kitten -2-





皇太子・リチャードと親衛隊隊長・進児が都の手前の街で1泊することになっていた。

プラウディーアというこの街の大きな高級宿屋に予約を入れてある。

往路の際にも世話になった、なじみの宿屋。
二人が到着すると、恭しく宿屋の主・ダニーが出迎えた。

「いらっしゃいませ。お疲れさまです、殿下。」

「いや、大したことはないよ、ダニー。」

各地に視察の際、皇太子はいつも世話になっている主に親しげに答える。

「あぁ、すまないが、医者を呼んでくれないかな?」

「医者ですか?どこかお怪我でも?」

「いや、我々ではないよ。この子だ。」

リチャードは懐に入れている子猫を見せる。
小さく丸まって、小刻みに震えていた。

「おや!?子猫ですか?」

「あぁ。ここに来る途中の街道で馬で跳ねかけた。震えているのでな。」

その子猫の様子を見て、ダニーは手を差し出す。

「ちょっと、よろしいですかな?」

「ん?」

「我が家では猫を7匹、飼っております。大抵のことはわかりますよ。」

「そうか。」

そう言って、リチャードはダニーに子猫を渡す。

手のひらほどの大きさの猫をじっくりと見る。


「ふむ。。。どうやらこの子猫は母猫とはぐれてしまったようですな。
やせ細って、毛並みも悪い。
温かいミルクを与えて、寝床で2、3日休ませて様子を見ればよろしいかと。
都に戻られて、様子がおかしければ獣医に観てもらうといいでしょう。」

「そうか、わかった。では、私の部屋に運ぶ食事と一緒にミルクも頼む。」

「承知いたしました。ごゆっくりお休みくださいませ。」


リチャードと進児は2階に用意された部屋へと向かう。



実は3ヶ月ほど前にリチャードは愛犬を亡くしている。

目の前に現れた小さな猫にとても愛おしさを感じたから、手にとったのだろうと進児は思っていた。



*****

翌朝

前日と違って震えがなくなった子猫を懐に入れ、皇太子と近衛隊隊長は都へとひた走る。

昼過ぎに都の入口に到着した。

都では民に顔が解ると大騒動になるので、二人はマントのフードを目深に被り、都の大通りを突っ切って、城に向かう。



城の門に到着すると、フードを降ろす。

門番が声を上げる。

「皇太子殿下のご帰城!!」

エントランスから、使用人たちが飛び出すように出てくる。

「お帰りなさいませ、殿下!!」

「うむ。」

下馬すると、マントを翻して、足早に父王のいる、大書斎へと向かう。



「ただいま、戻りました、父上。」

「あぁ。戻ったか、リチャード。大事はないようだな。」

「はい。」

そして、今回視察してきた西部地方の報告を大まかに伝える。



「……。そうか、今年はまずまずの豊作か。」

「はい。干ばつの被害も少なく、なんとか民たちも冬を越せそうです。」

「うむ。ご苦労だったな。」

「いいえ。これも皇太子の勤め、当たり前です。2日後には詳細な報告書を提出します。」


息子の懐の中に何かいることに気づく。

「リチャード、その懐に何を入れておる?」

「あ。あぁ、実は昨日の街道で子猫を拾いまして。」

「拾った?」

「森から2つの影が街道に飛び出してきまして、1つ目がこの子猫、2つ目が野犬でした。
どうも野犬に追われていたようで、野犬の方は馬に蹴られて死にましたが、この子猫は助かったので。
それに母猫とはぐれたようなので、私が…」

「そうか。…少し見せてくれんか?」

「はい。父上。」

懐から出てきた子猫を見て父王は頬が少し緩む。

「ほお。小さくて可愛いの。」

「えぇ、柔らかい毛に綺麗なサファイア色の目をしております。」

「うむ。なかなかの美猫だの。」

父子が笑顔で会話をしているところにノックの音。

「あなた、リチャードが帰ってきたんでしょう?」

息子の姿を見た王妃・メアリは安堵の笑みを向けた。

「おかえりなさい、リチャード。」

「はい、母上。」

抱擁を交わす。


ふと子猫の姿に気づく。

「あら?子猫?」

「えぇ。」

「どうしたの?」

母にも問われ、先程 父王に話したことを再び話した。




「まぁ、そうなの?かわいそうに、怖かったでしょうね…。
で、リチャードが飼うの?」

「もちろんです母上。僕のところに来たのも何かの縁でしょう。」

「そうね、名前は?」

「あぁ、まだ決めてなかったな…。」

「背中側が黒くて、お腹側が真っ白、手足の先はっ白なのね。瞳は綺麗なサファイアブルー。」

リチャードはふと思いついた単語を言葉にした。

「リリー。百合というのはどうでしょう。」

「百合? まあ確かにお腹側は綺麗な白だけど。」

「どこか清楚な少女のような感じがしませんか?」

「…確かにメス猫ちゃんね。いいんじゃないかしら?
そうだわ、ちゃんと首輪をつけてあげないとね。」

「そうですね、母上。」


和やかな会話の中心の子猫は父王の手の中で眠っていた。



*****

翌日、皇太子の彼のもとに王妃が宝石商をよこした。

もちろん、子猫の首輪の注文のために。

そして、彼が選んだものは、百合をかたどった、金のチャーム。
それに名前を刻印するように注文した。



数日後、彼のもとに届けられると子猫の首には淡いピンクのリボンに百合のチャームがキラキラと揺らいでいた。。。。






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(2013/02/11)
いや〜…久々に書き出しましたよ♪
しかもファンタジー系ですv
さぁ、頑張って描きますよ!!


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