smile -5-  #2 boy&girl



そしてその翌日。
授業が終わって教室を出ようとするリチャードに声を掛ける人物。
噂のジョージィ=プリングルス本人。

にやけた顔で彼の前に立つ。
その脂ぎった顔を下品に感じる。

「ちょっと、いいか?」

その態度は横柄で気に入らなかったが
昨日の彼女の態度に引っかかる事もあったので応じる事にした。

「あぁ。僕の方も聞きたい事があったんだ。」

彼のそばにいたエリックは心配そうに見つめる。

『大丈夫。』

小声でエリックにそれだけ告げて言うと、プリングルスと教室を後にした。

男子部の校舎裏にプリングルスは彼を連れて行く。

「お前も話は聞いてるんだろ?」

以前と違い、横柄な態度でリチャードに告げる。
腹が立つのを抑えながら堂々と相手を見据えて答えた。

「あぁ。」

「俺さ、あの娘に一目ぼれなんだ。お前といい仲だって言うけど、
あの娘は俺がもらうぜ。」

彼を見下すように言い放つ。

「ファリアを貰うとか言うが、彼女は物じゃない。」

激昂しそうになるが冷静に答えた。
しかし悪びれずせせら笑いながらプリングルスは言う。

「そうさ。なんたって女王陛下のお孫様だからな。
彼女が俺の妻になったら家にもハクがつくってもんだ。
お前もそのクチなんだろ? 
貴族って言ったって所詮は権力に弱いんだろう?」

その言葉に拳が動きそうになるがこらえる。

「そんな事はない。僕は純粋に彼女が好きだ。」

頭で考えるより先に口がそう言っていた。
その言葉を聞いてもなおプリングルスは態度を変えない。

「ほ〜お。じゃあ、実力行使で頂くぜ。」

鼻で笑っていたプリングルスが走り去る。

「お…おい!」

リチャードが呼び止めても耳を貸さない。
一人残されて奴が走り去った理由を考えた。

「まさか…!」

彼はその意味に気付いて走り出す。




今日も彼女は芸術棟の外のベンチでフルートの練習。

そのことはプリングルスも知っている。
いつも奴は彼女に押し掛けていた。
そのたびに断られているのに毎日。




ひとりフルートを吹く少女の前に突然、プリングルスが現れた。
はあはあと息を切らせた奴はつかつかと歩み寄る。

「あッ?!」

精神状態が尋常でないことが分かったが怖くて動く事が出来ない。
すばやい動きで彼女に飛びつく。
今まで無遠慮に近づいてきたがここまでの無体は初めてだった。
手からフルートが落ち、からんと音を立てて地面に落ちる。

「きゃあっ!は…離して!」

彼女の細い両首手を掴み、顔を寄せる。
野蛮な行為に先走るその顔に嫌悪感を感じた。
薄ら笑いを浮かべ、脂ぎったその顔でにじり寄る。

「い…いやぁっ!」

顔を背けて拒否するが強引なその力でベンチに押さえつけられる。
くくっと笑い 顔を寄せてくると身体に悪寒が走った。

「何も痛いことしようって訳じゃないんだ。いい気持ちにさせてやるぜ。」

品性下劣な言葉に生理的嫌悪感を抱く。
そしてその最低な男の力に勝てない事は分かっていた。

「いやっ!誰か…助けて!」

「こんなトコに誰も来ないよ。抵抗したって無駄さ。楽しもうぜ、レディ☆」

泣き叫ぶ その顔をべろりとその舌で舐められ
戦慄が少女の身体を駆け巡る。

「へへっ…。」

ぞくりと身体に鳥肌が立つ。
奴はベンチに押し倒し、シャツを引き裂く。
ボタンが弾けとび、白いデコルテにくちびるを寄せる。
おぞましい感覚がファリアを襲う。

「いやああああ!リチャードーッ!」

「無駄だよ。」

冷酷に言い放つ。
いやらしい笑みを浮かべ その手がスカートの中に入ろうとしたその時、後頭部に一撃が入った。
頭を抑えてベンチから転げ落ちる。

「っ…いってぇ…」

プリングルスが頭を抱え、
振り返るとそこには怒りに震えるリチャードが立っていた。

「ファリアに何をする!」

痛みで逆上した奴はリチャードに殴りかかる。

「んなろっ!」

その拳がリチャードの顔にヒットする。体が吹っ飛ばされるほどの威力。
実際、1コ年上のプリングルスのほうが体格の上では勝っていた。

「くううっ…」

そしてリチャードが立ち上がり殴り返そうとしたその時、
エリックとリズと女子部の教頭先生が現れた。
事情をエリックたちから聞いた教頭が思わず叫ぶ。

「お止めなさい!!」

その声に気付いた3人は教頭のシスターエミリーに視線を向ける。
この状況がはっきりと分かった教頭は怒りでわなわなと震えていた。

「なんと破廉恥な!  …男子部、ジョージィ=プリングルス!
女生徒に対する暴行行為のため、職員会議にかけ放校処分にいたします!」

その言葉にプリングルスの顔色がさーっと変わる。

「く…くそっ!」

捨て台詞を吐いて走り去る。
リチャードはファリアに駆け寄リ抱きしめた。

「大丈夫かい?」
「え…えぇ。」

はだかれた胸元とスカートの乱れを直して彼を見つめた。

「ありがとう。きっと…きっと来てくれると思ったわ。」

瞳から涙が溢れていた。
思わず笑顔で彼に抱きつく。

そのふたりに近づく教頭・シスターエミリー。

「大丈夫ですか?怪我はありませんか?二人とも。」

教頭は自分の可愛い生徒に声を掛ける。

「はい。」

修道服姿の教頭は少し青ざめた表情で告げた。

「まさかエリック=バートンとエリザベス=マーシャルに
言われた通り来てみればこんな事になっているなんて…我が校の恥です。
リチャード=ランスロット…あなたは騎士道精神にかなった行動をしたのですね。
立派ですよ。」

「ありがとうございます。」

リチャードは感謝を示す。

「それにしても… リズにエリックまで来てくれたんだ。」

「あぁ。リチャードたちのこと気になってたし。
僕もアイツのこと、嫌いだったしな。」

「そうだったな。
でもありがとう。エリック、リズ…」


リズは親友に駆け寄る。

「大丈夫…? じゃないよね。
怖かったわね…」

「うん。 でもリチャードが来てくれた。
リズもエリックも… みんな、ありがとう。」

少女にそう言われ、リズもエリックも笑顔になる。
照れ臭くて頬を染める2人。



「ね、リチャードもだけど… 3人がここにこうしてきてくれてるってコトは…
あの話、リチャードとエリックにしちゃったのね、リズ…」

「うん…ごめん。
リチャードくんにやつを諌めてもらおうと思ってさ…
エリック経由で話して貰ったの…」

申し訳なさそうな顔をするリズに抱きつき
頬にキスする。

「え? あ…」

「ありがとう。リズ…
ほんとに色々…心配かけてごめんね。」

「いいのよ…」


少女達は抱き合っていた。
その様子を教頭と少年達は見ていた。

ふうと溜息をつくシスターエミリー。

「私はこれから男子部女子部の先生方と会議をして
正式にジョージィ=プリングルスを放校処分にいたしましょう。」

そしてその言葉どおり、翌日には学院の名誉を汚したとして放校処分が確定。




…その夜
ファリアのパーシヴァル家では学院からの連絡を受けて
父親であるアーサーと母親のセーラが話し合っていた。

「こんな事が起こるなんて…」

教頭からの話ですっかり驚いている妻にアーサーは言う。

「またこれから先にこんな事件が起こらないとも限らない。学院がいくら注意していてもな。
在宅学習にでも切り替えさせるかな…?」

アーサーはこれからの娘を心配していた。
母親譲りの美貌を持つだろう娘を…





同じ頃、ランスロット家。
パーシヴァル家と同じように学院からの連絡を受け、
リチャードの両親は自分の息子を誇らしげに思っていた。
それというのもファリア=パーシヴァルを助けたという名誉ある行動を起こした息子に
父エドワードと母メアリは嬉しさを隠し切れずにいる。

そんな両親がいる部屋にリチャードがやってきた。

「父上、母上。お願いがあります。」

真剣な面持ちでリチャードは話を切り出す。

「何だね?今日の名誉に対して私が叶えられる願いなら叶えてやってもいいぞ。」

父は満面の笑みで答える。
その言葉がリチャードには嬉しかった。

「ありがとうございます。父上。」

「で。なんだね、リチャードの望みとは?」

姿勢を正して父に告げる。

「…僕と彼女を正式に婚約させて欲しいのです。」

突然の息子の申し出に両親とも驚いた。
そしてその瞳の強さに。

「ほう。あの娘と将来 結婚したいと言うのだね?」

父の確認の言葉に堂々と答える。

「はい。僕は彼女をずっと守っていきたいと思っています。ですから…」

「そうね。あなたは幼い頃から彼女を守ってきたものね。いつも…」

母の優しい瞳を見て、うなずく。

「はい。」

「そうか… わかった。」

父は瞳を閉じ、ふと考える。

「しかし… あの娘の父親は何というかな?」

「ち…父上!」

意地悪な父の言葉に困る。

「ははは… 冗談だが、同じ公爵家といってもパーシヴァル家のほうが格は上。
果たして向こうの家がどう思うか…。」
「そうですわね…。」

その言葉にメアリも心配する。
なんといってもパーシヴァル家には王室出身のセーラがいるからだ。

「父上…無理なのですか?」

こわごわ覗き込む息子の頭に手を載せ父は言う。

「いや。父親のアーサーに相談してみよう。」

「お願いします。父上。」

哀願するような瞳でリチャードは父を見つめた。

「うむ。今日はもう部屋に下がりなさい。」
「はい。おやすみなさい、父上。母上。」
「おやすみなさい。リチャード。」

優しい母の笑顔に見送られて彼は自室へと向かった。



息子のめったにない申し出に父は叶えてやりたいと思う。
そんな思いでパーシヴァル家へダイヤルした。

小書斎で電話を受け取ったパーシヴァル家時期当主アーサーは2ヶ月ぶりの親友の声に喜ぶ。

「やぁ。久しぶりだね、エドワード。」

「あぁ、本当に。」

「ところで今日、私の娘をまたリチャード君が助けてくれたそうだね。
お礼が遅れてすまない。
私からも感謝していたとリチャード君に伝えてくれないか。」

アーサーの言葉にエドワードも嬉しくなる。
少し切り出しにくかったが思い切って言う事にした。

「…実は息子がさっき君の娘と婚約したいと言ってきた。」

突然の親友の言葉に驚きながらもその心情を察したアーサーは尋ねる。

「!… そうか。それでエド。君はどう言ったんだい?」

少し考えてエドワードは答えた。

「私は正直なところ、息子の願いを叶えてやりたい。
しかし君の家のこともある。
…君には息子のアリステアがいる。 
私はこの婚約が成り立つ事を願っているよ。」

電話の向こうのアーサーが考えているのをエドワードは感じた。


「分かった。しかし2,3日時間をくれないか? 
私の娘の気持ちを知ってはいるが、妻に相談しようと思う。」

「あぁ。いい返事を待っているよ、アーサー。」

「それでは、な。」

ふたりはそうして電話を切った。




アーサーは妻のいる寝室へ戻った。
妻のセーラはベッドの上で本を読んでいる。

「あなた。もうお仕事は済んだの?」

いつもと様子が違う夫に声を掛けた。

「あぁ。それより君に相談したい事が出来てね。」

「あら、何ですの?」

セーラの予期しない言葉が夫の口から出た。

「実は先ほど、エドワード=ランスロット公から電話があってな。」

「まあ、久しぶりね。そういえば今日のことのお礼を言ってくださった?」

「勿論。それで相談というのは…息子リチャード君とうちの娘を婚約させたいと言ってきた。」

驚きを隠さないでセーラは素直に喜びの顔を向ける。

「まあ!!」

「それで君の意見を聞きたいと思ってね。」

セーラは思いがけない縁談話に喜ぶ。

「私は賛成ですわ。
娘は昔からリチャードの事が好きですもの。
母親の私から見ても分かりますわ。
貴族社会では政略結婚が多いけれど本当に愛し合えるなら何より幸せですもの。それに…。」

「それに…?」

妻の言葉の続きを聞きたかった。

「リチャード君はきっと娘を守ってくれます。
あの子は出会った頃から娘の騎士様ですもの。」

「そうだな。」



―そして朝
パーシヴァル家の食堂はもうすぐ来る幸せに待ちわびている。
娘と息子はすでに席についていた。
父親であるアーサーと母親のセーラが席に着くと食事が運ばれ始める。

「ファリア。」

父が娘に声を掛ける。

「はい、お父様。」

「今日、学校が終わったら話がある。いいね?」

「はい。分かりました。」

朝食が終わると父はバッキンガム宮殿近くにある王室庁へ、
娘と息子はロンドン郊外の学院へと。



夕方に学院から帰ると玄関で執事に呼び止められ父からの伝言を聞き、
制服のまま小書斎へと向かった。
ドアをノックし小書斎へと入ると壁一面の本と大きな窓が少女を向かえる。

重厚なデスクが部屋に似合っていた。
その大きな革張りの椅子に父は座っている。

「お帰り、ファリア。」

普段は自分より遅く帰ってくる父がこの時間に家にいて話しなければならない内容は
一体なんなのかこの時まで全く分からなかった。

「お父様。お話ってなんでしょうか?」

顔をしかめている父にこわごわと尋ねる。

一呼吸置いて父は話し始めた。

「…。実はお前に縁談話がある。」

「…え!?」

父の意外な言葉に驚き心臓が止まりそうになる。
まさかプリングルス?などと考えてしまう。
鼓動がどきどきしているのが解る…
震える声で尋ねた。

「…どなたとですか?」

「…ランスロット公爵家子息リチャードだよ。」

自分の耳を一瞬疑った。

「ほ…本当ですか!?お父様…?」

ふうと一息入れて父は言葉を続ける。

「あぁ。本当だ。具体的な結婚はまだしばらく考えなくていいが、婚約しておきたいそうだ。」

「そう…ですか。」

意外と落ち着いた娘の答えに父は問いかける。

「お前はリチャードくんが好きなのだろう?」

少し照れながら父に答えた。

「はい。好き…です。」

「そうか。しかし少し早い気もするが、本当に彼で構わないのだね?」

「えぇ。」

うつむいてしまう娘に父は少し心配だったが、それが嬉しさからだと知ると何も言わなかった。

「それではランスロット家にOKの返事をしておこう。いいね?」

「はい。」

天にも舞い上がりそうな気持ちを感じていた少女。

「まだふたりとも幼いから、内々だけでパーティをしような。」

「はい、お父様。」


そしてその日のうちにランスロット家に嬉しい返事がされた―



―次の日曜日
相変わらず家族ぐるみでのおつきあいで今日はパーシヴァル家から
アーサーとファリアがランスロット城をたずねていた。

今日はリチャードに馬に乗せてもらい、遠乗りに行く約束。

彼の愛馬キング号に乗って緑の中を走りぬけた先に大きな樫の木。
この木の下で休む事に。
馬は近くの泉で水を飲んでいる。
ふたりは今日、会ってからあまりまともに話していなかった。
お互い、照れくさくて…。

少し落ち着いてファリアから話かける。

「お父様から聞いたのだけど…本当に私でいいの?」

「当たり前じゃないか。僕は…僕はずっと君の騎士でいたいから…。」

「…ありがとう、リチャード。」




「ね、キスしていい?」

「…えぇ…」


少女が瞳を閉じて、あごを少しだけ上げる。

長いまつげにつんとした可愛いくちびる…

彼は自分の鼓動が彼女に聞こえるんじゃないかというくらいどきどきしていた。
しかし意外に冷静でいられる自分に驚いている。
ふたりの顔が近づく。

「好きだよ…」


初めてのキスは小鳥のような優しい優しい口づけだった。




リチャードは近くで見つけた四つ葉のクローバーを指輪にして彼女にあげる。
四つ葉のクローバーは恋人に贈る愛の証だった。
そしてファリアもまた彼に四つ葉のクローバーを贈る。
二人は幼いながらもお互いを大切にしたいと思い初めていた…



その次の日曜日
ランスロット城で婚約パーティが開かれた。
パーティと言っても両家の家族と親族、そして本人達だけのささやかなもの。

ふたりは…ひとつの季節を終えた…

そして未来は…

また別のお話―――







fin

___________________________________________________
(2006/2/23)
(2007/7/19加筆)
*あとがき*
Kayさまからのリク・リズも絡んでくる子供時代。。。
つーことで、昔にあげてた「大人になる前に」を
長くしてみました☆
後半が手抜きか??

でも加筆改稿してるのよ!!

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