away -1-


― リチャード 出発の日


英国軍の空港の一角からチャーター機でスペースエアポートのあるアフリカ大陸へ向かうことに。

見送りには両親と祖父母、
婚約者であるファリアとその父・王室庁長官でもあるパーシヴァル公爵。
そして英国女王、首相、軍の官僚数人が居並ぶ。


「それでは行って参ります、陛下。」

「うむ。サー・ランスロット。
活躍を祈ってますよ。」

「かしこまりました。それでは。」

リチャード用に新調された黒のプロテクト・ギアに身を固め、
タラップを上がって振り返り敬礼。

傍らには宇宙対応に、再調整されたロボットホース・ドナテルロ。

凛々しく頼もしいその姿に、居並ぶ人々は力強さを感じていた。


彼の視線の先は…愛しい恋人に注がれる。
涙をこらえ気丈に笑顔を見せてくれていた。

 (君のためにも… 頑張ってくる。 必ず帰ってくる。)




彼の乗り込んだ宇宙船が飛び立っていく…


空の彼方へ消えると人々が去っていく中、ファリアだけはじっと見つめたまま。

その場にいるのが彼女とランスロット公爵夫妻と彼女の父だけになる。

「ふッ…くッ… うぅ…」


こらえていた涙が一気に溢れ出す。
耐え切れずコンクリートの上に崩れてしまう乙女。


「ファリア… よく、頑張った。 リチャード君も安心して旅立って行ったぞ。」

「…お父様…」

父の腕の中で激しく泣き出してしまう。
抱きとめた父はその頭を撫でる。

そんな様子の彼女に彼の両親も切なくなる。

「ファリア、色々とありがとう。
リチャードの為に尽くしてくれて…。
私達は…息子が元気な姿で帰ってくることを祈ろう…」

「えぇ…おじ様…」

彼の父に声をかけられ、あふれる涙を拭こうとするが、止まらない…



彼が行ってしまった空を見上げるサファイアの瞳―



 ‐「愛してる… ファリア…」-


昨夜の囁きが耳の奥で響いていた―――


*****





ロンドンの邸に戻るが、部屋から出てくる事のないファリア。

乳母も使用人たちも心配するが、どうする事も出来ない。

両親は忙しい身なので皆に頼んでいたが、さすがに一週間を過ぎると
母が王立音楽院に休学届を出した。


娘の様子を見て、心機一転してもらおうと、母は策を講じていた。



「ファリア!! いつまでそうしているつもり?!」


10日間もひきこもったままの娘の部屋に入る。

メイドたちから聞いてはいたが、肌艶は見るからに良くなく、
やせ細り、赤い目をはらしたままの姿。
カウチにけだるげに腰かけている。


母の声にやっと顔を上げた。

「お母様…」


そんな娘の目の前にかがみこみ、その手をぎゅっとつかむ。

「いい? ファリア…よく聞いて。
あなたは今、辛いかもしれないけれど
今だから出来る事があるのよ。
…リチャード君がそばにいないから出来る事。
やるべき事。
まずはパリで社交界デビューするの。
そして友人を得たり、センスを磨きなさい。」

母の言葉に迷いはない事に気づく。

「私が…社交界に??」

「そう。英国だけでなく、世界に通用するレディにならないと。
あなたはリチャード君のお嫁さんになる。

ランスロット伯爵夫人というだけでなく、いずれ公爵夫人になる。

そのために必要なものを今、得なければならないわ。
だから、しっかりしなさい。」

「……お母様。」

ぐっと手を握られ、母の真意にやっと気づく。
今のままではダメだと。

こくりとうなずいた娘にやっと笑顔になる母。

「じゃ、行きましょ。」

「…え?? 今から??」

「そうよ。もう準備は整っているの。
デビューは4日後なのよ。」

「はい…」



母に叱咤激励されて、やっと動き出した。



邸を出て、1時間後にはパリ行きのユーロスターに乗っていた母娘。







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(2015/04/07&13+07/25)

あとがき

やっと始動しました。
今までもスピンオフっぽかったけど、さらに外部的な話。

リチャードが名前しか出てこないですよ。





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