guiltless -1-



その日、ある団体を乗せた宇宙船があった。

進行方向に浮遊物があることに気付く船長。

回収した緊急避難用のカプセル。
中にいたのは… 母親らしき30代半ばの女性と12歳くらいの少女。






**********

船は木星の衛星・ガニメデ星行き。
乗っていた団体はキリスト教の神父たち。
最近、人口が増えたその星に布教のために地球を飛び立った。


その中の一人… 医学の知識があったレイモンド神父は中にいた少女を診察。
少女は軽い怪我だけで無事だったが、母は打ち所が悪かったらしくすでに亡くなっていた。
娘を抱きかかえたまま―

嘆く少女を神父たちは見守ることしかできなかった。



ガニメデ星到着直前。
落ち着きを取り戻した少女に名を尋ねる。

「…ファリア。ファリア=パーシヴァル。12歳です。
あの乗っていた船の爆発なら…父と弟もすでに…」

言葉がつまり顔を伏せる。
流す涙も枯れていた。
いや 悲しみが大きすぎて流れる涙もなかった―

神父は少女を不憫に思い、引き取ることにする。


レイモンド神父はガニメデ星のドラドスという人口500名ほどの村の教会に派遣される。
勿論、少女も共に。

彼女は家族を一度に3人も失った可哀想な少女―――

心の傷は大きかったが レイモンド神父や村人の優しさに触れ 次第に心を開いてゆく。


**********


村には小学校しかなく中学校がなかったため、
神父が様々な知識を与えていた。

ある日、教会の聖堂にあるオルガンを弾かせたら…
少女は素晴らしい演奏を披露してくれた。
それから礼拝の日には必ずオルガンを弾く。
演奏を聴きたいがためにそれまで教会に疎遠だった村人も足を運ぶようになる。

その音色に神父も村人も心が洗われるようだった。


**********

あれから2年。

ファリアは14歳に。

ドラドス村だけでなく近隣の村人までもが彼女の演奏を聴くためにやってくる。
それだけではない。
村人は彼女の中に聖母マリアを見ていた。
気高さと気品、そしてその美貌。

村人の男たちの多くは彼女に魅了されていた。
求婚者も多くいた。





しかしある日、彼女は神父にあることを頼む。

「私…イエス様にお仕えしたいのです。」

「しているではないか。」

「…修道女になりたいのです。」

「何だと?!」

突然の言葉に驚きを隠せない。

「…私は天に召された家族の冥福を祈り、
村人の平和を願いたいのです。ですから…」

懇願する少女に神父は言う。

「私は…お前に普通の女の一生を歩んでもらいたいと思っている。」

「え?!」

「いつかお前を愛する青年と恋をし、結婚し家庭を持ち、子を育てる…
そんな普通の幸せをお前は望まないのか?」

「私は…望みません。あの人以外の男性の元に嫁ぐつもりはありません。」

「あの人…」

きっぱりと言い切った少女の言葉に気になる言葉。

「私には許婚がおりました。
幼い頃、親同士が勝手に決めた縁談でしたが私は…彼を…」

切なげに告げるその言葉は震えていた。
その心中を察すると今までの彼女の行動が理解できた。

「そうか…そうだったのか…」

「ですから…お願いします。
もうあの人は私のことなど忘れているでしょうし
…新しい婚約者がいても何ら不思議はありませんから。」

「解った。…しかし本当にいいのか?」

「…はい。」

少女のサファイアの瞳を覗き込むと決意は固い事がわかった。

「それでは明日から見習いということで…灰色の修道服を身に着けなさい。」

「ありがとうございます。レイモンド神父。」




**********

その週末―――

村人達は驚く。
オルガンの前に座る少女の姿が今までと違うことに。

淡い灰色の修道女の服に身を包み、清楚な美しさを見せていた。



村中の男たちは礼拝を終えると神父に尋ねる。

「一体、どういう事なんですか!?あの娘は…どうして?」

若い男から老人までが取り囲み聞いてくる。

「落ち着くのだ。皆の衆。
あの子は死んだ家族の冥福を祈り、村人の平和を願いたいと言っておった。
どうかあの子の気持ちを汲んでやってはくれまいか?」

男たちは押し黙る。
彼女のこれまでを知っているからなおさら何も言えなくなった。



その中の一人―――少年カルビンは少女に思いを寄せていた。


次の日、カルビンは教会に現れた。
堂内を掃除していた彼女に声をかける。

「あら…どうかしたの?カルビン。」

じっと彼女を見据えたまま問いかける。。

「どうして修道女に?」

「…神父様が話してくださった通りよ。私は…」

「嘘だ!! 君は僕の気持ちに気付いているはずだ!何故だ!?」


押し黙るファリアの肩を掴むカルビン。

本当の自分の気持ちを告げたら彼を傷つける事になる。
だからあえて言えずにいた。
だけど彼は理由もなくこの場を去ってくれるかどうかわからない。
言っても理解してもらえないかもしれないから切り出せずにいた。

(カルビンのこと…にくからず思っている。むしろ好意さえ持っている。だけど…)

許婚の彼に対してまだ想いがあったから応える訳にはいかないと心に決めていた―




その時、村にどぉぉぉおおんという轟音が響く。

「何?」

二人が教会の扉を開けるとそこは火の海。

「な!何てこと?!」

デスキュラマシンが二人を襲う。

「きゃあぁあああーっ!」



**********



ファリアが次に気付いた時、教会の建物の半分は吹き飛んでいた。
村は焼け野原。
家の残骸の柱が焼け残っている。
それにそこここに転がっている人の焼け焦げた死体。
子を抱いたままなくなっている母親。
庇いあうように抱き合う夫婦。
目を背けたくなる光景を目の当たりにして言葉が詰まる。

「…だ、誰か… …誰か…いますかーーー?」

返事はなかった。
生き残りは彼女ただひとり――――――








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                                                         (2005/3/15)