away -11-
土曜日のファリアはなかなか忙しい。
午前中はヘアサロン&ネイルサロンのハシゴ。
昼は料理教室で過ごし、夕方はバレエ学校でのレッスン。
終わるとアパルトメンに戻るが、
基本的に夜はパーティに参加。
社交界仲間か学校の友人たちの集まりに。
もしくはオペラ鑑賞とかコンサートに行ったりしていた。
日曜は朝から協会へ礼拝に。
それが終わってやっと予定のない時間。
だから、その日に本を読んだり、映画を観たり、美術館に行ったり…
たまに友人たちと遊びに行ったりしている。
いつもリチャードの事を思い起こすのは夜の寝る前……
日記をつけながら、写真に向かって話しかける。
その日あった事を報告していた。
*****
子猫の話をもらった翌週の水曜の朝、シャルロットから電話が来た。
「今朝、生まれたわ!! 5匹の子たちよ。 時間出来たら見に来て!!」
ファリアは学校が終わると早々にメトロに飛び乗った。
スフェ―ル邸を訪ねるとメイドが出迎えてくれた。
エントランスホールで顔を合わせたのはシャルロットの母の伯爵夫人。
「あら? マドモアゼル・ファリア。 お久しぶりね。」
「こんにちは、伯爵夫人。ご無沙汰しておりましたわ、近いのに。」
「ホントね。今日は子猫の事でかしら?」
「はい、今朝、シャルロットから電話をいただいたので。」
「あなたが一番のリよ。 さ、こちらにいらして。」
「はい。」
居間の片隅にいたシャルロット。
母猫と仔猫5匹の様子を見ていた。
「シャルロット。マドモアゼル・ファリアがいらしたわよ。」
「一番ね、ファリア。」
「そうみたいね。で、どんな感じ?」
「ここにきてv」
ファリアが丸いくぼんだクッションを覗きこむと、
生後間もない仔猫たちが母猫のお乳を懸命に飲む姿。
「可愛い♪」
「でしょう?」
ミルクを飲み終えたのか、
おぼつかない足取りの仔猫がに〜と啼いている。
「すっごく可愛い。ホントに産まれたての猫を見るの初めてだわ。」
「そうなの?」
ファリアが初めてというのを意外だと感じた。
「えぇ、うちで見た事あるのって…
ウェルッシュコーギーとビーグルとスコティッシュテリア、シェットランドシープドッグ。
祖父や父の飼っていた犬たちと厩舎にいたサラブレッドの馬の2回くらいね。
何故か猫はうちで出産してなかったから。。。。
私が6歳の誕生日の時に猫が欲しいって言ったら
生後1カ月くらいの薄いグレーのスコティッシュフォールドの仔だったんですもの。」
「そうだったんだ。…じゃ、やっぱ渡すの来月で良い?」
「もちろん。その仔の寝どことかご飯とかおもちゃとか
身の回りのもの、揃えなきゃね♪」
「鑑定書、いる?」
「え?」
「うちで産まれたけど、ちゃんとブリーダーさんにお世話になってるし。」
「そうなの。 一応、お願いするわ。」
「で、どの子にする?」
5匹の仔猫を改めて見てみる。
5匹とも違う毛並み。
「そうね…」
母猫から離れ、ヨロヨロと歩いてくる黒い子。
目が開いていないのも愛らしく見える。
にーにーと可愛い声。
「触って大丈夫かしら?」
「良いわよ、そっとね。」
ファリアがそっと抱き上げてみた。
まだ啼いている仔の毛並みを撫でる。
「この仔おなかは白いのね、しかもソックス猫?」
なんだか、目に焼き付いているリチャードのプロテクトギア姿がだぶって見えた気がした。
「私、この仔にする。」
「早くない? 他の子、見ないの?」
「いいの、この仔がいいの!!
んと、女の子ね…」
思わず性別を確かめていた。
にゃーにゃーと少し啼くけど、抵抗しないのを見てとるファリアとシャルロットとスフェ―ル伯爵夫人。
「じゃ、この仔で決まりね。」
「えぇ、よろしく♪」
「解った。ファリアの予約確定ね。」
そこにジュリエットがメイドに連れられ、やってきた。
「あ〜!? ファリア、もう来てたのね。」
「そうよ、もう決めちゃったわ★」
「早いわね。」
そう言いながら近づいてきたジュリエット。
5匹の仔猫をみて。狂喜の声。
「うわ、可愛い〜♪」
「でしょ? でも、この仔はファリアの仔よ。」
黒い仔猫を指して言う。
「そうなんだ。じゃ、こっちの仔たちからね。」
ジュリエットも吟味の結果、淡いキャラメル色の仔に決めた。
ファリアもジュリエットも決めた仔の写真を携帯のカメラで撮っていた。
***
応接間に移動し、お茶する3人。
「名前、どうしようかな〜?」
「そうね、迷うところよね。」
ファリアも色々な単語を頭の中で巡らせていた。
ふと思い出したのは彼のチームの名「ビスマルク」
しかし、女の子だから鉄血宰相な名は…と思い、違うのを…と思っていて
ふとひらめいた。
"vis"
フランス語でネジと言う意味だけどラテン語なら力(ちから)と言う意味。
男の子っぽいかなと思いつつも、言葉の響きが気に入った。
―――ヴィス… うん、良いんじゃない?
思いついて、つい笑顔になる。
その彼女の顔に気づいたのはシャルロット。
「あ、ファリア、なんかいいの思いついたな?」
「えぇ。ヴィス …visって書くの。 フランス語ではネジって意味だけど、ラテン語だと力(ちから)って意味。」
「へ〜、やっぱラテン語とかなのね。」
「そうよ、言葉の意味って大事よ。」
「そういや、ファリアはなんでfaria? 珍しいわよね、英語圏で。」
「良く言われるのよ、それ。
父がね私が生まれた時、"妖精のように可愛い!! しかしフェアリーfairyじゃなぁ…"って。
だからfairyをもじったんですって。」
「へ〜そうなんだ。」
「ちなみに洗礼名はローザ(rosa)。
ミドルネームはクリスタ(crysta)だったりするんだけど、ほとんど使ってないわ。」
「私もよ、あるけど、使ってないわよ。」
「やっぱり、そうよね、そういうものよね。
たまに親戚に呼ばれてびっくりしちゃう。」
くすくすと笑いあう乙女たち。
「う〜ん… そうね、そっか、逆に英語名でもアリか!!」
突然叫び出したジュリエット。
「何思いついたの?」
「アンバーamber!! 琥珀色!! 毛並みが薄茶だし、それっぽくていいかなって…」
「可愛いじゃないv」
3人の乙女は仔猫の名付けで盛り上がっていた。
***
しばらくスフェ―ル邸に通う、ファリアとジュリエット。
仔猫の育ち具合を見守っていた。
よちよち歩きが少しずつ、立ち上がり。閉じていた目が開く。
ファリアの選んだヴィスは金の瞳。
ジュリエットが選んだアンバーは青の瞳。
「どっちも可愛いわね♪」
「そうね。ねぇ、あとの3匹はどうするの?」
問われたシャルロットが指さす。
「この仔…グレーのこの仔がうちに残って、あとの2匹は母の友人たちが引き取ってくれる引き取ってくれるの。」
「そうなんだ。良かったわね、引き取り手が見つかって。」
「えぇ。」
3人の乙女は優しい笑顔を合わせていた。
「ねぇ、今日もうちでディナーしない?」
「今日も?! これで3日目よ。
さすがにご迷惑でしょ?」
ファリアの言葉にジュリエット。
「大丈夫よ。今日は父も兄もいないし。」
「そうなの?」
「だから、全然平気よ。 むしろ大歓迎!!」
二人して顔を合わせる。
「そう言う事なら…」
ファリアとジュリエットは自宅に電話を入れる事に。
3人の乙女とスフェ―ル伯夫人の4人でのディナーを過ごす。
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(2015/07/02+11/20&2016/01/11&3/5&6)
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