Precious  -2-



またルヴェールが5人に依頼してきた。

いつものように館のある一室でミーティングが行われる。

「今回は… 南の密林奥にあるという…
ゴダの古神殿の神像を盗ってきてもらいたい。」

「ゴダ?」

「あんまり聞かねぇ名だな。」

進児とビルが知らないのも無理はない。
リチャードですら名前しか知らないのだ。

「ゴダは… ほとんど忘れ去られた古い神だよ。
南の土着民の神のはずだ。」

「へ〜、さっすがリチャード。
よく知ってる〜♪」

マリアンは感心の目で彼を見る。
少々、やきもちを焼いてしまいそうになる進児がいた。

「で、その神殿に行けばいいんですね?」

「あぁ。
少々厄介かもしれんが… とりあえず資料はここにある。
リチャード、下調べのほうをよろしく頼む。」

「はい。領主様。」

領主の手から、古い地図と書物を預かる。

古代文字の解析や、地図の分析は彼の分野。




   ***


5人は知っている。。。
ルヴェールが古美術品を時折、売って金にし、
子供達のために使っていることを。

だからこそ皆も協力的。。。


ジョーンは最初、メンバーではなかったが
ビルがちょくちょく家をあけるので不審に思い
問いただしたら 白状した。
事情を聞いた彼女は協力させて欲しいと願い出た。

それ以来、ジョーンもメンバーの一員に加わったのだ。






リチャードはルヴェールに渡された資料を家に持ち帰り調べ上げていく。

家にある古い資料がモノをいう。。

「ふむ…この神呪は…
少し読めないな。。
資料が…家にあるものでは…無理か…
こんな時間から都に向かうのも今日は無理だな。」


真夜中近いのに窓の外はいつもより明るい。
それというのも、今日から3日間、
ピールの領地では神殿の祭礼があり、
大通りでは大勢の人が神輿を囲んで盛り上がっていた。


彼はとりあえず気分転換でもと思い、家を出る―



周辺の領地からも祭りのためにたくさんの人が訪れていた。


その大勢の群衆の中、一人の乙女が目深にフードを被り、
時々、振り返りながら歩いていた。


「もう…追っ手は撒けたようね…」

溜息をついて、前を向いて歩き出そうとした途端、
人にぶつかってしまう。

「ご…ごめんなさい。」

「ごめんじゃねぇよ!! この落とし前…
ん?? 随分、かわい子ちゃんぽいんじゃないの?」

ぶつかってしまったのは背丈2メートル近い大男。
筋肉質な ガタイのいい男だった。

「ごめんなさい。急いでるの。」

謝り、去ろうとする乙女の手を引きとめる。

「待ってくれよ。
せっかくだ、俺達と遊ぼうぜ。」

周辺にいた男の仲間達も寄ってきて
乙女を取り囲む。

「いや… 放して下さい!!」

「いいじゃねえかよ!! 減るもんじゃ無し。」

男が強引に腕を引き抱き寄せようとすると
乙女のフードがはらりと落ちた。
男達の口からぴゅ〜と口笛。

ピールの街では見ない美貌の黒髪の乙女。

「お〜!!
こりゃ上玉じゃねえの。
連れて行こうぜ!!」

「!? イヤっ!!放して!!」 

男の言葉に戦慄を覚えた乙女は叫ぶが
周りの群集は見てないフリをして助けようともしない。
無理やり連れて行こうとする男達の前に
一人の青年が立つ。
静かな怒りに震えるリチャードだった。

「その手を離せ。
嫌がってるじゃないか!!」

「なんだ? おめー??」

4人の男達に囲まれた乙女はパニック状態。

「あ…」

「おめーみたいな優男には用はないっての。」

ゲラゲラと下品な笑い声が上る。

彼は冷たい視線で睨みつけ
乙女を捕らえていた男の腕を掴む。

「いい加減にしろ!! 
まったく…これだから祭の日は不埒ものが多くて困るな。」

「「「「何だと!」」」」


4人の男は彼に飛び掛るが、
一瞬で片が付いてしまう。

彼の小刀は男達の鼻と頬に赤い傷をつけていた。
刃先はボスらしき男の鼻先に突きつけられている。

「さ、お嬢さん。
こっちに。」

「は、はい!!」

男の手からやっと逃れ、彼の元へと駆け出す。
悔しげに男達は彼を睨みつけていた。

「貴様…!!」

「まったく…男として恥ずかしくないのか?
ひとりの女性に4人がかりとは…情けない。」


彼は小刀を懐に納め、乙女の手を引いてその場を去ろうとした。

ボスの男は殺しかねないような形相で彼の背に向かって
拳を振り上げる。

次の瞬間には… 彼の拳が男の鼻にヒットし、めり込んでいた。

うめき声も上げることなく、昏倒する男。

リチャードは冷ややかな瞳で一瞥するだけ。

「さ、あんなヤツはほおっておきましょう。」

「は…はい。」

男の連れから逃れるようにふたりは人波に紛れ、
追っ手が来ないことを確認した彼は手を引いて
人波から外れ、人気のない噴水のそばまで連れてきた。


「あ、あの…助けていただき、ありがとうございました。
私、急ぎますので…」

乙女はフードを再び被ろうとする。

そんな様子の乙女に声を掛けた。

「こんな夜中に…乙女がひとりで街を歩くのは感心しないな。
さっきみたいな目にまた遭うと思うが…」

青年の言葉に反論できない乙女は声も出ない。

「何処に行くつもりなのです?
よろしければお送りしますが?」

「…… 先ほどの御礼も出来ない私です。
そこまでしていただく理由がございませんわ。」

乙女はフードを下ろし、真剣なまなざしを向ける。

「…じゃ、さっきの礼として… 僕にキスしてくださいませんか?」

「え?」

「あなたが見知らぬ男にキスするのがイヤならイヤで…
無理強いはしません。」


彼の優しいエメラルドの瞳を見た乙女はどきりとした。

「いえ…そんなことは。
ホントに私なんかのキスでよろしいの?」

「えぇ。」


意を決した乙女は彼のくちびるにそっとくちびるを重ねる。
彼の手は優しく乙女の背を撫ぜた。


彼のやわらかなくちびるに触れ、乙女は震え出してしまう。

「どうしました? やっぱりイヤだった?」

「いいえ…違います。
私、ホントは行くアテなんてないんです。
このままだったら…さっきみたいな男の手に落ちてしまうのではないかと…
怖くなって。

でも…家には帰れないんです…」

ぽろぽろと涙を零し、乙女は顔を伏せた。

その乙女に彼は問いかける。

「…良かったら、ワケを話してくれないか?」

「え?」

「力になれるかもしれない…」

「でも私、あなたに迷惑かけてばかりだわ。」

彼は優しい瞳をして、素直に告げる。

「…正直に言うと、僕、君に一目惚れしたみたいなんだ。」

「…えっ!?」

目の前の背の高いハンサムな青年の口から出た言葉に目を見開いて乙女は驚く。


「私…なんかを?」

「あなたはとても美しい… 
それにこのピールの街の人じゃないみたいだし。」

「どうして解るの?」

彼は少々苦笑する。

「この街の女性なら、多かれ少なかれ僕のことを知ってるからね。」

「有名な方なの?」

「僕はリチャード。
この街では珍しく、都の大学で学を修めた学者でね。
古い書物や地図などを買ったり売ったり、研究したりしてる。」

リチャードの言葉に乙女は驚きつつも、微笑む。

「ま…優秀な方なのね。
若いのに…」

「あなたにそう言われると嬉しいな。
ところで君の名は?」

「私は…ファリアと申します。
一応、元・月神殿の巫女です。」

「!? どうして…月神殿の巫女がこの町に?」

リチャードは本気で驚く。
このピールでは太陽神殿があり、街の人もほぼ全員太陽神殿の氏子。
月神殿の人間がこの街にいること事態が稀なこと。
しかも今日から大祭が始まった。
ありえない状況にびっくりするしかなかない。



「ワケは…長くなりますが、聞いてくださいます?」

「あぁ。勿論。」





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(2006/3/30)

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