ardor -3-


その夜に城の大広間で宴が催されることまで決まっていた。
名目は国王夫妻の追悼と新しい国王の紹介と言うことで
大臣や国内の貴族達などの有力者を集めていた。



王女は宴の前の夕刻に両親が殺されていたということを聞かされ、
既に埋葬も済んでいると聞くと すぐに墓地に向かう。

落ち行く夕陽の中、王女は墓前で泣き崩れる。

「お父様、お母様…私は…」

嗚咽をあげる王女は己の未来が暗黒であることを感じていた。。。






夜の宴の席―

王女は黒いドレスを纏い、黒のベールを被っていた。
それは両親の死を悼むため。
黒い服を纏っていたのは王子アリステアと王女だけだった。




そんな中、宴はすすむ。


「この度、我がパルヴァ国からキュラ帝国軍が撤退した。
それもこれもここにおられる ビスマルク国皇太子リチャード様と軍の方々のおかげ。
残念ながら国王夫妻は亡くなられてしまいました。

そして跡継ぎであるアリステア王子はまだ13歳という幼い身。
それゆえ、伯父である私が国王代理という大役をおおせつかいました。

どか皆さん、アリステア殿下が成人するまでの間、
よろしくお願いします!!」


国王代理と決まったホイットリー候が告げると拍手が起こる。

片手を挙げ、拍手をやめさせる。

「さて、この度、 王女であるファリア姫がリチャード皇太子に見初められビスマルク国へ行くことになった。」

「「「「おぉ…」」」」

客人たちからどよめきが起こる。

「近日中に、殿下とともに旅立たれる。
さ、ファリア、皆様にご挨拶を。」

「…はい。」

伯父に促され、一歩前に出る。
みなの視線が王女に集まる。

国民の関心事のひとつであった王女の嫁ぎ先。。


「皆様… この度は一気に色々なことが起こり大変だったと思います。
戦によって家族、友人なども亡くされた方もおられましょう。
どうか悲しみを乗り越えて、皆で手を取り合ってパルヴァを守っていきましょう。
私は…パルヴァ国の人間ではなくなりますが、
どこにいても弟と伯父、そして皆様のご多幸をお祈りしております。」


お辞儀をする王女に拍手を歓声が沸き起こる。

「姫様!!」「ファリア様、万歳!!」「お幸せに!!」

皆口々に祝いの言葉を口にするが王女の心は沈んでいた。

愛してもいない男に身体を強引に奪われ、
国を出ることになってしまった。


彼女は男の身体の下ではっきりと憎悪を感じた。

   (このお方が憎い… ビスマルク国の方たちが来なければ
    両親は死なずに住んだかもしれない…)


キュラ兵士達が国王夫妻を殺したことを教えられていなかった王女は
皇太子を睨みつける。





キュラ国に行くことが決まってなかった頃、
王女には想い人がいた。
父の臣下の息子でいずれは仲を認めてもらって結婚できると想っていた。
しかし乙女の切なる願いはあっけなく無残に打ち砕かれてしまった―

キュラ帝国皇帝は父よりも年上だと聞いた。
そんな男の妾になどなりたくはなかったが「国のため」と言われ、泣く泣く了解した。

そして今回も意にそまぬ男のものとなってしまった…


運命を呪うしかなかった。


宴を終えた夜にも王女は犯されるように抱かれていた。。。。。








パルヴァ国内が落ち着いたこともあり、ビスマルク国軍はさらに西へと進軍していく。
キュラ帝国まであと4つの国を経ていくことになる。


移動は馬なので王女は不本意であったが皇太子の馬に同乗させられていた


自分ひとりで乗ると主張したが 聞き入れられることはなく、強引にそうさせられる。

おかげで一日中、憎き皇太子のそばにいることに。

昼の移動中は馬上で身体や髪に触れられ、
夜は宿屋か天幕のベッドの上で犯されていた。

相手を喜ばせたくないと思い王女は声をこらえていた。
それが逆に喜ばせているとも知らず…


身体は奪われても、心は奪われまいと決めていた―










破竹の勢いのビスマルク国軍は次々と国を越えていく。
それもそのはず、男としての自信に溢れた皇太子に率いられ、軍の士気も上っていた。
逆に王女は笑顔を失くし、瞳から輝きが無くなっていく。

彼女の世話をする女性将校達も心配していた。
夜の天幕からいつも 王女の悲鳴が漏れ聞こえていたことが心配の要因。
しかし誰も皇太子に意見できるわけは無く、ただ王女を可哀相だと思うしかなかった。


王女の湯浴みや身だしなみを手伝う女性将校達はいつも優しく接していた。
いくら相手は皇太子とは言え、犯されるように抱かれていると解った時点で
同情することしか出来なかった。



この頃、馬上でうつらうつらと眠る王女を皇太子は少し優しい瞳で見つめていたのだが
誰もそのことには気づいていなかった。












パルヴァ国を出て6週間目…  異変は起こる。


敵国・キュラ帝国を前にして、奇襲を受ける移動中のビスマルク国軍。

かなりの数の敵兵にリチャード皇太子は指令する。

「散開して、敵を破れ!!」

「「「「はッ!!」」」」


進児大佐もビル大佐もその力を発揮して、並み居る適を倒していく。


「姫!! しっかり掴まっていろ!!」

「は…はい。」

相手は嫌な男だけれど 迷っている余裕などない。

彼の広い胸に顔を埋め、背に腕を回し、しっかりと抱きつく。

周りには醜悪な鎧の敵兵が蠢いていた。

馬の駆ける音が大地に響き、剣がぶつかる音と悲鳴がそこらからしている。
王女は怖くて必死にしがみつく。


「ふんっ!!」

皇太子は迫る敵を剣でなぎ払い、倒していく。
まるでしがみついている王女の存在を感じていないかのように。


しかし…王女は彼から香り立つ汗の香りと埃の匂い。
高鳴っている鼓動、そして戦っている時の凛々しい精悍な表情を見て取っていた―


ベッドの上でしかまともに顔を見ていなかった王女は太陽の下で見る皇太子に
心を奪われかけていた。


「くうッ!!」

敵兵の弓矢が皇太子の頬を掠めたが、弓兵までも彼は剣で倒していく。


敵兵は半分以下になると引き上げていく…
その指揮を取っていたのは親衛隊隊長ペリオス。

後に顔を合わすことになる。





「何とか追い払えたか…」

皇太子は敵が去って言った方向を見つめて呟く。

「はい。 油断しないで行きましょう。殿下。」

「うむ。」

進児大佐の意見に同調し、まっすぐに西を見つめる。

マントの中で、必死に抱きついている王女に声を掛ける。

「あぁ… 姫、もう大丈夫だ。 ん??」

「あ…」

声を掛けられて初めて、身を離した王女。

「大事無いか? 怪我などしていないか?」

優しい声を掛けられ、見上げるとそこにはいつもと違う優しさを湛えたエメラルドの瞳。

王女の胸はドクン…と高鳴る。

「は、はい。大丈夫です。」

「そうか。ならいい。」


いつものように彼に背を向け、前を見据える。


   (私…どうしちゃったの?? ウェインの時のように…ドキドキしてる??
    そんな…私はこの男を憎んでいるのよ?? なのに?)


自分の中に生まれた感情に困惑する。



再び移動を始めたビスマルク国軍。


皇太子の馬上で王女は考え込んでしまう。

彼はそんな彼女を知ってか知らずか… 黒髪にくちびるを寄せて、口に出さないで言葉を呟いていた。




キュラ帝国の国境に入る直前で一行は天幕を張り、休む。

敵の支配地域ということもあり、皇太子の天幕にはいつもの倍の兵が守りにつく。

隊長としてビル大佐以下8名の兵士達。

夜半に軍議を終え、天幕に皇太子が入る。

兵士達はいつものように可哀相な王女の悲鳴が漏れ聞こえてくると思っていた。





天幕の中で王女はベッドの端に腰掛けていた。
ひとりきりだったので ぼうと考え事をしている。

自分の胸の中に生まれた感情に戸惑いを憶えて…

   (私… この男に恋してしまったの??  憎んでいるのに…
    憎んでいるはずなのに… )


惚けている王女に彼は声を掛ける。

「姫…さ、こっちに来い。」

「…はい。」


いつものように薄物の夜着姿で彼を迎える。
肩紐を外されると 露わになる白い肌―



皇太子の手が伸びて、乳房に触れる。

「ん…っ!!」


昨日と同じように触れられているのに甘い痺れを覚えた王女の身体はびくりとはねる。
かつて恋した青年に触れられた時と同じ感覚。


   (私…どうしちゃったの?? 憎んでいる、嫌っている男の手が熱い…)


そっけない愛撫の後、強引に挿入されるが、
脳天まで突き抜ける快感を感じていた。

「はっ…あぁあん!!」

「ん? どうした、姫?
今夜は随分、具合がいいな…」

「あ…殿下…」


頬を薔薇色に染め、うっとりとしたサファイアの瞳の王女を見て、
彼も昂ぶる。

腰をぐいとさらに奥へと押し進めると王女のくちびるから甘ったるい溜息。

「あぁ…ん…」

「そんなに可愛い声を聞かせてくれたのは初めてだな。
嬉しいぞ…」

「はぁん…」

「もっと乱れてみろ!! ほら!!」

「あぁ…やん…はぁあ…」


肌のぶつかる音と淫靡な水音…
そして甘く艶めいた王女の嬌声が天幕に響く。


天幕のすぐ外で警備にあたっているビルと兵士達は
いつもと違う王女の色っぽい声に身体を熱くしていた。



「あ…ぁ…助けて…ダメぇ…」

黒髪を振り乱し、今まで見たことないほど王女は乱れる。

「あぁ…姫!! こんなの…初めてだ…う…ぁ!!」


彼がブルブルと震え、灼熱を解き放つ。

その衝撃で王女は気を失ってしまう―



全身を薔薇色に染め、快感の余波に震える白い裸身を彼は見つめる。

   (姫…? 今夜はどうしたというのだ? 
   何がそなたを変えた?)






いつものように意識を失った彼女を再び抱きしめる。
気を失っていても 彼女の中は心地いい。


「う…はぁ…」

男として最高の悦びを感じていると甘い声がまた耳に響いてきた。

「あぁん…殿下ぁ…」

「姫?どうした? 今宵は…?」

「私…」

頬を染め、彼を見上げる。
その瞳が彼をさらに掻き立てた。


「セックスが楽しめるようになったのか?」

「いいえ… あの… 私、私は…」

やっと自分で自覚した感情を口にする。

「殿下をお慕いしております。
…愛しています…」


初めて王女のくちびるから出た言葉に彼の動きは固まる。

「!?」

聞くことはないと思っていた言葉を耳にして
体の熱が一気に下がっていく。

「あ…殿下。
私は…」

「…もういい。」

「え?」

「その言葉は聞きたくない。」

「!?」


皇太子の応えに王女は戸惑う。
瞳からは涙が溢れ、くちびるは震えていた。



彼は身を離し、ベッドを降りて服を身に着けていく。
直後、ビル大佐がやって来た。


「殿下。そろそろお時間です。」

「あぁ、解ってる。」


傍らにおいてあった鎧を手早く身につけるとさっさと天幕を出て行く。
一度も王女を見ようとしない。


愛を告げたのに拒否された王女は裸のまま、呆然としていた。

彼の出て行ったほうを凝視し、ビルに構うことなく
滂沱している。


「ファリア王女…? どうされた?」

「私…私… 愛してるって言ったのに!!
どうしてあの方は拒否なさるの?!
なら、何故、私を抱くの?! どうしてっ!!」


泣き崩れてしまう王女を見て、ビルは今のふたりの状況に気づいた。

ビルは咄嗟に王女に魔法をかける。

「大丈夫ですよ。
殿下は照れ臭くて ああ言われただけです。
さ、落ち着いてください。」

彼女の額に指先を当て、口の中でまじない言葉を呟く。

「湯浴みを済ませたら お休み下さい。
明日には…戻ります。
殿下は出陣前で気が立っておいでだっただけです。」

「そう…かしら?」

王女はビルを見上げる。
少々目のやり場に困るビル…

「…世話の者を呼んで参ります。
では 失礼。」


ビル大佐は天幕を出て行く。
すぐに世話係のひとり ジェシカ軍曹がやって来た。

「さ、王女様。
今日は湯浴みは無理ですから… 清拭をしましょう。」

「えぇ…お願い…」

ビルの魔法のおかげで落ち着きを取り戻した王女は
ジェシカの言葉に静かに従う。


ジェシカは桶に湯を運ばせ、王女の身体を丁寧に拭いていく。









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(2006/3/10)


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