metamorphose -5-
―朝
彼女が目覚めると 見慣れた金の髪の頭が胸の上にあった。
(あ… あのまま、眠っちゃったのね…
大人のリチャードも素敵だけど、少年の彼もやっぱり可愛くて素敵だわ…)
優しく微笑む乙女の手は金の髪を撫でる。
(やっぱり好き… どんな姿でも。
きっと若くても年取っても…彼のこと愛してるんだわ、私…)
胸の上の彼が目覚めるのを感じた。
「ん…?」
「あ、リチャード…おはよう。」
「おはよう…ファリア。」
ちゅっと目の前の白い肌にキスする。
くすくすと笑い声が上る。
「もう…リチャードったら…」
「いいじゃないか。
せっかく、ふたりきりなんだ。
僕がこんなんだけど。」
「いいわよ、少年のあなたで。」
「本気か? 元に戻れなかったら…結婚なんて10年先だぞ!?」
彼は19歳の自分に戻れるのかどうか解らず
不安でいっぱいだった。
目の前の恋人は意外な返事。
「いいわよ。それでも。
ID上は19歳なんだから、結婚できるわよ。」
「…ファリア。」
彼女の言葉に胸を打ち抜かれていた…
思わず目頭が熱くなる。
「色々考えるのよしましょ。
今は…私だけを見て。」
「あぁ…」
ぎゅっと彼女の手を握る彼の手。
「え?」
「どうした?」
「あなた…成長してるんじゃない?」
「へ?」
今までベッドの上で密着していて、彼の姿を見ていなかった。
彼は慌てて、身を離す。
彼女の目に飛び込んできたのは12,3歳くらいの彼の姿。
「!? やっぱり…」
「え!?」
彼はベッドから降りて、ドレッサーの鏡を覗き込む。
「あッ!?」
昨日までと明らかに違う。
背丈も130センチ台から150センチ以上に伸びていた。
少々筋肉のついた痩せ型のローティーンの姿―
「ねぇ…少しずつ元に戻るのではないかしら…?」
「…そうかもしれんが、手放しで喜べる状況ではなさそうだ。」
「そうかしらね…」
乙女は上掛けを身に纏い、彼の横に立つ。
158センチの彼女と並ぶと同じくらい―
「あなたが中等部1年終りごろって感じかしらね?」
「そうだな。それ位の感じだな。」
「そういえば…まだ声変わりする前だわ。」
「あ、そうだな…」
ふたりは今の姿を見て懐かしい想いに駆られていた。
「ねぇ… 服来て、朝食に行きましょ。
って…今ある服が…もう無理ね。
買いに行ってくるわ。
確かホテル内に紳士服のショップが入っているし。」
「サイズ解るか?」
正確に測ったわけでもないので困惑する彼女。
「え、あ…どうしよう。。
あ! そうだわ。ちょっと待って。」
彼女は自分の服の中から白のシャツと黒のパンツを持ってくる。
「コレ…着れないかしら?
女物だけど、今のあなたなら…」
「そうだな。 なんとかなりそうだ。
ありがとう、借りるよ。」
渡された服を身に着けるとなんとか見れる格好。
ちょっとだけ袖丈が足りないくらい…
「良かった。
今の私とそう背も変わらないものね…」
「はは…そうだな。」
ふたりは連れ立って、朝食のビュッフェへ。
食後に紳士服のショップへ行くつもり。
美貌の乙女と美少年のふたりが入っただけで
店内の人々の視線が集まる。
他の客の囁きが耳に届く。
「ねぇ…あの人、ピアニストの…
連れてる男の子、美少年ね〜。」
ふたりは少々居心地が悪かった。
確かに昔からふたりでいると人の視線を集めてしまう時があったから…
部屋に戻ると彼はボソリと。
「なぁ…しばらく部屋にいないか?」
「え?」
「朝食のビュッフェでアレだよ。
街に出たら…」
彼の言葉に街に出たときの様子を予想してみる。
「確かにそうね。
目立ってしょうがないわね。
私も音楽雑誌の取材とか受けてたりするから…
知ってる人は知ってるし。」
「だろう?」
彼女は自分だけのせいで目立っているのではないと解っていた。
彼は幼い頃に、モデル事務所にスカウトされていた事がある。
綺麗な金髪に聡明さを語った翡翠の瞳。
細身で筋肉質な身体…
彼の美少年ぶりを一番知っているのは彼女だった。
(そうだったわ… 初等部の頃はそうでもなかったけど…
中等部に上ってから、周りの女の子達が騒ぎ出したのよね。
彼のこと、凛々しくてかっこいいなんてみんな言ってた。
もっと幼い頃から私はそんな彼を好きだったんだけど… (汗))
何か解らないけれど、彼女が物思いに耽っているのを見ていた彼…
「ファリア…?」
「え?」
背丈は変わらないのに抱き上げられてしまい、驚いた瞳を向ける。
ベッドに下ろされ、少々困惑する。
「いいだろ?」
「え…っ!?」
ちゅッと首筋にキスしてくる。
「僕…夕べよりちゃんと君を愛してあげられるよ。
だから…」
「リチャード…!?」
彼は乙女の手を取り、己の男性へと導く。
既に熱を帯び、昂ぶっているのが解る。
「あ…!」
頬を染める彼女を見て彼は嬉しくなる。
「君に悦んでほしいんだ… 僕。」
「ちょっと…心の準備が…」
確かに昨夜は自分から抱いて欲しいと頼んだ。
けれどまさか昼前に こんな展開になるなどとは思いもしなかった。
手で胸板を押し返してしまう。
「やだ。
僕、ファリアが欲しい。我慢できないよ。」
「あ…あぁん…」
彼女の敏感なところをよく解っている彼の指先が蠢く。
「リチャードのえっち…」
「だって、好きな君がいたら…抱きしめたくなるよ。」
「ん…もう…」
色っぽいエメラルドの瞳に見上げられ、
乙女はきゅうんと胸が締め付けられていた。
抵抗する気は全くなくなる。
目の前の彼の手は少々強引に服を奪っていく。
彼女はただ彼にされるがまま。
お互いの熱い肌を感じて 融け合っていく―
***
彼女が次に目覚めた時にはもう夕方、17時を廻っていた。
「ん…もう…
リチャードったら… 少々強引ね、昔っから…」
すっかり寝入っている彼を見て、彼女は気づく。
「えっ!? あ…!!」
彼女の悲鳴のような声を聞いて、目を開けた。
「ファリア…どうした?」
「あなた… 19歳に戻ってる!!」
「…えっ!? あ…」
ノド元に触れると喉ホトケ。
それに声も声変わりしている。
胸元に触れると筋肉質の胸板。
手を見ると…見慣れた大きさ。。
「僕、元に戻れた!!」
「良かった…!!良かったわ!!」
「あ…ファリア…」
彼女はその広い胸に飛び込む。
胸も腕も逞しい彼に―
すっぽりと胸に納まる彼女を抱きしめる。
(やっと…やっと… 戻れたんだ!! 君を愛し、守れる男に…)
「ファリア…ありがとう。」
「え?」
胸に顔を埋めていたが、彼を見上げると満面の笑み。
「君のそばにいたから…戻れたんだと思うんだ。」
「え…!? そう、なの…??」
「あぁ。メンバーと一緒に丸2日いたけど
元に戻る兆候は全く無かった。
けど、君と2日半一緒にいて、元に戻れた。
君のそばにいて少年のままだと…もどかしくて
早く大人の男になりたいって思ってた。
まるでローティーンの頃の僕と同じように。」
「あ…」
ギュッと抱きしめられて 嬉しさでいっぱいになる乙女。
その力強さに…
「僕の考えを聞いてくれるかい?」
「えぇ。勿論よ。」
***
彼の出した結論はこうだった。
おそらくビスマルクマシンの外装の装甲が脆くなっていたせいで
3段ベッドの最上段で寝ていた自分は
外の宇宙空間に存在していた宇宙放射線か何かの影響で時間を遡ってしまった。
たまたま目覚めた時、7歳児の身体。
そのまま火星に来てしまい、人間ドッグに入っても、結果は異常なし。
メンバーと一緒にいても不便を感じるだけ。
でも恋人である彼女と逢って、男としての力不足を感じた。
「早く大人の男に戻りたい!!」
そう願う心と愛する女性の肌に触れ男性ホルモンが活性化した。
その結果、体内にあった物質か何かの効果が薄れていったのだと。
リチャードは元に戻れた経緯や原因をレポート形式にして残す事にした。
そのレポートの最後の結び―
今回、大変貴重な体験をした。
僕が元に戻れたのは恋人の愛情と優しさのおかげだと信じてる。
この場を借りていつものように君に告げよう。
" I love you, my sweet."
Richard=Lancelot
Fin
−後日談
このレポートが進児ビルマリアンの目に届く。
もちろん、彼が合流してからアトの事。
彼に直接、感想を言ったのはビルだけ。
「おめ〜な!! コレじゃ半分、ノロケだろが!!」
「はは…そうとも受け取れるな。」
「おーおー… ま、あんな美人じゃ仕方ねぇよな。」
「もう彼女を口説くなよ!!」
リチャードはあのときのことを思い出して告げる。
「誰がお前の女に手、出すかよ!! 殺されたくないからな…」
「解ってるじゃないか、ビル。」
ビスマルクマシンのリビングに響く4人の笑い声があった…
END
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(2006/3/3)
*あとがき*
一気に書いて、一気にUPです☆
下書き1日、UPに2日…
またかよ…
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