in reality -6- 結果的に出発の前日の夜までの7日間、ずっと彼は乙女を求めた。 今までの想いを吐露するかのように…… ―出発の日 英国軍の空港の一角からチャーター機でスペースエアポートのあるアフリカ大陸へと。 見送りにはリチャードの両親と祖父母、 婚約者であるファリアとその父・パーシヴァル王室庁長官。 そして英国女王、首相、軍の官僚数人が居並ぶ。 「それでは行って参ります、陛下。」 「うむ。サー・ランスロット。 活躍を祈ってますよ。」 「かしこまりました。それでは。」 彼用に新調された黒のプロテクト・ギアに身を固め、 タラップを上がって振り返り敬礼。 傍らには宇宙対応に、再調整されたロボットホース・ドナテルロ。 凛々しく頼もしいその姿に、居並ぶ人々は力強さを感じていた。 彼の視線の先は…愛しい恋人に注がれる。 涙をこらえ気丈に笑顔を見せてくれていた。 (君のためにも… 頑張ってくる。 必ず帰ってくる。) 彼の乗り込んだ船が飛び立っていく… 空の彼方へ消えると人々は去っていく中、ファリアだけはじっと見つめたまま。 その場にいるのが彼女とランスロット公爵夫妻と彼女の父だけになる。 「ふッ…くッ… うぅ…」 こらえていた涙が一気に溢れ出す。 耐え切れずコンクリートの上に崩れてしまう乙女。 「ファリア… よく、頑張った。 リチャード君も安心して旅立って行ったぞ。」 「…お父様…」 父の腕の中で激しく泣き出してしまう。 抱きとめた父はその頭を撫でる。 そんな様子の彼女に彼の両親も切なくなる。 「ファリア、色々とありがとう。 リチャードの為に尽くしてくれて…。 私達は…息子が元気な姿で帰ってくることを祈ろう…」 「えぇ…おじ様…」 彼が行ってしまった空を見上げるサファイアの瞳― ‐「愛してる… ファリア…」- 昨夜の囁きが耳の奥で響いていた――― ***** ガニメデ星へ向かう船に乗り込んだリチャードは 貨物室にいるドナテルロに話しかけていた。 「ドナテルロ… 2人で頑張ろうな。 ファリアのためにも…父上たちのためにも僕は生きて帰る。 必ずガニメデに平和を…」 青年のエメラルドの瞳には大きな決意が生まれていた。 「さ、向こうに着いたらまずはホテルに入って…連絡待ちだ。 パーシヴァル伯爵が王室庁長官として手配して下さった部屋で…」 窓の外は暗黒の宇宙空間。 何万光年の彼方の星たちが輝いていた。 木星のリングが窓の外に見えてくる。 「もうすぐだな…」 ガニメデ星のポートに着いた途端、下が騒がしかった。 見ると強盗らしき男達が警備隊に追われている。 リチャードが咄嗟にドナテルロに跨り、ライフルで狙おうとしていると 母と娘を人質に取る男。 正確に男の銃を打ち落とす。 警備隊が駆けつけ、無事に母娘は助けられ、男達は逮捕された。 (やれやれ…着いた早々、これか… 先が思いやられるな…) 彼は犯人逮捕に一役買ったのに、名乗ることもなく ドナテルロに騎乗したまま、ホテルへと向かう。 フロントで名乗り、部屋のキーを出してもらおうとすると「満室です」との返答。 「そんなはずはない。英国王室庁直々に予約の申し込みがしてあるはずだ。」 「あの最高のお部屋でしたら、チャンピオンがどうしてもとおっしゃるもので…」 「チャンピオン??」 彼が訝しがっているとホテルのエントランスが騒がしくなり、 ひとりの少年が入ってきた。 「あ、おいでになりました。」 「何者だ、彼は?」 「マルス24時間耐久レースのチャンピオンですよ。」 「チャンピオンだろうと何だろうと、予約したのは僕が先だ!!」 「ここでは王室よりチャンピオンの方が偉いんです。」 優勝のおかげで上機嫌の東洋人。 身に着けているプロテクトギアの国旗から日本人と解る。 「おい、キーをくれ。」 「はい。優勝おめでとうございます。では、どうぞ。」 「サンキュ〜♪」 受け取り行こうとする彼のキーを奪おうとするリチャード。 「コレは僕のものだ。」 「な? なんだよ〜!」 「僕のほうが先に予約したんだ!!」 「俺のだって言ってるんだぜ!!」 「でも僕のだッ!!」 何が何でも例の部屋で連絡を待たなければならないという 責務心も手伝って、意地を張る。 キーを取り合いもめていると、現れたポンチョマントの男― ビルの出現で状況は一変。 銃を突きつけられた彼を、助けるつもりだったと銃をちらつかせ交渉する。 「ただし…ベッドは僕が使う。」 あくまでも意地を張り、なんとか相部屋でおさまった。 その日、その部屋で連絡を待っていたが、結果的に連絡を受ける間もなく ビスマルクチームは知らず知らずの内に結集していた。 リチャードの仲間となったのは、熱血日本人レーサー・輝 進児。 可愛いパリジェンヌで科学者のマリアン。 スペースインパルス隊出身の米国人ガンマン・ビル。 個性豊かな3人に囲まれ、彼はビスマルクチームの一員として奮闘していく。 3人には両親が揃っていない。 その上、恋人もいない。 気を使って彼らには言えずにいた。 気取られぬように任務の合間を見て 何とか恋人にメールだけはしていた。 深夜のコクピットでコンソールシートに着き、 メールする彼の姿に誰も気づいていない。 3人部屋のパーソナルスペースに置かれている彼女の写真の存在に 進児もビルも知らない。 彼が3段スペースの最上段にこだわったのは…そのこともあったから。 夜中、静かになると思い出す。 愛しい恋人の甘く囁く声とぬくもりを。 ‐「愛してるわ…リチャード…」‐ その瞬間を取り戻すために異星でひたすら今日も戦い続ける――― fin ________________________________________ (2005/11/10) *あとがき* スランプだぁ〜と思ってたら、 こういう話が脳内に来ました☆ 要はファリアが行方不明でないVer.。 そして3人に出会うまで…と行ったトコロ。 to -5- to Bismark Novel to Novel menu to Home |