夜の妖精      −6−




ドメス将軍の屋敷で世話になっているファリア。


初日は彼…リチャードがいたから別に退屈ではなかったけれど、
二日目の朝に任務に出かけていった彼と仲間を見送ったその日は
今までの疲労が一気に出たのかゆったりした時間を過ごしていた。



彼と再会してから色々なことがありすぎたのだ。


3日目には脚の怪我の治療の為に病院に行った。
(レアゴー隊長が車で送ってくれた)



気持ち的にも身体的にも元気になった彼女は持ち前の好奇心でだだっ広い屋敷を探検していた。


パリのベルサイユ宮殿のような豪奢な建築。

裏手の庭園は手入れの行き届いたすばらしいものだった。

部屋数は50はあるとメイドたちから聞いた。

駐車場には何台もの車。

内装も凝っていて、彼女は英国の実家のローレン城を思い出していた。

絵画や彫刻、甲冑などが飾られた廊下や階段の踊り場。

彼女にとっては懐かしく感じる雰囲気の屋敷だった。



その広大な屋敷に暮らすのはドメス将軍と腹心の部下のレアゴー隊長のみ。

あとは執事やメイドといった使用人たちだった。

彼女は世話をしてくれているメイドのレイチェルに尋ねた。


「奥様がいらっしゃったのですが…3年前にご病気で… 
病弱だったものですからお子様はいらっしゃいません。」

「そうだったの…」

おん年50歳になるドメス将軍には家族というものがなかった。

レアゴーが息子代わりといった風だった。



まだまだ広い屋敷の中を探索していると大広間、サンルーム、大量の蔵書を収めた書斎があった。

そんな中、彼女はある部屋に行き当たる。
一面の窓の前に黒の大きなグランドピアノ。
片隅には立派なアンティークのソファとテーブル。


「何て立派な…グランドピアノ…」

実家の自分のピアノも古いけれど立派なもの。
目の前のピアノもすばらしいものだと解った。

「このピアノはひょっとして… 亡くされたと言う奥様の?」

そばにいるレイチェルに尋ねる。

「はい。」


その時、ドメスが部屋に入ってきた。

「そのピアノは亡き妻が元気なときによく弾いていた…」

「そうでしたの… 思い出のピアノですのね。」

「ファリアさん。」

「はい?」

「君はピアニストを目指していたそうだね?」

「どうしてそのことを?」

「リチャード君から聞いた…」

「そうでしたの。  
えぇ、そうです。私の幼い頃の夢は彼のお嫁さんになることとピアニストになること…。」

「君は数々の賞を取っているようだね?」

「昔のことです。」

「あの村でも弾いていたそうじゃないか…」

「はい。」

「折角だから弾いてみてくれまいか?」

「え…?」

「ピアノは弾くための…音を奏でるためのものだ。是非。」

「でも…」

躊躇う彼女を前にドメスは鍵盤蓋を開けた。

ぽーんと綺麗な音が室内に響く。

主がいないにもかかわらずドメスは調律だけはさせていた。

その音に吸い込まれるように彼女はピアノに近づく。

「…ドメス将軍、ありがとうございます。
お言葉に甘えて…弾かていただきます…。」

すうと呼吸を整えて鍵盤に触れる。

心地よい音が彼女の心を捉えた。

自然と自分が一番好きな曲…ショパンのピアノソナタ第3番第1楽章を弾いていた。

その音色に惹かれて使用人たちがドアの前に集まってきた。

第1楽章を終えるとドメスをはじめ、使用人一同から拍手喝采。

「素晴らしい!」

「ありがとうございます。ドメス将軍、みなさん。」

「本当に素晴らしい。しかも5年間、独学できているんだろう?
いや、実に素晴らしい!」
褒めちぎるドメス。
ピアノの前で照れる乙女。

「君のピアノを他の人たちにも聴かせたいね。」

そのドメスの言葉にファリアは反応する。

「私のピアノでこのガニメデに暮らす人たちの慰めになるなら…」

「!  そうか!」

ファリアの言葉を聞いて、しばらく考え込むドメス。


「ファリアさん。」

「はい。」

「お願いしたいことがある。」

「何ですか?私に出来ることなら何でもおっしゃってください。」

「君に慰問のため、廻って貰いたい。勿論ピアノの演奏で。
…そうだな、まずはこのガニメデリアの老人ホームと子供たちの孤児院に。」

「素晴らしいですわ、是非。私でよければ。」

「あぁ、よろしく頼むよ。
…そのためのスタッフも選んでおこう。」


翌日にはドメスが使用人たちから選んだスタッフが揃った。

車の運転手、彼女のマネージャー。
警備係は軍から選んだ者たちを。



ドメスとファリアの発案で最初はガニメデリア中心部近くにある老人ホームへと行くことになった。

連れ合いや子供、孫といった血縁者をなくした寂しい老人たちが暮らすホームで
ピアノの演奏を披露する。

中には涙を流すおばあちゃんがいたりした。

彼女は戦争の現実を思い知らされる。

あまりにも家族を失った人たちが多いという事実を。

せめてひと時の慰めにでもなればという想いを抱いて演奏する。

演奏が終わってから彼女はひとりひとりに話しかける。

嬉しそうにしてくれるその笑顔がまた彼女の救いになった。




その翌日は孤児院。

昨日と少し曲目を変える。

子供たちが喜びそうな軽快な曲に。

ショパンの子犬のワルツや華麗なる大円舞曲に。



子供たちもまた両親や家族を失ったものが多かった。

無邪気に笑うその笑顔を見ていると早く戦争なんて終わればいいと願う。

そのために彼…リチャードと進児君、ビルさん、マリアンが戦っているのだと思うと切なくなるのだった。




ガニメデリアの施設を回った後、彼女は軍基地にまで足を運んだ、。

「一時でも早く、戦争が終わりますように」と願って。

その思いが通じたのか、兵士たちは戦いに赴くとき、彼女のピアノを思い出していた。





***********



しばらくすると彼女のピアノはガニメデで評判となっていた。

慰問のために始めた演奏がガニメデに暮らす人たちの勇気を奮い立たせていた。

そしてそのことが悲劇を生むことになる。



大都市を回った後、ファリアたち一行は小さな孤児院に向かう。

そこはクローバーが咲き乱れる丘の上に立つシンシアの孤児院だった。


アップライトピアノが室内にあったからそこで演奏する。

子供たちは大喜びで聴いていた。

「お姉ちゃん!お願いがあるの!」

「なぁに?」

笑顔でファリアは答える。

「あのね…ちょっと耳貸して…」

小声で少年の一人が話しかける。

「あのね、今日はシンシアお姉ちゃんのお誕生日なの。
だから「ハッピーバースデートゥーユー」を弾いて欲しいんだ。」

「まあ。そういうことならお安いことよ。」
ウィンクして答える。

「さあ、みんな集まって!さん、はい!」


シンシア以外の子供たちが集まって大合唱。


「ハッピーバースデートゥ〜ユ〜!」

子供たちの拍手とともにシンシアの瞳から涙があふれる。

「ありがとう、みんな。ありがとう、ファリアさん。」

一斉に子供たちがシンシアの元へ。

いいことが出来たとファリアは自分まで嬉しくなった。


「さあ、私はそろそろおいとましますね。」


笑顔で見送る子供たちとシンシア。


彼女がいつものように車に乗ろうとしたとき、突風が起こる。
子供たちとファリアは驚く。

「きゃ!」

「わー!何ー??!」

突風の元から声がした。

「お前がピアノとか言う楽器を演奏する女か?」

冷淡な声が響く。

「誰?」

乙女は気丈にも問いかける。

「私か…私はデスキュラ親衛隊のペリオス。
私のことより自分の心配をしろ!」

「何ですって?!」


ペリオスはファリアに手を伸ばした。

「くそっ!」

警備隊員が飛び掛るがあっさりとペリオスの銃に倒される。

「止めて!来ないで!」

助けに来ようとする兵士を制止する。

「私のために命を無駄にしないで!」

「いい心がけだ!ははっ!」

ペリオスは軽々と彼女を抱えてマシンで飛び去る。

残された兵士と孤児院の子供たちはどうすることも出来なかった…



そこへ緊急連絡を受けたビスマルクチームが飛んできた。


「彼女が…ファリアがさらわれたって?!」

リチャードの第一声がコレだった。

「申し訳ありません…。」
警備を担当していた兵士全員が土下座する。


「よりによってペリオスか…」

ビルが呟く。横で悔しげにリチャードがごちる。

「なんでまた彼女をさらう理由があるんだ?」

「さぁ?俺たちにゃわからん。」

「とにかく探そう!」

進児がビルとリチャードに向かって叫ぶ。

「あぁ。」

「マリアンはここで連絡を待ってくれ。何かあるかもしれない。」

「わかったわ。」

それぞれのマシンに乗って探索を始める。



孤児院の子供とシンシアは久しぶりにビスマルクのメンバーに会えて嬉しかったが素直に喜べなかった。


自分たちの目の前で起こった出来事。


強烈な印象を抱いていた。





レニーがマリアンに問いかける。

「…マリアン。」

「なぁに?」

「あの…ファリアさんて方、皆さんのお知り合いなの?」

そばでシンシアが聞いていた。

「あぁ、ファリアさんはね、リチャードの許婚なのよ。だから…」


その言葉を聞いて一番ショックだったのはシンシアだった。


     (そんな人がいるなんて聞いてなかった…)






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あとがき(2004/11/14)

なんか妙な展開になってきたっすよ!
3角関係か????