amour -2-



車に乗り込んだふたりはデスキュラマシンに追撃される。

「きゃッ!!」

荒っぽい運転に身体がシートから浮く。
ミサイルの着弾のショックで車体が傾く。
もう一度攻撃を受けたらひとたまりもない。
しかしデスキュラは一斉に他へと向かっていく。



「やっと来たか…」

エラリィが呟く。

「え?」


上空に巨大なk黒いマシンが飛んでいる。


「あれがビスマルクだ。 君はあれに乗っているヤツに逢え。」

「え?」


「リチャード=ランスロットはあれのチームの一員だ。」

「!? 何ですって?!」

歌姫の顔色が変わる。


「俺は…あいつから君を奪いたかった。
けど…タイミング悪いよな…」

「どうして…?」


歌姫は青年を見つめる。

「俺の名前、聞き覚えない?」

「え…?」

記憶の糸を辿っても…思い出せないが何か引っかかる。



「思い出せない? 俺、ヤツのフェンシング部の先輩なんだよ。
英国諜報部から連邦政府に出向しててね… デスキュラの動向を調べるために派遣された。
そこで…君を見つけたってトコ。」


不意に思い出すファリア。


「あ…確か… 中等部の校内試合で…  決勝戦の相手??」

リチャードに似た金髪の少年が負けた悔し涙をこらえていたのを思い出した。


「思い出した?」

にっと笑顔を見せる。


「ヤツは今も君を… 愛してるさ。
そして君も…なんだろう?
だから俺に抱かれるのをためらった。違う?」

「いいえ。その通りよ。」

歌姫は爆音の響く中、はっきりと答えた。

「じゃ、早く行け。」

「え?」

「俺は…行けない。」

「どうして?」


よく見るとエラリィの背には火傷の痕。

「!!」

彼女を守るために、怪我を負っていた。

「あ…ダメよ。エラリィ…」

「はは…皮肉なもんだな。
こんな時に…呼んでもらえるなんてさ。」

「あ…」


そんなふたりの前にデスキュラ兵が銃口を向ける。

「きゃッ!!」

エラリィは再び彼女を抱きしめ庇う。

直後にサーベルが飛んできてデスキュラ兵は絶命する。
他の兵士が飛んできた方向へと向くと
黒のプロテクトギア…リチャードがドナテルロで駆け寄りサーベルを抜き、
一閃でデスキュラ兵を倒す。

「大丈夫ですか?」

彼は助けた二人に声を掛ける。

「ねぇ… しっかりして!!お願い!!エラリィ!!」

自分の問いかけを無視する二人に見覚えある気がしたリチャード。


「!?」

自分と似たような金髪の青年が彼を手招く。

「リ…リチャード… 良かった。間に合ったようだな。
少し情報が甘かったけどな。」

彼は自分に声掛ける男の正体に気づく。

「!? 確か…シェルダン先輩?」

「あぁ… 彼女を頼む。」

エラリィは苦しそうな呼吸の下から声を出す。

「…え?」

「って言っても もともと…お前の…   か。」

「ダメッ!! 死なないで!!いやぁッ!!」

じっと黒のドレスをまとった乙女を見つめる。
まさかという想いがよぎる。


「…君…ファリア…??」

「お願い、リチャード!! エラリィを助けて!!」

青年を胸に抱き、涙を撒き散らし叫ぶ。


「俺は…もうダメだ。 彼女を連れて早く行け!!
俺は…もう…」

容赦ないデスキュラ兵が襲い掛かるがリチャードとエラリィでファリアを庇い、倒していく。


「もう…やめて…」


目の前で血を流し、倒れていくエラリィ。

「いゃああああっ!!」


リチャードはデスキュラ兵を倒していくがきりがない。
ヘルメットの通信機にマリアンの声が響く。


「進児君!ビル!!リチャード!! すぐ戻って!! 巨大メカが現れたわ!!」

「OK!」
「「了解!!」」




リチャードはエラリィの傍らで泣きじゃくっていた彼女の手を引く。。

「ファリア…早く!!」

「いや!! エラリィを置いて行けない!!」

「もう…無理だ…」

既に彼は事切れていた。
半狂乱のファリアを無理やり抱き上げ、ドナテルロに跨る。


ビスマルクマシンに乗り込むと、
すぐ変形して巨大メカと戦う。



その間、ずっと彼女はリチャードの膝の上…



進児の掛け声がコクピットに響く。

「オルガニックフォーメーション 発射ーー!!」


デスキュラの巨大メカは粉砕されていく…




母艦に変形し終わるとリチャードのところに3人が集まってくる。


「おい!リチャード!!一体、何だよ、こんな美人…連れてきちゃってよ…」

ビルが開口一番に叫ぶ。


「あぁ…事情を説明したいところだけど…」


ファリアはずっと泣いたまま。


「…とりあえず紹介しておくよ。
僕の…婚約者のファリアだ。
6年前の"アテナU号事件"の行方不明者の内のひとりだった、さっきまでな。」


「「「!?」」」


3人は驚きを隠せない。




「お願いリチャード!! 私をあの村に帰して!!」

今までと逆の想いが生まれていた。


「何を言う!?」

「私…店に戻らなきゃ…」

「店?」

「メリルおばさんたち…無事かどうか…知りたいの…」


リチャードは悲痛な顔を見せる。

「たぶん…無駄だ。」

「え?」

「スキャナーに何も映らん。
生存者は… いない。 君だけだ。」

「ウソ… ウソよ!!」

彼の膝から飛び降り、マシンさえ飛び出していく。








目の前に広がるのは焼け野原となった…村の痕。

「ウソ…  ウソでしょ…!?」


思い出す…皮肉な運命で辿り着いたフルシーミ。

6年前、カクサ村に着たばかりの頃…

ステージで歌い始めた日…

村のみんなにバースディを祝ってもらえた日…




まだ12歳だった自分を実の娘のように可愛がってくれたメリルおばさん。
ちょっと無愛想だったけど本当は優しいピーターおじさん。
ピアノをしえてくれたジェレミー。
歌を教えてくれ、女としても色々と相談に乗ってくれたリンダ。


それにバーの常連客や教会の神父様、
村の女の人や子供達も慕ってくれた。


人間として、女として必要とされ、認められて嬉しかった。
なのにデスキュラは容赦なく、彼女からすべてを奪ったのだ。



ショックのあまり、滂沱したまま、崩れるように倒れる。


追いかけてきた4人は、彼女に駆け寄る。

リチャードが倒れてしまった彼女を抱き上げた。



   (一体… 何があった? 一体、どうして…?
    君はどうしてこの星に…?)



聞きたいことは山とあったが…今は聞くことが出来なかった。



ただ目の前の…18歳の乙女になった
ずっと恋焦がれていた彼女を見つめる。

首元には自分が幼い頃に贈った四つ葉のクローバーのネックレス。
柔らかくウェーブした黒髪
陶磁器のように白い肌
大人びた黒のドレス… 

何より驚いたのは華奢なワリにふくよかな胸元…

女らしい体つきになっていた。



「あぁ、すまん。みんな。
彼女をとりあえず病院に…」

「そうだな。」

全滅させられた村のことは警備隊に任せ
ビスマルクチームは首都・イナルの病院に運ぶ。




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(2005/9/21・2020/09/10)




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