away -7-


―朝

朝食を済ませ、身支度を整えて、学校へと向かう。
行く時は自宅の車で送ってもらうが、帰りは地下鉄で帰ることにしている。



午前中の授業を終え、食堂へ向かう途中、
ベンチで溜息をついて凹んでいる様子のクラスメイトの姿が目に入った。

気になったファリアはつい声をかける。

「大丈夫?ムッシュウ?」

伏せていた顔を上げる男子生徒。
目の前には黒髪の乙女。

「あ…マドモアゼル・パーシヴァル。」

力ない返事を返してきたのは20歳になるユーゴ=ド=ラザリュス。
いつもは凛々しく、力強く精悍な感じのフランス貴族の青年。
ハニーブロンドのロングヘアを後ろで一つに括っている。
いかにも音楽家的容姿のラザリュス。

「君に話しても…」

絶望感が彼を包んていると感じたファリアは優しく問いかける。

「解決できないかもしれないけれど、
話してみるだけでも気持ちが楽になるんじゃないかしら?」

穏やかに聖母のように語りかけた。

「…実は 来週の学内コンクールなんだけど、君もエントリーしてるだろ?」

「えぇ。」

「伴奏を頼んでいたヴァイオリン学科の友人がバイク事故で怪我したって。
…命に別条はないらしいんだけど。
伴奏できなくなった、ごめんって連絡が来てね。
バイオリン学科の友人何人かに声をかけてみたんだけど、
みなスケジュールが合わなくてさ。
せっかく予選を突破したのに、これじゃ出場辞退かなって。」

はぁと大きなため息をつくラザリュス。

そんな彼の様子を見てファリアも考えを巡らせる。
自分は編入したてなので、選考委員の先生にチェックされた上でエントリー。
伴奏のない曲で出場する事になっていた。

彼の心情が痛いほどわかってしまう。

「そう…そうだったの。曲目は??」

「これなんだけど。」

譜面を出してきたラザリュス。

一見して何の曲か解る。

「この曲なら…私、バイオリンで伴奏出来るわよ。」

「…え??」

思いがけない彼女の言葉に眼を丸くする。

「私でよければ、伴奏を引き受けるわよ。」

「でも、君も出るじゃないか、ピアノで。無理だよ。」

それでもファリアは下がらない。
こんなとこで性格が出た。

「そんなの、やってみなければわからないじゃない。
私の方が出番も早いし、順番が続いていないから大丈夫よ。
って、いうか、あなたが納得しなければ何の意味もないわよね。」

「そうだよ、それに君に負担だろ? いいよ。僕、出場辞退するから。」

彼女の負担を考えて、ラザリュスはなんとも言えない顔になっていた。

目の前の彼がこれまでの努力を無にするのを見ていられない。
彼女にしては珍しく声を大きくして告げる。

「あきらめちゃだめよ、自分が怪我したわけでもないのに。
伴奏してもらうはずだった方もそんな事、望んでないと思うわ。

とりあえず、一度、音合わせしてみましょ。
それから決めればいいわ。」

自信を持った彼女の提言にラザリュスは圧倒されていた。
華奢で頼りなげな花のようなファリアに。

「解った。とりあえず、だね。」

「えぇ、その前にランチに行きましょ。力つけないと。」

にっこりとほほ笑むファリアにラザリュスは目が離せずにいた。



二人で食堂へと…

ピアノ学科の友人たちが一つのテーブルに固まって食事していた。

「どしたの?珍しいツーショットね。」

「そう??」


二人も席について、食事する。

話題は次の学内コンクールの事ばかり。

ラザリュスはまだ暗い顔をしながらも、黙々と口に運んでいた。
味なんて感じないんだろうなとファリアは心中で察していた。
目の前が暗く淀んで見える世界。
自分も見てきたから解るのだと感じていたファリア。

彼女は彼の様子を気にしながらも、話題の中にいた。


ラザリュスが食堂を出て行くのを追いかけるようにして出ていく。


「ね、レッスン室に行きましょ。」

二人はピアノ学科のレッスン室へ。
途中、借りられる楽器が置かれている部屋へ立ち寄る。


ヴァイオリンはいくつも並べられていた。

彼女はひとつひとつ手にとって、弦を弾く。

「ん〜…コレかな??」

「どれも同じじゃないのかい?」

「違うわよ。作られた年代とか材質や弦の張り具合とかのコンディションがね。
…相性もね。」

「そうなんだ。マドモアゼルってピアノとヴァイオリン両方弾けるんだね。」

「と、いうか…物心つく前にピアノ・ヴァイオリン・フルートとハープとおばあ様に教えてもらっていたの。
あ、あとアリアもね。」

ラザリュスは思い出した。

「あ…そうか。君のおばあ様ってハーピストのアニー=グリフィズ=パーシヴァルだよね。」

「そうなの。おばあ様からは音楽や芸術を。おじい様からはチェスとビリヤードを叩きこまれたのよ。
二人とも暇人よね〜。」

「でもお二方の血を確実に継いでいる。って感じだね。」

「そうね。両親以上に影響受けてるわ。」


くすっと笑うファリアを目の前にして、心がざわめくのを感じたラザリュスがいた。





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(2015/04/14+08/27+09/07)

あとがき




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