away -3-
パーティは有名人・著名人も多く、めったに会えない人たちの交流の場でもあった。
セレブと言われても、スターと貴族では格が違う。
ここではあまり揶揄されないが。
そんな中で一番格上なのが王族の血筋。
今年はそういった理由でパーシヴァル公爵家令嬢であり、
英国王室外孫であるファリアが筆頭。
この場にいるすべての人たちが解っているので自分からは声をかけられないでいた。
ファリアの祖父・アレクサンダー=パーシヴァルことローレン卿が知り合いである
アメリカの政治家ベンジャミン=マクガイバー氏に声をかける。
「ご無沙汰しておりますな、Mr.マクガイバー」
「えぇ。何年ぶりですかね?」
にこやかに会話しているその相手は
数年後には米大統領と噂される敏腕の氏。
アレクサンダーは知人を介して、数年前にラスベガスとL.A.で会った以来。
「アニー夫人もお久しぶりで。」
「えぇ、そうね。」
お互いの夫人も笑顔で会話が弾んでいた。
「今回は孫娘にあたるファリア嬢のデビュー、おめでとうございます。」
「あぁ、ありがとう。孫のデビューを見られるのは一生に一度ですからな。」
「そうですね。いや、実にお美しいお嬢様で。」
「いやいや、そちらのシャーリー嬢もお美しくていらっしゃる。」
「いや、ははは。」
談笑はあちらこちらから起こっていた。
ファリアの父・パーシヴァル公爵と母・セーラ夫人は
招待されていたフランス大統領夫妻と何やら楽しそうに会話していた。
ファリア自身は…壁の花。
知り合いもいない中、溜息をつく。
パーティとはこういうものだと理解していた。
そして自分の立場を解っているからこそ、何も出来ずにいる。
軽率な行動はしないと心に決めていた。
令嬢たちの中には親たちが立場をわきまえて会話しているのに
そんな事に構わず、声をかける者もいた。
グラスを持って祖父たちを見ていたファリアに声をかける令嬢。
「ねぇ、あなた。英国王室の外孫なんですってね?」
いきなり声を掛けられて驚く。声の主は祖父の会話の相手、マクガイバー氏の娘・シャーリー。
「えぇ。あなたは…アメリカのマクガイバー家の方ね。」
パーティ参加者の名前と顔はすでに頭に入っている。
「そうよ。よくご存じね。」
相手の事はアメリカのゴシップ紙などで知っていた。
「それはもちろん。テレビや新聞などでお顔を拝見しましたわ。
写真より本物のほうがお綺麗ね。」
褒められて気分を良くしたシャーリー。
自分の美貌には多少なりとも自信は持っている。
金髪碧眼でグラマーとアメリカでの典型的美女ではあるが。
「あなたもそうよね。」
にっこりと笑顔で返すシャーリー。
「そうかしら…? 童顔だから18歳に見られないのよ。」
「確かに…」
思わず素直に返していた。
二人がくすっと笑いあうと、そこにさらに二人やってきた。
アメリカ 財閥令嬢 プリシラと映画俳優の娘・ジュディ。
「ずいぶん楽しそうね、シャーリー。」
「あ、お久しぶりね、プリシラ、ジュディ。」
3人は米国内でのパーティなどで知り合っていた。
プリシラはファリアを見て、挨拶する。
「そちらは… 英国のパーシヴァル公爵家の方ね。
よろしく、私、アメリカから来たプリシラ=ゴースよ。
こっちはジュディ=ドカール。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。
このような華やかな場に慣れてなくて…」
「そうなの? 英国貴族って、結構、場慣れしてそうな感じだけど…??」
堂々としたプリシラの問いにファリアはやや恐縮気味。
「あの… 私は学業を優先していて、
今回も母たちに連れてこられたようなものだから。」
「そうなんだ。何を学んでらっしゃるの?」
ジュディに問われる。
「ピアニストを目指しているの。」
「へ〜、そうなんだ。 ね、一曲聞かせてよ、ピアノあるし。」
ホールの一角で楽団が演奏している。
ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがが美しい音色を奏でている。
美しい旋律がパーティ会場を華やかに彩ってた。
「ピアノはあるけど…弾かせていただけるのかしら」
4人の令嬢が固まっていると、近づいてきたのは一人の紳士。
パーティの主催者の一人でもあるフランスの名士のフェルカート。
「どうかしましたか?お嬢様方?? 何か問題でも??」
スマートな老紳士の言葉に4人は振り返る。
プリシラがフェルカートに切り出してみた。
「あ、あの、こちらのパーシヴァル公爵家のファリア様のピアノ演奏を聴きたいな…
なんて話していたものですから。ダメですか?」
「あ。そういうことですか…なるほど。
確かにファリア様はロンドンの王立音楽院ピアノ学科所属で。
それにハープもなかなかの腕前とお聞きしております。」
「え? あ…祖母には足元にも及びませんけど。」
謙遜するファリアであるが 3人は眼を丸くする。
「ハープも弾くの??」
「えぇ。祖母がハーピストで、その祖母に幼いころから教えられてましたの。
ピアノ、ハープはもちろん、ヴァイオリン、フルートとあとアリアも。」
「すっごい音楽の英才教育ね〜。私たちなんて、小さい時にピアノを習ったくらいだもの。」
3人の令嬢とフェルカートはますます演奏が聴きたくなっていく。
「お嬢様方、しばしお待ちを。。」
フェルカートは令嬢たちを置いて、その場を離れる。
と、言うのも、楽団の演奏を止めてファリアのピアノ演奏をすることを相談しに行ったからである。
15分ほどでフェルカートが戻ってきた。
「ファリア様。楽団の演奏を一時中断することになりました。
こちらへどうぞ。」
「え? 本当に?」
「パーティにふさわしい曲をお願いいたします。」
「かしこまりました。」
3人に見送られ、楽団のそばへ。
演奏の区切りがいいところで止められる。
パーティの司会進行役のシモンズ卿がマイクで会場に告げる。
「パーシヴァル公爵家令嬢ファリア様のピアノ演奏をご披露していただくことになりました。
皆さま、拍手でお迎えください!」
アナウンスでまさかの出来事に驚くファリアの両親と祖父母。
慌ててピアノのそばに駆け寄っていく。
ファリアはフェルカートに手をひかれ、ピアノの前に。
お辞儀をして着席する。
いつもの緊張感と違う感覚を感じながら、
すうっと息を飲む。
ショパン「英雄ポロネーズ op.53」
軽やかに鍵盤に指を躍らせるファリアがいた。
演奏が始まって一番驚いたのは、スイス人ピアニスト パトリック=ルーディ氏と娘・ティナ。
その音色を真剣に聞いていた。
(この娘は…!!)
1音も外さない、正確かつ優美な演奏。
真摯な表情ではあるものの、どこか余裕があり、楽しげな顔。
紡がれる音も安定していて、彼女の力量を感じた。
曲を弾き終えるとすっと立ち上がりお辞儀。
顔を上げた彼女に惜しみない拍手が送られる。
「素晴らしい!!! ブラボー!!」
プロのピアニストも映画監督も映画俳優たちもみな、笑顔で賛辞を贈る。
ピアノから離れ、ホール内に戻るとも皆に握手や2ショット写真を求められる。
そんな光景を家族はもちろん、3人娘たちも見ていた。
やっと戻ってきたファリアにシャーリーが声をかける。
「お疲れ様〜。凄いわね!! 学生じゃなくて、プロの演奏みたいだわ。」
「ホント、ホントv」
最初にピアノ演奏をふった3人娘が口々に褒めている。
「聴いてくれて、ありがとう。プリシラ、シャーリー、ジュディ。」
「ううん、こっちこそ。素敵な演奏、ありがとうv」
4人の乙女たちは微笑み合う。
向こうでは再び楽団の演奏が始まっていた。
「あの…レディ・パーシヴァル?」
声をかけてきたのはピアニストであるパトリック=ルーディ。
今世紀のショパンと呼ばれているピアノ界の重鎮。
その顔を知る驚くファリアに言葉を続ける。
「いや、実に若いのに、素晴らしい演奏を聴かせてくれてありがとう。
君は…英国人と言う事は王立音楽院かな?」
「はい。そうです。
それに一時期、ウィーンに留学していました。」
ファリアは初めて会う、一流ピア二ストに褒められ、満面の笑みで答えていた。
「そうか… いい恋をして、いい演奏を聴かせてくれたまえ。」
「あ… はい。」
褒め言葉をと思っていたのに、少し憂いを帯びた顔での反応。
「あ。いかん事を言ってしまったかな? 申し訳ない。」
「いいえ。個人的な事です。申し訳ありません。」
謝るファリアを心配そうな顔でプリシラが問いかける。
「え… ファリアってば、恋人と喧嘩でもしたの??」
「いいえ、違うの…その…」
言い淀むファリアに4人は突っ込めずにいた。
そんな様子の娘に気づいた母が近付いてきた。
「どうかしたの??」
「あ、お母様。」
ファリアの母=王室王女と気づいて、周りにいた人たちは一瞬で居住まいを正していた。
「その…リチャードの事、どこまで話していいのかしら?」
「あぁ、そうね。国外の方はあまりご存じないものね。」
母娘の会話についていけない周り。Mr.ルーディが問いかける。
「…?? 一体、何ですかな?」
彼女の代わりに母が応えていた。
「娘の婚約者なんですが…地球連邦のルヴェール博士からの特命で宇宙に出てしまっているんですの。
特務のチームメンバーで戦いに。
いつ戻れるか解らないんですのよ。」
「「「「あ…」」」」
最近、15年ぶりに木星の衛星・ガニメデ星あたりに
異星人デスキュラが密かに侵略を始めてきたという報道が流れていた。
地球連邦が特務のチームを結成し、派遣としたという。
彼女の婚約者が特務のチームメンバーの一人なのだと思うと、
その場にいた4人は彼女の心情を察した。
「ごめんね、ファリア。思い出させてしまって。」
謝るプリシラにこたえる。
「ううん、いいの。大丈夫。
事実は事実として受け止めなきゃね。
それに母に言われたの。
"彼がそばにいない、今だからこそレディ教育を"ってね。」
笑顔で話すファリアに4人も少し安心した。
「だからパリで心機一転ってことになったの。しばらくはパリにいるつもり。」
「そうなんだ…」
「ね、しばらくいるってことは、また会わない?
私も2,3日はアメリカに帰らないし、一緒に遊びましょ。」
シャーリーがファリアに強請るように告げる。
「え? いいの? お友達になって下さる?」
「勿論よ!! 喜んで!!
そうなると…フランス貴族の娘も誘うわ。ちょっと待ってて。」
シャーリーがその場を離れる。
しばらくして戻ってくるとさらに二人の乙女。
連れてきたのはフランス貴族・伯爵令嬢のジュリエット=シデルと男爵令嬢のシャルロット=スフェ―ル。
「この二人、貴族でパリ在住なのよ。
スイスの女学校で一緒だった事もあって…」
シャーリーとジュリエット、シャルロットは学友だったと納得した。
ウェーブがかったプラチナブロンドを揺らし、握手を求めるのはジュリエット。
すらりとした長身の美人でいかにもパリジェンヌな容貌。
ボブカットで栗色の髪のシャルロットも同様に。
ジュリエットほどではないが、やはりモデルのように美しく、上品な雰囲気。
「あなたに会えて光栄だわ。レディ・パーシヴァル。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。パリには何度も来ているんですけど…」
「ずっとロンドンなんですか?」
ジュリエットが問いかける。
「今は王立音楽院に通っていますから、ロンドンの邸に。
それ以前はエジンバラの邸だったり、ハイランドの城だったりしてますの。
ウィーンに留学していた時期もありますから。」
「え〜!! 凄いわね〜。」
6人の乙女たちが和気あいあいと盛り上がっている様を見て
ファリアの母は微笑んでいた。
「まぁ、この娘はロンドン市内に住んでいても、あんまり自由に外出させていませんからね。」
周りにいた人たちは目の前にいるのが元王女とその娘だと思うと
その発言に妙に納得していた。
ファリアは親しくなった5人と連絡先を交換し合う。
様々な人との出会いを得て、パーティは終了。。。。。。。。
to -4-
_______________________
(2015/04/07+2015/07/12+07/26)
あとがき
今現在、フランス貴族って、リアルにはいらっしゃらないそうですね。
共和制になったら、そりゃないわな。
今は肩書とかだけみたいですね。
仏・貴族=日本の旧華族みたいな感じ?
to Bismark Novel
to Novel
to home