ardor -7-
―夜
凱旋帰国した皇太子のために 宴が催される。
もちろん、未来の妃である王女はそばにいたが
酒や食べ物の匂いのこともあり、またつわりをおこして退席した。
王女に用意された部屋は皇太子の隣の部屋。
侍女が気遣って王女のそばにいた。
「あの…ファリア姉様…大丈夫なの?」
そう言って王女の部屋にやってきたのは
この国の王女…つまりリチャードの従妹であるマリアン姫。
美しいプラチナブロンドと澄んだブルーアイの美少女。
「はい。マリアン姫様。
少し落ち着かれたようです。」
「…いきなり環境が変わった上にお兄様の子を宿してらっしゃるのでしょ?
それに…今日の宴って、お酒臭かったもの。
みんな浮かれすぎてお酒の飲み過ぎよ…
お父様もお兄さまも…」
マリアン姫は従兄であるリチャードを兄と呼んでいた。
もちろん、リチャードも従妹であるが今は義理の兄妹となっているのを
良く理解していた。
「ねぇ…会えるかしら?」
「はい。どうぞ。」
奥の寝室へ行くとベッドの上で身を起こしているファリアの姿。
「あぁ…マリアン様。
わざわざお越しに?」
「お姉様こそ、大丈夫ですの?」
今日の午後に会ったばかりなのに、マリアンはファリアのことを
「姉」と呼んでいた。
このビスマルク城に暮らす家族のほとんどは男だったため
姉が出来て何より嬉しいマリアン姫がいた。
母は既に亡くなっており、国王である父と…今は兄となったリチャードが彼女にとっての家族。
「マリアン様。
ごめんなさいね。
せっかくの祝いの席なのに…」
申し訳なさそうな顔をする義姉に微笑みかける。
「いいえ。
大事になさらないと…
今が一番大切だと…乳母から聞いたわ。
無理なさらないで下さいね。」
「ありがとう…マリアン様。」
穏やかに微笑み返す義姉・ファリアにマリアンも微笑み返す。
自分とは全く違うタイプの乙女…
華奢で何処か百合の花のような清楚な雰囲気は
自分にはないものだと感じた。
「でも…驚いちゃったわ。」
「え?」
「お兄様ったら…一応、婚約者がいたのに…
こんな素敵な方と出会って、恋してたなんて…」
「…」
ファリアは何も言えなくなる。
出逢った最初の頃は彼を憎んでいたなんて…
黙ってしまった義姉を見て、思わず口をつぐんでしまうマリアン姫だったが
気になっていたことを切り出す。
「あの…お姉さま。」
「はい?」
「その「マリアン様」ってやめていただけませんか?」
「え…?」
「私のほうが義妹なんです。
「様」はいらないですわ。」
少々、困惑顔のファリア。
「でも…」
「だって、お兄様が未来の国王。
そうするとお姉様は未来の王妃。
私は…大佐のところへお嫁に行くんですもの。」
確かに言われてみれば立場が違うことに気づく。
けれどファリアは…
「でも、今はまだ私は…妃じゃありませんもの。
この国の王女様はあなたですわ。」
「…解りました。
じゃ、お兄様と結婚式をしたら「様」は外してくださいね。」
「えぇ。」
ファリアもまた妹が出来て嬉しく感じていた。
パルヴァにいた時は実弟に常に厳しく、時には優しく接してきた。
弟が未来の国王だと思うと、そうするしかなかった。
目の前にいる美少女が義妹だと思うと、彼女自身もそう感じていた。
「ご気分はいかがです?」
「もう、なんとか治まりましたわ。
ごめんなさいね。心配をお掛けして。」
「いいの。ホントに大事になさってね。
ビル大佐がずっと護法を掛けていたと聞きました。
ずっと馬で移動だったのですものね…
でも、もうここにいれば大丈夫だわ。ね?」
「えぇ…そうですわね。」
ふたりが和やかに話しているのを見て
侍女がふたりのそばのテーブルに紅茶とお茶菓子を運んでくる。
「ファリア様。
あまりお召し上がりになっていないと聞いております。
せめて…少しでもお口にしてくださいませ。」
「ありがとう。頂くわ。
マリアン様も… ね?」
「えぇ、頂きます。
コレ…ウチのパティシエの力作ですのよ。
食べてみてくださいな、お姉さま。」
「えぇ。…美味しそう…」
17歳の未来の王妃と16歳の王女は
たわいもない話しで、笑い合っていた。
深夜になり 宴もお開きになった後、
皇太子は彼女の部屋を訪ねた。
まだ起きていた彼女に声を掛ける。
「おや…まだ起きていたのか?
大事無いか? 辛くないか?」
「えぇ…」
以前と違い過保護すぎるくらい彼女をいたわる。
「さ、早く休んでくれ。」
「はい…」
優しい笑顔で彼は王女の肩を抱きしめた。
to -8-
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(2006/3/15+22)
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