EDEN −1− |
地球に向かって落下しようとしていた人工衛星ヘルペリデスの破壊に成功した
ビスマルクチームの眼前には宇宙のゴミと化した破片だけが漂っていた。
「やっと終わったか…」
進児がそう呟く。
「そうだな…」
ビルが溜め息をつきながら答える。
しかしリチャードのコンソールパネルにはデスキュラのパルスが示されていた。
「進児!まだ終わったわけじゃなさそうだ。」
「そうよ!」
マリアンのコンソールパネルにもシグナルが出ていた。
リチャードはカメラのズームを上げてそのシグナルの正体を探った。
そして4人の前のスクリーンに映し出された物はデスキュラの艦隊だった。
「なんて事だ!ヘルペリデスが落とされるとは!」
艦長であるガラン将軍はあまりの出来事に頭に血が上った。
そしてあることに気付いた。
『はっ!? それではこの艦は2,3日中に自爆してしまう!』
デスキュラのメインコンピュータでもあったヘルペリデスが破壊されたことによって
各基地及び各戦艦の自爆装置が起動してしまった事に気がついた。
このことは艦内では将軍しか知らない。
将軍は冷静に考えを巡らせた。
そして一つの結論に達した。
「艦を木星の衛星デロスに向けろ!」
「はっ!」
命令を下したガラン将軍は確信した。
そこで自分は助かると。
-----ここは衛星デロス。
デスキュラによって母星を壊滅させられた異星人カリオナ人が幽閉されている秘密基地の星である。
そこでは戦争に使用する兵器を開発していた。
開発をしているのはカリオナ人だが彼らは無理やりさせられている。
もともと争いのない平和な星に生まれた彼らには兵器と言う概念はなく、
自分達の科学力が他の人類を破壊していることに心を痛めていた。
デロス星のメインコンピュータはデスキュラとは違う系統であった。
このことに気付いたガラン将軍は地球の支配は無理でもデロス星なら支配できると踏んでのことだった。
このデロス星にはカリオナ人は勿論デスキュラ人もいた。
デスキュラの科学者達がカリオナ人の科学者達に兵器というものを教えていた。
そんな中、何故か地球人もこの星に捕らわれていた。
99%が遺体のままで。
ただひとりの生存者は大切にされていた。
それは美しい少女。
彼女はこの星の95%を占めるカリオナ人の女神の姿によく似ていた。
そのため彼女はこの星で女神の映し身として大切にされている。
少女は5年前、乗っていた宇宙船がデスキュラに襲撃され、緊急脱出用ポッドで宇宙を彷徨ってたところを
カリオナ人に救われたのだ。
カリオナ人たちの愛情を一身に受けて優しく聡明な乙女に育った。
そして、この星に住まう全ての人たちに[姫]と呼ばれている。
ここの言葉では[女神の後継者]と言う意味もあった。
デロス星のメインコントロールルームのモニターの前では長老達がヘルペリデスの爆破を見守っていた。
その場に乙女もいた。
「おぉ…」
メインモニターに映る閃光が消えた時、そこにヘルペリデスはなかった。
「これでデスキュラはほぼ壊滅か…」
長老のスイーダが呟く。
瞳を伏した3人のデスキュラ科学者達は力なくうなだれていた。
[これが因果応報ということか……」
その傍らで乙女はモニターを真摯に見つめていた。
「これで戦争は終わるはずね。」
それぞれの胸の内は微妙だった。
静まり返ったコントロールルームにレーダー員の声が響く。
「デスキュラ艦が1隻、こちらに向かっています!」
「何!!?」
一同が声を上げる。
「照合確認。戦艦ムスター!指揮官はガラン将軍!」
一気に緊迫した空気に激変。
ガラン将軍は艦を急がせる。
少し離れているとはいえ、ビスマルクマシンがあの場にいたことに将軍はいやな予感を覚えた。
そしてビスマルクチームはその艦の動きの不審さに気付き、追跡を開始していた。
「おい!ビスマルクが追いかけてきておるぞ!」
ガラン将軍は操舵手に急がせた。
「はっ!」
そのスピードが尋常でない事にブリッジのメンバーも不審さを感じていた。
デロス星の空域に入ったと言うのにガラン将軍は減速させなかった。
ビスマルクの4人もまたデスキュラ艦の不審な動きを察知して、彼らの目的地点を割り出す事に成功した。
そこは今までただのアステロイドだと思われていた小さな星。
リチャードが調べるとこの星の中にエネルギー反応が微かにあった。
「何であんな星に行こうとしてるんだ?」
ビルが怪我してる肩に痛みが走るのを我慢して3人に問いかける。
「そんなのわかんないぜ。」
進児が答える。
「それにしてもあのスピードはおかしい。」
「そうよね。」
リチャードとマリアンが艦の異常に訝しがる。
目の前の艦はその星に突っ込んでいく。
艦は星を削り取るように掠めていった。
「きゃあああっ!」
轟音と共にデロス星の中では艦が掠めた衝撃で大きく揺れていた。
「姫様!ここは危険です!早く神殿に!」
長老の一人・ソーンが姫の腕を掴み、コントロールルームから連れ出した。
外ではデスキュラの艦が轟音を立てて沈み行こうとしていた。
小賢しいガラン将軍は少しでもデロスの人口を減らすためにわざと艦をぶつけたのであった。
自分は小型戦闘機で脱出。
デロス星の小さなスペースポートに無理やり小型戦闘機を着陸させ、
銃を片手にデロス星の中心部に突入していった。
カリオナ人は武器を持たないので一方的に死傷させられていく。
突然の出来事にビスマルクチームは奴を追いかける事にした。
ビスマルクマシンを固定したまま、進児とリチャードが突入する事に。
ビルは怪我人の為、マリアンと留守番。
小型戦闘機が進入した後に、二人はバックパックを装着し、星に入っていく。
デロス星の中では阿鼻叫喚が始まっていた。
たった一人の侵入者の為に皆、恐怖に駆られ、逃げ惑っていた。
そしてソーン長老に腕を引かれた乙女がガラン将軍の目の前に現れた。
白い肌、漆黒の髪、蒼い瞳。
デスキュラ人にない美しい娘。
以前、この星に武器を取りに来た時、心惹かれたのだった。
「ほう。私にも運が向いてきたようだ。
お前に会いたくて私はここに来た。…相変わらず美しい…」
うっとりと見つめる乱暴な侵入者に乙女は毅然と答えた。
「私に会いに来たのなら、もうちょっと礼儀をお勉強なさったら?」
その言葉に動ずることなくガラン将軍は乙女の前に立つ。
「こっちに来い!」
「何をするのです!無礼者!」
無理やり長老ソーンから引き離した乙女を自分の腕で押さえつける。
「ひ…姫様!」
長老は奪われた姫を取り戻そうと飛び掛る。
「じじいは引っ込んでろ!」
銃口を長老に向けた瞬間、閃光が走った。
リチャードの銃口から放たれた光がガラン将軍の銃を吹き飛ばした。
「な…!」
ガラン将軍が向き直ると後から来た進児とリチャードがそこに立っていた。
「くそっ!」
往生際が悪いガランは袖に仕込んであった大型ナイフを出してくる。
「こ、この娘の命が惜しかったら銃を捨てろ!」
その血走った目はもはやまともな精神を持っているようには見えなかった。
ナイフの冷たい刃が乙女の頬に突きつけられる。
頬に赤い血が滲む。
「くっ…」
進児もリチャードも動く事が出来なかった。
ガラン将軍に捕らわれていた乙女が叫ぶ。
「私の命なんて惜しくありません!ですから早くこの不埒者を捕らえてください!」
「何だと!娘! この私が可愛がってやろうというのに!」
ガラン将軍は怒り心頭に来てその腕で乙女を締め付ける。
「くっ…。。 こんな野蛮人に陵辱されるくらいなら… 死んだ方がマシです…」
喘ぐ口元からガランに告げる。
彼女の言葉でますます腕に力が入る。
その時、隙が出来たのを進児とリチャードは見逃さなかった。
二本の閃光がガランを貫く。
「な…!」
信じられないと言った顔のガランはふしゅうと音を立てて消滅した。
床に倒れこみ、咳き込む乙女に長老が駆け寄る。
「ひ、姫様!ご無事でございますか?」
進児とリチャードも駆け寄る。
「大丈夫ですか?お嬢さん。」
「え…えぇ、何とか大丈夫です。 それより…… ゴホゴホ。」
窒息しかけていた乙女は気管が開放され、呼吸が整うまで少し時間を要した。
その間にドクターが駆けつけ、乙女の容態を診た。
「姫様を助けていただき、ありがとうございました。」
長老ソーンは見慣れぬ二人に感謝を言葉をかけた。
「いや、我々は偶然、奴の愚行を阻止したにすぎません。」
リチャードが言葉を返す。
「ところであなた方はデスキュラ人ではないのですか?」
進児が先ほどから疑問に思っていたことを口にした。
それはリチャードも同じだった。
明らかにデスキュラ人とは違う容貌に疑問を抱いていた。
「……。」
一瞬、黙りこくってしまった長老の代わりに違う声が答えた。
「そう、我々はデスキュラ人ではない。」
一同が振り返るとそこには老婆が立っていた。
「私たちはカリオナ人。あなたたち地球人が言う、外宇宙の人類じゃよ。」
「な、なんだって?」
進児もリチャードもデスキュラ星人以外の人類に会うなんて思いもしなかった。
二人の驚きをよそに回復した乙女が二人の前に立った。
「ここにははカリオナ人とデスキュラ人が住んでいるわ。」
驚きを露にした二人に言葉を続ける乙女。
「この星は幽閉の星・デロス。
戦う事を知らない者達が閉じ込められる星。」
乙女の言葉にその場にいたカリオナ人たちが切なくなっていた。
「あなた方は地球人ですよね?」
改めて確認する乙女に二人はうなずいた。
その時、マリアンから通信が入った。
「進児君!大丈夫なの?」
その通信で事のあらましを報告した進児だった。
覚悟を決めた長老達がビスマルクチームを星の中に招き入れた。
いつかこんな日が来ると思っていた。
母なる星を失ったカリオナ人とデスキュラ人。
ここでずっと隠れて暮らさなければならないと。
この星は地球圏。
いつか地球人に出会って話さなければならないと。
そして[姫]を失いたくなかった心を長老の一人・スイーダは持っていた。
[姫]の気持ちは違っていた。
一応、地球人の彼女は帰りたいと思っていたが、家族全員がいなくなった家に帰りたくはないと。
幼い時に許婚がいたのだが、5年も経った今では彼に新しい婚約者がいるに決まっている。
それを見るのが辛いから帰りたくないのだった。
だからカリオナ人でいたかった。
だが地球人がここに来た今、帰りたくないと祈りながら乙女は神殿にいた。
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あとがき(2004/8/18)
連日、BISワールドを書いてます!
やきもきするかもしれませんがまだ続きます。。。
外が暑いよ〜もう8月中旬だってのにまだ蝉が鳴いてる。。。。
(2015/03/24 加筆改稿)
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