believe in fate -3-



事故で緊急脱出用カプセルに乗り込み、なんとか一命を取り留めた伯爵と息子が英国に戻ってきた。
息子は無傷だったが、一度に母と姉を失ったショックで顔には暗い影が下りている。
父である伯爵は軽い酸素欠乏症と左下腕を骨折。
ギプスで固定され、つったままの帰国。


英国内外の新聞はこぞって記事にした。


 ―悲劇の伯爵・帰国―



アーサー=パーシヴァル伯爵の元には大勢の見舞い客。
みな同情の色を浮かべていた。



その見舞い客の中の一人、ランスロット公爵エドワードは少し違っていた。


「アーサー、よく無事に戻ってきてくれた。
嬉しいよ…」

「エド。心配かけてすまなかったな…」

親友エドワードの様子がおかしい事にすぐ気づく。


「どうかしたか? …エド?」

「今の状態の君に話すのは少し気が引けるのだが…」

「…何だ?言ってみてくれ。」

「…私の息子が…」

「リチャード君がどうした?」

「君の娘を失ったばかりに…」

「どうした?」

目の前の悲痛な涙を見せる親友の姿に驚く。



「説明するのは…
見てくれたほうが早い。…悪いが一緒に来てくれるか?」

「あぁ。」



父二人はランスロット邸に。





そこでパーシヴァル伯爵が目にしたのは
…車椅子に蒼白の顔で腰掛けている少年の姿。
手にはシルバーのフレームに入ったデビューパーティの時の二人の写真。


「!?」

愕然としたパーシヴァル伯。


「リチャード君…なのか?」

「あぁ… 君の娘が行方不明になって…絶望に突き落とされた。」


目頭を押さえるランスロット公。


パーシヴァル伯の前で少年は写真を見つめ、力なく微笑んでいた。

「…ファリア…」


呟く名を聞いて、目を見開く。


「!?  君は… そこまで私の娘を…あの子を… 」

「う…ぁ… ファ… リア…」


パーシヴァル伯まで涙が溢れていた。


「いろんな医者やカウンセラーに診せた。
時間しか解決法はないと…」

「…そんな……」




パーシヴァル伯は少年に近づき、膝を折る。

顔を覗き込むとまるきり別人に見えた。



「リチャード君… 私だ… 解るかい?」


ふっと深い翠の瞳に弱い光が宿る。


「あ…ぁ…  パーシヴァル伯…??」

「そうだ… リチャード君。」

「…ファリアは?」

「……」

応えられなくて息が詰まる。


「何故? 何故…? 僕の元に帰ってこないのですか?」

「すまない…リチャード君…」

「僕のモノに… 僕の花嫁になってくれると…誓ってくれた…
愛するって、守るって…約束したのに… 
僕は…    僕は…
うあぁあああッ!!」


すぐにDr.が駆けつけ鎮静剤を打たれ、ベッドに運ばれる。





「ずっとああだ。」

「!!??」

「時々、錯乱して… あの娘の名を叫んで… 
  "死んでない! 生きてる!!!" と…
もう辛くて見てられん… 」




ランスロット公は溢れ出す涙を止められない。
息子が不憫で不憫で仕方ない。

パーシヴァル伯は鎮静剤で落ち着いてきた少年に近づき 手を取った。


「リチャード君も… 君も… そう感じているのか?
実は私も娘は生きていると感じてる…」

「…え…」

「私の話しを聞いてくれるかい?」

「…。」

「あの日から3日目の… 夢の中にセーラが出てきた。
結婚したばかりの若く美しいままの妻だった。
私を見て悲しい笑顔を見せていた。
  "あなた…アーサー、ありがとう。愛してくれて…"と。
そしてこう告げた。
  "ファリアとアリステアをお願いします"と。」


「!?」

「息子は解る。 私とともに無事に何とか生きてる。
しかし…娘は…そばにいない。でも生きてると感じた。

そして… それから10日ほどして…娘の夢を見た。
暗闇の世界の中で、黒い顔のない影のような男に取り囲まれて…
その……  乱暴されていた。

私は助けようと駆け出したんだが、
十字架に貼り付けられていて… 娘が泣き叫んでいるのに…
悔しくて… そこで目が覚めた。」

パーシヴァル伯は震える拳を握り締めていた。
彼はその話しを聞いて、ベッドから身を起こす。

「…僕も、僕も似たような夢を…」

「何??」

「最初…ファリアは… 彼女は…
何も身にまとわない彼女が真っ暗な闇の中で泣いてた。
白い身体が闇に浮かんでた…

次に見た夢は… 暗い森の中を走っていた。

ずっと森の中を走っていた彼女が転倒した。
彼女の足首を地面から突き出た手が掴んでいた。
僕は助けようとして行こうとするけど、何者かに囚われてて行けなくて…

しばらくして地面から伸びていた手が増えて…
彼女がまとっていた白い服を引き裂いて、身体をまさぐり始めた。
僕の名を叫んでいるのが解って…
行こうとする僕を捕らえているのが何か解った。
真っ黒な顔のない人間だと思っていたら…僕だった。
影の僕が僕を捕まえてた。

目の前のファリアは…気づけば影の僕に陵辱されて…」

「!?」

「泣き叫んで助けを求めてるのにどうする事も出来なくて…
悔しくて…

しばらくして…影が3人に増えた。
3人の影が彼女を嬲って…   」


「それは私に夢と似てる…?!」

「多分、ファリアは何処かで辛い目に…」

「あ、あぁ…」


「そしてさっき見た夢では
黒い喪服みたいなドレスを着てピアノの前で泣いてた…」



パーシヴァル伯は少年の目を見て理解できた。
彼はウソをついてない…と。



「!? リチャード君、リチャード君は信じてくれるな? あの子が何処かで生きていると。」

「はい。…僕の花嫁はファリアだけです。
僕は彼女を愛してます。」

きっぱりと告げる少年の目には力強い光が戻っていた。


「あの子を…探し出して助けてやってくれんか? 」

「え?」


「私はこんな身体だし、もう体力もない。
あの子を救ってやって欲しい。
私は君をバックアップするから…頼む…リチャード君…」

娘を愛する父親として、切実な想いを抱えていると彼は感じた。



「パーシヴァル伯…」

「こんなところにいないで、宇宙の何処かにいる娘を…頼む…」

「…解りました、パーシヴァル伯爵。
僕は…僕は宇宙に出ます!!
探し出して連れて返ります。そして僕の花嫁に…」

「あぁ…そうしてくれ。」


リチャードはベッドから立ち上がる。
エメラルドの瞳も輝き始め父とパーシヴァル伯を見つめる。


息子の復活に嬉しさを隠せない。

「リチャード…」

「父上… ご心配を…」

「…もういい。」

「父上… 僕…」

「あぁ、私もお前を応援するよ。」

「はい…ありがとうございます。」







すっかり元に戻った…いや今までと違う生きる目的に向かって少年は歩き始めた。


パーシヴァル伯との話の3日後には机に向かって勉強する姿。
愛馬キング号に跨り、疾走する姿が。






彼はわずか1年半で大学を卒業。
すぐに英国軍の士官訓練所に。
宇宙に出て彼女を探すために訓練を積む。
それを終えると軍情報部の訓練所へと。
ここもわずか4ヶ月ほどで修了。





2084年9月―

地球連邦軍・ルヴェール博士の結成するビスマルクチームの一員に抜擢された。


そこで1年間の活躍の結果、侵略戦争を仕掛けてきた異星人デスキュラは滅ぶ。

彼ら4人には栄光と名誉が与えられたが、リチャードの心は満たせない。




彼にとって一番大切なものが欠けていたから―





戦争終結後、彼は再び旅立つ―

愛しい恋人を捜し求めて―――――







fin


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(2005/8/19&20)

*あとがき*
ちょ〜っと、途中で表現的にどうかな?と思うとこも
ありますが、なんとか…

「Lost Moon」
とかぶるトコがありますが
こっちが最新版と言うことで。




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