夜の妖精      -4−






病院を後にした二人はドメス将軍の屋敷へと向かった。




「ここはドメス将軍の屋敷だよ。
今日は僕たちもここに泊まらせてもらう事になった。」

「え…?」

「それに君がしばらく滞在するんだよ。」

「私が…?」

「そう、できれば僕と一緒に英国へ帰って欲しいから。
ここで待っていて欲しい。」

「本気なの?」

「あぁ。ガニメデ星は何処も危険だけど、ドメス将軍のこの屋敷なら安全だ。」

「…解ったわ。」






屋敷の中に入ると執事が出迎える。

メイドが二人を部屋へと案内する。

メイドが案内したいところがあるからと
彼女をある部屋へと導いていった。

彼女の前にドメス将軍が現れた。

「よく来たね。ファリアさん。」

「これからしばらくお世話になります。」
丁寧にお辞儀する。

「あぁ、よろしく。  ところで来て貰いたい所があるんだがね。」

「はい。」

「ついてきなさい。」


そうして連れて行かれた先は女主人の部屋。

「ここは…?」

「この部屋は私の亡き妻が使っていた部屋。
ここに彼女の残したワードローブがある。君のサイズに合うかどうか解らんが使ってくれたまえ。
あぁ、必要なものはそこにいるメイドのレイチェルに言いなさい。
それでは夕食のときに…」


ドアを開け出て行く将軍。



残された彼女はメイドとワードローブを覗いて見る事に。

幸いサイズはほぼ同じだったからいくつかのドレスや靴、アクセサリーを借りることが出来た。

今日の夕食は晩餐会だということでフォーマルなドレスでとの事だった。

ファリアはクリーム色のイブニングドレスを選んだ。

白い肌に淡いクリーム色がよく似合っていた。
靴は淡いゴールドのポイントトゥミュール。
アクセサリーは靴と同じ淡いゴールドのチョーカー&ピアス。


メイクが得意というメイド・リンダにヘア&メイクをしてもらう。

彼女の身支度を手伝った二人のメイドはその美しさに見惚れていた。




女主人の部屋から自分に与えられた部屋へと向かう。
すぐとなりにドアがあることに気付く。

「お隣はどなた?」

「…リチャード=ランスロット様です。」

「まぁ。」

「あの、実はこちらのお部屋とあちらのお部屋は続き部屋です。」

「!   そうなの?」

「はい。  それでは私はこれで。 あとでお迎えに参ります。」

レイチェルは彼女にドアを開け、部屋に入ったのを確認するとすたすたと行ってしまった。



部屋に入るとそこはなかなか立派な部屋。

天蓋付のベッド。
大きな鏡のドレッサー。その前にはいくつかの化粧品の瓶が置かれていた。
大きな窓の向こうにはバルコニー。そして木々の向こうに庭園が見える。

アンティーク風のソファにカウチ。
片隅には小さな冷蔵庫を備えたミニバー。

高級ホテル並みの設備に驚く。

クローゼットには先ほど選んだ洋服。
それに新品のランジェリー。
その気配りに感動を覚える。




部屋を見て回る彼女の前には2枚のドア。

1枚目を開けるとそこはバスルーム。

そうしてもう1枚。
念のためにノックして開けて見る。

薄明かりの灯った長さ3メートルほどの廊下。
その奥にもう一枚のドア。

試しにノックしてみる。

しばらくして「はい?」という声。
足音が近づいてくる。

するとそこにはドアを開け驚くリチャードが立っていた。


「あれ…何で君が?」

くすくすと笑うファリア。

「あら、リチャード、知らなかったの? 私たちの部屋って続き部屋なんですって。」

驚きを隠さないリチャードに微笑みながら言う。

「そ…そうだったんだ。」

ファリアは驚くリチャードを尻目に彼の部屋の様子を見ていた。
自分の部屋とほとんど一緒。
違うのはベッドの大きさ。
彼の部屋のはクィーンサイズだった。




リチャードは突然現れたファリアの姿に驚く。


服のせいだけではない、昼の村の時と全然違う雰囲気。

大人っぽいクリーム色のイブニングドレスにミュール。
髪はアップにセットされ、うなじが色っぽい。
アクセサリーも借り物とは思えないほど似合っていた。


完全に公爵令嬢然としての立ち居振る舞い。
生まれながらの血筋と気品が彼女には備わっていた。
自分の住む世界に帰ってきたと彼は感じていた。


その彼女の脚には痛々しい包帯が。


「脚、大丈夫かい?痛くない?」

「えぇ、なんとか。痛み止めのお薬もいただいたし。
先生に叱られちゃったわ。」

「何て?」

「レイガンの火傷はじわじわと悪化する。
最初の応急手当が早くて適切だったから傷跡は残らないだろうって…。
ありがとう、リチャード。」

「いや、僕のしたことは当然だ。」

「でも…」

感謝を示したくて彼の頬にキスしようとした。

「待って。どうせならこっちで。」

リチャードは唇を奪う。

軽いキス。

彼女をぎゅっと抱きしめる。
今にも小鳥のようにどこかへ飛び去ってしまいそうな気がして。



そのとき、向こうの部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「お迎えに上がりました。」

レイチェルだ。

「はい。」

彼の腕を離れ、ドアに向かう。

ミュールのヒールがカーペットに取られてこけてしまいそうになる。

駆け寄って抱きとめるリチャード。

「あ、ありがとう。初めてこんなに高いヒールを履いたから…」

「それじゃ、僕が」

そう言って左腕を差し出す彼。

二人は腕を組んで部屋を出る。

レイチェルは少しうらやましく思った。

食堂へと二人を案内する。

廊下で二人は小さく会話していた。

「慣れないものは履かないほうがいいわね… くすくす。」

「そのうち慣れるさ。」

いい感じの二人。





食堂に着くとすでに進児とマリアンが席についていた。

主人席のドメス将軍から時計回りに席は決まっていた。

進児の向かいにリチャード。
マリアンの向かいにファリア。
ドメス将軍の向かいの席のビルが席につくとドメスが入ってきた。

マリアンもドレスアップしていた。
ピンクの可憐なドレスが可愛い。
男性陣はみな黒のタキシード。



全員がそろったところで晩餐が始まる。



4人は以前ならこんなことはありえないと感じていた。
出会った最初の頃は『頑固親父』としか思えなかった将軍が
今は4人を認めている。
そして息子や娘のように可愛がっていてくれることが…


笑顔と笑い声の絶えない楽しい食事だった。



*************


夕食後。
各自の部屋へ引き上げる。



乙女はドレスを脱ぎ、バスタブに浸かっていた。


『何てめまぐるしい一日だったのかしら…?

昼前にバーで突然、リチャードと再会して…
身体を…
そしてあの地獄の村からの脱出…

この脚の怪我…
リチャードの仲間であるビスマルクチームの3人との出会い…
ドメス将軍との出会い…
そしてその方のお屋敷で彼を待つことになるなんて…



自分の知らなかった真実も解った。
父と弟が生きていたこと。
祖父が爵位をお父様に譲ったこと。
祖父がローレン卿に、父がパーシヴァル公爵に…
弟・アリステアは13歳に。

お婆様が英国女王を引退なさってヴィヴィアン伯母様が女王陛下に…

私のいない間にみな 変わっていったのね……
私だけが何も知らずに…     」


そして自分の身体に異変に気付く。
脚の痛みで少し忘れていた 太ももの奥の違物感。
そう… 彼を受け入れた身体に残るその証拠…






あまりにも一日にたくさんのことがありすぎた彼女は疲れていた。
けれど彼のそば、彼のいる世界に帰って来れた事が何よりも嬉しかった。



バスタブから出てタオルで身体を拭き、用意されていたネグリジェを着る。

カウチに座り、入浴のために外した包帯を巻き直す。

綺麗に巻けたあと、ふと窓の外を見ると見慣れた星が。
村にいたときと変わらない星の瞬き。
少し場所が違うというだけであった。

「ここはまだガニメデ星…
地球に帰りたいな…」


バルコニーに出ると少し肌寒かった。







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あとがき(2004/11/13)
ぐは〜!
ゲロ甘〜!


もうなんでこんなお話が浮かぶんだ自分!