amour -3-



ファリアが目覚めると…初めて見る白い天井。

今までのことがすべて悪い夢だったんじゃないかと思える。


   (私…まだ生きてる… みんな…死んだのに… また私だけ…??)



首を横に向けると…リチャードが居眠っていた。


   (今更…私だけ、英国に帰って、幸せになんてなれない…)


静かに身を起こし、ベッドを降りる。

服が病院着に変えられていたので、クローゼットを見ると着ていた黒のドレスが入っていた。



静かに黒のドレスに着替え、靴音がするのを恐れてヒールを手に病室を出る。


なんとか病院の外へと出れた。


「ここ…イナルなんだわ。
カクサに戻るには歩くしかなさそうね…」

ひとり呟き歩き出す。


方向はわかっている。
ただ100q近く離れていた…




市街を抜け、荒涼とした風景の中を歩く。
日が昇ってきたので少し暑い。


「はぁ…」


さすがにヒールの足ではキツい。

空腹もとうに過ぎている。
視界がぐらりと揺らぐ…





   *****



リチャードが目覚めると、空のベッド。

「!?」


その横たわっていたトコロに手を触れるとぬくもりはなかった。


「一体何処へ…?? まさか…!?」


慌てて病院を飛び出て、ビスマルクマシンに戻るとドナテルロに跨り、駆け出す。



   (おそらくあの村に… 
    せっかく逢えたのに… 取り戻せたのに…
    18歳の君を見つけたのに…
    もう失うのは絶対にいやだ!!)




焦る思いでドナテルロで駆け出して20分ほど…

大地に横たわる彼女を見つけた。

安堵した反面、蒼白の顔を見て、息が止まる。


「どうして…ここまで…こんな無茶を…」



リチャードはドナテルロの背に収めてある救急キットのペットボトルの水を与えようとするが
くちびるから零れる。
彼は自分の口に含み、彼女のくちびるに流し込む。
なんとかこくりと飲んでくれた。

「ん… んッ…」

くちびるの端からうめく声が漏れるが、目が開かない。
彼女を抱き上げ、ドナテルロに跨る。

病院へと戻るために…





   *


再び病室へと戻され、細く白い腕に栄養と精神安定剤の点滴処置。



「病院を抜け出さないように…注意してください。」

「…はい。すみませんでした。」


同じ部屋に居ながら、抜け出したことにきづかなったためにドクターに念を押された。



しばらくして進児たちがやってくる。

「おい!大丈夫なのか?」

心配顔の進児がリチャードと横たわる彼女を見つめる。

「あぁ。」

「リチャード… この人… お前の婚約者って本当だったんだな。
マリアンから聞いたぜ。」

「ごめんなさい。リチャード。 私、知ってたから… 話したの、進児君たちに。
6年前の事件のこと…ファリアさんの事…」

「そうか…すなまかったな。」


進児たちに事情を説明しなければならないと思っていたが
マリアンのおかげで手間が省けた。


「で、どうしたんだ? 病院抜け出したんだろう、彼女…?」

ビルが心配の顔で問いかける。


「あぁ…あの村に戻ろうとしたらしい…」

「村ってあの全滅した?!」

「そうだ…」

「そうか…」

進児もビルもマリアンも悲痛な表情。


「あの村で どうやら6年を過ごしたようだ。
だから… 戻りたかったみたいだ。」




「リチャード…」


進児が問いかける。

「うん?」

「お前、この人のこと…婚約者だって言ってたけど…
好きなのか? 
家同士の政略とかじゃないのか?」


実はマリアンもビルも疑問に思っていたことを進児が口にする。

「…。昔から… 周りの人間にはよくそう言われたけど…
僕は幼い頃から…彼女を愛してるよ。誰よりも。」


「「「!?」」」


3人は彼の口から今まで聞いたことのない言葉を耳にして、驚愕した。

「リチャード、お前…」

真剣な顔してビルが彼を見つめる。

「だから どうしても見つけたかった。 …逢いたかった。」

「そうか…」




3人はリチャードの心情を察して、妙に明るく振舞う。
進児が笑顔で告げる。

「ビスマルクマシンがメンテに入るから…24時間の休暇になった。
セントラルホテルに部屋とってあるけど…」

「あぁ…すまん。 ここにいるよ。」

「わかった。何かあったら、連絡する。」

「進児、ビル、マリアン… ありがとう。」

「いや…いいさ。じゃな。」

進児は彼に手を振って部屋を出る。
それに続いてビルもマリアンも退室した。






3人が行ってしまうとリチャードは椅子に腰を下ろし、
安らかな寝息を立てて眠る彼女をジッと見つめる。

   (どうして…そんなにあの村に…??
    好きな男でもいたのか?
    まさか…シェルダン先輩??
    いや…そんなはずは…    )





少し顔色も良くなってきた。
点滴が終わる頃を見計らって看護婦が来て針を抜く。



看護婦が出て行くとリチャードはそっとくちびるを重ねる。


   (幼い頃… ずっと… このくちびるにキスしたいって…思ってたっけな…)



そう思うと甘く切ない想いが込み上げる。


「…ん…」


くちびるを離した。
しばらくして目を覚ます。
サファイアの瞳が彼の存在に気づくが、顔をそむけた。


「…ファリア… どうしてあんな無茶を…??」


「…あなたには関係ないわ。」

天井を見上げて彼女は言う。

「何故…そんな事を言う… 君は僕の婚約者なんだぞ…?」

「もう…6年も前のことでしょ?
無効になっているのではなくて? 
私は…死んだことになってるのじゃなくて…?」



   (あんなに帰りたかった英国…彼の元に帰りたいって思ってたのに…
    今は…この星にいたい…)


突然、自分の中に生まれた思いに戸惑いながらもそう感じていた。


頬にひとすじ涙が零れる。



「確かに…そうだけど… 。
僕は君が死んだなんて信じなかった。
きっと何処かで生きてると信じてた。
今の…ビスマルクの任務が終わったら探しに行こうと思ってた。

…まさかフルシーミ星にいるなんて予想もつかなかったがね。」


リチャードは少し悲壮な顔を向ける。


「じゃ…本当なら再会できなかったかもしれないわね…」

「いや、僕は絶対もう一度逢えると…解っていた。」

「何を根拠に?」

彼はシーツの上の彼女の手を握り締めた。

「僕は君を求めている。
君はもう…僕のこと、好きじゃないのか?
他に好きな男でも出来たか?」

「…。」

瞳を閉じてエラリィのことを思い出す。
一瞬だったけど… 恋してしまった。


   (地球に英国に帰りたかった… もう一度リチャードに逢いたいって…
    だからエラリィに抱かれようとした… 
    意に反した行為をしようとしていたけれど…

    私…一瞬だったけど…エラリィに恋した…
    多分、どこか…リチャードに似てたから…?)




返事をしない彼女を抱きしめる。

「君を愛してる。だから…帰ろう。」

「帰れないわ…」

「何故!?」

「私を…愛してくれた人たちみんなが殺されたのに…
私ひとり、英国に帰って幸せになんてなれない!!」

彼女の叫びは彼の耳に響く。

「…ファリア…」

「だからお願い… 忘れて。私のこと…」

「!? イヤだ!!」

彼女の発言に思わず声を荒げる。

「私にどうしろというの!?」

「英国に帰るんだ。
君の父上も弟も… 君とセーラ様を失って沈んでいる。
勿論、僕も今日まで…」

彼の言葉に心臓が止まりそうなほど驚く。

「!? 父と弟は生きているの?! 」

「あぁ。」

「そう…」

思いもしなかった事実を突きつけられて、父と弟の顔を思い浮かべる。



「だから…帰るんだ。君の家族のためにも… 僕のためにも…」


涙を溢れさせる彼女。
零れ落ちる雫を指で拭うリチャード。


「これからは僕が守る。 だから…英国に帰ろう…
もう一度始めよう… 僕との恋を…本物の恋を…」

「あぁ…」

彼の熱い告白で心が揺れる。

彼の手があごを捉えたかと思うくちびるを奪われた。


「ん…!」


子供の頃… 12歳と13歳で1度だけ重ねたくちづけ。
あの時と違う大人のキスで身も心も震えた。


   (あ…  リチャード…  )


エラリィの口づけと似ている気がした。
でも違うと はっきりと解り出す。


   (熱くて…情熱的で… 心が融けるわ… リチャード…)


身体の奥が痺れるような気がした。
突然 身体から力が抜ける。
しかし彼はキスを止めない。

「んん…ッ!!」

執拗なキスの攻めによっていく。


   (あぁ…もうダメ… リチャードのことしか… 考えられない…)


無意識に細い腕を彼の背に回す。


ふっと離されたくちびる。

「ファリア… 僕の腕の中に戻る気になってくれた?」


エメラルドの瞳が優しく、問いかける。

「…リチャードは… 私じゃないほかの誰かを好きにならなかったの?」

問いかけに問いかけで答える。

「…否定はしない。
けど…その女の人の中に君の面影を求めていたのは事実だ。
君の身代わりを探していたに過ぎない。
僕が真実愛しているのは…君だけだよ… ファリア…」

「あ あぁ…」

囁くような愛の言葉に迷いはなくなっていく。
広い胸に顔を埋める。


「ごめ…ごめんなさい。リチャード…」

「もういい。
こうして…僕の腕の中に戻ってきてくれた。
取り返せた。それで十分だ。」


しばしベッドの上で抱き合うふたり。



「もうちょっと…休んだ方がいい。」

「えぇ…」


ベッドから降りると傍らの椅子に腰を下ろす。


優しいエメラルドの瞳が微笑みを向ける。
優しく黒髪を撫でる彼の手。

「リチャード…私…たくさん、謝らなければならないわ。」

「ん?そんなこと、必要ないよ。」

「いいえ、聞いてちょうだい。
私…ずっと英国に帰りたい、あなたの元へ帰りたいと願いながら…
あの村の暮らしが好きだった。」

「何故?」

リチャードはあの村での彼女の暮らしが気になっていた。

「バーの歌姫として… みんなに愛されて… 慕われて…嬉しかった。
最近はあなたの面影が この胸にあれば生きていけると思ってたわ。
そしてあの人に会った。」

「あの人?」

「シェルダン先輩… いいえ、エラリィに。」

「あぁ…」

彼の死に間際の言葉からしても、エラリィもまた彼女に好意を持っていたことが解る。


「あの人… 政府の仕事で村に来たって…
私が地球に帰りたいって言ったら…
"自分と結婚すれば帰れる"って言われたの。」

「何だって?!」

リチャードは驚きを隠せない。


「フルシーミ星の条例で2万人以上の人口にならないとこの星から出てはならない…
軍人や連邦政府の関係者以外は…
だから妻になってくれたら地球に連れて帰ってあげるって…」

涙を流し告げる彼女の様子につい口から出る。

「…抱かれたのか?」

「そのつもりだったのだけど… デスキュラの奇襲で中断したわ。」


「そうか… 今日だけはデスキュラのヤツらに感謝しなければならないな…」

「私… 一瞬だけど、エラリィに身を委ねれば帰れるって…思った。
浅はかだった。
ごめんなさい、私…
あなたを裏切ったわ。 例え一瞬でも…」

ベッドの上でむせび泣く彼女の顔を覗き込む。

「そこまでして… 地球に僕のところへ戻りたかったのか…」

「そうよ。 馬鹿ね…私。」

ぽろぽろと涙をこぼすファリアを抱きしめ、耳元に囁く。

「嬉しいよ…ファリア。」

「え…?」

「そこまでしようとしていたなんて… 男冥利に尽きるよ。」

彼に告げられ、背に回した腕に力が入る。



「ごめんなさい… ごめんなさい… リチャード…」

「もう謝るな。もう泣かないでくれ。」

「だって…だって…」

涙が止まらない彼女のあごを指で上に向ける。
可愛らしいくちびるにキスを落とす。


「ん…」

そっと包むような優しいキス。

熱く優しく繰り返す。


いつしか涙は…
喜びの色を帯びていた。


ずっとずっとお互い恋焦がれていたことが解ったくちづけ…





fin
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(2005/9/21・2020/09/10)

*あとがき*

いや〜気づけば激LOVE♪
実はコレ、めっちゃ挿絵付きの下書き原稿だったり(笑)

もうバカップル丸出しですわ。

あぁ、もう…いつまで描いてる私!!




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