Love's contagious -1- |
―リチャード・16歳 高等部2年の秋… 高等部では毎年、交流会という名目で行われる男子部女子部合同の一大イベント <ダンスパーティ> 普段、あまり交流がない男子と女子のために行われる合同イベント。 勿論、上流の貴族や金持ちの子息の生徒達ばかりの学校なので踊るのはワルツ。 前半は入れ替わり立ち代りの集団ワルツ。 校内デビュタントという別名を持っていた。 男子は黒のタキシード、女子は白のイブニングドレス。 特に女子はドレスやアクセサリーに力を入れる。 勿論、メイクにも。 特定のパートナーがいるものにはそうでもないが いないものにとっては出会いの場… ここで毎年、カップルが生まれるのが常― リチャードが親友・エリックとスコットと3人で会場の講堂に入るとすでにほぼ満員。 ワルツ曲が始まると一斉にステップを踏む。 男子も女子も笑顔で踊るものもいればそうでないものもいる。 リチャードが一人目に踊ったのは少し背の高いコパーブラウンの髪の女子。 どうやら彼には無関心らしく、そっけないまま次のパートナーと代わる。 二人目は…少し気の強そうな赤毛の女子。 明らかに自分に対する下心が見えて、彼は笑顔が固まってしまっていた。 彼にとって少々苦手なタイプ。 そして三人目― 少々小柄だが黒髪を巻いてアップにしているため、白い雪のような肌に映えるのが彼の目を引く。 パートナーの少女が顔を上げると視線が合う。 (なんて奇麗な…サファイアの瞳…なんだ…) 前ふたりとは全く違う。 清楚でまだ中等部の生徒と言っても通用しそうなほど、幼さを感じるが そんな中に漂う気品。 しかも自分の腕の中で踊る少女は羽のように軽く、柔らかな身体― (まるで…妖精のようだ…) 少女の瞳はじっと彼のエメラルドの瞳を見つめていた。 「あの…?」 「あ、いや… よかったら、後で踊りませんか?」 少し驚いた顔を見せたが、小さくうなずいてくれた。 彼は笑顔を返す。 四人目のパートナーに代わるのが惜しい位に三人目の少女の手を離したくなかった。 五人目にいたっては眼中にない… 前半の集団ワルツを終えるとリチャードは先ほどの少女を探す。 既に何人かの男子達が取り巻いて申し込んでいる。 「あ…」 中心にいた少女はリチャードに気づく。 視線が合うと微笑を見せてくれた。 彼は周りに構わず近づき、笑顔で申し込む。 「僕と…踊っていただけませんか?」 「はい…。」 彼の手を取ってその場を離れていく。 悔しげな顔の男子達がリチャードを睨みつけているが 彼が公爵家の跡取りとわかっているため誰も何も言えずにいた。 ふたりが手を取り合って、フロアに出た途端、曲が始まる。 周りにも既に十数組が笑顔で踊っていた。 リチャードはじっくりと少女を見つめる。 揺れる黒髪が白いデコルテとドレスに映え、他の少女たちと一線を画している。 よく見るとドレスもシンプルではあるが全て上質のシルク。 アクセサリーは控えめでピアスとチョーカーだけだかえって美しさを引き出していた。 (きっと…上流貴族の令嬢に違いない… 何処のお嬢様なんだろう…?) 少し恥ずかしげな表情で自分の腕の中にいる少女に心奪われていた― 曲が一旦終わると何組かがフロアから出て行く。 その中の一組に彼はいた。 「少し…いいですか?」 「はい。」 リチャードは少女の手を引いて会場の講堂の外へ、 中庭へと連れ出す。 「あまり人の多いところは好きではないのでね…」 「あら…私もそうです。」 初めてはっきりと少女の声を聞いて彼はどきりとした。 可憐なその姿に似合った可愛い声。 「そうなんだ…」 何か話題をと思うがこんな時に限って何も思いつかない。 でも不思議とお互い言葉を発していなくても、居心地がいい。 リチャードが不意に彼女の顔を見つめると潤んだ瞳が煌めいて見えた。 (あ… 僕… この娘と… キスしたい… 触れてみたい… ) 思わず抱きしめくちびるを重ねる。 少女は抵抗もしないまま、身を委ね、キスに酔っていた。 (あぁ… なんて… なんて…) リチャードも甘美な感覚に酔っていく。 (こんな… キスだけで… 一体… この少女が… 欲しい… ) ふたりがくちびるを離すとお互い惚けた瞳。 「あ…私…」 恥ずかしげにうつむき、照れる様に鼓動が高鳴るリチャード。 「僕… あなたのことがもっと知りたい…」 「私…も…」 少女は彼の胸に抱きついてくる。 リチャード自身、女性とキスしてこんな思いに駆られたことがなかったので 戸惑いを覚えながらも…気づく。 (僕は…この娘に…) 彼の腕の中の少女もまた… 同じ思いを抱いていた。 (私… この方の事… 好き… もっと抱きしめて欲しい…) 少女が顔を上げた途端、くちびるをさらう。 「あ…」 頬をピンクに染めた少女に告げる。 「僕… 君に一目ぼれしたみたいだ。 イヤなら…迷惑なら、断って。 今ならまだ…」 「いいえ… 私も…あなたのこと…」 「あ…ホントに?」 「えぇ…。」 リチャードが顔を覗き込むと頬を染めたままでじっと見つめ返してくる。 彼の手は腰を抱いていたが、愛おしそうに背を撫ぜると甘い吐息が上がってきた。 「あ…ぁ…」 その顔を見ているだけで、身体が熱くなっていく― 「あぁ…君の全てが知りたいよ。 …全てが欲しい… 逢ってすぐ…こんな事を言う男だなんて… 軽蔑しないで… お願いだ。」 リチャードの背に腕を回し抱きついてくる華奢な少女。 「私…私も…あなたのコト知りたい…」 再びくちびるが重なると貪るように絡み合い求め合う。 甘く切ない… ただ相手を求め吐息まで融け合っていた。 リチャードはくちびるを離すと胸に抱きとめ、囁く。 「好きだ… こんな想いは… 初めてだ…」 「あ…ぁ…ッ…」 彼の腕の中で喜びに震える。 「私のほうこそ… 軽い女だと… 思わないで下さい…」 「…解ってる。 君はそんなタイプの乙女じゃないって…」 「あぁ…」 歓喜の涙を流す少女。 リチャードは少し身を離し、少女の涙をそっと指先で拭う。 「…君の名は…?」 「…ファリア…」 「可愛い名だね。 よく似合ってる。 僕はリチャード… リチャード=ランスロット。」 少女の顔色が一気に変わった。 「…え? あなたまさか… ランスロット公爵家の御曹司??」 「え? そうだけど…??」 目の前の少女の態度が一変したことに驚く。 「私は…私の名はファリア=パーシヴァル… そんな!! そんなことって!!」 「!?」 リチャードも驚きの顔を見せる。 「君が!! 君がパーシヴァル公爵家の令嬢だって?!」 お互い、祖父に言われていた。 「パーシヴァル家の娘と関るな!!」 「ランスロット家の息子に関るな!!」 お互いの名を知ってはいたが、顔までは知らなかった。 「あ…そんな…私…」 ぼろぼろと泣き出す少女。 「でも… 僕…君がパーシヴァル家の人でも構わない!! 君が…好きだ。」 「あ…」 リチャードに強く言われ戸惑う。 「君は… 僕のことが解ったら嫌いになれる? 諦められるかい? 忘れられる?」 優しい口調で彼は問いかける。 「いいえ… 私… 私…」 溢れる涙が止まらない。 「こんな短時間でって思うかもしれないけど… 僕は君が… 君の事が…」 彼の手が強く抱きしめる。 「…私…」 視線が合った瞬間、溢れる思いが込み上げてくる。 次に触れたくちびるは熱い想いを伴っていた。 火傷しそうなほど熱く感じる― 「…ファリア…」 「リチャード…」 二人は学校の中庭で抱き合っていた。。。 to -2- _______________________________________________________________________ (2005/10/12) to Bismark Novel to Home |