝るリチャードに驚く。
13歳の少年の時と同じ顔をしていた。
あの図書館の…時と。


「…リチャード。それは違うわ。」

「違わない。」

「ううん…聞いて。
私…あなたと結婚式してから…リィと離れて…淋しかった。
心配だった。ずっとあの子のそばにいたし…半日以上離れた事がなかった。
機内であの子が泣いている夢を見たわ。

すぐ…あなたに起こされて… 思わず電話した。
直後、あなたに求められて… 最初、驚いたけど…解ったの。
私、あなたに気遣ってなかった。ごめんなさい。

あなたを愛してるのに…誰よりも大切なのに…」

「いいや。僕こそ… つまらない嫉妬で君を無理やり求めた。」

「嫉妬?」

「あぁ。リィに嫉妬してた。
式の後、3日ともあの子に君を取られた気がして…
君を独占したいって… あの子をロンドンに置いてこさせた。
僕のエゴだ。すまない。  君が…ひとりで産んで育ててくれていた…
大切な子なのに…
誰よりも君を愛してるのにな…」

彼の言葉を聞いて涙が溢れる。

「…リチャード…」

「僕達もっと話さなきゃな…もっと…」

「えぇ、そうね。 大好きよ…」

「あぁ。僕も誰よりも君が大好きだ。 愛してる…」


優しいくちづけを繰り返す。




「ねぇ…リチャード…」

「ん?」

「抱いて…」

エメラルドの瞳を細めて彼は言う。

「3日間はダメだ。 Drに止められているからな。」

「じゃ、こうしてて…ずっと。」

「あぁ。」


彼の腕の中に抱きしめられる。
逞しい腕に包まれぬくもりを感じる。

安心しきった彼女はいつしか眠りに落ちていく。



彼は病院着のままの彼女を着替えさせた。
目覚めたとき、このままだと嫌かもしれないと配慮してのこと。
可愛らしい白いネグリジェに変えた。


自分も着替え、ベッドに入る。
彼女を抱きしめ、指先に黒髪を絡ませている内に眠ってしまう―





To #24 「tear&smile」
__________________________________________________
(2005/7/6)



BACK To #22


To Love Sick