Mighty Mighty Love −1−





運命の悪戯は突然起こった。

その日、デスキュラ総統ヒューザーは人工衛星ヘルペリデスと運命を共にした。

腹心の部下・ぺリオスも巻き込んで。

そんな中 唯一残されたデスキュラ艦隊トラッシュの司令官・将軍キーラは覚悟を決めた。



おそらくビスマルクチームがこの艦を沈めに来るだろうと。
そして予想通り彼らはやってきた。

ひとりの怪我人がいる状態だが、最後のデスキュラ艦隊を殲滅しにきた。




「あの艦隊で奴らは最後か…」

ビルが痛みを堪えて呟く。

「あぁ、真の平和はもう少しだ。」

進児が意を決したように言う。

リチャードもマリアンも同じ気持ちだった。




艦内には殆ど兵士はいなかった。

それというのも、ぺリオスがヘルペリデスの為に兵士を持っていったから。

艦を動かすだけの最低限の人数しかいない。


将軍キーラはデスキュラ人には珍しくぺリオスに反感を抱いていた。

彼のやり方に虫唾が走るほど。

しかし総統の直属の部下になった彼に従わなければならなくなった。


そんなキーラは珍しい武人肌の策士。


彼はメインモニターに映るビスマルクマシンを見つめていた。

「私もここまでか…」

侵略を推し進めてきたデスキュラ人にとってビスマルクは天敵であり、倒すべき存在。


しかしキーラはもうデスキュラにそんな力はないと解っている。


うなだれるキーラに声を掛ける人物がいた。

「あなた…?」

声の主は妻。

彼女は地球人。

地球の英国という国の出身で貴族の娘だと聞いている。

5年ほど前に緊急脱出用のポッドで漂っていた彼女を助けた時、
一目ぼれして妻にした。

力で妻にしたのだ。

彼女はポッドの中で助からないと諦めていたのに、よりによってデスキュラに発見され、
殺されると思ったのにキーラによって妻にさせられた。



彼女には地球に幼馴染でずっと好きだった婚約者がいた。

それなのにキーラに身体を奪われた。

彼女はデスキュラをキーラを憎んだが、彼らにはこの宇宙に帰れる星がないと知った時、
彼らが可哀想になった。

そんな同情からキーラを完全に嫌いにはなれなくなってきていた。


地球にいる彼よりも愛しているわけではないにしろ、キーラの事を少なからずも愛し始めていた。


この艦隊の若い兵士達には、彼女に好意を持つ者も少なくなかったが司令官であるキーラ将軍の妻だと思うと
皆、食指を引っ込めた。

異星人である彼らを魅了するほど彼女は美しかった。


そんな獣達の中でキーラは妻を守っていた。
彼は彼なりに彼女を愛していた。




そしてここまで追い詰められた彼は自分の妻を解放する気になる。

「お前は地球に帰りなさい。」

「あ…あなた!」

彼の意外な言葉に驚かされる。

「お前には帰る星がある。帰れる星がある。」

寂しげに呟く。

「あなた… 私はもう … 帰れませんわ。」

切なげに告げる妻に問いかける。

「お前… 何故?」

「私はもうあなたの妻です。 この身が地球人であっても、既にデスキュラ人です。
あなたの妻になった時から…」

憎しみしか与えていなかった妻は今まで言えなかった想いを口にした。

そしてキーラも。

「 …すまない。
私は5年前、幼いお前を見た時から愛していた。だから奪った。
だがお前は私を嫌悪するどころかこうして愛してくれた。
私は誰よりもお前を愛している。
…お前は地球人だ。 私の為に一緒に死ぬ必要はない。」

「あなた…」

抱きつく妻の頬にキスする。

「解ってくれ。私はあの時、他の奴らに奪われるくらいならと無理やりお前を奪った。
それがデスキュラの愛だ。
…私は教えられた。奪うだけが愛じゃないという事を。」

涙ぐむ妻を抱き締める。

「だからお前には地球に帰って幸せになってもらいたい…」

「でも、私は…もう…」





ビスマルクチームの進児とリチャードは艦の中に爆弾を仕掛けるつもりで潜入。

人気が殆どない艦内にふたりは時限爆弾をセットする場所を探していた。

効果的に破壊するにはポイントがある。

そんな二人が行き着いた先はメインブリッジだった。


その扉の前に立ったとき、人気があることに気付く。
銃を構えてブリッジに飛び込む。


「誰だ!」

キーラが銃で応戦する。
妻は夫に守られていた。

「き…貴様達はビスマルクチーム!?」

「ビスマルク?」

妻は初めて聞く名に驚く。

「あぁ。地球連邦の特別チームだ。」

「良く知っていたな。」

銃を構えたままのリチャードが答える。

「この艦にはお前だけか?」

進児が詰問する。

「あぁ、ここには私と彼女の二人だけだ。」

「彼女?!」

奴の後ろにいた女性の存在に気付く。

「私はどうなっても構わん。しかし彼女は助けてやってくれ。」

進児とリチャードの動きが止まる。

妻は夫の思いがけない言葉に叫ぶ。

「あなた!?」


一瞬、その考えをかき消したが口は止まらなかった。
その声に聞き覚えのあるリチャードが問いかける。

「ま…まさか、その声は…ファリア?!」

突然のことに彼女は驚愕した。

「あなたは…?誰?」

誰何する彼女の前でヘルメットを脱いで顔を見せる。

凛々しい青年だけど、その顔には幼い頃の面影が残っていた。

「! あなた…リチャード?!」

「お前の知っている者か?」

「………」

答えられなかった。

今、愛し始めてる夫・キーラ。
かつて愛したリチャード。
いや、まだ愛しているといってもいいだろう。

何も言えずただ、立ちすくんでしまう。

そんな彼女の代わりにキーラが問う。

「お前は…ファリアと関係があるのか?」

「あぁ。僕は彼女の…」

「やめてっ!」

絶叫する彼女の声に、皆固まってしまった。

「それ以上言わないで…」

リチャードに懇願する彼女の顔を見てキーラは気付く。

「解った。彼女を頼む。」

「あなた!?」

「さあ私を撃ってくれ!」

銃を捨て、無防備になったキーラは両腕を広げた。

リチャードの手の銃口は彼に向いていた。

「やめてっ!」

彼女自身、こんな行動に出た事に驚いたが、自分の気持ちがはっきりわかった。

リチャードも愛しているがキーラも違う次元で愛していることに。

立ちふさがる彼女でリチャードは引き金を引けなかった。

今も愛している、探していた彼女を殺す事なんて出来なかった。

躊躇するリチャードを見てキーラは彼女を突き飛ばし、銃口の前に立つ。

しかしリチャードの手は動かない。

「くぅっ…」

進児までもが銃を撃つ事にためらいを見せる。

「仕方ない…」

キーラは自分の銃を拾い自らの頭に押し当てた。

「さらばだ。ファリア…愛していたよ。」

それだけ告げると、銃声がブリッジに響いた。

一瞬にして姿がかき消される。

「いやあああぁ!」

悲鳴を上げ昏倒する。

リチャードも進児もそのデスキュラ人から見えた愛の形に度肝を抜かれた。

倒れた乙女に近づいたリチャードはその美しい顔を見つめる。

「リチャード、もう5分ほどで爆発する。」

「あ、あぁ。解っている。…でも彼女を置いて行けない。」

「リチャード!」

彼はその腕に彼女を抱き上げ、脱出の為に用意していた小型艇に飛び乗った。

進児も追いかけて乗り込む。

艦の爆発がすぐに始まった。



デスキュラの最後の戦艦トラッシュは進児たちの手によって沈められた。

ビスマルクマシンではビルとマリアンがモニターで見守っていた。

完全な沈黙が訪れたあと、通信が入った。

「進児君、大丈夫?」

マリアンは不安だったのをかき消すように問いかける。

「あぁ。なんとかな。 それより、病院に連絡入れといてくれよ。」

「えっ…えぇ。ビルの怪我の事ね。」

「それもあるけど、人を助けたから。」

「何ぃ?」

ビルが飛び起きる。

「地球人だよ。」

「本当なの、進児君?」

マリアンは再び不安になった。

「あぁ、どうやらリチャードの知り合いらしい。」

その言葉を聞いて二人は安心した。








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あとがき(2004/8/20)
連日、ビスマルク世界の小説を書いていますな(笑)

なんだかライフワークのごとく…

これは一応、リチャードとファリアの再会シリーズ(?)第2弾というとで。

お話はまだ続きます…



(2015/03/24 加筆改稿)


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