Kismet  -14-




―ラーンへ向かいだして4日後

皇太子・リチャードは腕の中にいる王女に言葉を掛ける。

「もうすぐ…わが国の都だ。
ほら…もうすぐ見える。」

「え?」


彼女が前方に視線を向けると
確かに遠く… 白い城が見えた。

そばで馬を走らせている、進児大佐に声を掛ける。

「進児大佐。
私は先に行く。」

「は、はい!!」

彼はそう告げた途端、馬を駆け出させる。

「きゃ!!」

「しっかりつかまっていろ!!」

「は…はい。」


あまりにスピードを上げるので目を閉じてしっかりと彼に抱きついた。
しばらくして、彼は馬を止める。

「さ、着いた。目を開けてみて。」

「え?」


辿り着いた先は少し小高い丘。。。。


「まぁ…」


整備された街並みと城が一望出来る…


「美しい街だわ…」

「そなたにそう言って貰えて嬉しいよ。
さ、行こう。
またしっかりつかまっているんだよ。」

「え?」

次の瞬間、丘を駆け下っていた。

「きゃあっ!!」

「はは…」

彼女が驚き、ぎゅっと抱きついてきたので嬉しくて笑う彼がいた。





都を走りぬけ、中央に聳え立つ王城へ…





民の何人かは皇太子の姿を認めて、笑顔で手を振っていた。
彼は笑顔を返す。

彼の腕の中にいる王女に気づいたものはいなかった。
マントに覆われ、姿が見えなかったせいでもある。




城門をくぐると門衛が告げる。

「リチャード殿下のご帰還!!」



彼はエントランスに着くと早速下馬し、
彼女を抱き寄せて歩き出す。


「さ、両親に会って貰うよ。
っと、その前に…」


王宮のエントランスに入ると侍女たちがかしずいていた。
ブラシと櫛を持ち、彼女の黒髪を梳いて、
蒸しタオルでほこりと汗を拭く。

「さ、行こう。」


彼の手に引かれ、大広間へと。



赤の絨毯を踏みしめて歩く。
その先には国王と王妃の玉座。

無事に任務を終えて帰ってきた息子を笑顔で迎える。


「ただいま戻りました。
…父上、母上。それにお爺様。」

「おぉ、ご苦労であった。
リチャード。さ、こちらに。」

「はい。」

彼に声を掛けたのは父である国王――


「先の書簡での報告は読んだ。
ご苦労であったな。
そして…理想の妃となる姫を見つけたと。
あちらが…ファリア姫か?」

彼のやや後ろに控えて立っていた彼女に視線を向ける。

「はい。父上。
ファリア… こちらに。」

「…はい。」

威厳を放つ国王だったが、その顔に笑顔を浮かべる。
緊張しながらも王女は挨拶の為に、前に出た。

「初めてお目にかかります…
アイリス国国王が娘、ファリアと申します。
よろしくお願い申し上げます…」

「…うむ。
遠路の旅、乙女の身で疲れただろう…
ゆっくり休んで下されよ。」

「お優しいお言葉、ありがとう存じます。」

「もう少し近う来られよ。」

「は、はい。」


彼女は少し王座に近づく。
彼の父親は目を細めて、母親は笑顔で見つめる。

「ほう…これはこれは…
確かに美姫だ。」

「ホントにわが国のあまりいない美しさを持った方のようね。。
リチャードが捜し求めていたのは…」

「ファリア姫。
私の息子は少々ワガママなトコロもあって大変だろうが…
よろしく頼む。」

「はい…」

王女ははにかみながら返答する。





「リチャード、良く見つけたな。」

「お爺様…」

彼の祖父は嬉しそうな目をして声を掛ける。

「ファリア姫の眼を見れば解る。
お前を理解しようと…
愛していると。
それにお前もな。
出掛ける前と目が違う。
やっと本物の恋を掴んだようだな。
コレでお前も一人前の男だな。」

「ありがとうございます。お爺様。」

満足げな祖父の顔を見て彼も嬉しい。

「うむ…早くひ孫の顔が見たいぞ。」

「「!?」」

にっと笑顔で告げると照れる若いふたりを見て
祖父も両親も微笑んでいた。


「それでは…リチャードの希望通り、1ヵ月後には婚礼だな。」

「えぇ、父上。」

「美しい花嫁姿が楽しみね♪」


3人の会話をはにかんで聞いていたふたり…




   ***

―夜

大食堂での夕食を済ませた彼は王女を客間に連れていく…


「ファリア…色々と疲れただろう?
それに今夜からはひとりでお休み。」

「リチャード様…」


彼女は少々淋しげに微笑む。
彼の心遣いは嬉しいが、淋しさを感じる。。


「1ヵ月後には正式に夫婦だ。
…あんなに両親も祖父も手放して喜んでくれるとは思いもしなかったけど。」

「そうなの?」

「…あぁ。
私はずっと縁談を断り続けてきたからね。
自分の花嫁は自分で探すって…
あの約定のための遠征の仕事を志願したのもそれがあったから。」

「え? そうだったの?」

「あぁ。いつか理想の姫君を見つけられると信じて。
…ついに見つけ出せたんだ。
ファリア…そなたを。」

そっと彼の手は黒髪の頭を撫でる。

「あ…」

「ラーンの皇太子としてではなく…
一人の男として…見てくれて愛してくれる乙女を探していた。
それがそなただった。」

「リチャード様…」


王女はギュッとその胸に抱きつき顔を埋める。

「いつも…私が皇太子だと知るとほとんどの女性が擦り寄ってきたり、
身を投げ出してきた。
ただ…そなただけが違った。
私が皇太子と知っていながらも…逃げようとした。
そんなことされたことがなかったから…ショックだったよ。」

「ごめんなさい…
私、子供で何も解らなかった…」

「いいんだ。
チルカに言われてやっとそなたがまだ親が恋しい少女なんだって解ったから…
ずっとそばにいればきっと心を開いてくれると信じてた。」


ちゅ…と彼はくちびるにくちづける。


「愛してる…誰よりも。」

「私も…リチャード様を愛してます…」


ふっと彼は微笑む。


「私は…そなたに初めてキスした時に、解ったんだ。
ファリアが私の恋人だって…」

「え…!? あの… アイリス王城での?」

「そう。」

彼は笑顔で微笑む。。。。


「… 私も…。
初めてのキスだったけど…」

「!?…そうだったのか? 
それじゃ私だけがそなたの"初めて"の男なんだね?」

「えぇ…」

頬を染めた王女は応える。




「それじゃ… ホントの恋を始めよう…」

「はい。リチャード様。」


ふたりのキスは永遠の始まり―


それもまた新しい運命の始まりのkiss―






fin

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(2006/1/28)

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