水仙の涙 −2−
―翌日
昨日の襲撃が嘘のようにさわやかな朝だった。
明け方、意識が戻ったクリスタは見たことがあるような白い天井に既視感を感じていた。
(そうだわ… 5年前と同じ…)
意識は戻ったけど身体中が軋む様に痛い。
ふと自分の周りを見ると点滴の管、体温脈拍をはじき出す機器、窓際の白いブラインド。
5年前に同じような光景を確かに彼女は見ていた。
違いは腕や脚、頭に包帯が巻かれていること。
瞳を閉じて5年前を思い出す。
(…あの時は自分の名前が思い出せなかった…)
涙がつぅーと頬を伝う。
痛いからなのか切ないからなのか解らなかった。
(そうだわ!マリーン!!)
思わず守るべき妹の事を思い出し、身体を起こそうとするが動かせない。
身を起こすと激痛が走る。
「くぅ…ッ!」
その時、白いドアが開いた。
ビスマルクチームの中で一番早起きのリチャード=ランスロットだった。
ピンクの薔薇の花束を持っていたが放り出して彼女を思わず抱きとめる。
「何しているんです?!」
見たことのない青年に止められたクリスタは戸惑いを覚える。
明らかにパニックを起こしていた。
「わ…私の妹を助けないと!!」
その言葉にリチャードは反応する。
「あなたの妹は無事ですよ。
基地司令官のアーウィン大佐が預かってくださってます!」
「!!」
見知らぬ青年の言葉を信じることが出来るのを不思議に思いながらクリスタは彼の顔を見た。
「あなたは…一体、誰?」
リチャードは昨日気付かなかった乙女の美貌に驚く。
長い黒髪に白い肌、神秘的にそして理知的な光を感じるすみれ色の瞳。薔薇色の唇。
そして折れそうなほど華奢な身体。
義妹マリーンとは全く違う雰囲気。
「僕はビスマルクチームのリチャード=ランスロットです。」
その名に驚きながらもクリスタは隠し通した。
「どうして私はここに?」
「僕と仲間があなたと妹のマリーンを発見したのです。」
「そう…そうでしたの。」
「あなたは怪我人なのだから安静にしなくては…」
クリスタは思わず泣きそうになったが、ぐっとこらえた。
リチャードは落としてしまったピンクの薔薇の花束を拾って、彼女に渡す。
「早く怪我が治ることを祈っていますよ。」
可憐なピンクの薔薇を見てクリスタはやっと落ち着いた。
しばらくするとビスマルクチームのメンバーがやってきた。
ビルが開口一番、リチャードの顔を見て言う。
「めっずらしいよな〜。俺より先に可愛い子ちゃんにお見舞いだなんてよ。」
ビルが珍しく女性に積極的なリチャードをからかう。
耳まで真っ赤にしてリチャードは弁解する。
「べっ…別にいいじゃないか。みんな、昨日のことで熟睡していたし。起こすのも悪いと思って…」
「へ〜。」
3人は訝しそうに彼の顔を覗き込む。
その4人の様子をクリスタは見守っていた。
彼らの中の良さに羨ましいとさえ感じた。
そうしてそこにマリーンを連れたアーウィン大佐が現れた。
「キールおじ様!!」
思わず笑顔で見つめる大佐。
「やあ、クリスタ。大丈夫そうだね。」
「え、えぇ。おじさま。」
「おねえちゃま〜。」
抱きついてくるマリーンを愛しく思う。優しく頭を撫でる。
ふと視線を上げると大佐を見つめているその瞳に涙が溢れる。
様子に気付いた大佐はそっとクリスタの頬を撫でる。
「大変だったね…」
その暖かい手のぬくもりがクリスタの涙を溶かしていくようだった。
しばらくの沈黙のあと、クリスタは大佐に話しかけた。
「おじさま。父が基地のあなたに会いなさいと言っていたの。
『お前達のことは彼に頼んである』とか…。
どういうことなのですか?」
ベッドの上から問いかける。
「…私はジョージ=コーンウェルから預かり物をしている。
おそらくコレを君達に渡す時が来たことを彼は言いたかったに違いない。」
そういって大佐は情報ディスクを差し出した。
「私は内容のことは聞いていない。
だが彼は自分に何かあったときは娘達にコレを渡してくれと言っていたよ。」
情報ディスクを受け取るクリスタ。それをジッと見つめる。
「おじさま。この部屋では見られないのですか?」
「見られるさ。そこのモニターで見られる。」
「お願いしていいかしら?」
大佐にディスクを渡す。
「あ、あの俺たち、お邪魔なようなので失礼します。」
進児が大佐に告げる。
「いや、このディスクにはどんなことが入っているか解らない。
君達にも見てもらってもいいと思うが。どうだね、クリスタ?」
「えぇ、お願いします。あなた方かいなければ私の命はなかったかもしれませんもの。」
モニターが起動し、本体が情報ディスクを読み込む。
1分も経たないうちに画面に父・ジョージ=コーンウェルが現れた。
「お父様!」
「ぱぱちゃま!」
クリスタとマリーンは同時に声を上げる。
画面の父は昨日半壊した屋敷の居間のソファに腰掛けていた。
父が死んだのは昨日なのに何故か懐かしさがこみ上げる。
「クリスタ、そしてマリーン。
これから君達に話すことは事実だと受け止めて欲しい。
キール。もしこの画面を一緒に見ているのなら娘達の力になってやって欲しい。」
これから父が何を話そうとしているのか見当がつかなかった。
しばらくの沈黙の後、父は口を開いた。
「クリスタ、マリーン。お前達に私の財産を譲渡する。
…ガニメデ星セントラルシティにあるセントラル・スペース・バンクの貸し金庫に私の財産を預けてある。
中身はこのガニメデ星の土地の所有権。それと貯蓄だ。
もしマリーンがまだ幼く、クリスタも大学に行く年ならこれを使いなさい。」
父の言葉に涙が溢れる。
一同は静かに見守っていた。
「それからクリスタに重大な話がある。」
その言葉にびくりとなる。
「2078年8月にお前はガニメデ星で孤児として施設にいた。
その頃クリスタは記憶を失っていたね。
しかし翌年のデスキュラ襲撃の時に記憶を取り戻した。」
大佐は記憶喪失のことを知っていたが記憶が戻っていることは知らなかった。
「そうなのか?クリスタ。」
大佐は驚きの目で問いかける。
「えぇ。」
クリスタは小さな声で答えた。
「記憶を取り戻したクリスタはパニックになっていたね。」
父の優しい声は止まらない。
「あの時、お前に聞いた本当の名前で私は色々と調べたのだよ。」
「!!」
驚くクリスタ。父が調べていたなんて全く知らなかった。
「お前の本当の名前は"ファリア=クリスタ=パーシヴァル" 地球の英国出身だと言っていた。」
モニターの言葉に一番反応したのはリチャードだった。
「な…何だって!?」
リチャードは彼女を振り返る。
確かに面差しに名残がある。
クリスタは自分を見つめている青年が誰だか解っていた。視線が痛い。
ずきんと心に杭を打たれたように。
「君が…ファリアだって!?」
モニターの父の言葉はまだ続く。
「2078年7月の地球発アテナU号事件。 それがお前の記憶喪失の原因だ。
おそらく緊急脱出用ポッドの何かの衝撃か精神的なショックで記憶を失ってしまったのだろう…」
涙でモニターが見えないクリスタ。
「そうよ。私はファリア=クリスタ=パーシヴァルよ。
あの事件の後、記憶を失った私は「クリスタ」という名しか思い出せなかった・
おばあさまがつけてくれたミドルネームしか思い出せなかった。」
父の言葉はまだ続く。
「ソーン市を襲ったデスキュラのせいでシティは炎の海だった。
しかし皮肉なことにそれのおかげでクリスタは記憶を取り戻した。そうだね?」
ビスマルクチームのメンバーは進児の記憶喪失事件で同じようなことを経験していたから話を信じることが出来た。
「記憶を取り戻したが"私の家族は全員死んだ"という言葉を当時の私は鵜呑みにした。
私の娘でいたいという言葉を嬉しく思った。
けれど後になって気になったから調べたのだよ。」
衝撃の事実がクリスタを襲う。
「お前の父上は生きておられる。弟もだ。」
「!! 何ですって!?」
「お前が本当の家族の元に帰りたいのならアーウィンに頼みなさい。
それと帰らなくても、帰ってもマリーンのことはよろしく頼む。」
頭を下げる父の姿が最期だった。
クリスタは涙を止めることが出来なかった―
それは義父が死んだという絶望からなのか本当の父が生きているという歓喜からなのか解らなかった。
驚くクリスタこと ファリアにリチャードは声を掛ける。
「君の父上・アーサー=パーシヴァル公爵は生きておられる。それに弟のアリステアもね。」
彼の言葉に驚く彼女。
「本当に…本当に生きているのね?」
「あぁ、残念なことに母上のセーラ様は遺体で発見された。」
「そう、お母様が…」
二人のただならぬ雰囲気に圧倒されつつもビルは二人に問いかける。
「あの〜、ひょっとしてお二人さん。お知り合い?」
進児とマリアン、アーウィン大佐の気持ちを代弁したような言葉だった。
「あ?そうだよ。」
しゃあしゃあとリチャードは答える。
「僕の許婚だよ。」
衝撃の告白に4人は勿論、ファリア本人まで驚く。
身体が痛いのを忘れて身を起こす。
「リ、リチャード!? あれから5年以上過ぎているのよ?
あなたには新しい婚約者がいるのではなくて?」
彼女の問いは当然だ。
「いないよ。そんな女性。」
「本当に?」
「あぁ。」
「君だけが僕の婚約者だ。」
彼の言葉に感動した。一同は照れてしまう。
その直後、医師が来て彼女を診察するというので6人は外に出された。
アーウィン大佐は仕事があるのでと告げて行ってしまった。マリーンも連れて行かれた。
4人は軍病院のロビーで一服していた。
「それにしてもリチャード。お前、婚約者なんていたんだ。」
率直にビルが言う。
「あぁ、僕が13の時からな。」
リチャードがそっけなく言う。
「え、じゃあ、あのファリアさんて人も貴族?」
進児が顔を覗き込みながら問いかける。
「そう。彼女の家は名門中の名門パーシヴァル公爵家。
女王ヴィヴィアン7世陛下の妹姫であるセーラ様が嫁がれた伝統ある家だよ。」
リチャードは紅茶を口に運びながら言う。
「ほへ〜。本当のお姫様? つーか、婚約した時ってまだあの人も11,12歳かよ!」
ビルがまじまじとリチャードを見つめる。
「早くない?」とマリアン。
「まぁ、色々と事情があるんだ。」
「大変ね〜。」
好奇心旺盛なマリアンはリチャードの顔を覗き込む。
「ってことは家同士の政略結婚??」
会話を聞いていた進児が突然身を起こして言う。
「…半分そうだけど、後の半分はそうじゃない。」
「どーゆーことだよ?」
ビルが突っ込む。
「さっきも言ったけど、色々と事情がね。」
リチャードはティーカップを口に運んだ。
「そうなんだ〜。」
***************
診察を受けている間にファリアは冷静さを取り戻した。
腕と頭の傷は浅いが脚の傷が思ったよりも深く完治するのに4ヶ月はかかるだろうと告げられた。
肉が裂かれ、骨が見えていたほどだ。
医師が退室してしばらくひとりになったファリアは考えていた。
(実家(英国)に帰ってマリーンを養女にしてもらう…)
それが一番いいことだと考えた。
しかし厳格な祖父・アレキサンダー=G=パーシヴァルは許してくれるだろうか?とそれが気がかりだった。
しばらくして再びリチャードがやってきた。
今度はひとりだ。
「大丈夫かい?」
「えぇ。」
薬が効いて痛みを感じなくなっていた。
二人は突然の再会をかみ締めることが出来た。
いきなり5年半のブランクを感じる。
静かな空気が二人の間に流れる。
お互い成長した姿を見ていた。
柔らかな黒髪。
幼い頃と変わらない白い肌。
顔立ちは若い頃の彼女の母のセーラ姫の肖像画に似ていると感じた。
何故最初に気付かなかったのだろう。
彼女もまた彼を見つめる。
眩しいハニーブロンドの髪。
逞しい腕広い胸。
そして優しげな深いエメラルドグリーンの瞳。
5年半前と違う大人に近づいた彼に胸がときめいた。
その静寂を破ったのはファリア。
「リチャード。お願いがあるの」
「何だい?」
「地球にいるお父様に連絡して欲しいの。出来れば私が直にお話したいのだけれど…こんな身体だから…」
「わかった連絡しておくよ。」
「それにお父様にお願いしたいことがあるの。」
リチャードはその言葉の意味に気付く。
「マリーンのことだね?」
彼の言葉は的を得ていた。
「えぇ。出来れば私の妹として養女にしていただきたいの。
…お爺様が反対なさるかしら…?」
リチャードは笑顔で答える。
「今は君の父上がパーシヴァル家の当主だよ。」
「え…?祖父は…亡くなったの?」
「いいや、引退なさった。今はローレン卿さ。」
「!そう…でしたの。」
「だから君の父上が決定されれば問題はない。」
(引退した…)
祖父がもうそんな年だと思うと少し切なくなった。
厳しかった祖父の姿を思い出す。
優しかったことはあまりなかった。
軍服姿の肖像画が居城のエントランスホールに飾ってあったことを思い出す。
いつもしかめっ面だった。
「万が一、君の父上が養女にしてくださらない時は僕が父上にランスロット家で引き取るように頼んでみるよ。」
彼の意外な申し出にファリアは嬉しくなる。
「ありがとう、リチャード。気持ちだけでも嬉しいわ。」
「何を言っているんだい。君にとって妹なら僕にとっても妹だよ。」
静かに喜びを感じる二人。
時計をちらりをみてリチャードは告げた。
「そろそろ僕は行くよ。」
「えぇ。」
寂しさを感じる。
その切ない笑顔の彼女を抱きしめてキスしたくなるがこらえていた。
「君が疲れるのも身体によくないしね。
…地球の君の父上には連絡しておくよ。それじゃ。」
後ろ髪を引かれる思いでリチャードは退室した。
基地の通信室に向かう途中、リチャードは彼女の姿を思い出していた。
5年半前とは違う18歳のファリア。
夢で見た彼女よりも遥かに美しい気がする。
柔らかな黒髪が白い肌にまといつく。
少し翳りのあるサファイア色の瞳。
可憐な唇。
ベッドの上の痛々しいまでの姿。
その名の由来のようにはかなげな精霊のような―
彼女を助けることが出来たのもきっと運命。
さすがに私的な事なのでビスマルクマシンの通信装置は使えないと思い、基地の公共施設を使うことにした。
通信室に着くと、慣れた手つきでコンソールを叩き、地球へのオンラインを開く。
今の英国の時刻は夕方の4時を回った頃だ。
王室庁の長官室にアクセスする。秘書官が出てきた。
手短にリチャードが自己紹介するとすぐに繋いでくれた。さすがに「ビスマルクチーム」の名は伊達ではない。
画面が切り替わり、パーシヴァル長官が現れた。
向こうも突然のリチャードの通信に驚いている様子だった。
「久しぶりだね。リチャード=ランスロット大尉。」
「えぇ、ご無沙汰しています、長官。」
娘の元婚約者の青年が宇宙で活躍していることはよく知っていた。
「随分活躍しているようだが… 一体何事かね? わざわざガニメデ星から通信とは?」
リチャードはモニター越しにパーシヴァル長官を見つめ、話し出す。
「…実はこのガニメデ星で彼女を…パーシヴァル家ご令嬢を見つけることが出来ました。」
パーシヴァル長官にとって青天の霹靂の言葉。
「何だって!? 私の娘が生きていたと?!
「はい。」
「どういうことだね?」
訝しげに問いかける。
「「実は昨日、ガニメデ星のソーン村というところで助けた少女と乙女がいたのですが…
乙女の方が彼女でした。 彼女は5年半前の事件直後、記憶を失っていたそうです。」
「記憶を失っていた…?」
「はい。それでガニメデ星で養女にもらわれていったそうです。
それから1年ほどしてソーン村がデスキュラに襲撃された時に記憶を取り戻したと。」
眉間にしわを寄せて長官は問う。
「何故、娘はすぐに戻ってこなかったのだ?」
当然の問いに彼は答える。
「あの事件で家族は全員死んだものと思っていたそうです。」
「何ということだ…」
長官は瞳を伏せる。
「僕が真実を彼女に伝えました。…英国に帰りたいと言っていました。」
「そうか…わかった。では間違いなく私の娘なのだね?」
「はい。間違いありません。ただ彼女は今、怪我を負っておりまして当分入院生活です。」
「わかった。」
一呼吸おいてリチャードは彼女の希望を話す。
「実は彼女を5年間養女として育てていた両親が亡くなったのですが、その家にはもうひとり女の子がいるのです。」
「ほう…」
何を言い出すのだと言う顔をして長官は話を聞く。
「今年5歳になる女の子で、名はマリーン。彼女が妹として可愛がっている子です。
実はこの子を引き取って家に帰りたいと申しておりました。」
「何だって!?」
突然の話に驚く。
「娘がそう言ったのかね?」
「はい。彼女は直にお願いしたいと言っていましたが今は絶対安静で動くことが出来ません。
ですから僕に頼んだのです。」
しばらく長官は考えた。
「…わかった。だが私が迎えに行くことは出来ないから誰かに行かせる。
君も任務があるから無理だろう?」
痛いところを突かれてリチャードは苦笑いをした。
「はい。そうです。」
「娘には身体が動かせるようになったら私に連絡するように伝えてくれたまえ。」
毅然とした態度で長官は告げる。
「必ずお伝えします。」
「それでは失礼するよ。」
ぶぅんという音を立ててモニターからパーシヴァル長官の姿が消えた。
通信室でリチャードは一人考えていた。
***************
―翌日
次の任務の為に移動することになったリチャードは行く前に彼女に会いに行った。
ドアを開けると窓からのまぶしい光で病室は明るかった。
「やぁ。昨日より元気そうだね?」
笑顔でベッドの彼女に近づく。
「えぇ、ありがとう。随分気持ちも楽になった気がするわ。」
彼女も笑顔で答える。
「そうそう。昨日、君の父上に連絡を取ってみたよ。」
「お父様はなんて?」
「身体が動かせるようになったら連絡をしてくれと…」
「そう…」
マリーンのことは言い出せなかった。
パーシヴァル長官の顔が厳しそうに見えたからだ。
期待させない方がいい。
ふっと沈む彼女の目の前に彼は小さな包みを差し出した。
「あら、なぁに?」
「開けてみてくれないか?」
「えっ、えぇ。」
少し戸惑いを感じながらリボンをほどいて、箱を開ける。
ケースを開けると中には小さなサファイアの指輪。
「リチャード、これ…」
「あぁ、君に似合うと思ってね。
ほら、つけてあげるよ。」
細い指に指輪をはめる。
リチャードは左手薬指につける。
「子供の頃は四つ葉のクローバーだったけど…」
少し照れ臭そうに彼ははにかむ。
5年半前の彼の顔とイメージが重なる。
キラキラと綺麗な雫が瞳から溢れる。
「ありがとう。リチャード。今までで一番の贈り物よ…」
体の痛みを忘れて身を起こし、彼に近づく。
柔らかな黒髪に触れて彼はその香りを愛おしく感じた。
「絶対、迎えに行くから…待っていてくれるかい?」
「…はい。」
おだやかな光の中でお互いの想いを感じていた―
Fin
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(2005/4/17)
あとがき
ちょこっと手入れしました〜。
一番の変化はローレン卿ご存命。
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