ardor -5-


リチャード
彼の6代前の当主・ヘンリーは無類の女好き。
関係した女性は一生で1000人以上と言われていた。

当然、関係しただけではない。
子供も宿してしまう女性も多くいたが、ヘンリーはみな 子を堕胎させたり
流産させたり 時には女性と生まれた子供を切り殺したりとやりたい放題。

ヘンリーが養育を認めたのは正妻と二人の愛人の間に生まれた子だけ。


彼に無残に殺された女性と子供の怨念が彼自身とランスロット家に呪いとして残った…


そしてリチャードの両親はなかなか子に恵まれず、
神殿に祈願し、奉納したりしてやっと授かった。

お礼と共に子を連れて行くと神官は驚いた顔をしてふたりに告げた。

「この子は…生まれながらに呪いにかけられている。」

手を当て、神官は何かを呟く。
しばらくして目を開けた神官は更に告げる。

「この子は大きな使命を背負っている。
それを全うする力もある。
しかし…子供には恵まれない。
先祖の呪いでな。」

「そんな!? じゃ、リチャードは結婚しても…子は…??」

父は悲壮な顔をして問いかける。

「あぁ。
しかしひとつだけ方法がある。」

「何です?」

「この子はある女性を愛するだろう。
しかし… 彼女に愛されてはならない。
愛し愛されると子は出来ない。
女の嫉妬の呪いだからな。

愛する女性に憎まれれば…子供は授かるだろう。」

「そんな…なんてこと!」

両親はただ驚愕するだけだった。



自分が12歳になった日、両親はこの話をしてくれたのだと3人に話す。





「私は…姫に出会った瞬間に…あなたが欲しくなった。
しかし…愛されては子は出来ん。
だから、姫が私を憎むように仕向けたのだ。」

皇太子の言葉にビルは眉をしかめる。

「…でも、子はいる。
つーことは… 姫は殿下を憎んでおいでか?」

「…いいえ。
今はお慕いしています。…愛してます。」

「"今は"? ってことは… 以前は?」

進児が問いかけると彼女は辛そうな顔をする。

「……以前は、出会った頃は、憎んでいました。
いいえ、2日前までは憎悪していましたわ。」

彼女の言葉に納得する皇太子だったが問いかける。

「…そうか。
なら何故、姫は突然、私を?」

「あの…
キュラ帝国の兵士に急襲を受けた時…
太陽の陽の光の中で微笑んでくださってる殿下を見て…
私は心を揺さぶられました。
あの優しい微笑が本当のあなただと…気づいたのです。」

頬を染めて、告げる王女を見て皇太子は気づく。

「!? だから…だからあの夜、あんなに乱れていたのか??」

「えぇ…」

照れ臭そうに王女は応えていた。

「そうか…」

シーツ一枚だけの王女を愛おしげに抱きしめる。。


自分を憎んで欲しいと接してきたのに
愛されてしまった。

嬉しい反面、目論見が外れてしまったことに後悔する。

「姫…すまなかった。
私もそなたを愛してる。
今までのこと、許してくれ…」

「殿下… 許すも許さないもありませんわ。」

「しかし…」

「こうして抱きしめてくださるだけで…嬉しいですもの…」

「姫…」


ふたりはそっと穏やかな愛情を感じて抱き合う。


「それにしても…何故、呪いのせいで子が出来ないはずなのに
愛し合っている私達に子が出来たのだ?」

皇太子はどうしても腑に落ちない。

「…殿下。これは俺の憶測ですが…聞いてくださいますか?」

「あぁ。ビル大佐。」

「出会った頃は憎んでいたと姫はおっしゃった。
憎んでいる殿下に姫はずっと抱かれていた。
その間に出来たのだとすれば…不思議はない。
姫は2日前まで殿下を…
そう思えば、合点が行く。」

「…そうか。
愛憎は表裏一体とも言うな。
憎しみを通り越して…愛してしまったというところか?」

「愛していても…憎しみに変わることもある。
ま、そういうことですね。」

ビル大佐と皇太子の会話で王女は複雑な表情。


「あの…殿下。
私のこと、許してくださるの?」

「ん?何のことだ?」

「だって…出逢った頃から昨日まで…あなたを憎んでいた私を…」

「何を言っている?!  私が…そう仕向けたのだ。
そなたに憎んで欲しくて。
そなたと私の子が欲しかったから… 少々乱暴に抱いてきた。
まさか、こんなすぐに子が宿るとは思いもしなかったがな。」

「それだけ、最初は殿下を憎んでいたということも考えられるな。」

「おい!!ビル!!」

進児は彼女にとって少々キツイ言葉を言ってしまったビルをたしなめる。
傍らで王女は落ち込んだ様子。

「あぁ…姫。
気になさらずに。
もともとコイツは口が悪いですから。
それに今は殿下を愛しておいででしょう?」

「えぇ…」

「じゃ、それでいいじゃありませんか。」

「本当にそれでいいのでしょうか?」

「勿論ですよ。」

進児が笑顔で返すと王女も安堵した。



皇太子は気になることをビルに尋ねる。

「なぁ… 姫に流産の可能性はあるか?」

「さっきの話からするとありえるだろうが…
この俺が護法を子と姫に掛ける。
だから大丈夫だ。」

「ビル、すまんな。」

「いいってことよ。こういうときのための神官の力なんだから。」


にっと笑顔で皇太子に応えるのを見て進児は呟く。

「ビルって実はいいやつなんだよな〜。」

「実はって何だよ!? いつもいい男だぜ!!」

4人は笑い合っていた。





「それにしても…目のやり場の困るんだけどな…」

「あ…」

シーツ一枚の王女は皇太子に抱き上げられた状態だったが
確かにほとんど裸に近い。

「俺、城内に女物のドレスがないか探してくるよ。」

「あ。俺も。」


進児とビルは慌てたように駆け出していく。

「いい仲間をお持ちですわね…殿下。」

「仲間?」

「えぇ。部下でも臣下でもない。
仲間…です。」

「そうだな。」

進児大佐とビル大佐の行った先を見つめるふたり…

20分ほどして大佐たちが戻ってきた。

「あの〜、クローゼットがある部屋を見つけたから、一緒に行っていただけませんか?」

「えぇ。ありがとうございます、お二方。」

進児とビルは皇太子に抱き上げられた王女を案内する。




行った先は女物のドレスがたっぷりかけられたクローゼットの部屋。

「ま、随分あるのね。」

「そういや、ヒューザー皇帝って、お妾がたくさんいるってことだったよな。」

「あぁ。」

「だからなのかなぁ…」

「おそらくそうでしょうね。」

「「「え??」」」

男3人は姫の発言にその顔を見つめる。

「…私もその妾に入る予定でしたもの。」

「「「!?」」」

皇太子と大佐たちは驚いた目で王女を見つめる。
彼女は少々、悲壮な表情を浮かべていた。

進児が呟くように言う。

「そう…か、確かに大陸一の美姫とまで言われた姫ですからね。
ありえない話ではないな…」

「あの夜から3日後にはここに向かって出発予定でしたの。」

「そうか…」

少々、暗い雰囲気になってしまう。
自分がこうしてしまったのだと感じ、
払拭しようとしてわざと明るい声をシーツ一枚でも美しい乙女は皇太子に問いかける。

「それにしても…こんなにあったら迷っちゃうわ。
ねぇ、殿下はどのようなお色がお好きですの?」

「あぁ… 私は…」



進児とビルはクローゼットの部屋から出て行く。

ふたりだけにしてあげようと…



しばらくして王女はドレスを着て皇太子と共に出てきた。

「ごめんなさいね。行きましょう。」

「そうだな。
ヒューザーも倒してしまったし、城を出よう。
きっと兵士達も待っているはずだ。」

「そうですね。」

4人が城を出るとビスマルク国軍が歓声を上げる。

よく見ると城には既にビスマルク国の旗が上っていた。



城下に出ると…
今まで圧制に苦しんでいた国民達が広場に集まっていた。
皇太子とビスマルク国軍が行くと大歓声―
一気に英雄扱いにされてしまう。

一行は街の宿屋に迎えられる。



王女が身に着けているドレス一枚だけと知ると
商人達がドレスや靴を持ってきてくれる。



今まで不平不満を言えば、即打ち首だった。
その悪王を倒してくれたのだからとキュラ帝国民達は感謝を示す。

国境のすぐそばで殺されてしまっていた40名の兵士達をキュラ国民達は丁重に葬ってくれた。


キュラ王城では… キュラ兵士達は家族の手によって葬られ、
亡くなってしまったビスマルク国兵は丁重に葬られた。


そして国民の話し合いの結果、
共和国制をとることになる。

もちろん、皇太子は反対などしない―











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(2006/3/11)


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