away -15-
いつものようにパリの仲間たちがパーティ会場で集まっていた。
今日のパーティは若手だけが集まっているもの。
ファリアのそばにはドレスアップした数人の男女の姿。
「あ、そうそう…オデットがね、あなたに頼みたい事があるんですってよ。」
シャルロットが思い出したようにファリアに告げる。
「そうなの? シャルロット、まだオデットは来てないわよね?」
「そりゃ、練習で忙しいんじゃないかしら?」
「あ…確かに…」
今はまだフィギュアスケートのシーズンまっただ中。
しかも、来週からは大きな大会が控えていた。
「何なのかしら…頼みって??」
「さぁ…??」
シャルロットと二人で顔を合わせる。
10数人の男女がワイワイと会食しているパーティルームにオデットがやってきた。
「遅くなって、ごめんなさ〜い!!」
ワンピース姿のオデットが慌てた様子で入ってきた。
「あ、大丈夫。それより、はい。」
ファリアはオデットにミネラルウォーターの入ったグラスを差し出す。
「ありがと、喉渇いてたの。」
ごくごくと一気に飲み干してしまう。
「はぁ〜、生き返るわv」
その様子を見て一同は笑ってしまう。
「な、何よ〜??」
みんなのリアクションにオデットはちょっとすねて見せる。
「可愛いなぁ〜って思って、みんなもそうでしょ?」
ファリアの言葉にうなずく者がほとんど。
「ま、な。」
「そうよ〜」
そんな可愛い様子を見せるオデットにファリアが切り出す。
「ね、オデット。私に頼みたい事って、何?」
「シャルロットから聞いたの?」
「えぇ。」
先日、オデットが顔を合わせた時に何気に相談していた相手がシャルロット。
「実はね、次の大会のその…エキシビジョンでね、ピアノの生演奏をお願いしたいの。
ダメかしら?」
おずおずと切り出してきたオデットの顔を見て、ファリアは応える。
「勿論。させていただくわ。
なんて光栄なこと!!」
彼女のリアクションにほっとする。
「そう言ってもらえて、嬉しいわ。
次の大会は四大陸選手権のパリ大会なの。
ホントにいいの?」
「えぇ、曲はなぁに?」
「ドビュッシーのメヌエットなんだけど…」
「珍しい選曲ね。
いいわよ、大丈夫。
エキシビジョンってことは来週末くらいよね?」
「えぇ。来週から本戦なの。」
「そう…頑張って応援に行くから。」
オデットとファリアの会話を聞いていた周りも応える。
「私たちも行くわよ。」
「ありがとう、みんな。」
みんなに笑顔を見せるオデット。
「ね、って事は、音合わせに私も練習場に行った方がいいわよね?」
「うん…お願いできるかしら?」
「勿論よ。いつ行けばいいの?」
「2,3回、お願いしたいし…水曜から金曜の夕方でお願いしていいかしら?」
「了解よ♪」
パーティが終わってから、二人はメールのやり取りをして、練習場で待ち合わせる事に。
*****
―――水曜の夕方
ファリアは指定されたスケートリンクにやって来ていた。
そこはフランス選手団のフィギュアスケートの練習場。
リンクの端にピアノが設置してあった。
他の選手もピアニストに頼んでいるという事だった。
少々肌寒いが防寒着を着こんでファリアはオデットのために弾く。
曲の練習はすでに出来ている。
オデットと彼女のコーチと少し打ち合わせをして、練習場に入った。
練習場にいた関係者はただ驚くばかり。
初見でオデットの動きに完璧に合っている音に。
1回目でオデットも演技のミスもなく、ファリアの奏でる音で気持ちよく滑る事が出来た。
音が止まると即、ファリアの元に行く。
「凄いわ、ファリア…なんて人…」
「そう? オデットが最優先だもの、あなたに合わせて当然よ。」
「でも演技の構成とかは伝えていたけど…こんなにスムーズに綺麗に滑れるなんて…」
「だって、私はバレエもしてるし、フィギュアスケートは好きな競技だから
大体、解るもの。」
「でもすごく気持ちよく演技出来たの、最高よ!!」
頬を紅潮させて喜悦の顔を見せるオデット。
そんな彼女の顔を見て、自分も嬉しさを感じる。
「最高の賛辞の言葉ね、ありがとう。」
「私、ミスしないように頑張るわ!!」
「その意気よ。頑張って!!」
「ファリアもだけど、みんなも応援してくれるんだもん、
自己最高得点を出せるよう頑張る!!」
「期待してるわ★」
ファリアはリチャードが試合に臨む時を思い出していた。
彼にも激励の言葉を贈っていたことを。
アスリートにとってどんな言葉が必要か、解っていた。
*****
―――本戦
オデット=ボーヌ選手は可憐なスケーティングで高得点をマーク。
ファリアに言ったように自己最高得点を出す事が出来た。
無事に本戦は2位で終われた。
少しだけ悔しい思いをさせられた相手は日本人選手。
わずか1.2ポイントしか点差がなかったから。
最終日、エキシビジョンが行われる。
生演奏で演技するのはオデットとシングルの男子選手の二人のみ。
ファリアはオデットと一緒に控室にいた。
いつものメンバーは会場で見守る。
オデットもファリアも白い天使をイメージした衣装をまとっていた。
リンク上にスタートのポジションにつくオデット。
彼女の動きに合わせてピアノの音が響く。
丁寧な、そして優しい音を紡ぐ。。。
ノーミスでエキシビジョンを終える事が出来たオデットに
会場が揺れる程の喝采が贈られる。
それはオデットだけではなく、
演奏したファリアに対しても感動した観客たちの狂喜から。
このことはその夜のスポーツニュースのトピックになるほど。
to -16-
_______________________
(2016/06/28&29)
to Bismark Novel
to Novel
to home