Unlimited -9- 「ね、リチャード…」 「ん?」 黒髪を揺らし、少年を見上げて切り出した。 「私もあなたに何か買いたいのだけど…クリスマスプレゼント。」 「いいよ。さっきのスノーグローブ、あるじゃないか?」 「だってアレ… あなたが買ってくれたんですもの。 私も…」 見つめるエメラルドの瞳はとてつもなく優しい。 「別にいいよ。」 「良くないわ。選ばせてよ。」 「選んでくれたじゃないか? さっきの。 …じゃ、次は僕が選んで、君が買うって言うのは?」 「それならいいわ♪」 「了解。」 「あなたは何が欲しいの?」 黒髪を揺らして首をかしげて尋ねる。 「…ファリア…だけど、ずっとそばにいるし… 君はモノじゃないしな… こうしていられれば、僕は嬉しいよ。」 ぎゅっと肩を抱いてみせる。 「え、あ…私もよ…」 「そっか…」 「何か残るもの…探してみましょ。」 「あ、僕ひとつあるよ。」 不意に思いついた。 「なぁに?」 「ホテルに戻ろうよ。」 「え?」 彼は手を引いてホテルへ向かって歩き出す。 Mr.メイザーを探してみると、フロント近くで立っていた。 「おや、お早いお帰りで…」 「あの、Mr.メイザー。 ピアノって何処かに置いてませんでしたか?」 「ピアノ? あぁ…バーラウンジにあるが?」 「彼女のピアノが聴きたいんです。10分…5分でいいから貸切にできませんか?」 「え?あぁ…今の時間なら、オープンしてないし、いいよ。」 「ホントですか? ありがとうございます。」 彼とメイザー氏の会話を聞いていた少女。 「リチャード…私のピアノ??」 「そ。僕にだけ…聴かせてくれないか?」 「いいわ。Mr.メイザー。私からもお願いします。」 「解ったよ。 ふたりともおいで。」 「「はい。。」」 メイザー氏の案内でバーラウンジに向かう。 「普通なら未成年だし、入れさせないんだが…特別だよ。」 ふたりはB1Fにあるバーラウンジに。 まだ清掃もしていないので店内は薄暗い。 ピアノの置かれているステージにだけ、明かりをつけてくれる。 「あと2時間ほどでオープンだし、1時間前には従業員が来る。 それまでに終わってくれればいいさ。」 「「ありがとうございます。」」 「いいよ。じゃ…」 メイザー氏はそれだけ言ってバーラウンジを出る。 少女はステージの上のグランドピアノの前の椅子に腰掛ける。 彼はすぐ後ろに立つ。 「リクエストは?」 「そうだな…曲は任せるよ。」 「私に?」 「あぁ。」 一瞬、思案して、鍵に触れる。 「…じゃ…」 少女が引き出したのはリスト「愛の夢・第3番」 ロマンティックな曲がふたりを包んでいく… その音色は…愛情に溢れていた。 「…ファリア…嬉しいよ。ありがとう。」 座る彼女を背中から抱きしめる。 「あなたが望むなら… 何曲でも、何回でも弾くわ…」 「今日はこの曲を胸に残すよ。」 「リチャード…」 少女は振り返って彼を見つめる。 胸が高鳴り、今の想いを伝えたくても言葉にならなくてもどかしい。 少年はそっとくちびるを重ねる― 背から抱きしめたまま囁く。 「素敵なクリスマスをありがとうな…」 「私のほうこそ…」 お互いの温もりが愛おしい― 「そろそろ…出ようか?」 「えぇ。」 ふたりは穏やかな笑顔でバーラウンジを後にした。 セミスイートの部屋に戻って、例のスノーグローブを包みから出して 窓際に並べてみた。 ふわふわと白いパウダーが舞うとより幻想的になる。 うっとりと見つめるエメラルドの瞳とサファイアの瞳。 「奇麗ね… 」 「あぁ…」 「ね、乙女とユニコーンって…神話ちっくね。」 「そうなんだろうね… ユニコーンが好きなのって乙女だしな。」 嬉しそうに呟き出す少女。 「じゃ、あなたがユニコーンで、私が乙女なの?」 「ま、そういうことだね。」 優しい笑顔を少女に向けると同じように微笑を返される。 「大学の寮の部屋に持っていくよ。 …また先輩達に何か言われそうだけど。」 彼の呟きに問いかける。 「また?? またって…何かあったの?寮で?」 「え、あ。そんな大げさなことじゃないよ。」 ちょっと困惑する彼に詰め寄る。 「何なの? 聞かせて…」 「…聞きたいか?」 「えぇ。」 きっぱりと言い切った彼女に向き合って話し出す。 「…あのさ、君が手紙を送ってくれるだろう。 僕的にはかなり嬉しいんだけど… 薔薇のトワレの香りの手紙。 寮でさ… 2人部屋なんだけど、同室の先輩に言われるんだ。 『今日、彼女から手紙来たんだろう?』って。 『何で解るんですか?』って聞いたら…『薔薇の香り。』って。 一番最初の手紙の直後さ、"薔薇の香りの女の子と付き合ってる"って 噂、拡げられたんだ…僕。」 彼の思わぬ話に驚く一方で、つい出た言葉。 「ごめんなさい。 迷惑だったのね。アレ。もうしないわ。」 「止めないでくれ。僕は迷惑だなんて思ってないよ。 むしろ嬉しいんだ。 君がそばにいるような気がして…」 「…ホントに?」 「あぁ…」 「少し量を控えるわね。」 「控えなくていいよ。 僕は…嬉しいんだから。」 ふっとふたりとも言葉を発しなくなる。 少女が少年の肩にそっともたれると彼は腰を抱き寄せる。 ただ 寄り添っているだけ― だけれどふたりとも穏やかに微笑を浮かべていた。 少女が顔を上げると、覗き込んでくる翡翠の瞳。 彼女の頬を彼の手がそっと触れると、静かに瞳を閉じる。 (ファリアの睫毛… 長くて… それに このくちびる…やっぱり可愛いな… 13位の頃は…ずっとキスしたいって そればかり考えてたっけな…) ほんの少し、彼の手があごを持ち上げ、くちびるを重ねる。 少女の腕は少年の背に廻る。 「ん…」 彼はキスだけで欲情していた。 「…抱きたいよ…」 「…ダメよ。」 「何でさ…?」 怒らずに冷静に問いかける。 「だって…せっかくのディナーの時間まで45分しかないのよ。 そろそろ、私、仕度しないと…」 「え? ぁ…」 確かに振り返って時計を見ると、もうそんな時間。 「解ってくれた?」 「あぁ。じゃ、デザートに取っておくよ。」 「私はスイーツ?」 「そう。」 首も耳も真っ赤にした少女。 「もう… 先にシャワー使うわよ。」 「あぁ。」 少女は火照った頬を感じながら、バスルームへ。 出てくるとバスローブ一枚の姿。 思わずどきりとする少年。 「あなたもそろそろ仕度したほうがいいのじゃない?」 「…そうだな。 僕もシャワーしてくる。」 少年は昂ぶった精神を静めるためにも少々冷たいシャワーを浴びる。 「はぁ…」 その頃、少女はドレッサーの前で薄くメイクをして、 髪をセットして…ドレスアップしていく。 少年がバスルームから出てくると彼女はイブニングドレスに着替えていた。 「早いね…。」 「私、あまりメイクしないほうだし… あとはアクセサリーつけて、 ミュール履いて…」 「レディは色々大変だね。」 彼もクローゼットからウィングカラーシャツを取り出して…身支度をしていく。 「ん。」 少年がタイを締め終わる頃には、彼女も仕度が終わる。 「リチャード、こっち向いて。」 「何?」 「ちょっぴり歪んでる。」 タイが少しだけ歪んでいたのを少女が直していく。 (なんか…こうしていると、もう結婚してるみたいだな…) 彼の視線の先にはベアトップのイブニングドレスの白い胸の谷間。 まだどちらかといえば小ぶりの胸でも彼にとっては魅惑的に映る。 視線を感じて顔を上げる。 「どうかした?」 「何でもないよ。」 「そう?」 (ダメだ…せっかく鎮めたのに…) なんとか視線を外して、己に言い聞かせる。 「じゃ、そろそろ行こうか?」 「はい。」 少女は淡いクリーム色のフレアスカートのベアトップドレスに共布のショールを羽織った。 シンプルだけど、上品なイブニングドレス。 髪を夜会巻きにしているため16歳とは思えぬほど色っぽい。 めったに見れない白い首筋とうなじに目が奪われる。 (う、ちょっと…) 何とか冷静を装い、レストランへと。 ふたりが店内に入るとメートル(注・フロアの責任者)が案内する。 奥のほうの…窓際のテーブル。 外の夜景が見えてロマンティックなムード。 少年が少女の椅子を引くとメートルが少々、驚く。 幼い頃から、自然とそういうことに慣れている。 彼を見上げる少女の瞳はいつになく艶めいていた。 「ありがと。」 少年が席に着くと、周辺のテーブルの客の何人かがちらちらと見ていた。 まだ十代に見えるふたりの華やかさと上品さが気になっていた。 「奇麗ね…。」 「あぁ。」 窓の外のイルミネーションを見て少女は呟くが、少年は違っていた。 目の前の愛しい恋人を見つめて答えていた。 食事はゆっくりと進んでいく。 ワインも出てくるが、グラス1杯ずつ。 「おいし♪」 「…結構、ワイン好きか?」 「えぇ。家でもグラス1杯しか飲ませてもらえないのよ。 何でかしらね?」 「一応、僕たち まだ子供だからだろ?」 「それはそうだけど…」 少年の皿よりも少し量を控えめにしてもらったのにもかかわらず、 最後のデザートまで来ると少女は少しきつそうだった。 「やっぱり… 大丈夫?」 「う…ん。」 頑張って食べていたが、いきなり胃が大きくなるわけでもない。 「ね、リチャード。ごめんなさい。コレ、食べて。」 「へ?」 デザートに出てきたのは小ぶりのケーキ3種。 「甘いものは別腹なんじゃないの? 女の子ってさ…」 「私は別じゃないのよ。 ね、お願い。」 「わかった。」 彼は空いた自分の皿と彼女の皿を交換する。 「…ご馳走様。」 完食しただけではない彼を感心の目で見つめる少女。 「私もご馳走様。」 「それじゃ、部屋に戻るか。」 「えぇ。」 帰るときも視線を向けられていたふたり― to -10- ________________________________________ (2005/11/06) (2015/04/23 加筆改稿) to -8- to Love Sick Menu |