kitten -4-




次の日、ラーン王国の都から2日の距離にある地方の視察をすることになっていた。

領主と近衛兵副隊長ビルと共に、地域を視察していく。

西部地方と違い、干ばつの影響もなく、豊作が見込めるということであった。


その夜は領主の館でもてなしを受けることになっている。

子猫のリリーのことは既に民たちの間で噂になるほどであったため、
ちゃんと搾りたてのミルクが用意されていた。



夜、いつものように床に入るリチャード。

子猫のリリーも同様に。


しかし… 今夜もまた黒い霧が子猫を取り巻いていく。

そして、乙女の姿に戻っていた。

「今夜まで、戻ってしまうなんて…なぜなの?」

窓の外に浮かぶ月に向かってつぶやく。

今宵も耳と尻尾が残っている。

はぁ…とため息をつく。



******



無事に視察を終え、帰城した皇太子と近衛隊副隊長ビル。

また平穏な日々を送る。



リリーは深夜、宮殿内をよく散歩するようになった。

夜回りする近衛兵も最初は驚いたが、
猫が夜行性であることが分かっていたため
ちょこちょこと廊下を歩く姿を誰も気に止めることはなかった。



書斎は月明かりが入ることが多かったので、リリーは時々、人間の姿に戻れると本を読んでいた。
自分の生まれた時代とかなり違っていることを知りたかったからだった。

明け方に猫の姿に戻ると、皇太子の寝室へと帰っていく。。。。







******



皇太子として政務を執り行っているリチャード。

時折、自分だけでは解決できない問題にぶつかるとかつて自分の家庭教師を務めてくれていた
賢者・ルヴェール公爵に尋ねていた。

今回、内政の件で、悩んでいた彼は公爵の元を尋ねることにした。
もちろん、リリーも連れて。


相談事の内容が内容であったため、公爵と真夜中近くまで討論していた。

その夜は公爵邸に泊まることとなった。








深夜、窓から月の明りがさし始めると、彼の足元で眠っていた、リリーが黒い霧に包まれていく。

そして、また乙女の姿へと。。。。


「ここで戻っちゃったのね。。。」

リリーは宮殿と違う、ルヴェール公爵邸にいるということは猫の姿であっても理解していたが
いつものように深夜の散歩に出てしまう。


書斎の場所は理解していたので、本を読むためにドアを開けて入って行く。


賢者である、ルヴェール公の書斎は少々、
皇太子の書斎と本のラインナップが違っていたため
興味を持っていたからでもあった。



窓の月明かりの下で本を読み始める。





***

ルヴェール公爵はまだ、ベッドに入っても、色々と考えていた。

皇太子が持ち込んだ相談事でベストな解決法を考えていたからだ。


ベッドから立ち上がり、とある本が参考になるかと思い書斎へと向かう。

ドアを開けると人影があったので驚いた。

突然の来訪者にリリーは硬直してしまう。

お互い一瞬、息を飲むがルヴェール公が口を開く。

「き、君は誰だ!? 一体、どこから入った!?」

思わず叫ぶように問いかけていた。
問いかけつつ乙女の容貌を見て取る。

長い真っ直ぐな黒髪に白い肌、それに碧い瞳。
身にまとっているドレスは時代錯誤なほど古いデザインのもの。

その細い首元に光るチョーカーに目が止まった。

それはまぎれもなく、子猫のリリーのリボンと百合のチャーム。

わけがわからなかった公爵。

読んでいた本を落とし、涙ながらに彼女は話し出す。
手を組み、嘆願する乙女の姿。

「わ、私は…殿下が可愛がってくださっている子猫のリリー。
魔女に魔法をかけられて、猫の姿にされていました。」

「な!?なんだと?!!!」

彼女の言葉に耳を疑う。

「私の話を聞いてください。
この国から見れば遠い西の最果ての国、フェイスタ王国。
私はその国の王の娘でした。私の母は私を産んで直ぐに亡くなりましたの。
5歳になる頃、新しい王妃が来て、直ぐに弟が生まれ、数年後、2人目の弟も生まれました。

私はいつも継母に睨まれていると感じていました。

そして、私が16歳になってしばらく経った頃、偶然、継母が魔女だと知ってしまったのです。

継母がそれに気づくと、私が眠っているあいだに、魔法をかけたのです。
そして子猫の姿に。」


リリーが話を始めから、驚いてばかりのルヴェール公。

目の前で、黒い霧が彼女を取り巻いていることに気づく。

「あぁ…もうすぐ、子猫に戻ってしまう。。お願いです。 捨てないでください。。お願い…   」


すうっと黒い霧に巻かれた彼女の姿が次の瞬間には子猫の姿になっていた。


にゃーお…と切ない鳴き声で彼に擦り寄る。

「そなた、ホントは人間の乙女なのか?姫君なのか?」

ふみゃ〜としか返ってこない子猫を抱き上げる。
撫でても子猫の弱々しい鳴き声。



あまりの超自然現象に驚いたが、妙に納得する部分も確かにあった。


50年ほど前に滅んだはずの国の名・フェイスタ王国。

もっと詳しく話を聞きたかったと思う。

窓の外の月は登ってくる太陽にかき消されていた――








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(2012/02/17・2014/07/11加筆改稿)



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