-21-   「honeymoon 〜3〜」



彼女が気づくと夜10時―


「あぁ、起きたか?」

「…えぇ。やっぱりあなたが先に起きてるのよね…」

白い指先が彼の頬に触れる。


「…体力が違うせいかな?」

「たぶん、そうね。」


彼女の黒髪を手に取りキスするリチャード。


「…お腹、空いてないか?」

「え?そういえば…」

彼に言われてみれば空腹感を感じる。

「こんな時間だし… レストランも閉まってるな…。
やっぱりルームサービスか…」

彼女は身を起こし、ガウンを羽織り、ベッドを降りる。

「いいじゃない。こんな時間ですもの…軽くで。
メニュー持って来るわ。」

「すまない。」

リビングのミニカウンターバーの片隅に置かれていたメニューを持ってきた。


電話でオーダーすると30分以内に持ってくるとのこと。

二人は服を着る。
彼女は乱れていた髪をドレッサーの前で梳いていた。


20分ほどで夜食が来ると彼が応対に出る。
リビングに置かれているダイニングテーブルにセッティングされていく。

給仕人は青年二人―ギャルソンとコック。

ベッドルームからファリアが出てくると青年二人は目を奪われていた。一瞬動きが止まる。

淡いピンクのワンピースを着ている可憐な乙女。
白い肌に艶やかな黒髪が映え、その笑顔は内側から輝いていた。

夫であるリチャードは別に気にも留めないが、青年達の動きが止まっていたので咳払い。
やっと我に返り、動き出す給仕人たち。


「やっと食べれるのね〜」

「あぁ。」

先に腰を下ろしていた彼は立ち上がり、彼女の椅子を引く。

「ありがと。」

目の前で料理が並べられていく。

彼女はベジタブルサンドとコンソメスープ。
彼はがっつりと…肉料理とサラダとスープと言うメニュー。

「お待たせいたしました。」

この時、ギャルソンの青年が気づく。
乙女の胸元に残るキスマーク。
彼女は外出用の服より部屋着用のワンピースを着ていたために
斜め上からだと胸元がくっきり見えていた。

「いただきます。」

笑顔の彼女が料理を口に運び始める。

「あぁ。ご苦労様。もういいよ、君たち。」

自分たちより若い青年に言われ、一礼をする。

「それでは失礼します。ごゆっくりどうぞ。」



給仕人の二人は下がる。




廊下に出た二人は顔をあわせていた。

ギャルソンのデビットは相方のコック・レイフに言う。

「…新婚夫婦の部屋って聞いてたけどさ…
普通この部屋ってさ、30代のカップルが多いよな。」

「あぁ、確かにな。どうみても今回の二人って…」

「20そこそこって感じか?」

「そうだよなぁ。 それにしても羨ましい。」

レイフのつぶやきに続くデビットの言葉。

「あぁ。あんな若くて美人… って、18いってんのか?…あの娘。」

「多分それくらいなんだろ?  それより気づいたか?」

「何が?」

「あの娘の胸元のキスマーク。」

「そういや…あの男が付けたんだろうな… いいなぁ〜。」


そんな会話をしながら戻っていくコックとギャルソン。






   ***



「おいしかった〜。ご馳走様。」

まだ食べているリチャード。

「…それで足りてるのか?」

「え?えぇ。 あんまりたくさん食べれないし…」

はにかみながら返事する。

「そういや昔から少食だよな…
まぁ、僕が多いって言うのもあるけど。」

「でも、そのワリには細いのよねぇ〜、リチャードって。」

「そうかい?」

最後の一口を口に放り込む。

「筋肉質だからなのかしらね…」

「だろうな…」

食事を終え、紅茶を入れる若妻ファリア。
彼は美味しそうに飲んでいた。
テーブルから台車に皿を移す彼女。

その皿を見つめていたのに気づいて声を掛ける彼。


「どうした?」

「なんか…洗わなくっちゃって思うのよね…」

「しなくていいよ。」

「しなくちゃいけないって思っちゃうのよね…。
やっぱりちょっと脅迫神経症なのかしら…?」

意外な単語を聞いて驚くリチャード。

「は?何でだい?」

「…フルシーミにいた時ね、一応、歌姫…だったんだけど、色々お店手伝っていたのよ。
皿洗いもしていたから… 汚れたのを見ると洗わなくっちゃって…」

深い翠の目を細めて彼は言う。

「君がする必要はないだろう?」

「…解ってるんだけどね…」

手早く皿をテーブルから台車に移していく。
全部移し終わると廊下へと出しておく。




リビングに戻ると彼が長ソファに腰掛けて待っていた。

「ファリア…ちょっと…」

「えぇ、何?」


彼に手招かれ、横に腰を下ろす。
妙に真剣な顔で問いかけてきた。

「…その…フルシーミでさ、歌姫って言ってたけど、何でまた?」


今まで疑問思っていたことをストレートに尋ねた。


「…」

少しつらそうな顔を見せる彼女の顔を見て慌てる。

「あ…  君が言いたくないならいい。すまなかった。」

ファリアは彼の手に触れ、瞳を見つめる。

「ううん。聞いて。」

彼女の語り出す言葉を聞く体勢になる。

「私… あのカプセルに乗り込んで… 
回収してくれたのはフルシーミの鉱山に出稼ぎに行く男の人たちの船。
一方通行の船で一度フルシーミに入ったら…出られないって言われたの。
軍人しか出られないって。
もう船は大気圏突入直前で…どうしようもなかったの。

乗っていた人の中に…お仕事のコーディネーターの人がいて、
その人に"バーで歌姫か、売春宿"って言われたの。」

驚きの目を向ける彼。

「なんだって!?」

うっすらと涙を浮かべる彼女の肩を抱き寄せる。

「…バーしか行く道はなかったわ。
歌姫ったって最初は何をしていいか解らなくて。
お店の手伝いからよ。ウェイトレスもしたし、皿洗いも…

歌い出したのは17の誕生日の後。
9月の終りに自分が妊娠してるって…解った。
悩んでいるうちに年が明けて…バーの主人達に問い詰められた。
日に日にお腹が大きくなっていくんですもの。
それでもう…産むしかないって言われて…
あの子を5月に出産したの。

あの子を産んで…顔を見たとき、嬉しかったわ。
あなたそっくりの金髪で…顔もあなたに似てる気がした。
私にこの星でひとりで淋しくないように…神様が…いいえ…あなたが
授けてくれたと思ったの。

それから…あの子の為に頑張らなきゃって…必死だった。

私にプロポーズしてきた男性もいたわ。
"子供には父親が必要だ!"って…言われた。
けど本当の父親はあなただけ。
それに…私、あなた以外の男の妻になるなんて考えられなかったのよ。
だから…断ったわ。」

「ファリア…」

愛おしそうに細い肩先を撫でる。

「リィのために出来ることなら何でもした。
でも父親だけは…ウソの父親を与えたくなかった。
将来、父親がいない淋しさを抱かないように…村の人たちに可愛がってもらえるように…
努力したわ。
でも、あの日。
デスキュラが村を襲ったあの日。
もうダメだと思った。
あなたの子、守れずに死んでしまうと思った…
けれどあの男(ひと)が…私とリィを庇ってくれた。」

「あの男(ひと)?」

「私に…プロポーズしてきた人。
私なんかの為に…プロポーズして…庇って勝手に死んでしまって…」

泣き出してしまう彼女を抱きしめる。

「…ファリア。僕はその人に感謝しなければならないな。」

「え?!」


「その人が庇ってくれたから、助かった。 …君もリィも。
僕も君がそうなっていたら…庇っているさ。」

彼の言葉が心に沁みる。

「あ…  リチャード…
私が馬鹿なのね…」

「いや、違う。
君の思いもわかるよ。ありがとう…そこまで僕を愛してくれて…
リィを守ってくれて…」

「あぁ…」

彼の背に手を回し抱きつき泣き出す。




   (君は12のときと…変わってないな…)


優しく背をなぜるリチャードの手。


「そのためにも…頑張って生きていこう…リィと君と僕の3人で…  な?」


「…えぇ。」






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(2005/7/6)



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