Unlimited -8- 食堂に行くとランドール夫人は笑顔で二人を出迎える。 「おはよう。ファリア、リチャード君。」 「おはようございます。おばさま。」 「おはようございます。」 少女の椅子を引いてから、自分も椅子に座る。 「そうそう…ふたりにお話があるの。」 「「え?」」 「実はね昨夜、長男がクリスマスを一緒に過ごそうって言ってきたの。 で、あなたたち…26日に英国に帰るのでしょう?」 「「はい。」」 「じゃ、今日と明日はウィーンにいたい?」 「え?」 「私もこの家を空けてしまうから…使用人たちに休みをあげようと思ってね。」 確かにクリスマス休暇…誰だってゆっくりしたい。 使用人たちに休みをあげようとしている夫人の優しい想いを察して 少女は笑顔で返事する。 「わかりました。26日の朝の便を手配してしまいましたから… 今日と明日、ホテルのお世話になります。」 「そう。じゃ、メイザーさんに頼んでおくわね。私は11時には出るから。」 「解りました。私達も同じ時間に出ますね。」 「ごめんなさいね、急なことで。」 「いいえ。お孫さんたちとごゆっくりなさってきて下さいね…」 老夫人と少女は穏やかに微笑み合っている。 彼もまた静かに微笑んでいた。 「ファリアは新年3日に戻ってくるのね?」 「はい。」 「解ったわ。それじゃ…よろしくね。」 「はい。おばさま。」 朝食を済ませるとふたりは部屋に引き上げて、荷物を詰めていく。 少年は元々スーツケースに大半、入ったままだったのであまり時間はかからない。 少女はメイドに手伝ってもらって詰めて行く。 11時少し前にふたりはコート姿でエントランスホールにいた。 夫人が来ると笑顔を向ける。 「それじゃ、行きましょうか?」 「「はい。」」 玄関を出るとメイザー氏と車。 それに夫人の長男と車が待っていた。 「それじゃ、素敵なクリスマスをね♪」 「おばさまも…」 夫人の頬にキスして、少女と少年はメイザー氏の車に。 ふたりがメイザー氏のホテルに到着すると、ベルボーイがスーツケースを運ぶ。 「あぁ…リチャード君、Missファリア。 部屋なんだがね…夫人に頼まれた部屋が残ってなくてな…」 「は? はぁ…」 「セミスイートの部屋しか残ってないんだ。 すまないが…ここで構わないよな? 婚約者同士だし…」 少し申し訳なさそうに告げてきた。 「あの…おばさまは何のお部屋を用意して欲しいとおっしゃってたんです?」 「一応、ツインの部屋を。」 確かにベッドがふたつかひとつの違いだけと言ってしまえばそれまで。 夫人が妙齢のカップルの二人の対面を考えて、そう言ったのだと感じた。 スーツケースはさっさとセミスイートに運ばれ、メイザー氏の案内はその部屋― 「じゃ、そういう事で。 夕食はどうするね? 今日はクリスマスイブだし… ウチのレストランなら、予約しておいた方がいい。」 「…そうね。じゃ、お願いする?」 彼を見上げて問いかける。 その可愛さに胸がきゅーんとなる少年。 「Mr。 すみませんが…ふたり分の予約、お願いします。」 「了解した。 今日はフォーマルで来るようにね。」 「「はい。」」 予想外の展開にふたりは顔を見合わせる。 少女は少し頬を染めていた。 「いいのかしら…? 確かに婚約者同士だけど…」 「今更… ロンドンでもないんだし、いいだろ。ファリアはイヤなの?」 「イヤ…じゃないけど。」 「じゃ、いいじゃないか。」 しばしコートのままの彼女を抱きしめていた少年。 「リチャード…ランチは外に行きましょ。」 「あぁ。そうだな。」 ふたりが街に出ると木々にはイルミネーション。 手をつないで街を歩く。 英国ではあまりなかった外でのデート。 少年は優しい瞳で少女を見つめる。 そんな少女の目に留まったのはアンティークショップのウィンドウの中。 「ね、ちょっといい?」 「あ? あぁ…」 彼女が手に取ったのは少し小ぶりなスノーグローブ。 「わ、可愛い♪」 「お嬢ちゃん。 それ、こいつとセットなんだよ。」 店主と思しき中年男性が声を掛ける。 「え?! そうなの…?」 ふたつ並べてみると…幻想的な世界。 少女が最初に見つけたのは乙女のスノーグローブ。 店主がセットだと見せたのはユニコーンのスノーグローブ。 確かに同じ大きさで並べるといい感じ。 少年も感心して見ていた。 「へぇ…。 ねぇ、ファリア。コレ、買おうよ。」 「え?」 「僕がユニコーンで、君が乙女の。 今はそれぞれ持ってさ…将来は並べて置くんだよ。」 「あ。そう…そうね。素敵かも…」 彼の言葉に暗に将来の結婚を語っていることに気づく。 「おじさん。コレ、買います。」 少年がそういうと満面の笑みで受け取る。 「いい買い物したねぇ〜。 ホントは14ユーロだけど、おじさん、まけちゃうよ。 そっちの可愛い彼女にプレゼントだもんな。 …10ユーロでいいよ。」 「ホントに? じゃ…」 彼から紙幣を受け取ると、店主はいそいそと包んでくれる。 「リチャード、ありがとう。」 「今夜は…並べておこうな。」 「えぇ。」 少年が包みを入れた、紙袋を持ってくれる。 「じゃ、ランチに行こうか?」 「そうね。おなか空いたでしょ?」 「ちょっとね。」 笑顔のふたりは近くにあったファーストフードに入っていく。 店内には同じように幸せそうなカップルや家族連れで賑わっている。 少女の約2倍を食べた少年は満足げな顔。 「よく入るわね…」 「そうかい? 君が少食なんだよ。」 「…それはそうなんだけど。」 「あんな量で足りてる君の方が心配だよ。」 「全然、平気よ♪」 店を出たふたりは街を歩く。 特別、会話をしてるわけでもなく、ただ手をつないで歩いていた。 不意に名を呼ぶ。 「…リチャード…」 「ん?何?」 「何でもない。」 「一体なんだ?」 「……呼んで見たかっただけ。」 はにかんで答える彼女に声を掛ける。 「何だよ、もう。 …ファリア。」 「なぁに?」 「呼んで見たかっただけ♪」 「ふふ…」 ハタから見ればふたりだけの世界― to -9- ________________________________________ (2005/10/29) (2015/04/23 加筆改稿) to -7- to Love Sick Menu |