serenade -1-
<R Side>
―2085年7月
僕は7月になるといつも思い出す
あれから2年…
僕が初めて愛した彼女とヒトツになった―――
17歳の夏の雨の日
僕にとって生きている意味を生まれた意味を知った…
彼女を愛し守るために僕はいる―――――
あの瞬間の彼女の光る涙と微笑が僕の心に焼き付いている
一生愛し守ると誓ったのに、わずか1週間で運命は僕から彼女を奪った―――――
***
僕は今、地球連邦軍ルヴェール博士の結成したビスマルクチームの一員。
ガニメデ星を、地球を守るために日々戦っている。
旅の途中、つい彼女に似た女性を探すのがクセになってしまった。
アイリス星でも任務が終わって一安心するが、
そんな時でも彼女の面影が僕の心に浮かぶ…
(何処に… 何処にいるんだ――――? ファリア…… )
時折、彼女の夢を見る。
もう彼女も19歳。
素晴らしく美しい乙女になっているだろう…
他の男に奪われてやしないかと不安がないわけではない。
けれどもう一度逢って、僕の想いを伝えたいと願っている…
*****
―2085年9月末
デスキュラとの戦争は地球側の勝利で終結した。
僕は英国の実家に帰ると父に告げた。
「… 彼女を探しに行きます。 だから1年、僕に時間を下さい。」
父は驚いた顔をしたあと、真顔になって返事した。
「…解った。 行って来い。 お前がずっとあの娘を… 想っているのを知っている…
それにアーサーも本当は探しに行きたいようだしな…」
「そうですね…」
彼女の父も生きていると信じている数少ない人物だ。
「…私も出来るだけのことはしたい。 2,3日待ってくれんか?」
「…はい。」
翌日、彼女の父・アーサー=パーシヴァル公爵がわざわざ訪ねてきた。
「リチャード君、娘を探しに行くと聞いた。」
「…はい。」
「ありがたく思っているよ」
「…いいえ。 僕が彼女を愛してるから…
探しに行きたい、見つけたいと願ってるんです。」
リチャードもアーサーもその胸に少女の面影を描いていた。
顔を上げて、アーサーが切り出す。
「実は今日は、君にあの事件の事を詳しく話そうと思ってな。」
「!?」
「ここに資料がある。
あの船の設計図と私達が乗っていたシートの場所に、カプセルの位置と方向。
…船が被弾した時の時間と被弾場所、船がいた座標、方向などだ。」
「こんなに…!?」
僕は驚いた。
公表されているデータ以上のことがこと細かく記されていた。
「あの直後、私は入院を余儀なくされた。
妻を失った、娘を奪われた…
忌まわしい事件の事を忘れまいと残したものだ。ほぼ正確なデータだよ。」
"EYES ONLY"とかかれたファイルを開くと、
宇宙観光客船の設計図、被弾した場所が記された図が。
-16:48 アテナU号 右側後方から被弾
同時刻 父と息子は左側 緊急避難カプセルに二人乗り込む
母と娘は右側 緊急避難カプセルにそれぞれ乗り込む
-16:50 アテナU号 左側後方から被弾
52 右側面被弾 大破―
「このことからすると… 娘の乗り込んだカプセルは
2度目の着弾の衝撃のせいで弾き飛ばされたと考えられる…」
「…そのようですね。」
「妻のカプセルは3度目の被弾の時の爆破に巻き込まれた…」
「…」
パーシヴァル公は一瞬、目頭を押さえる。
その瞬間を思い出されているのだろうと思うと心苦しい。
「娘が乗り込んだカプセルが飛ばされた方向は1時の方向だと思うがどうだね?」
設計図と被弾時間、射出のタイミングを考えればその通りだと思う。
「…僕もそう思います。」
「と、すると、船のいた位置と向いていた方向がこの座標…」
僕は気づく。
何度かビスマルクで航行していたルート上に近い。
「だとすると、この方向にはレト星があります。」
「ふむ…?」
「レト星には管制センターがあります。
少し方向的に引っかかってますから、何かデータが残っているかもしれません。
何か手がかりがあるかも…」
「これ以上はここでは無理か…?」
「僕がレト星に行きます。」
「すまない…リチャード君。」
「いいえ… 僕が求めてるのです。パーシヴァル公爵。
…必ず連れて帰ります。」
「…よろしく頼む。
私からも連邦政府と軍に君をバックアップするように働きかけておく。」
「…ありがとうございます。」
「よろしく頼むよ…」
「はい!!」
*****
僕はパーシヴァル公爵に提供してもらったデータを元にあらゆる可能性をあげていく。
やはりレト星に行くべきだと判断し、とりあえず2日半かけて向かう。
―レト星
アステロイドの中のひとつの星。
レト星フィールドは事故が多発する地帯で管制センターが置かれている。
今年になって完成したのだが、それ以前でも航行する船を監視していた。
とりあえずはと思い、管制センター所長のMr.フランツを訪ねる。
久々に会うと随分元気を取り戻されていた。
僕が事情を説明すると、旧コンピュータのデータを洗いなおしてくれた。
「その日の その時間、48時間以内にこの方位を通過した船は5隻。」
「5隻…」
「そのうち3隻はセレス星発レト星行き。すべて貨物。
カプセルを回収したと言う報告はない。
あとの2隻だがセレス星発レト星経由フルシーミ星行き。
これが怪しいな…」
「え…? 何故です?」
「フルシーミ星への船は片道でね。」
「どういうことです?」
僕は初めて聞く星の名に戸惑いを覚えた。
「フルシーミ星の政策でね。
人口が極端に少ない辺境の星だけに一般人の出星許可は下りない。」
「は?」
「人口が1万にも満たない星でね。2万以上にならないと宇宙ポートを造らないとしている。」
「…?!」
「だから連邦政府の船と人間しか出入りは許されないのだよ。
それに通信も制限されている。
このレト星とセレス星のみ送受信が出来るだけだ。」
「あ…!?」
初めて聞く政策に環境に驚いてしまう。
「おそらく…この星にいる可能性は高いと思うね。
船の船長が報告しても、星からは出られないのだから。
しかし、君のIDなら出入りは許されるはずだ。」
確かに僕のIDはビスマルクの頃のものよりさらにあらゆる特別許可が下りる特別ID。
「え、えぇ…僕のはSP・IDですから…
でも彼女を見つけ出せたとしても、連れ出せるのですか?」
「一般人は無理だが、SP・IDの家族と言う事なら大丈夫だ。」
「家族… つまり僕の妻と言う事に?」
「婚約者でも大丈夫なはずだよ。君なら問題ない。」
「…解りました。」
「確か… 次のセレス星発レト星経由フルシーミ星行きは…明日ある。
貨物だが、頼めば乗せてくれる。」
「解りました。ありがとうございます。フランツ所長。」
「いや… 私も助けてもらった、君達に。」
フランツ所長は僕に笑顔を向ける。
「いえ… 明日にスペースポートに行きます。
じゃ、僕はホテルに。」
「あぁ。話は船長につけておくよ。」
「すみません。お手数かけます。」
僕は管制センターを後にした その足で図書館へと。
***
次の日 フルシーミ星に向かう貨物船に乗せてもらった。
僕はプロテクトギアを付け、ドナテルロも…
―フルシーミ星
初めて目にするこの星はエネルギー鉱山を5つも抱える鉱物資源の豊かな星。
しかし人が暮らすには少々過酷な環境と言えよう。
それでも地球人は重力管理装置と大気管制装置の恩恵で暮らしていた。
船は首都・イナルの連邦軍基地のポートに到着。
僕は船長達に礼を言って、まずは住民管理センターに行く。
彼女の名と生年月日、特徴を伝えるとオペレータが調べてくれる。
「申し訳ありません。…ファリア=パーシヴァルさんというお名前では上がってきません。」
「そんな…」
見つけられると信じていただけにショックも大きかった。
そんな僕を見てオペレータが声を掛けてくる。
「あの… 私、ひとつ気になるんですが…」
「何です?」
「…お名前は違うのですが、18,9くらいで黒髪の…蒼の瞳の女性で、
特技がピアノという事ですよね?」
「えぇ。」
「…ここから180キロほど離れたカクサという鉱山の村があるのですが
村にあるバーの歌姫の特徴と似てる気が…」
「…歌姫?」
「えぇ。一度ステージを見たもので。」
僕は思わず写真を見せる。
彼女が16歳の秋のデビューパーティの時の写真。
「僕が探している女性の…3年前、16歳の時の写真です。」
「う〜ん… 似てる気もしますがね…」
僕とオペレータが神妙な顔でやり取りしていると責任者という中年男性が近づいてきた。
「どうしたね? クーパー君、何かトラブルか?」
「あ、ヘリテージ課長。
こちらはビスマルクチームのランスロットさんです。」
「あぁ、どうりで… で、何か?」
「この写真の女性を探してるということで、
お名前と生年月日で調べても上がってこなかったのですが
写真を見て、カクサ村の歌姫に似てるかな…と。」
「あぁ、フェアリーのこと?」
「フェアリー?」
「えぇ、カクサ村のバーの歌姫はフェアリーと呼ばれてる。
私も一度彼女のステージを見たが…あそこのステージは少し暗いからな…
ちょっと待ってください…
確か… 私の友人のアポロ出版の編集長が取材拒否されたって泣いてたっけな。
彼なら直接会ってるはずだし… ひょっとしたら今の写真も持ってるかもしれんな…」
「!? 何処に行けば会えますか?」
「あぁ、イナルD区のアポロ出版・雑誌編集部の…Mr.キンバリーだよ。」
「ありがとうございます。行ってみます。」
「私からも連絡しておきますよ。」
「すみません。」
僕は急いでドナテルロに跨り、D区の出版社へと向かう。
1階の受付で名を言うとすぐに面会出来ることになった。
エレベータで編集部のある3階へと。
「すみません、お忙しいでしょうに。」
テーブルを挟んで向かいに腰を下ろす40歳位の恰幅のいい男性がMr.キンバリー。
笑顔で僕に応対してくれる。
「いいや… ところでカクサ村のフェアリーについて聞きたいと…?」
「えぇ。村には行くつもりではいるのですが、どうしても確かめておきたくて。」
「いいですよ。私でお役に立てることでしたら。」
僕は例の写真をMr.キンバリーの前に置く。
「この写真の乙女なのですが… その例のフェアリーという歌姫に似てますか?」
「…拝見します。」
両手で手に取り、じっと見つめる。
「確かに似てますね。しかし…雰囲気が違うな。
…ちょっと待ってください。」
席を立ったMr.キンバリーはデスクに向かい、何かを手に戻ってきた。
「コレを見てください。」
「??」
僕は封筒に入ったものを渡された。
「取材拒否はされましたがね、
公表しないという約束で記念写真を撮らせてくれと頼んだらそれだけはOKしてくれた。
2ヶ月位前の写真だよ。」
僕は慌てて封筒の中身を取り出す。
見た瞬間、心臓が止まるかと思った。
Mr.キンバリーの横で静かに微笑む黒髪の乙女。
確かにまとっている空気がまるきり違うが、その顔は間違いなく彼女。
「!? …ファリア…?!」
「やはり君の探している女性かね?」
「えぇ… 間違いありません。」
「…そうでしたか。」
「ありがとうございました。」
僕は席を立ち、頭を下げる。
「いや…、お役に立てて光栄ですよ、サー・ランスロット。
その写真はお持ち下さい。」
「…いいのですか?」
「映像データはありますから。」
「すみません、ありがとうございます。」
僕はMr.キンバリーにお礼を言って編集部をあとにした。
逸る思いでドナテルロに跨り、彼女がいるというカクサ村へと向かう。
(やっと…逢えるんだ… ファリア…)
to -2-
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(2005/8/27)
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