-2-   「ambivalence」



二人とも夏休みに入った7月―


それぞれランスロット城とローレン城に戻っていた。


天気のいい午後、少年は愛馬キング号に乗って彼女を遠乗りに誘う。

彼女をキング号に乗せてから自分も跨る。





初夏の林を抜け、丘へと向かう。


少年が13、少女が12の時に結婚の約束を交わした思い出の丘。
二人にとって何よりも大切な場所。



「…いい風…」


久々の丘でゆったりとした時間を味わう。

誰にも邪魔されないこの時間が好きだった。


少年はじっと少女を見つめる。

風になびく黒髪。
半そでのシャツから覗く細く白い腕。
少しずつ丸みを帯びてきた胸元。

逢う度に少女から乙女になっていく彼女が時折眩しかった。



「…リチャード?」


不意に呼ばれて我に返る。


「どうした?」


「はい、これ。」


シロツメクサで編んだ花輪を彼の頭に乗せようとするが大きくて首輪状態。
思わず苦笑する。

「随分大きいな…」


「だって…フェンシング大会でも、馬術大会でも優勝したじゃない。
だから、2回分。」

笑顔でそう言われると嬉しい。

「だからって…コレ?」

「うん。いらない?」

少々悲しげな顔を見せる少女に言葉を続ける。

「いらないわけじゃないけど…前にした約束、忘れてない?」

彼にそう言われ記憶の糸を辿る。

「え…あッ!?」


   (思い出した…確か…5月のチェスの勝負の時の<お願い権>
    …優勝したらキスしてって言ってたっけ…)


彼女の様子を見て微笑む少年。

「思い出した?」

「えぇ。」

そっと彼の頬にキスする。
少年の耳にちゅっと言う音が響く。

「…もう1回。」

2回目をせがまれるのもアリかと、もう片方の頬に唇を寄せるが止められる。

「そうじゃなくて…」

「あ…」

グイと手を引かれ、唇が触れる。
触れるだけのやさしいキス。





「ごめん。驚いた?」

「…少し。」

照れている少女を抱きしめる。
薄いシャツ越しに彼女の体温を感じていた。
鼓動が彼女に聞こえているんじゃないとか思うと余計に熱くなる。


頬に雨粒が当たった気がして空を見上げると暗い雲が広がりつつあった。
あっという間に降り出す雨。


二人と馬が雨に濡れながら走るが雨足がキツくて馬も辛そうだった。
ランスロット城にもローレン城にも向かうのは無理と判断した彼は
丘のふもと近くにある邸に向かう。

少年が向かったのはかつて祖父の弟が住んでいた邸。
大叔父は今、イタリアに住んでいるために無人。
跡継ぎとして彼は領地内の所有している家に入れる鍵を持っていた。


すぐに馬を厩に入れ自分たちは邸内に。

全身びしょぬれのふたり。

少女の白いシャツが濡れて肌に張り付き、ブラの線がはっきりうつっていた。
思わず目をそむける。


「寒…」

少女はつい呟く。
7月とはいえ全身雨に濡れているのだから当然だった。

「あ…風邪ひくといけない。2階に行こう。
暖炉あるし。」

「…えぇ。」

二人してぽたぽたとしずくを落としながら階段を上がる。




大叔父たちが使っていた主寝室。
大きな暖炉があるのですぐに火を起こす少年。

身体を拭くものがないかと周りを見渡す少女に彼は言う。

「そこ…クローゼットだけど、大叔父のだし…隣の大叔母の部屋見てみなよ。」

「…えぇ。」

隣室につながるドアを開けると小ぢんまりとした夫人の部屋。
クローゼットを開けるが空。
しかたなしに主寝室に戻る。

「何もなかったし…こっちは?」

クローゼットを開けると男物のワイシャツとスーツが1着分。

「コレを借りるしかないわね。…タオルは?」

廊下に出てリネン室を探す。
何枚かのバスタオルを持ち出す。

それを手に取り、夫人の部屋で濡れた乗馬服を脱ぐ。
下着までぐっしょり濡れていた。
とりあえずかなり大きいがシャツを着る。
濡れそぼったシャツと乗馬パンツを夫人のクローゼットに残っていたハンガーに掛ける。
温まりだした主寝室に持っていく。

「リチャードも脱いで。はい、タオル。」

「あ、あぁ。」

「乾かさないと…」


クローゼットに残っていたスーツの上下。
仕方なしに下だけ着る。
大叔父はどちらかというと小柄だがそれでも少年には大きかった。
ベルトで何とかなった。


彼が脱いだモノを手際よくハンガーに掛ける。

その様子を見ていた少年はドキリとする。
かなり大きいシャツとはいっても彼女の白い太ももがかなり見えていた。
思いがけなく大学の寮の先輩達の話を思い出す―――




   ***




―大学の男子寮

大学の寮ということで10代後半から20代の男ばかり。
夜ともなれば勉強以外の話にも花が咲く。
まだ16,7の少年にとって少々刺激がきつい内容。

同室でゼミの先輩の話を聞くつもりはなくても聞いていた。
その様子に気付いた20歳の二人…ジェインとダントン。
まだウブな彼をからかう。

「おー、やっぱ照れてるぜ、リチャードのヤツ。」

「ま、しかたないな。」

ダントンはけらけらと笑って少年の背を叩く。

「先輩ッ!!」

顔を真っ赤にしている少年をますます調子に乗ってからかう。

「はははッ! ところでお前、もう済ませたか?」

「!!」

ジェイン先輩が肩を抱く。

「お前さ、ひょっとして…男がいいのか?」

思いがけない言葉に慌てる。

「違いますよッ!!」

「好きな女は?」

耳まで真っ赤にして彼は応える。

「そりゃ…いますけど。婚約者が…」

「相手いくつだ?」

好奇心丸出しで尋ねられる。

「同じ年ですけど…、まだ16…」

「うお〜、それいいな!! 」

思わず叫ぶダントンとジェイン。

「どうだ、可愛い娘なんだろ?」

「えぇ、まあ…」

はにかむ少年に畳み掛けるように問いかける。

「学校、何処行ってるんだ?」

「王立音楽院に…」

「ひょえ〜、音楽家目指してんのか?」

「…ピアニストを。」

「ふーん…そうか。じゃますます心配だな。」

ダントンの言葉に同意するジェイン。

「だな。」

「何がです?」

思わず真顔で先輩達に問いかける。

「そりゃ、リチャード…年上の男に囲まれてんだろ、彼女。」

「早くしねえと他のヤツに持ってかれるぜ。」

先輩の言葉に反論する。

「!! …彼女に限ってそんなことはありませんッ!!」

「解んないぜ。女ってやつはよ〜。」

「うんうん。」

その言葉で半泣きの一歩手前。

「…じゃ、僕どうすれば??」

「そりゃ、ヤるに決まってるだろが。」

「!! そんな…」

「何? お前、結婚まで待つってか?」

思わず黙り込む少年。
からかいがいのある反応に楽しくなっていた。

「やっぱ、おもしれーな。」

ダントンが立ち上がり棚から何かを出してきた。

「おう、コレ貸してやるよ。」

少年にDVDと本を渡す。
パッケージを見て目が点になる。


「ま、これ見て少し勉強しろ。」




その時、同室のもう一人の先輩・ジェームスが戻ってきた。

「おや、何しゃべってたんだ?」

二人よりさらに年上の先輩は賑やかに盛り上がっている(?)3人に問いかけた。
ジェインが応えた。

「青少年に教育を…」

「え?」

「いや、正しい男女交際を。」

ダントンがフォローした言葉で納得した。
リチャード少年が縮こまっていたから。
二人が少々過激なことを行ったのは明らかだ。

「お前ら…(汗) で、リチャードにコレか?」

少年の前に置かれているDVDを手に取る。

「そうっすよ。」

じっとパッケージを見る。

「俺も見るか…」

「「は??」」

ジェームスの反応に驚く二人。

「何せレポートで忙しくて彼女に会えないからな…
ストレス発散。」

「ま、そーゆー事ですか。じゃ、見ますか?」


ジェインがケースからディスクを取り出し再生する。
少年は驚きながらもしっかり見ていた―






To #3「hug」
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(2005/6/4)


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