EDEN −2−




ビスマルクのメンバーは連邦軍首席ルヴェール博士の代理として会談に臨むことになった。

その場でカリオナ人は何故この星にいるのか、そして地球連邦に望む事を話した。

そして…ある重大な事実が明るみになる。




彼らの話を聞いたメンバーは悲劇の星になってしまったカリオナ星の事を聞かされた。

デスキュラ星人による、侵略。支配。それからの破滅。

そんな中、このデロスに来てやっと安住を得られた事。


この星にたくさんの地球人の遺体が収容されている事実を彼らに告げた。

そのことに4人は驚いた。
進児の言葉が示すように。
「本当か?」




ビスマルクのメンバーはその地球人の遺体が安置されているという場所に連れてこられた。

そこはこの星の地下にある最下層の施設であった。

たくさんのヒトの遺体を収めたカプセルが整然と並んでいる。

しかしよく見るとその遺体は色の違う液体に浸けられていた。

「何で色が違うんだ?」

ビルの素朴な疑問に長老が答えてくれた。

「それは、生まれた星が違いますから。 体液が微妙に違うからなのです。」

「へぇ。」

リチャードが少し感心したようにリアクションした。

「私どもカリオナ人は緑、地球人は青。
そしてデスキュラ人が黄色なのです。」

長老が言ったとおり青のカプセルは意外に多くあった。
一同はいくつかカプセルを見てみた。

そしてリチャードは思いがけないヒトの顔を見つけた。


「!!」

5年前と変わらない美しいままの女性。
間違いなく婚約者であった彼女の母親・セーラ=パーシヴァル伯爵夫人。

「こ…この人は!」

リチャードの驚きぶりに3人は顔を見合わせた。

「おい。リチャード、知り合いか?」

進児が問いかける。

「あ…あぁ。現在の女王陛下・ヴィヴィアン女王陛下の妹君セーラ夫人…」

「え!何だって?!」

驚く3人に構わずリチャードは長老に問いかける。

「この女性と一緒に女の子がいたはずだ!何処にいる?」

リチャードの気迫に押され、長老は黙っていた。

「おい!」

詰め寄るリチャードの様子が普通でないと感じた3人。

「止めろよ、リチャード。どうしたんだ?」

ビルがリチャードを止める。

「女の子ってどういうこと?」

マリアンが訊ねる。

「この夫人と一緒にいたのは…僕の婚約者だ。」

意外な答えにビルとマリアンは驚いた。

進児は以前、リチャード本人から聞かされていたから二人ほど驚くことはなかった。

婚約者を宇宙で失くした事を。。。



答えない長老に業を煮やしたリチャードは自分で探してみた。
青いカプセルを見て回る彼の前に先ほどの老婆が現れた。

「誰を探しておいでじゃ?」

突然、問いかけられたリチャードは驚きつつも答えた。

「僕は自分の婚約者を探しています。
もしも亡くなっているのなら僕の心の決着も付きますから。」

その答えに老婆は溜め息をつき、再び問うた。

「もし、その娘が生きていたらどうする?
 もし、帰りたくないと言ったらどうする?」

「…え?」

リチャードは想像出来なかった問いかけに戸惑う。
一瞬考え答えた。

「もし、、万が一生きているのなら一緒に地球に帰りたい。」

真摯なリチャードの瞳に老婆は真実を見つけた気がした。

「……。わかった。連いておいで。」





リチャードが連れて行かれた先はこの星唯一の地上の建築物である神殿。

白い壁と白い円柱で構成されたシンプルだけど美しい荘厳な建物の中は照明がないにも関らず明るかった。

しばらく歩くと小さな祭壇らしきものの前に3人の幼い少女がいた。
3人とも淡いピンクの髪をしていた。

「あ!プラナ様!」

少女達は老婆を見つけると恭しく挨拶をした。
プラナと呼ばれたこの老婆は少女達に敬愛されていた。

祭司である老婆は少女達に尋ねた。

「姫様は奥においでか?」

「はい。」

そうかいと言って行こうとする老婆に声を掛ける少女がいた。

「あの、姫様は禊をなさるとかで誰も来ないようにと…」

「…わかった。」

しぶしぶ老婆とリチャードは足止めを食らった。

その間に老婆は青年から話を聞いておいた。

どれだけ彼女のことを想っているのか。
どんな幼い日々を彼女と過ごしたのか。

彼の心を。




話が一段落ついたところでタイミングよくリチャードの通信機が鳴った。
「進児?」

通信を聞くと進児が申し訳なさそうに話し出した。

「リチャード?すまないが今何処にいる?
この星を調査するんだがリチャードがいたほうがはかどるし、戻ってきて欲しいんだ。」

自分の事にだけ構ってはいられないと知ったリチャードは3人の所に戻ることにした。

「すみません。少し仲間の所に戻ります。」

事情を察した老婆は笑顔で彼を見送った。

「またあとでおいで。」と。





カリオナ人は地球人より新陳代謝が緩やかなので入浴という習慣がない。
だから地球人である乙女は祈りのためと自分の為に禊を行っていた。

水音が乙女を落ち着かせる。

長い腰の下まである黒髪が濡れて体に張りつく。

17歳の乙女の身体は清麗な色香を醸し出していた。

その白い手で肌をなぞる。

「ふぅ…」

澄んだ水が乙女の悩みを綺麗に流していくように思えた。

瞳には深い湖のような蒼い光が浮かんでいた。


「今更…地球に帰ったって… 帰る家なんてないわ… 」


白く細い指が頬を撫でる。

先ほどデスキュラにつけられた傷にうっすらとまた血が滲んでいた。

「でも、カリオナ人でもない…  」


乙女の心はいつも葛藤がまとわりついていた。




     帰りたい…… 
      帰れない……

    心細くて逃げ出したくて…






でもカリオナ人達は地球人である自分に優しくしてくれた。
愛してくれた。

だから、ここにいる理由を作った。

     此処にいていいと。



乙女の白い身体は水の中に沈んだ。





乙女は禊を済ませると身支度を整え、神殿の祈りの間に向かった。

運命の変わる瞬間が待っているとも知らず。




いつものお気に入りの白い衣装を纏って祈りの間に入った乙女の目に飛び込んできたのは老婆・プラナだった。

「どうしたの?プラナ。」

声を掛けた乙女を振り向き老婆はこう言った。

「姫様。あなたに聞きたい事があります。」

改まって問いかけるプラナに訝しさを感じながらも乙女は答える。

「なぁに?」

「……姫様。あなたは地球人じゃ。此処に来た頃はよく地球に帰りたいと泣いておられた。
最近は言われないがどうしてじゃ?」

心に刺さる質問に内心どきっとした。

「…確かに。以前は帰りたいと思っていたわ。
けれど、今は女神さまの後継者としての責任もあるし、皆を置いて帰ることなんて出来ないわ。」

優等生的な答えにプラナは納得しなかった。

「姫様。私はあなたの本心が聞きたいのです。」

はぐらかされている事に気付いたプラナは乙女に詰め寄る。

その真剣な眼差しに乙女は陥落した。

「……。プラナに隠し事は無理ね。」

心のうちを見透かされていることに観念した乙女は少しずつ話し出した。

「私が帰りたくなくなったのはもう5年も経ってしまったから。
私には地球に婚約者がいたわ。
昔、話したわよね?」

「はい。」

乙女の憂いを帯びた瞳は俯いていた。

「あの人にはきっと、新しい恋人がいるわ。
だって私、その女の人の存在を知ってしまったら嫉妬で醜くなってしまうわ。
…だから、帰りたくないの。」

乙女は自分の中にある〔女〕が醜くなるのを恐れていた。

だがプラナは冷たく突き放した。

「姫様。 いや、地球の乙女よ。あなたは地球に帰るべきだ。
私たちカリオナ人と地球人とでは時間の概念が違う。寿命が違う。
今は平気でもいずれ辛い目をするであろう。」

その言葉にショックを受けた乙女は泣きながら問いかけた。

「私にこの星にいる価値は、意味はないと言うの?」

黙ったまま答えないプラナの真意がわからなくなった乙女は神殿を飛び出した。




この星の地表には神殿しかない。
地表は緑の草木で覆われていた。
施設は皆、地下にあった。



神殿を飛び出した乙女は小さな人口の泉の傍で泣いていた。
空には満天の星が瞬いている。



乙女が飛び出したあと、しばらくしてリチャードが神殿に戻ってきた。

「すみません、今 戻りました。」

プラナは少し言い過ぎたかもと反省していた。

年をとっても他人の心は理解できないのだと。

戻ってきた青年にすがる思いで頼んでみた。

「あ  …青年よ。そなたの探しているのはあの娘であろう。
すまぬがあの娘を助けてやって欲しい。」

「…え!?」

老婆の弱気の言葉にリチャードは耳を傾けた。

「可哀相に…あの娘はずっと孤独じゃった。
私らがいくら愛してもそれは、かりそめもの。
あの娘を助けてやれるのはそなただけなのかもしれん。」

はらはらと涙ながらに頼む老婆にリチャードは問いかけた。

「彼女は何処です?」

「おそらく外の泉にいるじゃろう。」

その言葉を聞いて飛び出す。




しばらく探すと目的の泉を見つけた。

その傍らで泣き伏している乙女。

人が来た気配に乙女は言い放った。

「… 私には帰れる場所なんてないわ。
その上、この星にいるのもダメなら私はどうすればいいの?
あなた達なら私の気持ちを解ってくれると思っていたのに…」

プラナが来たと勘違いしていた。

そんな乙女に優しく名を呼んでみる。

「…ファリア。」

その名で呼ばれることが久しくなかった乙女は顔を上げて声の主を見上げた。

金髪の凛々しい青年が立っていた。

涙ではっきりと顔が見えない。

「…誰?」


彼の目に映ったその姿は紛れもない愛した少女の魂をもった美しい乙女だった。

何故さっき気付かなかったのだろう。。

思わず駆け寄り抱き締める。

「…ファリア。」

「え!?」

思いがけない出来事に混乱しつつも、その名を呼ぶ青年の声に耳を疑った。

「まさか… リチャード?」

「あぁ。そうだよ。」



突然の再会に戸惑いを隠せなかった。

5年前より逞しい腕、理知的な瞳。声変わりした男らしい声。

姿は成長して変わってはいるが彼に間違いないとすぐに解った。







リチャードが力を込めると折れてしまいそうな華奢な身体。
5年前より伸びた漆黒の髪、白い肌。変わっていない湖色の瞳。


失ったと思っていた少女が腕の中にいた。


彼女の耳元に囁く。

「ずっと探していた。
君を失いたくないと…  君が死んだなんて信じたくなかった。」

「私を…?」

彼の言葉に乙女はさっきまで絶望で泣いていた涙が嬉しさに変わるのがわかった。

「あぁ。だから一緒に帰ろう。
君に帰る場所はあるんだ。
君の父上も弟のアリステアも生きて頑張っている。」

その言葉に目を見開いて驚く。

「二人とも無事なの?生きているの?」

「そうだよ。元気に暮らしてる。 セーラ夫人と君を失ったと思っている。」

「…そう。」

「でも君だけでも帰ってくるんだから驚くだろうね。」

彼の言葉にファリアは視線を外した。

「私は…帰っていいのかしら?」

瞳を伏せる彼女にリチャードは言葉を返した。

「ファリア。君をもう離したくない。失いたくない。
だから一緒に帰って欲しい。」

その言葉を嬉しく思うが、戸惑う。

「私、この星にいるカリオナ人の人たちを放って行けない。
あの人たちは私を大切にしてくれたわ。愛してくれた。」

彼女の戸惑いを彼は優しく聞いていた。

「さっき、僕が言っただろう?帰る場所がある。
…僕の傍に帰ってきて欲しい。」

そこまで言われて嬉しかったが彼女はこわごわ尋ねてみた。

「あなたに新しい婚約者はいないの?恋人は?」

その台詞にきょとんとなりながら言葉を返す。

「そんな人、いないよ。僕には君だけだ。
それに君の父上にも解ってもらっている。」

「本当に?」

「あぁ。」

リチャードはそっとファリアの頬を撫でる。
涙の痕を拭い去るように。

そしてその指が柔らかい乙女の唇に触れた時、そっと唇を重ねた。

5年前にただ一度だけ重ねた唇。


優しく優しく温もりを分かち合う。


その時、乙女の頑なな心は溶け始めた。







fin

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あとがき(2004/8/18)
ぐは〜!
後半、砂吐きそうです〜。
描いてる私もこっぱずかしい!

あんたらLOVELOVEすぎんねん!

こんなゲロ甘、何で書けるかな〜
こっちが照れるよ、いやほんと。


(2015/03/24 加筆改稿)



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