in reality -1-




幼馴染で仲の良かったふたり― リチャードとファリア



13歳の少年と12歳の少女は親の意向で婚約を交わす。

勉学とスポーツに忙しい少年は婚約に対して、少々無関心。
相手が幼馴染の少女なら、気心が知れているし、楽だといった程度に感じていた。




しかし…少女は違った。
初めて逢った4歳の頃(彼は5歳)の頃から、好意を持っていた。
淡い恋心をずっと抱いていた。

あの初めて逢った日以来、月に何度か会う度に、ときめきを感じてた。


学院一の成績を持ち、馬術と剣術に長けていて…金髪碧眼の凛々しい少年。
憧れる女生徒は多かった。

少女は幼馴染と言うこともあって校内行事などではいつもそばにいた。

好きなのに伝えられないもどかしい気持ち…



父親に「リチャードと正式婚約する」と言われた時は天にも昇る思い。

 "いつか…彼のお嫁さんになれる…"





少年はプライマリースクール卒業を機に自宅学習に切り替え、
10代前半での大学入試を目指す。

少女もまたピアニストを目指して、ウィーンへと留学することに。




毎月、少年に手紙を送る少女。
近況報告などを綴っていたが、3度に1度しか返事は来ない。
それほど忙しいのだと思っていた。



彼が自分に無関心だとは思いもしなかった…





無事に14歳でオックスフォードに入学した少年は多忙な日々を過ごす。

幼馴染の少女の手紙にも目を通すだけ。





しかし、16歳のある日をきっかけに少年は一変することに。



少女はピアノコンクールで金賞を受賞した時の映像ディスクと写真を同封した。


15歳に成長した少女―


黒髪を巻いてアップにして薔薇の生花を飾り、
同じように淡い薔薇色のベアトップドレスに身を包んでいた。

白い雪肌に映える黒髪とはにかんだ笑顔…
久しぶりに見たサファイアの瞳には知性を感じる。

可憐さと上品さ…

幼い頃、一緒に時を過ごした少女は美しい乙女に成長していた。

コンクールの映像を見て、ピアノの腕もかなり上達したことが解る。


舞台の映像の後、少年に向かってのメッセージ。

『リチャード… 元気にしてますか?
大学はとても忙しくて、大変なんでしょうね?

身体壊さないように、頑張ってくださいね。
私もウィーンで頑張ってます。

立派なピアニストになるために… 素敵なレディになるために…

それじゃ…』


幼い頃と少し印象が違って見えた。
初等部の頃は何かあるとすぐに自分を頼ってきた小柄で可愛い幼馴染。


けれど…15歳に成長した彼女は
上品な清楚さと花の妖精のような可憐さを身に着けていた。

 (彼女本人に会ってみたいな…)


大学で才色兼備な女の先輩はたくさんいる。
まだ16歳の自分に迫ってくる女学生もいた。
生々しい女の欲望を見せ付けられたこともあった。

思春期の好奇心もあって、二人の女の先輩にされるまま関係を持ってしまった。


 (こんなものなのか?)


顔や体つきが多少ちがっても、することは一緒だと思うと好奇心も薄れていった。



映像の乙女を見ていると
そんなこととは無縁の世界に感じるほどに可憐な乙女―



彼はその日から机の上に乙女の写真をフレームに入れて飾る。

 (婚約者に…幼馴染に、恋してるなんて少し変かもしれない…
  けど… 当分、会うのも無理だな。 ずっとウィーンにいるみたいだし。
  久しぶりに手紙を書くか… でも、なんて書く…??)


切ない溜息が少年の口から零れた…









*****




同じ年の春―5月


突然、ファリアの社交界デビューパーティを開くこととなり、
エスコート役として婚約者のリチャードが選ばれた。

もちろん、即了解する。


彼女は1週間だけ、英国に帰国するという。

ワルツのレッスンのこともあり、帰国当日の夕方に彼は引き合わされる。



約3年ぶりに空港で会った彼女は写真以上に美しい乙女―




「久しぶりだね、ファリア。」

「えぇ。ご無沙汰してたわね…リチャード。」

乙女のはにかんだ笑顔で心を鷲掴みにされていた。


 (ファリアが…こんな僕好みの女の子になっていたなんて…)


「久しぶりだから、一緒に食事でも…」


ふたりの両親と彼女の弟の7人といったメンバーで
ロンドンのレストランで食事する。


向かい合うふたりはお互い照れ臭くて話も出来ない。


「明日から…ワルツのレッスンだ。よろしく頼むよ、リチャード君。」

「あ、はい。」


乙女の父・パーシヴァル伯爵に言われる。

少年は目の前の乙女に見とれていた…






翌日からふたりはスコットランドのパーシヴァル家の居城・ローレン城で
ワルツのレッスンを始める。


男の教師がひとりでふたりに教える。


プライマリスクールの頃、2度ほど一緒に踊ったことはあるが、
身長差が昔とかなり違っていた。
リチャードはもう173センチ。ファリアは156センチと少々小柄。


少年が視線を下げるとちょうど胸の谷間が目に入る。

大き過ぎず、でも小さくもない、やわらかなふくらみ。
幼い頃に感じなかった"女"…




なんとか冷静を保ってレッスンを終える。

一日で随分、ふたりとも踊れるようになった。
それでも休憩を挟み、丸10時間近くのレッスン時間。




「疲れているでしょ? 泊まって行けば?」

乙女の言葉にドキリとした。

 (誘っているのか… まさか…??)


「いや…帰るよ。 母上もいるし。」

「そうね。いつも寮ですものね。
たまには帰ってあげないと…」

「あぁ…すまない。」

「ううん、いいのよ。
気をつけて帰ってね。
あなたのお母様によろしくお伝えしておいてね。」

「あぁ、伝えるよ。」


少年は大学入学記念に父に
贈られたロボットホース・ドナテルロに騎乗して帰っていく。






少年はその日の夢の中で… 乙女を抱いていた。






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(2005/11/8+2015/07/27)

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