-8- 「little baby」
リィを抱いたファリアは救援艦でセレス星へ。
そこから連邦政府の艦で地球の連邦政府本部へと身柄を移される。
アテナU号事件の行方不明者ということの認定のためと
身分証のIDを復活させてもらうためであった。
そして彼女の子がリチャードとの子供であるというDNA鑑定。
―――99.9% 二人の子と証明された。
***
―英国・ヒースロー空港
空港の貴賓室で彼女は待たされる。
リィは今まで行動を共にしてきた連邦政府の女性将校になついていた。
その人と外へと散歩に出て行ったのだ。
紅茶を口にしながらリィが帰ってくるのを待つ。
しばらくしてノックの音。
戻ってきたのかと思い返事する。
入ってきたのは連邦政府の士官と…父・アーサーと祖父母。
「!!」
彼女は驚く。
まさかここまで迎えに来てくれるなど思っていなかった。
「お父様…お爺様…おばあ様…」
3人とも2年で少し老けていた。
「…! ファリアッ!!」
父は駆け出して娘を抱く。
「よかった…やっぱり…生きていた…
リチャード君が連絡をくれたよ。連邦政府からも…」
父の腕の中で涙ぐむ。
懐かしい父の香りを感じていた。
「お父様…」
父は抱きしめていた腕を緩め少し成長した娘の顔を覗き込む。
「ところでお前… 子供がいると聞いた…が?」
父に問われ顔を伏せた。
「お父様、お爺様、おばあ様。驚かせてごめんなさい。
私… 17歳で赤ちゃんを産んだわ。」
「「「!!」」」
目を開き驚きを隠せない。
父は信じられないといった顔だった。
「父親は?!」
「…リチャードよ。」
「なんだと?いつの間に??」
「…あの事件の1週間くらい前に…」
父は当時の記憶を辿っていた。
「お前…。 !! あの雨宿りの時か??」
言い当てた父に驚く。
ごまかさずに正直に告げる。
「…はい。
まさかそんな初めてで…子供を授かるなんて思いもしなった…」
「は…そうか…」
父も祖父母も脱力していた。
顔を上げてファリアは言う。
「でも私、後悔してない。 この子がいたからフルシーミ星で生きてこられた。
あの子がいなければ…私…それこそ売春宿に売られていたかもしれない。」
「「「!! ファリア?!」」」
思いがけない言葉に3人は驚く。
確かに辺境の惑星にいたのだからありえない話ではない。
「それで、リチャード君は…その子を自分の子と認めているのか?」
父は心配そうな顔を向けて問う。
「えぇ。」
涙目のファリアが笑顔で答える。
そこへ例の女性将校が戻ってきた。
彼女の腕の中で泣いている赤ん坊。
「すみません…散歩してたら…突然泣き出してしまって…」
「えぇ。こちらに。」
子を渡されるとその頬を撫でる。
「いい子ね…リィ。泣かないで…」
いつものように子守唄を聞かせる。
途端に泣き止み、じっと母の顔を見つめる。
祖母は彼女の歌声を聞いて嬉しくなっていた。
自分が教えたあの歌を歌っている。
「ふふ…いい子ね。リィ。」
指でその頬を撫でる。
すっかり母親をしている娘を父たちは見守る。
祖母はそんな孫娘のそばに立つ。
「…ファリア。抱かせてちょうだい。」
「えぇ、おばあ様。」
祖母にリィを渡す。
「まぁ、可愛い。金髪はパパ譲りね。お目目はママね。」
祖母・アニーは微笑んでひ孫を抱く。心地いいその重さ。
サファイアの瞳の赤ん坊は初めて見る顔をじっと見ている。
「ホントに…なんて…可愛い…男の子、なのね?リィってあなたがつけたの?」
「えぇ。彼の名から…
私、フルシーミ星からもう2度と出られないって聞いていたの…
だからもうお父様、お爺様おばあ様…彼に もう逢えないって…思ってた。
この子だけが私の救いだったの。
本当は”リチャード”って付けようかとも思ったけど…ストレートすぎるかなって思って…
それで…”リィ”って…」
静かに祖母たちは話を聴いていた。
「そう…それで”リィ”。いいじゃない。」
「おばあ様…ありがとう。」
祖父も近づき覗き込む。
「ワシにも抱かせてくれ。」
「えぇ、お爺様。」
アニーから受け取る。
初めてのひ孫を目を細めて見つめる。
じっと祖父の顔を見ていたと思ったら、立派なヒゲを引っ張る。
「お爺様…ごめんなさい…」
「いいや、構わんさ。子供のすることだ。 アリステアやお前にもよく引っ張られたな…」
はははと笑い祖父は満面の笑みを浮かべる。
父は娘の肩を抱き、さする。
「…ファリア。ひとりで産んで、育てて…苦労したんだね。 大変だったろう?」
父に言われ首を横に振る。
「この子がお腹にいるって解った時、驚いたわ。
けど…嬉しかった。ひとりじゃないって…
それに村の人たちも親切にしてくれた。
…デスキュラのせいでみんな…殺されて… それが一番悲しい…。」
「「「!!」」」
その言葉を聞いて父たちも悲しくなる。
リイが少し祖父の腕の中で暴れていた。
「あぁ、ごめんなさい… お爺様。こっちに…」
顔を覗き込み目を見る。
「少し…お腹空いた?」
哺乳瓶でジュースを与えるとごくごくとものすごい勢いで飲みだす。
「ファリア。私にも抱かせてくれ。」
「勿論よ。お父様。さ、リィ…」
飲み終わった哺乳瓶を手に取り、背中をさすってげっぷを出させてから父に渡す。
「ほぉ…この子が私の孫…か。」
抱き上げて見るとなんとも言えぬ幸せな気持ちになる。
そんな様子の父と祖父母達にファリアは嬉しくなるが気になることを口にした。
「あの…お父様。お爺様。 私のこと…怒らないの?」
「「何を?」」
二人同時に声が上がる。
「だって…結婚前に子供が出来るようなことした私を…」
抱き上げていたリィを下ろし、小脇に抱える父。
「…確かにそうかもしれんが…私は怒らないよ。
お前がこうして生きて帰ってきただけでも嬉しいのに…孫まで見れた。嬉しいよ。」
思わぬ父の言葉に目を開く。
「じゃ…リチャードには?」
「まぁ、この場合、叱るべきは男のリチャード君だ。父上はどう思われます?」
目を細めひ孫を見つめる祖父。
「まあ…避妊をしなかった二人の責任だ。リチャード君はどう言っていた?」
「…彼はすぐに結婚をって…それにこの子の出生手続きをとるって。
DNA鑑定はもう済んでいます。」
「そうか。ならいい。しっかりふたりで育てるんだな。」
微笑んでくれた父たちの顔を見て安心する。
そこへ連邦政府の女性士官に連れられた弟・アリステアが制服姿で入ってきた。
「…姉さま?!」
13歳に成長した弟を見て驚くが弟も驚いていた。
昨日、父から姉が生きて帰ってくると学校の寮に連絡があった。
「…アリステア! 大きくなったわね…」
まじまじと少し大人っぽくなった姉の姿を見る。
「父さまが言ってたこと、ホントだったんだ。」
「…え?」
「”何処かで生きてる。死んでない。”ってずっと言ってたんだ…父様とリチャードさんが。」
「そうだったの…?」
父の腕の中でうたた寝していたリィが突然泣き出した。
「あぁ、お父様…」
父からリィを受け取り、あやす。
「え…姉さま…赤ちゃん?」
「そうよ。あなたの…甥になるわ。
ほら、リィ、あなたの叔父ちゃまよ。」
赤ん坊を見てすぐに解る。
「ひょっとしなくても…リチャードさんの?」
「そうよ。何で解ったの?」
「だってこの金髪…リチャードさんそっくりだよ。解るよ。」
「ふふ…そう?」
突然赤ん坊を連れて帰ってきたファリアをみな受け入れていた。
一家6人はロンドンの邸に戻る前に百貨店に寄る。
もちろんリィの身の回りのものを揃える為でもあったが、ファリアのものも買い込んでいた。
祖母は嬉々としてベビー用品を買い漁っていた。
売り場のものをすべて買い込んでしまいそうな勢いで。
***
―翌日
パーシヴァル公爵は娘と孫を連れてランスロット邸を訪ねる。
リチャードからランスロット公爵と夫人に連絡は行っていた。
<ファリアをフルシーミ星で見つけた。…彼女が…僕の子をひとりで産んでた…>
その言葉を聞いた父・ランスロット公はただ驚くばかり。
彼は自分の意向を父に告げる。
<僕が帰ったらすぐに結婚を。勿論、式も。それに子供の出生手続きを…すぐにでもしたい。
父上とお爺様、パーシヴァル公のお叱りは帰ってから受けます…>
母・メアリ夫人も驚いていたが、孫の顔が見れると思うと嬉しかった。
***
3人がメアリ夫人の部屋に通される。
「お久しぶりです…ランスロット公様、メアリ夫人。」
すっかり母親の顔をしているファリアを見て驚く。
しかしその母親・セーラ譲りの美貌は増していた。
ランスロット公は声を掛ける。
「ファリア… 息子の子を産んだと聞いた。ひとりで大変だったろうに…」
いたわりの言葉を聞いて涙が溢れる。
「いえ…もう思い出です。この子がいたから私、救われたんです。」
「そうか…。」
涙の顔のまま、夫人に顔を向ける。
「…メアリ夫人…」
目を細め静かに微笑む夫人。
「ファリア…やめて。 お母様と呼んでちょうだい。」
「はい…。 お母様。彼の息子のリィです。1歳3ヶ月になります。」
渡される赤ん坊を見て嬉しくなるメアリ夫人。
覗き込むランスロット公。
「まあ… あの子の赤ん坊のころそっくり。違うのは瞳だけね。」
「はは…そうだな。リチャードを思い出すな。」
喜んでくれる二人を見て安心したファリア。
「よろしくお願いします… お父様、お母様。」
頭を下げる彼女に微笑を向けるランスロット公夫妻。
「あぁ、君が嫁に来るのは昔から解っている。
こちらこそ…頼むよ。もう跡継ぎがいるんだからな。」
「…はい。」
嬉し涙を流しながら笑顔を向ける。
ランスロット公夫妻も父もみな笑顔―
「それにしても…何故”リィ”なんだね?」
みなに同じ事を聞かれる。
ファリアもアーサーも笑いあう。
「何だ?二人して?」
「いや…由来を聞くと少し切ないかと…」
「お父様…」
「なんだ?切ない由来とは?」
「…ファリア、話してあげなさい。」
ワケを話すとランスロットの両親は理解してくれた。
「ま…確かに少し切ないが…”リィ=ランスロット”じゃ少し…」
ランスロット公に言われてみると父・アーサーも同じことを感じていたので口にした。
「じゃ、ミドルネームでも付けるか??」
父たちに言われると確かにそうだと気づく。
「そうね…じゃ、パパに付けて貰うわ。”リィ”は私が勝手に付けちゃったんだし…」
「そうだな…それがいいか。」
父も同意してくれる。
ランスロット公は立派なひげを撫でて問いかける。
「ところで誕生日はいつかね?」
「2084年5月7日です。血液型は…ABです。」
「はは…血もリチャードと同じか…」
メアリ夫人の膝の上で笑顔を見せる赤ん坊…
パーシヴァル家でもランスロット家でもリィは受け入れられていた。
父親そっくりの金の髪と母親と同じサファイアの瞳の子―――――
To #9「remain」
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(2005/6/5)
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