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believe in fate -2-




ランスロット城にリチャードが戻ると執事が彼を呼び止めた。



「リチャード様、旦那様が書斎でお待ちです。」

「父上が?  何か用なんだね?」

「…はい。」



執事の様子が少し変な事に気づきつつも何も疑問に想わずに彼は父の待つ書斎へと駆けていく。



少年が書斎に入ると、父は重厚なオークの机の前に座っていた。

手を組み、目頭を覆い、沈痛な面持ちをしていた父に気づく。
よく見ると涙の痕が見えた。
初めて見る父の様子に驚く。



「リチャード…戻ったか…」


声も重い。



「…何ですか?父上…?」



溜息をついて父は切り出す。


「リチャード… 私も辛い。しかしお前に告げねばならん。」


父の言葉にふと彼女を見送った時の不安が蘇る。



「…何です? …まさか… ファリアたちに何か?」



息子の一言で父はびくりとなる。




「…パーシヴァル一家の乗った…アテナⅡ号が沈んだ…」


「!?  そんな!! 馬鹿な!!」


「…16:48ごろの事だ…」


「ウソだ!! そんな事… 信じない!! 信じたくありません!!」


少年はショックのあまり、涙を撒き散らし叫んでいた。


「ウソだッッ!! イヤだ!! ファリアぁぁッ!!」



崩れて床を叩く息子を見て、父は涙する。




   (やはり…  本気で愛していたのだな… あの娘の事…)






プルルとその場に似合わない音が響く。
受話器を取る父の姿。



「最新情報が入った!?  ふむ…それで… ?! 解った。」



「父上?!」



息子に冷静に告げる。


「リチャード…  父親と弟は緊急脱出用カプセルに乗り込んで救助された。
…セーラ殿は…遺体で発見された。 あの娘は、ファリアは…
行方不明だ…」

「!? 死んでいないんですね!? 」

「しかし現場にはあの娘の乗り込んだカプセルはなかったそうだ…
酸素が2日しかもたんそうだ。 その間に見つかればいいが…」

「生きている!! 生きてます!! 彼女は絶対生きて僕の元へ帰ってきます!!」

「そうだな… 私はとりあえずロンドンの王室情報部本部に行かねばならん。」


「僕も行きます!!」


息子の申し出に驚く。

「お前… 来ても 何も出来んぞ?!」

「構いません!! 情報部の方が… 早く解るはずです。行かせてください!!」

息子の切迫した顔を見てうなずいてくれる。

「わかった。 来なさい。」






少年は父とともにロンドンの王室情報部本部へ。


パーシヴァル伯爵は英国王室庁次長、その夫人は元英国王女という立場だけに
ランスロット公爵もコトを重く見ている。
何より息子の婚約者の安否が心配だった。



父も彼も一縷の望みを懸けていた。












しかし沈んでから3日後…  捜索は打ち切られた。
発見されなかった緊急脱出カプセルは射出された28個のうち12個。
その12個の中に少女はいた。






「あの娘は発見されなかった…」

「ウソだ!! もっとよく探して…」

「あのカプセルの酸素は2日しかもたん。
もう…発見されたとしても…」


「!!  ウソだッ!! イヤだ!! ファリアぁああああッ!!」


父の長官室でリチャードは父と父の部下の前で泣き叫んだあと、昏倒した。

「!!?」


「大変だ!! 早くDr.を!!」

彼はすぐに王室情報部内の医務室へと運ばれる。
この3日間、まともに食事もしてなかった上に、ショックも大きすぎた。





栄養点滴を受け、丸2日眠っていた。






目覚めた彼の瞳は…美しかったエメラルドの瞳からは光が失われて、暗い色に変わっていた。
父親は驚きを隠せない。

とりあえず母である自分の妻には見せられないと、城へは戻らずロンドンの邸に連れ帰る。

蝋のように白い顔には生気はなく、ただぼんやりと目は空を泳いでいた。


少年はずっと夢を見ていた―




彼は自室のベッドに横たえられていた。
隣のリビングルームには主治医と看護婦が控え、
ベッドルームの彼の横には乳母・キャスリーン夫人が付く。

生まれた直後から成長を見守っていた夫人は涙していた。

聡明な瞳を輝かせ、凛々しく礼儀正しい少年だったリチャードの変貌ぶりに。
頬はこけ、真っ白でいつもの騎士然とした空気が失われていた。


「リチャード坊ちゃま…」


昏々と眠る彼は夢を見ていた―




時折、秀麗な眉が苦悶に歪む。
その姿にいたたまれない。


「う…ぁ…ファリア…」


彼が口にした名を聞いて、涙が溢れる夫人。


   ( ファリアお嬢様をこんなにも… お可哀相なリチャード様…)






事件の日から丸一ヶ月…

少年は植物状態のまま過ごすことに…





to -3-
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(2005/8/19)




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