caress -2-
―深夜2時
リチャードはレフトコンソールのシートでレーダーの監視をしている。
ビルはライトコンソールのシートでうたた寝していたが起こすことを彼はしなかった。
ふうとため息がひとつ。
モニターを見ていると影が浮かぶ。
「…ん? 人影が湖に?」
デスキュラかもしれないとカメラのズームを上げる。
教会のシスターだと服のシルエットでわかった。
月のないガニメデの星空の下、シスターはおもむろにベールを取り、
服を脱いで湖に入った。
「!!」
思わずリチャードは息を飲む。
モニターに映る白い肌の彼女は髪と身体を洗う。
終わったかと思うと湖で泳ぎだす。
レーダーに映る影。
しばらくして彼女が湖から上がり、服を身に着けて教会へと向かう。
その時、レーダーに反応が出る。
「!! 大変だ!?」
「んあ?」
リチャードの叫び声にビルは跳ね起きた。
「ビル、進児! デスキュラだ!」
リチャードは叫んだ直後、マシンを飛び出してゆく。
それを見てビルもアローストライカーで飛び出す。
シスターは暗い夜道の途中、デスキュラに出会ってしまう。
帯剣していた剣を抜き、応戦する。
襲い来るデスキュラ兵。
「地球人めが!!」
銃口を向けられても怯むことなく剣で倒してゆく。
その剣捌きからただの修道女ではないとやっとわかるデスキュラ兵たち。
リチャードが駆けつけた時、シスターの黒の修道服の何箇所かが裂けていた。
白い肌が見え、うっすらと血が滲んでいる。
そんなことにも構わず剣を振るう黒衣のシスター。
彼も剣でデスキュラを倒してゆく。
不意に二人背中合わせになる。
「大丈夫ですか?シスター?」
「その声は…先ほどのビスマルクチームの…?」
「えぇ。」
二人が落ち着いて会話できる状況ではなかった。
次々と襲い来るデスキュラ兵。
マシンも出てきて苦戦する二人。
闘いながら森の中へと移動する。
敵も狙いづらくなるがこちらも剣では捌きにくくなっていた。
「それ以上、行ってはダメ!!」
シスターが叫んだときには遅かった。
リチャードとシスターの足元には岩盤が裂けた口がぱっくりとあけていた。
銃撃を受け、バランスを崩したリチャード。
シスターが間一髪、その手を掴むが所詮は女。
引き上げることなど出来るわけもなく二人して暗い闇の中へと落ちていった。
容赦なくデスキュラは穴を他の岩で塞ぐ。
一方、ビルはアローストライカーで、進児とマリアンはビスマルクマシンで戦っていた。
**************
闇の穴の中へ落とされたリチャードとシスター。
慌てて飛び出したため今日に限ってバックパックを背負っていなかったことが悔やまれた。
「くっ…」
ヘルメットのライトを点けるとシスターが倒れていることに気付く。
ベールが外れかけていた。
華奢な身体をそっと抱き起こし、声を掛ける。
「シスター、シスター…大丈夫ですか?お怪我は?」
「う…ぁ。 な、なんとか…大丈夫ですわ。」
シスターは自分を見る青年の表情が見えない事に不安を感じていた。
ヘルメットの明かりがまぶしい。
「あぁ、これは失礼。」
リチャードはヘルメットを外し、傍らに置く。
「お怪我はありませんか?」
「…一応、ありません。あなたは…大丈夫ですの?」
「えぇ、僕なら。それよりここは一体?」
リチャードは周辺を見回す。
おぼろげに何かが見える。
「!!」
ミイラ化した遺体が洞窟の壁にもたれていた。
「ここは…"氷の棺"といわれている場所です。」
「…え?」
「かつての棄老の場。
でも忌まわしい過去として3年前に封鎖したんです。」
「棄老の場…!?」
思いがけない言葉を耳にして驚くリチャード。
「ここは…ガニメデ星創世記の氷の洞窟。
この場所は入り口近くですが…岩盤で塞がれていて出ることは出来ません。
すでにここも0度近いはずです。」
シスターは自らの息で手を温めるが無駄だった。
確かに頬の皮が突っ張るとリチャードも感じていた。
「ここに長時間いれば死んでしまいます。
そこにいる老人達のように。
けれどあなたは脱出できます。
この左手側を進めば…出口にたどり着けます。」
「ではあなたも。」
ふるふると首を横に振る。
「…出口に行くためには氷窟の中…つまり零下の世界を60分以上歩かなくてはなりません。
防護服のあなたは…行けます。
けれど私は10分と持たない。
さぁ、早くお仲間のところへ戻ってください。
出口は教会の横に出ます。」
思いがけないシスターの言葉に狼狽する。
「そんな…!! あなたを見捨てて行くなんて出来ませんよ!」
「いいえ…デスキュラが村を襲っているはずです。
早く地上に行ってください!」
「僕の仲間が何とかしてくれています!きっと!!」
シスターの手は既に凍傷になりつつある。
このままではいずれ全身が凍ってしまうことを彼女は解っていた。
岩盤で封印されたというかつての出口に向かうが無駄だった。
厚い岩盤でレイガン如きで破壊は出来ない。
ヘルメットを被りビスマルクに連絡を図るがデスキュラの妨害電波で通信不能。
みるみるまにシスターは寒さで意識を失う。
リチャードの目の前で倒れる。
慌てて抱きとめるが唇が真っ青なのに気付く。
とりあえずそこに横たえ、燃やせるものがないかと洞窟内の行ける範囲で探す。
かつて上に穴があったときに落ちたと思われる木の枝や実、
そしてミイラ化した遺体が身に着けていた毛布数枚をひっぺがし手にする。
なんとか火を起こし、木の枝や実を燃やす。
周辺が一気に明るくなる。
リチャードは初めてシスターの美貌に気付く。
教会で食事したときは神父とばかり話していた。
まともにシスターの顔を見ていなかった。
まつげが凍っている。
リチャードはそっと毛布に包み、火のそばに横たえさせた。
一向に顔色が戻らない事に心配になる。
意識を取り戻さないことが危険だと解っていた。
(仕方ない…か…)
自分で自分に言い訳して、己のプロテクトギアを外してゆく。
こんな時どうすればいいのか解っていた。
雪山で遭難してこうなったら…人肌で温める。
リチャードの筋肉質な身体が闇の中に浮かぶ。
そっとシスターを抱き起こし、緩んでいたベールを外す。
こぼれ出たのは腰近くまである長い見事な黒髪。
一瞬目を奪われる。
彼は慌てずに服も脱がしていく。
先ほどのモニター越しでは解らなかった、
均整の取れた女性の身体―
キメの揃った白い肌にふくよかな乳房、くびれた腰、細い腕―
思わず息を飲む美しさ―
胸元にはロザリオと…四つ葉のクローバーのペンダント
「これは…まさか!!」
ペンダントトップを手に取る。
裏を見て確信する。
そしておもむろに左手の手首の内側の小さな小さな痣―
身内と婚約者の自分しか知らない淡い痣
5年半ぶりにその名を本人の前で口にする。
「……ファリア…」
思わず意識のない彼女を抱きしめる。
―――許婚で13歳の初夏に突如、自分の前から奪われた少女
12歳じゃない、18歳の乙女に成長した姿
(…そう思えば面影がある)
見事な黒髪
白い肌
口元も変わってない
鼻すじも
そしてすこし大人びた目元…
まじまじと彼女を見つめる。
この5年半、夢の中に現れたファリアは12歳のままだた。
でも目の前にいるのが現実だとわかると熱い想いがこみ上げる―
幼い日、気付いた恋。
大好きで大好きでしょうがなかった少年の日の想い―
事件で死んだと信じていなかった、あきらめたくなかった―
今、想いの行き先を見つけ、身体が熱くなる。
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(2005/4/25)