kitten -5-
皇太子リチャードはリリーを溺愛していた。
以前、可愛がっていた愛犬よりも。。。
場内の自室でくつろぐ時も、執務室で仕事中であっても。
そして、近衛兵たちと剣や武術の稽古の時は、カゴに入れ、控えのものに預けていた。
リリーはカゴからじっと、彼を見つめたり、周囲を観察していた。
周りの者たちは、彼が子猫のリリーを溺愛していると見て、微笑ましく見守っていた。
それというもの、子猫のリリーが来てから、彼の人あたりが丸くなったように感じたらからであった。
以前の彼は、憤慨して当り散らす事をよくしていたが、
今はそうでない。
状況をよく見て、言葉を選んで、物事を言うようになった。
それはリリーが彼のそばにいるようになってからの変化。
皇太子付きの執事はいち早く、彼の異変に気づくほど。
国王と王妃も彼の性格が一段階大人になったと、喜んでいた。
だから、皆、子猫のリリーに感謝している。
*****
もうすぐ、19歳の誕生日を迎えるということで
父王が結婚相手を決めてしまうことになった。
お相手は国務大臣の娘・アルバトロス伯爵のビビアナ令嬢。
家柄血縁共に問題ないということで、あっさりとしたお見合いだけで結婚が決まる。
それから1ヶ月ほどして、宮殿にビビアナ嬢が訪ねてくることが頻繁になる。
常に皇太子の膝か肩の上に子猫がいるのが気に入らない令嬢。
無意識に子猫に嫉妬心を抱いていたビビアナ嬢。
リリーは敏感にその思いを察している。
皇太子とビビアナ嬢が自分の目の前で、仲睦まじい光景を見ていて、心苦しさを覚え始めた。
婚約発表パーティーでの二人を見て、リリーはいたたまれなくなってしまい、
気がつけば…宮殿を飛び出していた。
トボトボと城下町を歩く。
無意識に向かっていたのは、ルヴェール公爵邸であった。
*****
パーティの翌朝、リリーの姿がないことに慌てていたリチャード。
近衛兵はもちろん、使用人を総動員して、探させていた。
ビビアナ嬢が嬉々とした笑顔で宮殿を訪ねると、何故か せわしない雰囲気。
リチャードを見つけると声をかける。
「殿下。何かあったんですの?」
婚約者のビビアナ嬢の問いかけに立ち止まった。
「あ。 …ビビアナ殿。実は私のリリーの姿が見当たらないのです。
どこかに閉じ込められたか、何か事故にでもあってないかと、探しているのです。」
逸る思いの皇太子を見て、つい本音を言ってしまう。
゛私のリリー゛という言葉だけでも気に入らない。
「野良猫だったんですよね? 別にいいじゃありませんか。
猫が欲しければ、血統書付きの素晴らしい子猫を買えばよろしいのでは?」
その言葉にカチンときた。
「リリーは私にとってはとても大事な存在です。何者にも代えられない。
あなたにそんなこと、言われたくないです。」
すっと、足早にその場を去って行く。
しかし、丸一日探しても、どこにも姿がなかった。。。。
落胆する皇太子を見るのが初めての近衛兵と使用人たち。
父王も王妃も同様。
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(2012/02/17・2014/07/11加筆改稿)
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