caress -1-




その日、ビスマルクチームは本部の指令を受けて、ガニメデ星西南部の村へと向かう。


人口わずか800名ほどのの小さな村。
村の北側に湖があり狙われる可能性が高いということだった。



ビスマルクマシンは湖の近く―――西側に降り立つ。




「しっかしマジで襲ってくるかね、連中?」

ライトコンソールのビルが呟く。

「村としては小規模だが水質のいい湖だ。
狙われる可能性は大いにある。パトロールするに越したことはないさ。」

レフトコンソールのリチャードがビルの言葉に答える。

「それにしても… 湖の東側から森が広がっているのが気になるぜ。」

センターコンソールの進児がふいに呟く。

「あぁ、デスキュラが潜伏するには絶好の場所だ。」

「そうね、気をつけないと…」

進児の言葉にリチャードとマリアンがぽつりと口にする。



マシンが降り立ち、周辺を見渡す。

「湖に近いのって、教会じゃないか。」

「そのようだね。」

ビルとリチャードがじっと小さな教会を見つめて呟く。


ガニメデの空に夕陽が沈みつつあった。




マリアンがマシンに残り、進児とリチャードが村の周辺のパトロール。
ビルが買出しを兼ねて村内の様子を見て回ることになった。


「ったく…あいつら人使い荒いよ…」

ビルはひとりぶつぶつ言いながら、メインストリートの商店街を歩く。


「えっと…あとは…」

買出しメモを見るために不意によそ見したビルは人にぶつかってしまう。


「きゃっ!」

「うぉっと…と…」

ビルはぶつかった相手が女性―シスターと気付くと手を差し出し謝る。


「すみません、シスター。大丈夫ですか?」

「えぇ。」

しりもちをついていたシスターはビルの手で立ち上がり、
手にしていた籠の中身が散らばってしまっていたので拾い集める。

「あ、俺、手伝います。」

ビルはりんごやレモンをシスターの籠の中に入れる。


「すみませんでした。シスター。」

いつになく真剣に謝るビル。

「いいえ、私もよそ見をしていましたから… 気になさらないで。
私のほうもごめんなさい。」

頭を下げるシスター。
顔を上げたとき、その若さと美貌に気付く。

はっとするほどの美しさ。
白い肌に薔薇色の唇、そして清冽なサファイアの瞳。
黒の修道女服が一層、清々しさをかもし出していた。

「あの…?」

首をかしげビルを訝しげに見上げるシスター。

「あ、すみません。
あまりにも綺麗な人だと思って…」

くすっと微笑むシスター。

「あなたは旅の方でしょう?」

「えぇ、なんで? 解ります?」

「私、村の人はみな覚えていますから。」

「そ、そーなんですか…」

ビルは美しいシスターに見つめられ、どぎまぎしていた。

「それじゃ、俺はこれで。」

「えぇ、お気をつけて。」



シスターは教会へ向かって歩くが、そのすぐ後を少年が歩いてくることに気付く。
くるりと振り返る。

「あの…どちらへ?宿屋は村の中心部ですわ。」

「俺…ビスマルクチームのビルって言います。
マシンが湖のそばに停めてあるもんで。」

ビルと名乗った少年を見つめる。
ビスマルクというのも以前、新聞で見たから知っていた。

「ビスマルクチーム…って、確か、各地のデスキュラを殲滅なさってるという
特務の方たちのことでしょう?」

「そうです。ご存知でしたか?」

「以前に新聞やニュースで…」

「いゃあ、ははは…」

照れ笑いするビルの前でシスターは少し考えていた。



「あの…よろしかったら夕食をご一緒にいかがですか?」

「は!?」


シスターの突然の申し出にビルは驚く。


「メンバーの方もご一緒に…。
あ、でもお仕事で来られたんですものね、ごめんなさい。無理ですよね?」

「いえいえ、大丈夫ですよ。
えっと俺以外にあと3人います。」

「わかりましたわ。教会の裏手の木戸からお入りくださいな。」

「はい。」

にっこりと微笑むシスターにビルの鼻の下は伸びていた。


(はぁ〜、シスターでなけりゃ、口説くのにな〜 ちくしょー!!)

心の中で叫ぶビルがいた。



ビルはマシンに戻ると3人にさっきのことを話す。


「ヘ!?あそこの教会のシスターが夕食に誘ってくれた〜?
お前…シスター相手にいつものビョーキか??」

「違うって!! 本当に向こうから誘ってくれたんだってば。
な、みんなで行こうぜ?」

「でもな〜。」

進児とビルの会話をマリアンとリチャードが静かに聞いていた。

「…いつデスキュラが襲ってくるか解らないんだぞ?ビル。」

リチャードの言葉ももっともだった。

「じゃ… 俺ともうひとりくらいで行って来るか?
二人残ればいいだろう…
行かないのも失礼じゃないか?」


「マリアンが料理を作ってくれてるから…」

進児がちろりとマリアンを見るとウィンクする。

「それじゃ、ビルとリチャードで行ってくれるか?」

「おお、いいぜ。それでいいだろう?リチャード。」

「…あぁ。」



コクピットを出るときにビルは進児に耳打ちする。

『マリアンと二人きりにしてやるよ。』

『余計なお世話だよ…と言いたいけど、サンキュ。』

「行こうぜ、リチャード。」

「あぁ。」

「失礼のない様にな。ビル。」

「解ってるって!」

進児とマリアンにウィンクし、ビルは笑顔でマシンを出る。

湖を横に見て教会へ向かう。
裏手の木戸から入るとあのシスターが待っていた。

「…良かった。来てくださったのね。」

「勿論ですよ、シスター。」

勝手口から食堂へ通される二人。
食堂には神父が二人席に着いていた。
シスターが神父たちに声をかける。

「先ほどお話しましたビスマルクチームのビルさんと…?」

「リチャードです。」

丁寧に挨拶するビルとリチャード。

「あぁ、あなた方が…さぁ、どうぞ席にお着きください。」


中年の神父が自己紹介する。

「私がここの神父・レイモンドです。こちらはセバスチャン神父。」

「ようこそ、ビスマルクチームの方。
あなた方の活躍のおかげでガニメデ星のデスキュラが減っていると聞いています。」

セバスチャン神父はまだ22歳の青年神父で、
背が高くやわらかな笑顔が印象的な男だった。

「いえ…」

「いやぁ…」

謙遜する二人がいた。

シスターが料理を運んでくる。
おいしそうな香りのたつシチュー。
それにサラダとパンとワインと言った粗食だが味は美味なものだった。


末席に着くシスター。
レイモンド神父が祈りの言葉を上げてから食事が始まる。

「ビスマルクチームは4人と聞きましたが…?」

レイモンド神父に問われリチャードが答える。

「えぇ。レーダーの監視の為に2人残っているんです。」

「お食事は…?」

「ちゃんととっていますよ。」

「そうですか…。」

聖職者3人との食事は穏やかに過ぎて行く。

食事が終わるとシスターとセバスチャン神父が台所に皿を下げる。



「シスター、私も洗うのを手伝いますよ。」

「いいえ、これくらい私ひとりで大丈夫ですから…」

「あなたは働きすぎですよ。」

「そうかしら…」

笑顔でシスターは答えていた。

「それよりひとりより二人のほうが早く片付きますよ。」

セバスチャン神父にそう言われ手伝ってもらう。


食堂ではレイモンド神父とリチャードが話していた。





夜9時が過ぎたことを知ると二人は引き上げようとする。


「夕食をご馳走になり、ありがとうございました。」

「とても美味いシチューでした。」

率直に礼を言うリチャードと満面の笑みで礼を言うビル。

「いえいえ、私たちがガニメデ星を守ってくださっているあなた方に出来ることは
これくらいですから。」


レイモンド神父とセバスチャン神父、そしてシスターが揃って見送る。


「それでは失礼します。」

「ご馳走様でした。」




神父たちに見送られ、ビルとリチャードはビスマルクマシンへと戻る。

マリアンと進児がレーダーの監視をしてくれていたので交代する二人。

「どうだった食事は?」

進児が興味深そうに二人に問いかける。

「美味かったぜ。とくにシチュー!」

「あぁ、あれは…ウサギだったな。」

「本当か?」


少し羨ましいと感じていた進児がいた。





NEXT

______________________________________________________________________
(2005/4/25)


To Love Sick