away -10-


校内コンクールも終わり、落ち着いた日を送る。

例の社交界の友人たちと遊んだり、学校の友人たちとも交流を深めていた。


そんなある日。

ジュリエットがパーティに遅れてきた。

「ごめ〜ん!! みんな!! うっかりしてて…」

慌ててきたせいか、せっかくのドレスが綺麗に着れていない。

ファリアは見かねて、直してあげる。

「別に大丈夫よ、少しくらい。
レディは色々と忙しいものよ。
何か用事でしょ?」

「あ、うん。…ありがと、ファリア。」

ドレスを直してくれている彼女に礼を言う。

「まさか男とデートでもしてた??」

アリスからたわいのない突っ込み。

「違うの〜 子供の頃、少しやってたバレエなんだけど、
運動不足解消と体型維持のために行き始めたの。
少しドレスのサイズがヤバくてさ〜」

まわりの女性陣からの視線を感じる。

「あら、そうなの? へ〜…」

確かに、お茶会でいただくお菓子、
パーティで出る食事もお酒も多少、高カロリー。
つい食べ過ぎてしまうお年頃の乙女たちは妙に納得。

「あ。そうね。私も行ってみたいな〜。」

ファリアの発言に回りはどよめく。

「え?! ファリアが!? 行く必要ないでしょ?」

周りの女子の中で一番小柄で華奢なファリアが応えていた。

「だって、基本、ピアノの前に座りっ放しなんですもの。
学校行く時は車で、帰りは地下鉄。帰りもたまに車だし
パリに来てから乗馬もしてないから…
明らかに運動不足よ。」

「でも…バレエの経験は?」

ジュリエットが聞いて来た。

「幼い頃…3歳から13歳までバレエ学校に行ってたわよ。
一応、三羽の白鳥とかロシアの踊りとか…オーロラ姫とオデットは踊った事あるわ。」

「めっちゃ経験者!?」

「そうね。だから紹介して下さらない?」

「いいわよ。」

納得したジュリエットとファリアの間で話は決まった。

「ありがとう。で、次はいつに行くの?」

「来週の金曜の17時よ。」

「…うん、大丈夫。スケジュール空いてるわ。」

「じゃ、一緒に行きましょ。」

「えぇ。 …それまでにトゥシューズとか用意しなきゃね。」

アリスや他の乙女たちが目の前の展開にあっけにとられている。

「マジで?! 行くの?」

「は〜…マジで凄いね、ファリア。多忙じゃない?」

「そう?」

「来週の昼から夕方は私と料理教室でしょ。
そんなに毎日忙しくて、大丈夫?」

シャルロットに心配げに声をかけられる。

「大丈夫。ひとりでいるのが淋しくて。
何かしていないと、つい思い出しちゃうから。」


周りにいた乙女たちはスケジュールを入れまくっている理由を察した。
宇宙にいるというリチャードと言う恋人の事。
何かしていないと辛いのだと。


「来週は料理教室の後、社交界のパーティよね? ホントに大丈夫?」

「大丈夫よ★」

満面の笑みに回りは何も言えずにいた。



「は〜…それだけファリアに愛されてるって彼、幸せモノよね。」

ジュリエットたちは顔を合わせてうなずいていた。

「そう??」



******

 その頃

リチャードはデスキュラ星人たちが侵攻しているガニメデ星で
進児・ビル・マリアンと戦いの日々を送っている。


******

―そして土曜の夜

パーティはフランス人デザイナー・クロエ=バリエール夫人のバースディパーティ。
ジュリエットの父であるシデル伯爵が顧客なので招待されていた。

ファリアはジュリエットに誘われる形での参加。

事前にバリエールのドレスを買っておいて、それを着ていく。

黒のシンプルなベアトップドレスだが、切り替え方が斬新でシルエットが珍しい形。
アクセサリーは控えめにしておく。
ヘアセットはめったにしない夜会巻き。

「似合うわね、ファリア。」

「ありがとう、ジュリエット、あなたも似あってるわ♪」

「そう??」

グラスを持って、微笑み合う乙女たち。


大勢のパーティ客の中をマダム・クロエは回っていた。
今日、来てくれた事に感謝するために。

60歳になるというのに若々しく、スタイルもいい。
勿論、自分のデザインのドレスをまとっている。
ひとりひとりに挨拶して回る。

「あ。シデル伯爵家のジュリエット様。
よく来て下さったわ。ありがとう。」

「こちらこそ。ご無沙汰してしまって…
今日はおめでとうございます。マダム・クロエ。」

久々に会う二人は頬にキスを交わす。

ジュリエットの隣に立つ黒髪の乙女にも声をかける。

「あら? 初めての方ね。
私の作ったドレス…凄くお似合いだわ。」

にっこりとほほ笑みファリアは挨拶する

「初めまして、マダム・クロエ。
私、ジュリエットの友人のファリア=パーシヴァルと申します。」

その名を聞いて、一瞬驚くがすぐに微笑む顔になる。

「まあ、英国上流貴族の方ね。
お越しいただいて、嬉しいわ。」

「こちらこそ、こうしてお会いできて光栄です。」

「ごゆっくりしていってね。」

「はい。ありがとうございます。」

マダムは微笑んで、次のお客へ挨拶をしに向かう。



挨拶と社交辞令の会話ばかりが続くパーティではあったが
ファリアはそれなりに楽しんでいた。

社交界とはこういうところだと。



******

 11月の初冬のパリ
 生活に慣れたころ…

 そんな頃にファリアの下に意外な訪問者

 アパルトメンに帰宅した彼女を出迎えたのは 久しぶりに会う弟。

「って、え?! アリステア? 何時来たの??」

居間のテーブルでお茶とケーキを楽しんでいた、制服姿のアリステア。

「今日のお昼に来たんだよ。」

「何でいるのよ?」

姉弟が会話をしている中、メイド頭が紅茶を入れ、テーブルに置く。
ファリアは弟の前のソファに腰かけ、ティーカップを手に取る。

「…あれ? 僕がパリ入りするって聞いてなかった??」

「聞いてないわ。」

「マジ? フェンシングのヨーロッパ選手権、来週からなんだけど。」

「それは知ってるわ。 でも合宿所でしょ?」

「そうなんだけど。 ちょっと抜けさせてもらったんだ。
姉様の顔を見に来た。
それに母様たちに姉様に渡してくれって荷物預かってきたんだよ。」

「そうだったの。配達させてごめんね。 忙しいのに。」

「いいよ。僕、姉様に逢うの姉様の誕生日以来だからね。」

「確かにそうね。」

そう言った弟の手から大きな紙袋を渡された。

中身はロンドンの邸のシェフ製の焼き菓子とジャム。
それと母と祖母からの外国土産たち。

祖母も母もいつも国外にいる事が多かったので
いつものこと。





2カ月ぶりに会う弟は成長期まっただ中の14歳。


「そういえば、また身長伸びたんじゃない?」

「うん。今、164pだよ。」

「そうなの…私より高くなったのね…」

「へ?! 姉様って今、何センチ?」

「私、162p。 どうやら止まったみたい。」  

「リチャードさんは…180p越えてたよね?」

「そうね。彼もまだ成長してるかも。」

「う〜ん…ランスロット公はちょっと大柄だけど…
メアリ夫人はそうじゃないから、もう止まるんじゃない?」

「彼が帰って来てくれないと、解らないわ…」

「そうだね。一日でも早く帰ってきて欲しいなぁ、僕も」

「え?! アリステアもなの?」

「そりゃそうさ。なんてったってリスペクトしてるんだからね。
それに未来の兄上だし。」

一瞬、頬を染めたファリア。

「ま、まぁ。彼を目指して、頑張りなさい。」


「に、にしても、姉様。なんか綺麗になったね。」

弟の率直な言葉にちょっと嬉しくなる。

「そ、そう?」

「やっぱ、パリに来て正解なんだよ、ロンドンにいるより。」


姉弟は数カ月に一度しか会えなくなっているので、
居間でお互いの近況報告会を始める。

姉は高等音楽院とパリで出会った仲間との友情と社交界の事を。

弟はイートン校での寮生活や勉強の事、友達の事。
ぼちぼち大学進学準備をする事、馬術やフェンシング大会の事を。

話は尽きず、弟は合宿所には戻らずに、アパルトメンに泊る事にする。


「あ。そういえば…今夜は…」

「ん? 何か都合悪いの?」

「そうじゃなくて、ジュリエットとシャルロットと3人でディナーの約束が…」

「それを都合が悪いって言うんじゃないの?」

「そうとも言うわね。二人には悪いけど、キャンセルするわ。」

今日だけは友情より弟を優先したかった。

「ね、姉様。僕も連れて行ってくれない?」

突然の弟の申し出に少々驚く顔をした。

「え?? 私と同い年のレディ二人よ。大丈夫?」

「そんなこと言っていたら、大学なんて行けないよ〜。
そもそも、今だってほとんど年上だよ、僕の周り。
それに興味あるんだ。 リズさん以外の姉様の友達。」

確かにそうだと思えたファリアは一瞬考えた。

「ちょっと待ってて、電話してみるわ。」

自分の部屋に戻って、携帯電話を取ると今回の幹事のシャルロットにかけた。

「アロー。 シャルロット?? 今、大丈夫?」

「ん?? どうしたの? 大丈夫よ。」

ファリアの口調がいつもと違ったのを察した。

「実はね、急に弟がパリに来ちゃったの。
で、今夜のディナーに同行させてもらっていいかしら?」

「ファリアの弟?! 一度、逢ってみたかったの!! ぜんぜんOKよv」

シャルロットの答えにほっとした。

「ありがとう、シャルロット。じゃ、連れていくわ。
ドレスコードのレストランだったわよね?」

「えぇ、そうよ。弟君に会えるの楽しみ〜♪」

「じゃ、あとでね。」

「えぇ。」

通話終了させると弟の居る居間に戻って、弟に告げる。

「OKですって。あっちもアリステアに会ってみたかったんですって。」

「そうなんだ。」

「ドレスコードのレストランだから、タキシードかスーツでね。」

「もちろん。タキシードは持ってるよ、いつでも。」

「そうだったの??」

「うん。いつどこでそういった場に行くか解らないから、
常に持ってなさいって父上が言ってたんだ。」

「なるほど。そういうことね。」

弟は未来の公爵。

突発的に公の場に立つ事になるかもしれない事を考えると
父のアドバイスは正しいとファリアは思えた。

目が合うと、くすっと微笑み合う姉弟。



***

予約時刻より早めに ビリアルデという、最近三ツ星になった高級レストランへ車で向かう。

姉・ファリアはミモザ色のカクテルドレスにショールを纏う。
髪は編みこみで結い上げてみたので、白いうなじがセクシーに見えた。

弟・アリステアは黒のタキシード。
姉がハイヒールなので少しだけ背が低く見えた。


レストランのエントランスホールで待っていると、
シャルロットがラベンダー色のカクテルドレスでやってきた。
手を振って近づいてくる。

「Bonsoir!! ファリア!! そっちが弟さん??」

「そうよ。弟のアリステア。14歳よ。
アリステア、こちらはシャルロット=スフェ―ル男爵令嬢。」

年長のシャルロットから手を差し出す。

「初めまして、アリステア君。シャルロットです。よろしく。」

「こちらこそ、姉がパリに来て色々お世話になっているようで。
よろしくお願いいたします。」


シャルロットは弟の事は話を聞いていたので、
もうちょっと体格のいいスポーツマンタイプの男の子かと思っていたが違っていた。
彼女と同じ黒髪で思っていたより華奢な感じの美少年。
同じ空気を纏っているので姉弟だとすぐに解る。

そこへジュリエットもやってきた。

彼女はローズカラーのイブニングドレス。
開口一番、謝ってきた。

「ごめん!! やっぱ、私が最後か〜
って、その子がファリアの弟?」

「ジュリエット。そうよ。これが私の弟のアリステア。
アリステア。こちらはジュリエット=シデル伯爵令嬢よ。」

シャルロットの時と同じように挨拶をする。

「初めまして、よろしくねアリステア君。」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


姉弟して、綺麗なフランス語を話すものだと二人は感心していた。

「そろそろ席に行けるみたいよ。」

シャルロットのの言葉の直後、ギャルソンが来た。


美しくドレスアップした乙女3人とタキシードの美少年が1人と言うグループは少々目立っていた。

4人とも、上流階級の人間だと、一見して解るほど。

席に着くとき、シャルロットのために椅子を引くアリステア。

「あら?いいの?」

「はい、勿論。」

ファリアとジュリエットは店のギャルソンに引いてもらっていた。


席に着くと開口一番シャルロットが口にした。

「アリステア君って、やっぱり紳士の国の人よね。」

「と、言うか…父や祖父に叩き込まれています。」

「ぷっ、そうなんだ。」

シャルロットとアリステアの会話をほほえましく感じ、ファリアもジュリエットも笑顔になる。

ワインで乾杯する4人。

アリステアは最初の1杯だけで、あとはソフトドリンクをオーダー。




「申し訳ありません、突然参加で、姉にわがまま言って、連れてきてもらって。
お邪魔じゃなかったですか??」

二人に頭を下げる少年。

「あら。そんなことしなくて、いいのよ。ね、ジュリエット?」

「勿論よ。 ファリアの弟君て、興味あったの。
まだ14歳って事はイートン校?」

ジュリエットがアリステアに問いかけると綺麗な亜麻色の髪が揺れた。

「はい。普段は寮に。」

「大変ね〜。」

親戚の男の子も在学していた事があるので、寮生活の事は多少知っていた、ジュリエット。

「でも、来年か、再来年には大学へ進学する予定なんです。」

「もう?」

「はい、頑張って単位取得しているんです。」

「そうなんだ。凄いね。」

「いえ、僕なんてまだまだです。
姉の許婚のリチャードさんに比べたら…」

「あら? ここで噂の彼氏の話、出ちゃうのね?」

「勿論です。 僕にとって、リチャードさんは憧れなんです。」

ジュリエットはファリアに向き直って、語りかける。

「凄いじゃない、ファリア。 弟が憧れてるって。」

「最近からよ。」

「そうなの?」

「そうよ。幼い頃はアーチェリーに夢中だったのに…
ここ2,3年でフェンシングと馬術に目覚めちゃって、
何でかしらと思ったら、イートン校に入った途端、
リチャードの偉業に憧れて始めたんですって。」

ファリアの説明的な話にアリステアは続ける。

「今日、パリ入りしたのも、来週から始まるフェンシング選手権に出るためなんです。」

「「??!!」」

シャルロットもジュリエットも瞠目する。

「本当に?」

「はい。
リチャードさんにはまだまだ及びませんけど…。
サーベル技術はリチャードさんって世界一だから。」

「え〜!? そうなの、ファリア??」

「え、えぇ、そうよ。彼、15歳、16歳、17歳と3回優勝してるもの。」

「は〜、マジで凄い人なんだ、ファリアの彼。
オックスフォードも既に卒業して、フェンシング強くて、…
そりゃ〜地球連邦も目をつける訳だわ。」

ジュリエットのため息混じりの言葉に返したのはアリステア。

「そうなんですよね。
優秀すぎて、今に至ってるんで。
姉は嬉しさ半分、淋しさ半分って感じですかね?」

そう言って、ファリアの顔色をうかがうアリステア。

弟の言葉に淋しげな表情になる。

「そうね。アリステアの言う通りよ。
彼が勝負に勝つのは嬉しかったけど、まさかこういうことになるなんて
思いもしなかったから。」

「ごめん。姉様。…思い出させてしまって。」

「ううん、いいの。
毎日、リチャードの写真に話しかけてから寝てるもの。」

3人は彼女の心情を察した。



「あ〜…ダメダメ。こういう空気!!
さ、食べましょ、飲みましょ!!」

ジュリエットがその場の空気を払拭しようと手を叩く。

「ごめんなさい、みんな。
明るいお話しましょ。」

ファリアが少し明るい顔で返してきたので安心した。

「あ。そうそう、家の飼い猫がね、もうすぐ子猫を産みそうなんだけど、
良かったら。1匹ずつもらってくれない?」

「え?猫?」

「そう。うちの猫、ノルウェージャンフォレストっていう、長毛種なんだけど。」


切り出したシャルロットがジュリエットとファリアに問いかける。


「いいわよ。」
「うちも。」

二人して、あっさりと了承の返事。

「マジで、いいの?」

「今のアパルトメンにペットがいないから、スコットランドの城から連れてきてもらおうかな?っと思ってたけど、
私の猫、もう12歳だし、無茶はさせられないから、どうしようかと思ってたところなの。」

ファリアは本気でそう思っていたので、正直、嬉しい申し出。

「うちも。去年に老衰で亡くなったのよ。だから全然、OKよ♪」

明るくシャルロットも返す。
去年の夏、辛くて悲しくて7日ほど泣いて過ごしていたことを思い出す。


「ねぇ、姉様。父様に許可、いるんじゃない?」

「ま、それはそうだけど。
アモルの事もあるし、大丈夫でしょ。」

姉弟の会話に疑問符が浮かんだ、シャルロット。

「ね。アモルって?」

「スコットランドの城にいる、6歳の時に誕生日プレゼントで貰った猫なの。
スコティッシュフォールドで12歳になる雌猫の名前よ。」

「えっと、アモルって"愛"って意味のラテン語?」

「そう、私が付けた名前なの。」

「ホントに? 6歳でラテン語の名前つけるって凄いね。」

「そう? 家庭教師もいたものね、アリステア?」

メインディッシュのステーキ肉を口に運びながら、アリステアは応える。

「うん。僕も姉も3歳くらいから家庭教師、いたもんね。」

「そうね。」

二人の返答にジュリエットとシャルロットは顔を合わせた。
傍らでアリステアは食事にやや夢中。

「パーシヴァル家って、家庭教師つけるの早いよ。」

「そうなの?」

「「そうよ。」」

乙女が二人して、同じ答え。

「普通、5歳くらいからじゃないの? それまでは大体、乳母よね?」

シャルロットからジュリエットに問いかけの言葉。

「そうそう。」

ジュリエットとシャルロットに言われ、初めて気づいた姉弟。

リチャードもそうだったと、ファリアは聞いていた。

「私たち…気付いたらいたわよね。乳母も家庭教師も。」

「うん、姉様。」

「どんな事の家庭教師だったの?」

「えっと、科目的には英語、フランス語、ラテン語でしょ。
それからあと、歴史と地理。
…音楽と美術は祖母から…
生活の上でのマナーとかは祖母と乳母と家庭教師ってところかしら?」

「うん。そうだね。」

「私と弟が5歳離れているから、私がプライマリースクールに入学した頃から、
引き続いて教えていたわね。」

「うん。アレシア先生、厳しかったけど、優しかったね。」

「そうね。」

姉弟は自分たちを教育指導してくれていたアレシア=リンフィールド先生を思い出していた。
優しく厳しく美しかった家庭教師を。


ファリアとアリステアの会話を聞いて、ジュリエットたちは感心していた。

「二人ってやっぱり、凄いわ。」

「え?そう?」

「知識教養って一日で身に着くモノじゃないし。
幼い頃から教わってるんだもの。
そりゃ、ファリアは音楽の才能で、今はこうだし。
アリステア君だって、14歳でイートン校でさらに大学進学。
素晴らしいことね。」

「私たち、普通に貴族の家で大学生だもんねぇ。」

ジュリエットとシャルロットが本音で呟くように言う。
そこへファリアが珍しく突っ込んでいた。

「でも二人ともソルボンヌ大学じゃない。
私に言わせれば、そっちの方が凄いわよ。」

今度はアリステアが驚く。

「お姉さま方、ソルボンヌ大学の学生なんですか?
憧れちゃいますよ。」


姉弟に褒められ、照れるシャルロットとジュリエット。

「一応、現役で受かって在学中とはいえ、サボりがちなのよね〜。」

シャルロットの発言に意見するファリア。

「ダメよ。せっかく大学に在学してるのに、もったいない。遊んでばっかりじゃ。」

「そうね、ファリアとアリステア君を見習って、頑張ってみるわ。」


二人とも激励され、微笑んで見せた。

「シャルロットとジュリエットの未来に乾杯!!」

ファリアがグラスを持つと、乾杯しようとする。

「それとアリステア君の優勝を願って!!」

ジュリエットがさらに続けた。

グラスのいい音がその場に響く。


「ありがとう。姉様、シャルロットさん、ジュリエットさん!!
頑張るよ、僕。」

4人は楽しいディナータイムを過ごす。




*****


姉弟が迎えの車でアパルトメンに帰ったのは夜10時前。

アリステアはすぐ、シャワーをして寝た。


ファリアは自室に着くと、早々に父の携帯を鳴らしてみた。
ロンドンはまだ夜9時前。

「ファリア? どうした?こんな時間に? 何かあったのか?」

少々心配げな父の声が出た。

「こんばんは、お父様。 今、お話して、大丈夫ですか?」

「あぁ。」

「今日、アリステアがアパルトメンに来ました。」

「…そうだったな。」

「私。聞いてなかったから驚いちゃったの。」

「あ…? 知らせてなかったか?」

「えぇ。その事はいいんですけど、別件でご相談があります。」

「何だ?」

「友人のシャルロットが子猫をくれるというお話で、1ヶ月後くらいにはなると思いますけど、いいですか?
アモルは城からパリに来させられないですし。」

話を聞いていた父が、一瞬黙って考えているのを電話越しに察した。

「ダメ…ですか?」

「なんで1ヶ月後なんだね?」

「もうすぐ産まれそうだということで。」

「!? まだ母猫の中なのか?」

「はい。今週中には産まれそうだという事で。
品種はノルウェージャンフォレストですって。」

「ほう。長毛の猫だな。」

「えぇ。」

「まぁ、いいだろう。 ちゃんと世話してやるんだぞ。」

「勿論です。ありがとう、お父様。」

「構わんさ。
アリステアに試合、頑張ってくれと応援しているからと伝えておいてくれないか?」

「はい。解りました。明日、合宿所に向かうそうだから伝えておくわ。」

「では、な。 おやすみ、ファリア。」

「はい。おやすみなさい、お父様
お母様にもよろしくお伝えください。」

「あぁ。」


通話を切ると、ドレスを脱いで、シャワールームへと向かう。




*****

 ―次の日の朝は土曜


アパルトメンの食堂で朝食を一緒に摂る姉弟。

「昨晩ね、お父様に電話したわ。」

「何て、言っていたの、猫の事。」

「OKもらったの。」

「良かったね、姉様。」

「えぇ。それとね、お父様が" 試合頑張れ、応援しているぞ" って伝えてくれって
おっしゃっていたわ。」

「うん。
頑張るよ、僕。」

姉より2倍の食事をして、満足げな弟。

「さて、僕の休暇は終わり。
合宿所に行ってくるよ。」

「そう、いってらっしゃい。
予選から勝ち抜けたら、本戦の応援に行くわよ。「

「え? ホント?」

「本当に。 パリ大会なんだもの。すぐに行けるわ。」

「ありがとう、姉様。」



弟は大きなスーツケースとバッグを手にアパルトメンを後にした。
メトロで合宿所に。

家の車を出させると姉は言ったが、いいと断られてしまった。


予選は無事通過。

本戦に勝ち進んだ姿を姉と友人たちが観に行く。


しかし結果は… 
入賞する事は出来たが、準優勝。


今回の優勝はヒューだったので
妙に納得したファリアがいた。









to -11-

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(2015/04/30+11/20&2016/01/11&03/05)









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