faithless -1-





クリスマスも過ぎ、もうすぐニューイヤーということもありJJ9チームのメンバーも少々浮かれていた。


―あと半年ちょいでグレイトタッチダウン…




天王星海王星のトライも無事終え、やっと内惑星系に戻ってきた。


羽を伸ばそうということでやっと辿り着いたアステロイドゾーンの星のひとつに降り立つ。




ブルースは早速、ひとりでカジノホールへと足を運び、
ロックたちは腹ごなしにレストランへと。



相変わらず普段口に出来ないご馳走を前にし、上機嫌のメンバーがレストランで目立っていた。




 *


ブルースはいつものようにポーカーかルーレットかのどちらかにしようと思い
ホールの中を歩く。

 (やはり…今日の気分はルーレットか…)


5つあるルーレットテーブルのひとつに腰を下ろす。


そして気づいた―



ルーレットディーラーは20代半ばのブロンド美女。
それは忘れることの出来ない顔―




  (…!?    ソフィア??)


彼女もブルースに気づくが、笑顔を見せるだけで声を掛けてこない。
他のシートに客が座り、ゲームが始まる。




的確に当ててくるブルースを見て、他の客が集まってくる。

彼の前には大量のチップが積まれていく。

とても付き合いきれないといった様子で他の客は降りていく。



「そろそろ…今日は止めておこう。」



80万ボウルほど稼いで、チップ数枚をバニーガールに渡し、
集まっている客に酒を振舞う。

それはいつもの光景―




換金の為にチップは台車に載せられ、運ばれていく。



客達がはけ、ブルースとディーラーのふたりだけになる。


「お久しぶりね、ブルース。」

「あぁ、ソフィア…」


思わず懐かしい思いに駆られるふたり―







   ***



―4年前

ブルースは米国の大学を出て、進学も就職もせずに米国内をぶらぶらとしていた。

いくつもの企業が彼をヘッドハンティングしたがったが、
全部断り、ただあてもなく生きていた。



ラスベガスでカジノと出会い、その魅力に取り付かれていく。



いつしかその年齢に不似合いなほどの大金を手にしていた。


カジノの女性客の何人かはその金と若い彼の魅力目当てで、
言い寄ってきたが適当にあしらっていた。



大好きだった幼馴染のステファニアを今も忘れられない彼は
恋にのめり込むことが出来なかった。



そんな彼の前に現れたのが…ソフィア。

この時、既にカジノディーラーをしていた。

やわらかなウェーブのプラチナブロンドも、その澄んだブルーの瞳も
顔立ちまでも似ている気がした。


ブルースがプレゼントを贈り、口説こうとしても
一向に相手にしてくれない。




しかし いつしかブルースの真剣な眼差しと…一輪のバラが彼女の心を溶かしてしまう。





ブルースが自分が宿泊しているスイートの部屋に誘うと
少々困惑しながらもついて来てくれた。





  *


ベッドの上で乱れるソフィアを見ていて…
ステファニアを重ねて見ていた。




ただ身代わりを手に入れたかっただけなのかと思うと
己が悲しく切ない…
そして残酷なことをしていると…内省し始める。






1週間後、ブルースは地球を後にした。

ブルー惑星海の名だたるカジノを廻るうちになんとかソフィアへの想いを断ち切った―




   ***




「ね、ブルース。JJ9でトライして廻ってるのでしょ?
こんなところにいていいの?」

「まぁね。旅の資金稼ぎさ。」

「そう。… じゃ、今から少し時間ある?」

「あぁ。」


彼女の優しい笑顔は昔と何も変わらないように映る。
ふたりは待ち合わせをして、その場を離れた。





―30分後

久々に私服のソフィアを見るとやはりステファニアに似ている気がしたが
昔のことを思うと、肩を抱くことすらためらってしまう。


「ね、ウチ、来て。」

「え? あぁ…」


女性に対してフェミニストを崩すことをしないのが彼らしい…





彼女のアパートに車で向かうが、ふたりは終始無言。

こぢんまりとした古めかしいアパート。
ソフィアが先に歩き、ブルースはついて行く。


3階まで階段を登り、玄関に辿り着く。
鍵を開けると中から中年の女性が出てきた。

「おかえりなさい。ソフィア。」

「…ただいま。」

「…? 君の母上?」

「いいえ、違うわ。ベビーシッターのルーよ。
とにかく入って。」

「あぁ。」


ブルースは訝しく思いながらもソフィアの後について入る。




「B」と書かれたプレートが掲げてあるドアに入る。

「??」

困惑する彼の手を引いていく。

「ブルース… この子は…あなたの子よ。」

「えッ!!」

「3歳になるわ。バーニィよ。」

驚きを隠せないブルース。
顔を覗き込むとソフィアとは違う髪の色。
確かに髪の色はブルースと全く同じ。


「そんな…まさか!!」

「まさかじゃないわ。あなたの子。」

「私はちゃんと避妊していたはずだ!!」

「そうかしら…?」

「あ、ありえない!! 君の… 中で出したことはないはずだ!!」

「それはあなたの思い違い。
子の父親が誰かっていうのは、母親の私しか解らないのよ。」

「くッ…」




記憶に残ってないだけで… 一度くらいはあったかもしれないと思い始める。


「私は… あなたにもう一度逢えたから、言ったの。
逢えなければ…ずっと言わないままだったわ。」

「私にどうしろと?」

「しばらくここにいて。」

「…え?」

「…… いいえ。 ずっといてちょうだい。」

「!? 私にはブラディとの"ゲーム"がある。
それを知っていて言うのか?」

「そういうことになるわね。」

ソフィアは銃口を向ける。


「この子の父親だというのなら、DNA鑑定を。
それが済むまではJ9V号に戻っていいだろう?」

「ここに戻ってくるという、保証はないわ。」

「ソフィア…!?」


ブルーの瞳は悲しみに彩られていた。


彼に銃を突きつけたまま、ドアに向かって下がっていき、
出て行くと鍵を掛ける。


ベッドに眠る子とふたりきりにされてしまう。


「困ったな…」

ドアをぶち破り逃げ出すことが出来ても、
その後のことを思うと、行動を起こせずにいた。


溜息をついていると、ブルースの腕時計型の通信機から呼び出し音が鳴り響く。


「…はい。こちら、ブルース。」

「おい!!ブルース、無事か? 何やってるんだ?
何処にいるんだよ?
心配してカジノに着たのに姿がないから…心配したんだぜ。」


声の主はロック。

「あぁ、すまん。 私の不覚だ。
とあるアパートの一室に閉じ込められた。」

「何処だよ?」

「サウスE区の…古いアパートの3階だ。」

「解った。助けに行くぜ。」

「いや…しばらく様子を見る。
すぐに来ないでくれ。」

「何だよ…?? 
解ったとりあえず、近くで待機してる。」

「すまんな。」


通信を切ると、ブルースは子供に近づき見つめる。




小さなベッドですやすやと眠る男の子。
確かに髪の色は同じ。


 (私の子供だと…?? ありえないと100%言い切れないが…
  信じられん。 ソフィアは一体…)








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(2005/11/25)




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