remain   -2-






デスキュラ艦が大爆発の後、静寂が訪れた…

地球連邦軍は突然の出来事に驚きつつも撤収を始めた。

まだ宇宙空間に取り残された二人に気づかず…










いきなりの出来事に乙女はパニックだった。


自分はあの艦で死ぬ覚悟だった。

カリオナ人たちが開発した高性能エンジンを戦争の道具に転用されたとわかったときから。





自責の念が彼女を蝕む




「……私は…   」


「……」





リチャードは密閉された狭い空間でヘルメットをしていたから
乙女がどんな表情をしているのか解らなかった。
自分の腕の中にいるのに相手の顔が見れないのではリアクションのしようがない。
確かに二人入れば窮屈なポッド内。
自分の身体も動かせない。
乙女をすっぽりと腕の中に収めているからなおさらに。




「あの…申し訳ないんだが…」

「何です?」

「あなたの手で僕のヘルメットを外してくれませんか?」

「…え?」

「自分で外すことが出来ないのです…」

確かに彼が自分のヘルメットを外すという動作が出来るスペースはなかった。
乙女はなんとか外すことに成功した。
彼は自分がしゃがむことも出来ないので乙女に足元に置くよう頼む。

内心、乙女は自分を助けた地球人の青年の顔に驚いていた。



彼はこんな状況で初めて相手の乙女の顔を見つめる。



白い肌にまといつくさらさらとした黒髪。
薔薇色の唇。

このまま抱きしめれば折れそうなほど細い肩。
異星人で或る事を忘れそうな美貌の乙女。







「あの…どうして、私なんかを?」


「男なら、乙女を見殺しになんて出来ませんよ。
それが例え異星人だとしても。
…ランスロット家の名誉に関ります。」

「ラ…  ランスロット?」


その名にびくりとする。

思いがけず彼の名を小さく呟く。


「…リチャード。」


「!? 何故、僕の名を…?」


驚いた彼は思わず乙女の左手首を掴み、その内側にある小さな小さな痣に気づく。


「まさか… 君は…  ファリアなのか?ファリア=パーシヴァルなのか!!」


逃げられないと悟った乙女は俯き、こう答える。

「私は…あなたの知っているファリア=パーシヴァルではないの。
彼女は5年前に死んだ…。
ここにいる私はカリオナの血を受けたルーカーナ=ファリア。
ただの地球人ではないの。」

「どういうことなんだ?」

「………5年前のあの日。
私の家族が乗った船がデスキュラに襲撃され、
私と母は一緒のカプセルに乗った。
何日かの漂流のあと、母は死に、私は九死に一生を得ることが出来た。。
けれど私を救ったのはカリオナ人と…カリオナ人の血だった。」

「…?」

「私と一緒にいた青年を見たでしょう?色白の。」

「あぁ。」

「カリオナ人は地球人と違って寿命が長いの。
それは新陳代謝が地球人の1/10以下だから。
だから彼らは怪我や病気に強い。
彼らが私を助けたくて、自分たちの血を輸血した。
それがたとえ3%だとしても私の体を変えるには十分すぎた…」

「だけど…やっぱり君はファリアだ。」

「いいえ。私はもう昔の私じゃない。あなたもそうではなくて?
ほかの女性を愛して、幸せなのではなくて?」

「そんなことはない。
君が死んだと周りには言われてきたけど、
僕はそんなこと信じていなかった。

…君を失った瞬間、僕の世界は確かに変わった。
どれだけ君が大切だったか思い知らされた…。」


「…」


ファリアは答えない。


リチャードの腕に力が入る。


「君をまだ…愛してる。」



「!!」


「どんな風に君が変わっても、君を愛してる。
君が他の誰かを愛したとしてもだ!」


「……!」

涙があふれる。
ぽたぽたとその涙が彼女の白い胸を濡らす。

「泣かないでくれ… どうすればいいか、わからなくなる。」

「あなたの気持ちは嬉しいわ… けど…  」

「けど…何だい?」

「私は私だけのものじゃない。
今の私はカリオナ人たちのもの。
彼らのために生きてる…   」

「…。」

「愛していても どうすることも出来ないことだってある…
だから、私のことは早く忘れて…    …お願い… 」

「忘れろだって!?今の君に逢ったんだ。
それを忘れるなんて出来ない!」

リチャードは彼女の背に廻した腕で強く抱きしめる。
柔らかな髪、たおやかな身体、憂いを含んだ瞳。



思わず唇を奪う。
思いのたけを込めて。



「… ん …」

逃げることもままならない狭い空間の中で彼のくちづけを受ける。



「んんっ…」


頭の芯が痺れる。
思わず逃れたくて身体をよじってしまう。
唇がはなれると二人の間に銀の糸。


「あんまり動かないでくれ。 …君が欲しくなる。」

「!」


思わず赤面する。
リチャードは彼女の背で器用にプロテクトギアの手を覆っている部分を取る。
柔らかな彼の手がその黒髪に触れる。


「こんなに美しい乙女に成長した君を忘れるなんて出来ない…」


「…リチャード…」

思わず彼の背に廻した腕に力を込める。



やっぱりまだ愛してる…

ずっと恋してる…














二人の足元に転がっている彼のヘルメットから進児の声がする。

『おい、リチャード!無事か?生きているなら返事しろ!』


ふたりの耳には届いてなかった。




**********


それからしばらくしてビスマルクマシンに回収されたポッド。

カリオナ人青年技術者ダイルが外部からドアを開けると
そこには何故か笑顔の二人が。


「姫様、何かあったんですか?」


「…何も ないわよ。
それよりダイル、こちらの方々に私たちのことを…カリオナ人のことを説明したの?」

「はい、姫様。」

「そう、ならば話は早いわ。
私はカリオナ人と地球連邦軍の間に立って話をすることになるわね。」

「ひ…姫様。まさかご自分のことを話されたのですか?」

「えぇ、そうよ。」

「私はまだ、姫様のことを申しておりません…」

「あら、まぁ。」

「じゃあ、それから先は僕が話すよ。」

「は!?」
進児、ビル、マリアンは何事かと思う。

「何かあったのかよ、リチャード!」
叫ぶビルをよそに説明を始める。


彼は3人にポッド内で解ったことを話した。



彼女が5年半前に行方不明になった婚約者・ファリア=パーシヴァルである事。
異星人カリオナに助けられ、一命を取り留めたことを。




その後、ファリアはカリオナ人の元老院と地球連邦との間に立って
交渉を進めた。

デスキュラとの戦争後、カリオナ人はデロス星で穏やかに暮らすこととなる。
それは彼女の交渉の努力の結果だった。


ファリア自身は地球の母国・英国に帰ることになる。



孤独と悲しみを乗り越え、見つけた恋の行く先…








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あとがき(2004/9/11) (2013/02/17 加筆改稿)

なんだか懐かしい「魔方陣グルグル」のギップルちゃんが来そうな位
クサい話だわ。
ゲロ甘〜。
書いてる中、こっちがやっぱり恥ずかしい…
笑うしかありません。

前半のあとがきで書いてた「密着型」とは
超狭い空間で密着した状態での再会ということで(笑)

プロテクトギアの手袋(?)って外せるんですな〜
(#16のラストシーン近くでウィルヘルム男爵と握手する彼・参照)


ちなみにこの話の姫はカリオナ人の血のおかげで寿命が長くなったのです。




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