so sweet -1-



―フルシーミ星


この日… この星に降り立ったリチャード=ランスロットは運命に導かれるかように
恋人・ファリアと再会を果たすことが出来た…



バーの歌姫・フェアリーと言う名でピアノを弾き、歌っていた乙女。
彼女の絶望と孤独から救ったのは紛れもなく彼の愛―――




夜中…ふたりは2年半ぶりに身体を重ねた。

初めての日のように甘ったるい瞬間…



明け方になってやっとふたりはお互いの肌の温もりを感じながら眠りに落ちていった……






―朝10時前

世間一般では遅い朝。
しかしバー&ダイニングを経営しているここでは普通の時間。



バーの女主人・メリルは娘同然の歌姫の部屋に足を運ぶ。

いつものように…


ドアをノックするが返事はない。

昨夜、彼女の身に何が起こったか解ってはいたが、ドアをあけて部屋に入る。


乙女は青年の腕に抱きしめられて眠っていた。
ふたりの顔を見ればわかる。


   (そうか… やっぱり…)


幸せそうな顔して眠っているのを初めて見たメリルはつい微笑む。

起こすのも可哀相かなと思いつつ、乙女の肩を揺らして起こす。


「ちょっと…フェアリー… 朝だよ。 起きて。」

「う…ん…メリルおばさん…?」

まぶしそうな顔して目覚めた乙女に告げる。

「もう朝食出来てるよ。その人、連れて早くおいで。」

「…ッて? え?あッ!!」

自分がどんな状況か把握した乙女は顔を真っ赤にしていた。


「何照れてるんだい?? さ、早く服着て、おいで。」

「え…えぇ。」


メリルは笑顔で部屋を出て行く。


「ねぇ…リチャード…起きて…ねぇ…」

彼の肩を揺らして起こす。

「う…ん… ファリア…??」

「朝食の用意できてるって… 」

「もうそんな時間か…」

彼は目覚めた途端、笑顔になる。

「どしたの?リチャード?」

「ファリア…奇麗だ…」

うっとりと見とれる彼の視線を感じて気づく。
何一つ身に着けていない。

「あッ!! やだ!もう!!」

乙女は慌てて床に落とされていたドレスを拾い、身を覆う。
その光景を見て彼は笑っている。

ふたりは照れ臭さを感じながら服を身に着けていく。



「おばさんたちに…ちゃんと紹介するわね…」
「あぁ…」


ふたりは隣のダイニングルームへと。


ドアを開けて入るとテーブルに既に着いている主人ピーターは新聞を読んでいた。
乙女達が入ると新聞から目を離す。

「おはよう。ピーターおじさん、メリルおばさん。」

「おはよう、フェアリー…」

ピーターは45歳の店のオーナーでシェフだ。
メリルと違いスレンダーな体つきにやわらかな印象の男。



「おはようございます。」

リチャードが挨拶すると、答える。

「あぁ…おはよう。」



「あの…ピーターおじさん、メリルおばさん…」

乙女が照れ臭そうに夫婦に声を掛ける。
料理をテーブルに運んできたメリルは手を止めた。

「改めて紹介するわ。
…未来の夫のリチャードよ。」

おずおずと告げる彼女の横で彼は改めて挨拶する。

「よろしくお願いします。」

「あぁ、こちらこそ。」

ピーターはやわらかな笑顔で彼を見つめる。
メリルも笑顔で乙女に言った。

「良かったね…フェアリー… 幸せになるんだよ。」

「ありがとう。メリルおばさん…」

「じゃ、この星でふたりで暮らすのかい?」

メリルは優しく問いかける。

「それが… 私、死んだと思っていた父と弟が生きているって彼に知らされたの。」

「「!?」」

「それに…彼、連邦政府の特別IDを持ってるから… 
私を地球に連れて帰ってくれるって…」

「…そうか。」

ピーターとメリルは少し淋しげな笑顔。


「仕方ないよ、あんた。
フェアリーの幸せが一番さ。」

「…そっか… 心配するな。
お前のおかげで随分儲けさせてもらった。
もう生活に困ることもない…」

「…ごめんなさい。ずっとお世話になってて…
何もお返しできなくて…」

「いいんだよ。この人の言うとおり、私達は大丈夫だから。
さ、しんみりするのは あとあと!! 朝食にしよう!!」

メリルが少し沈んだ空気を払拭しようと明るく言う。

「えぇ…せっかくのお料理が冷めちゃうわ。」

4人は席に着き、料理を口にする。






「美味しいな…」

リチャードが呟くと横でファリアは微笑む。

「でしょう? 
ピーターおじさんとメリルおばさんのお料理はこの星一番なんだもの…」

「普通にレストランでもイケそうだな…」

彼の賛辞の言葉にピーターは笑みをこぼす。

「はは…そうかい?」



穏やかな空気の中、朝食タイムは過ぎていく…





食事が終わると後片付けを手伝う乙女。

メリルとファリアがテーブルに戻ってくると乙女は夫婦に切り出す。


「さっきも話したけど… 地球に帰るって話のコト…
リチャードにもおじさんおばさんにもワガママ言う事になるのだけど…
あと1週間か10日くらい、ここにいたいの…ダメ?」

黒髪を揺らし3人に告げる。

「「「え…??」」」

「今すぐ帰らなくていいのかい??」

メリルは驚いた声で問いかける。

「そう…だけど… 村の人たちやお客さんたちが驚くでしょ?
私が突然いなくなったら…」

「あ…」

この村の今の繁栄の一端を乙女が担っているのは事実。


「夕べの…私をみんな見てたでしょ?
誤解して彼を悪者に仕立てかねないもの…
ちゃんと説明して、みんなに解ってもらいたいの…」

そう告げた彼女の顔を見つめる3人。

「…ファリア…」

そっと彼女の頬を撫でる彼の手。

「ごめんなさい、リチャード。ワガママ言って…」

「僕は…構わないよ。
君が納得できる形で帰れればいいさ…」

いい雰囲気のふたりを見てメリルは呟く。

「まぁ…確かに…そうだねぇ…
夕べ、あんたがその人と行っちゃったあと、少し騒がしかったし…」

「…」

ピーターもソレはわかっていた。



「じゃ、その人も村に滞在することになるね。」

メリルは彼の顔を見て言う。

「そうね。」

ファリアが代わりにと答える。



ピーターが彼に問いかける。

「宿は?」

「あ、向かいの宿屋の3階に…」

リチャードが答えた。



「引き上げてきたほうがいいな。」

「は?」

「みんなにフェアリーの男だって納得させたいのなら、ここにいたほうがいい。」

「そういうもんですか?」

「ただでさえ… あんたは男前だしな。
村中の男の嫉妬を買うのは目に見えてる。
事実をガツンと見せ付けたほうがいい。」

「…」

「中途半端な距離を置いてちゃ、他の男に奪われるぞ。」

「あ…?」

ピーターにはっきりといわれ気づく。

「この娘を守る位の意気込みがないとな。」

「もちろん守る気は十分あります!」

「…そうか。なら早めに行ってきな。」

「解りました。行ってきます。」


リチャードは立ち上がり、部屋を出て行く。





向かいの宿屋に行くと主人が訝しげな目で見つめてきた。

「あんた… 夕べ…フェアリーと…???」

「弁解はしませんよ。 申し訳ないが、部屋を出ます。」

「…そうか。早めに村を出て行くほうが懸命だな。」

「いえ。」

「へ?」

「彼女のそばに行くんです。」

「何だって?!」

宿屋の主人は思わず叫ぶ。

「…とりあえず、宿泊費の支払いをしますよ。」

「あ?あぁ…」


リチャードは3階の部屋に行き、荷物を持って出る。

1階のフロントに戻ると彼女が来ていた。

「あれ…?」

「リチャード…」

「何で来たんだ?」

「様子を見に…。
やっぱり少し誤解されてるみたいね…」

「…。」

どう返答しようかと一瞬、はにかむ。

「…荷物それだけ?」

「あ。いいや。僕のスペースホースが裏手に…」

「スペースホース??」

驚きの目を彼に向ける。

「僕専用のね。あとで会わせてあげるよ。」

「えぇ…楽しみだわ♪」


目の前のふたりのやりとりを宿屋の主人は見ている。
いろんなカップルを見てきただけに、目の前の雰囲気のよさに気づく。

   (こいつは…!?)



「それじゃ…世話になったな。じゃ…」

結局、リチャードは2泊分の宿泊費を支払って、宿屋の主人の口を閉じさせた。


宿屋の裏手に回り、彼のスペースホースに引き合わされる。

「彼が僕の愛馬のドナテルロだよ。」

「まぁ…」

初めて見るロボットホースに笑顔を見せる。
彼のイメージに似ている気がした。

「よろしくね、ドナテルロ♪」

「もう彼の脳内コンピュータに君のデータが入ってるよ☆」

「ほんと? ふふ…」

ドナテルロは彼女に鼻面を摺り寄せる。
そんなドナテルロの首に乙女は抱きついていた。






「ファリア…僕、君の部屋に行っていいかな?」

「えぇ… お願い。一緒にいて…」

「僕のほうこそ…。
これじゃ"押しかけ夫"みたいだな…」

笑顔でリチャードはジョークを言う。

「何ソレ〜(笑)」


ふたりは笑顔で道幅6メートルを横切る。
村人はまばらにいた。
そんなふたりを目にした者は驚いていた。
初めて見るフェアリーの…輝くばかりの笑顔に。








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(2005/9/20)



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