Silly Action 〜その1 その日のビルは異様なほど機嫌がよかった。 進児、マリアン、リチャードの3人が引くほどに。 「何だ? その笑い方… 不気味なヤツだな〜。」 進児はにやけた顔して鼻の下を伸ばしているビルを見て呟く。 「いや〜… わっかる??」 「解からいでか…」 進児もマリアンもリチャードも呆れ顔。 「どうせ可愛い女の子とお知り合いになったんじゃない?」 その言葉を待ってましたとばかりのビルの満面の笑み。 「そうなの。 解っちゃった??」 のろけたいとばかりのビルの顔は融けていた。 「いや〜進児はともかく、リチャード。 お前も好きな女のひとりやふたり、見つけろよ。」 リチャードの肩に手を乗せていたが、彼はむっとした顔でビルの手を外す。 「…必要ないね。」 「そんな事、言ってるとホモと間違えられるぞ。」 「僕には想い人がいるから結構だ!!」 「あ、そ。」 余計なお世話だと言わんばかりのリチャードの胸中には ファリアの面影がずっとある… 「まー、まー。 遠くの彼女より近くの女って言うじゃないか。 そのうち、枯れるぞ。」 「放っといてくれ!!」(怒) そのうち、リチャードの逆切れがありそうな気がしてビルは 彼から離れる。 「じゃあな。俺、これから彼女とデートなんだっ!!」 ビルは3人にでれでれの顔を向けた。 「おい、ビル!! 呼び出しだけは持っていけよ!!」 「わーってる!!」 進児の心配も無駄なような気がするマリアンとリチャード。 軽い足取りでビスマルクマシンを出て行くビルの姿を3人はコクピットから見送っていた。 「まったく…ビルのヤツ…」 「また怖い親父に追っかけられるぞ…」 リチャードと進児の言葉は今のビルに言っても無駄だと解っていた。 ビルはセレス星のこの街で出会った少女とデートする約束をしていた。 金髪碧眼で少し小柄だけど、プロポーション抜群の美少女・アリシア。 昨日、出会ったばっかりだがビルはひと目で夢中に。 待ち合わせは公園の中にある時計台の前に11時― 「ごめん、待ったかな?」 ビルは平静なふりしてアリシアに声を掛ける。 「ううん。全然。 何処に連れて行ってくれるの?」 「とりあえず、散歩しようか?」 「えぇ…」 ふたりは連れ立って歩き出す。 ビルは隣40センチを歩くアリシアをちらちらと見る。 奇麗な波打つブロンドヘア、つんと尖った唇に長いまつげ… 昨日と違う、可愛いミニのワンピース姿。 心臓がひっくり返りそうになっていた。 (あぁ… 可愛いなぁ〜 キスしてぇ〜!!) ビルの心の内を聞いたかのようにアリシアが問いかけて来る。 「あの…ビル?」 「何だい?」 「あの… あなたビスマルクの任務でセレス星にいるのでしょ?」 「あぁ。そうだけど?」 「いつまで… いられるの?」 「ヘ?」 アリシアは立ち止まり、ビルを見上げる。 奇麗なブルーの瞳はうるうるしていた。 その可愛さにぐらりとなる。 「せっかく出会えたのに… 突然いなくなることもあるのでしょ?」 「え? あ、ごめん…」 ばつが悪そうにビルは謝る。 確かにせっかく出会えたのに突然、セレス星を出て行かなければならなくなるのは確実。 「私、離れたくない!!」 ビルに抱きついてきた。 「!?」 「私… 私… 」 ビルはそっとやわらかなブロンドの髪の頭を撫でる。 「俺…」 「私、離れたくないけど…仕方ないのね…」 「アリシア…」 「せめて…思い出をくれませんか? 今日一日…」 「え?」 頬を赤く染め、もじもじと上目遣いでビルを見つめる。 コレで落ちない男はいないというような可愛いしぐさ 「私… 軽い女だと思われたくないけど… でも…」 「…アリシア。」 アリシアの肩を抱く手に力が入る。 「イイのかい? 本当に…」 「いいの…」 うつむき恥ずかしげに告げる。 二人は公園を出てある建物に入っていく。 ビルの頬もアリシアの頬もピンクに染まっていた。 久々の甘い時間にビルは溺れていく――――― *** さすがに無断外泊は出来ないと夜にビスマルクマシンに戻ったビル。 「あ〜… デスキュラのヤツら… ぜってーくんなよ!! 今、俺は忙しいんだ!!」 コクピットのライトコンソールのシートで叫んでいるビルに突っ込む進児とリチャード。 「何叫んでるんだよ、ビル?」 「なんか変だな…お前。」 マリアンがビルに近づくとふんふんと匂いを嗅ぐ。 「フローラル系の香りがする… 女の人といっしょっだったんだ、やっぱり…」 「え!? いや、あの…」 しかも今も香りを放っていることはかなり親密な時間を過ごしたということ。 「お前なぁ…」 進児たちはビルの顔を見て解ってしまう。 リチャードは憤慨して告げる 「僕達はいつ呼び出しがかかるか解らないんだぞ!?」 「いいじゃねーか、少しくらい。 俺達ゃ青春ど真ん中だぜ? 恋のひとつやふたつ…」 「のん気に恋愛してる場合じゃないってコト、解っているだろう、ビル?」 「そりゃ…ま、 でもよ…」 「…ちゃんと相手に言ったのか? 自分がビスマルクチームの一員でいつセレス星を離れるか解らないと…」 「言ったさ。けど…アリシアが…」 ビルは困惑しながらも何とか答えていた。 マリアンはそんなビルをジト目で見つめる。 「…ふーん… アリシアって言うんだ。その女の人…」 「もういいだろ?! 夜にはマシンに戻ってるんだし!!」 ビルはひとりコクピットから出て行く。 「まったく… 何考えてるんだ…アイツ…」 進児の呟きはビルには届かない。 ―真夜中 デスキュラが出現したと緊急コールで叩き起こされ、 セレス星を離れるビルマルクチーム。 「あーあ… 俺… アリシアとはもう終りかよ!!」 「だから言っただろう?ビル。」 「うるせーな… はぁ…」 進児に突っ込まれ、せっかく掴んだ恋の終りを感じてビルは溜息をつく。 テンガロンハットで顔を隠し、潤んだ目を隠したことに進児たちは気付いていた。 結局、1ヶ月してからセレス星に再び降り立つビスマルクチーム。 マシンの点検整備があるので24時間の休暇― ビルがあの公園に行くと…時計台の前にアリシアの姿。 「!? いた!!」 近づこうとすると…目の前で他の男が笑顔で彼女に近づく。 「あっ…!?」 ふたりは腕を組んで歩き出す。 アリシアはビルを一瞥しただけで、ふいと通り過ぎていく。 (また… 失恋かよ… チクショウ…) ふらふらと公園を歩くビル。 (あぁ…せっかくいいトコまでいったのに… デスキュラのヤツらのせいで…ちくしょーー!!) むかついて蹴った小石。 「きゃっ!!」 「え、あっ!!」 小石が近くを歩いていた女性の足に当たってしまった。 「す、すみません!! 大丈夫ですか?」 「少し痛い…」 女性は足をさすっている。 「すみません。俺…」 「もう…いいです。」 見ると女性はトランクを引っ張って立ち去ろうとしていた。 「あ、あの、俺、荷物持ちますよ。」 「いえ、結構です。失礼します。」 女性は怒りもせずに、ただ行こうとする。 「あ、あの…俺、怪しいもんじゃないです。 ビスマルクのビルと言います。 ホント、ごめんなさい。」 真面目に謝り、身分を明かしたビルを女性は初めて見つめた。 「あなた…ビスマルクの方なの?」 「えぇ。」 ビルが真正面から女性を見るとウェーブがかった赤毛で グラマラスな大人の女性。 アイスブルーの瞳がビルを見つめる。 「そう…でも、結構よ。」 歩き出す女性を追いかける。 「ホント、ごめんなさい。 お詫びにお茶でも… いや、食事でも。」 立ち止まりビルに問いかける。 「ビスマルクチームってヒマなの?」 「そーゆーワケじゃないんだけど…」 「そうなんだ。…じゃ、食事に付き合ってよ。」 「ヘ?」 さっきまでと180度、態度が変わった。 「地球から出張で来ていてひとりなのよ。 少し淋しいかなって思ってたトコだしね。」 「マジ?」 「えぇ。私、バーバラ=アントンよ。」 ビルはバーバラのトランクを預かり、引いて歩く。 「なんで俺と食事してくれる気になったの?」 「……年下の坊やも可愛いかと思ってね…」 「へ?」 ルージュをひいた赤い唇が告げる。 「え。あの…俺…」 (いいのか、俺? こんなにモテちゃって…) すっかりアリシアのことを忘れてしまった。 バーバラが連れて行ったのはシティ中央にある大きなホテル。 ふたりは食事をホテル内のレストランで済ませると… 部屋へと誘った。 勿論断ることなく、ほいほいとついて行くビル。 しかし部屋に入って、シャワーを浴びて、 いざベッドに行こうとしたその時、緊急コール。 『ビル!!何処にいるの!? 早く戻って!! デスキュラが現れたのよ!! 大至急戻って!!』 マリアンの声が切迫さを語っていた。 「了解。」としか言えない。 「ごめん、バーバラ…」 申し訳なさそうな顔を彼女に向けるが、そっぽを向かれる。 「いいのよ。行ってよ。 でも戻ってこないで!!」 「…解った。」 ビルは服を着て、すっ飛んでいく。 戦闘でビルは異様な強さを誇っていた。 今までにないほどの数のデスキュラの小型マシンを撃墜。 戦闘が終わると進児が笑顔を向ける。 「どうしたんだ、ビル? 今日は絶好調じゃないか?」 「いや〜あははは… 力有り余っちゃってな。」 「いつもその調子で頼むわよ、ビル。」 マリアンにそう言われても乾いた笑いを浮かべていた。 ( ってことは、俺、しょっちゅう失恋してろってことかよ?!) 悲しい溜息がビルの口から漏れていた。 *** ―その夜 3段ベッドの中段がビルのスペース。 疲れた身体を横たえ、進児とリチャードは休んでいた。 しかしビルは起きている。 「あーもー、ちくしょー!!」 ビルは仕方なく、隠し持っていた女性の肌が露わな本をじっくりと見て 今日、味わうはずだった官能を想像していた。 深夜で静まり返った部屋にビルの荒い呼吸が響いていた。 「ぅ…あ…」 「ビル!!いつまで起きてるんだよ!!」(怒) 突然、進児の声がしてカーテンが開けられた。 進児とリチャードがそこに立っている。 3人は同時に声を上げた。 「「「あ?!!!」」」 進児もリチャードもなんとなく予測していたが目の前にすると さすがに驚いている。 進児の声がひっくり返っていた。 「おま…っ!! 何してるんだよ!! ここで!!」 「いや… その…あの… って、いきなり開けんなよ!!」 あわ食っている状況で、ビルは半ば逆切れしそうになっている。 「リチャード… どう思うよ、こいつのこと?」 「呆れたやつだな。」 まさにその通りだと進児も感じている。 「ここはパーソナルスペースだろ??何したっていいじゃないか!!」 照れ隠しもあって思わず深夜にもかかわらず叫ぶビル。 「しかしなぁ… どうするよ。」 「時と場所をわきまえて欲しいな。」 「じゃ何か? お前らは処理しねぇのかよっ!! 健全な青少年だぜ、俺達?」 「ビスマルクマシンの中じゃ、ここでは禁止にしよう。なぁ、リチャード?」 進児はリチャードの意見を求めた。 「そうだな。シャワールームかトイレでしろ!! 僕達に迷惑だ。」 冷静に告げられ目を丸くするビル。 「マ…ジィ?」 「あぁ。」 進児にまで真顔で言われ溜息が出た。 「わーったよ。 お前らは…しねぇのかよ…まったく…」 「人に話すことでもないだろう。」 「そうだぜ、ビル。」 「…仕方ねぇ…」 はぁと溜息をついてビルは3段ベッドの部屋から出て行く。 「なぁ…リチャード。 俺達も青少年だもんな。 ないわけじゃないけど…ビルほどオープンじゃないよな?」 「確かに。 ホント、困ったやつだな。」 進児もリチャードも男子寮での生活を経験しているからこそ、わかってはいる。 「マリアンにバレないようにさせないとな…アイツ。」 「あぁ。確かにマリアンにはショックが大きすぎるな。」 進児とリチャードの乾いた笑い声が深夜のビスマルクマシンの中で響いていた――― End ___________________________________________ (2005/9/23) to その2 to Bismark Novel to Novel Top to Home |