Silver Ribbon* -2-
ずっとシングルで頑張ってきたふたり―
ある練習の日。。。
リチャードの表現力がもっと欲しいと思うコーチの思いもあり、
ファリアの練習の様子を見ていた。
17歳になった乙女の滑りは清楚なまでに美しい。。。
ここ数年、彼女は「銀盤のプリンセス」というあだ名までつけられていた。
それは彼女自身が女王陛下の孫だと言うことも関係してるのだが。
対してリチャードも「銀盤の騎士」と呼ばれている。
事実、フィギュア界でも勢いのある滑りと公爵家の跡継ぎと言うこともあっての通り名。。
目の前で優雅に滑る乙女をコーチとともに見つめる。
「レイコーチ、無理ですよ。
僕は男ですよ。
…彼女みたいに可憐に滑れないです。」
「…無理って言うな!!」
「え?」
「男でも表現力は必要だ!!
ジャンプだけだとこの先、選手としては全然ダメだ。」
「!?」
痛いところを突かれ、彼は絶句する。
正直、最近…スランプ気味でもあった。
ジャンプはこなせても、そのほかの演技に勢いがない。
「あの娘を見てみろ。
全体の構成のバランスの良さ。
女子だからジャンプはトリプルまでしかこなせなくても
…十分に"観れる"。
お前は確かに4回転はこなせても…華が外見だけじゃな。」
「!? …くッ…」
確かに同世代よりやや背が高く、金髪碧眼で外見は人よりいいと感じていて
そこに甘えている部分があるのを最近になって自覚していた。
「…もうちょっと柔軟性と表現力をつけないと
オリンピックなんて夢で終わるぞ。」
彼の負けず嫌いな性格を解っていて、
わざときつめの言葉を投げかける。
「マット運動とバレエを強化しろと?」
「それも必要だが…
そうだ!!
一度、あの娘と同じ構成を滑ってみろ。
そうすればお前の欠点も解り易い。」
「あ…!!」
コーチの言葉に彼も気づく。
「お〜い!! ファリア!!」
声を掛けられ、リンクの反対側にいた乙女が軽快に滑ってくる。
「何ですの?
レイコーチ…?」
「すまんが…リチャードのヤツと一緒に滑ってくれんか?」
「はい??」
レイコーチの意図が解らなくて、声がひっくり返りそうになる。
「君の表現力をコイツに知らしめたくてね。
シャドウと思って…」
その言葉でレイコーチが何を伝えたいのか解った乙女は快諾する。
「…えぇ。いいわ。
リチャード…私の今の演技の構成、覚えてくれてるでしょ?」
「あ。あぁ…一応。」
「じゃ、行きましょ。」
彼女に手を引かれ、リンク中央へ。
横に立って、同じポーズから始める。
滑り始めて気づく。
すぐ前で滑る彼女のステップの細かさ、エッジ捌き、
…自分よりかなり繊細なことに気づく。
そしてジャンプこそ自分より回転は少なくても
女子にしてはかなり高く飛んでおり、安定した着氷。
何より楽しげに滑っているその表情…
つい先日の国内大会で優勝したファリア。。。
彼は3位で終わっていた。
彼女の自信が安定した演技を見せていることに気づく。
(あ… 僕…今まで何見てたんだろう…??
綺麗でまとまった演技だとは思ってた。
こんなに細やかな動きがあったんだ…)
彼女の指先、つま先、表情…
全てに気が入っている。
終盤のピールマンスピンも足を変え、
フィニッシュはドーナツスピン…
最後まで演技した乙女は満面の笑顔。
傍らで彼は固まっていた。
フェンシング、馬術での優勝経験はあっても
フィギュアスケートではなかった…
悔しくて情けなく感じている…
拳を震わせる彼の様子に気付く。
「リチャード?? どうしたの?」
思わず彼は乙女を抱きしめていた。
「…ファリア。」
「え?」
「僕… とにかく技を、ジャンプをって思っていた。
僕には君みたいに…華麗に演技するなんて無理だと思ってた。
…ファリアみたいに気持ちよく…演技してみたいよ。。」
「リチャード…」
リンクの上で、ふたりは抱き合っていた。。。。
その日のレッスンは早めに切り上げて、
ふたりは久々にじっくり話をしていた。
今も同じ学校の男子部女子部で…
放課後も忙しくてあまり話せずにいた。
「僕…少し考え違いしていたみたいだ。」
「え?」
ティーカップを手に乙女は驚きの目を見せる。
ふたりは練習場の外のティールームにいた。
「君は可愛くて綺麗だから 演技もそう見えるって思っていた。
でも違った。
君は…あんなに細かいところにまで気を入れて、演技してたんだ。」
「えぇ…そうね。
でもあなたも凄いわよ。
16歳で初めて4回転を跳んで… ずっとジャンプのレベルの高さに私、
感心してたの。」
「でもコーチにずばっと言われたよ。
ジャンプだけじゃダメだって…」
「…。」
乙女は何も言えなくなった。
確かに4回転に成功してから…彼の演技はジャンプが目立つ構成だと感じていた。
彼は意を決して言葉を切り出す。
「あのさ…ファリア、頼みがあるんだけど。」
「なぁに?」
「しばらく…君と同じ練習させてくれないか?」
「え?」
「リンクの上だけじゃなく、マット運動もバレエやその外のダンスレッスンも。
君のその華麗な動きを学ばせて欲しい。」
「リチャード…」
真剣な眼差しの彼に胸が熱くなる―
乙女は瞳を閉じる。
「いいけど…フェンシングと馬術はどうするの?」
「なんとかなる。
いや何とかしてみせる。
フィギュアでも優勝したいんだ、僕。」
幼い頃から彼が負けず嫌いなことを解っている乙女は決心する。
「いいわ。
ひとつ条件つけていい?」
「何だい?」
「私と同じ練習をするって言うのなら、いっそペアに転向しない?」
「え?」
思いがけない提案に彼も驚く。
「私は確かに4回転は無理だけど…
トリプルアクセルとサルコウなら…跳べるから。」
「あ。そうか、ペアってのもありか…」
「えぇ。だから一緒に頑張って冬季オリンピック…次は2086年のカナダ大会。
目指してみる?」
「そっか…そうだな。」
そういえばフィギュアを始めるきっかけはファリアだったと…
彼女のそばにいたくて始めたと思い出す。
「…一番近い大きい大会は…来年のヨーロッパ選手権ね。」
「あぁ。。シングルで出るつもりだったけど…
君と一緒にメダルを目指すか。」
「えぇ…」
ふたりは穏やかに決心し始める。。。
*
ふたりは翌日にはお互いのコーチに決意を告げる。
リチャードのコーチ・スチュワート=レイもファリアのコーチも
驚いたが了解してくれた。
ふたりの練習の日々が始まる。。。。。
元々幼馴染で…内々に家同士で決められた婚約者同士。
息もぴったりなふたりはお互いの長所を吸収し、選手として上を目指していく―――
最初の公式戦は…国内の小さな大会。
リチャードはタキシード風の衣装に身を包み、
ファリアは薔薇色の少々長めのスカートの乙女なドレス風―
ショートプログラムはバッハ:「トッカータとフーガ ニ短調」:Toccata
フリーはマイス:「タイスの瞑想曲」
リチャードの長身を生かした高い位置でのスロー(投げ)と
ファリアの華麗な舞うようなジャンプ。
そして何より…彼女との練習で表現力を上げた彼。。。
それは幼い頃から抱いていた乙女のへの想いを、
心の内を告げてから ふたりの間に生まれた恋もスケーティングに影響していた。
ペアになって初めての公式戦でふたりは笑顔で表彰台へ。。。。。。
それはいつか…
教会で見るふたりの笑顔へ…
〜fin
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(2006/2/11)
*あとがき*
書き出すと…結構さくさくと描けてしまった。。
ちょっとショートだけど、これはこれで良し!!
フィギュアのことについて細かい突っ込みはナシでお願いします〜!!
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