a little walz -1-
英国の名門プライマリースクールに所属するリチャード(11)とファリア(10)の幼馴染の二人。
男子部女子部の違いはあるけれど、何かしらイベントの時には一緒になることが多い。
今回のイベントは初春のパリへの美術研修旅行。
良家の子女が多いので2パターンの日程に分かれていく事になる。
先発班の36名の中に二人はいた…
行きのユーロスターの中で班のメンバー4人が顔を合わせていた。
ファリアの向かいのシートにはリチャードが、横にはエリザベスことリズ。
それとエリックといった4人…
「ねぇ、ルーブル美術館、どう廻るの??」
リズが問いかけると班長のリチャードが用意してきた館内案内図を出してきた。
しっかりルートが記入されている。
「このルートで廻ればメインの8点は確実に見て廻れるはずだよ。時間的に。」
「まぁ…レポート書くのってたいていコレの中のどれかだよなぁ…」
リチャードの横でエリックが呟く。
「でも… この8点以外にもいい作品あるのよ?
他のも見た方が…」
ファリアはつい思ったことを口にした。
ちょっとむっとしたリチャード。
「何言ってるんだよ? 時間…ルーブルだけで3時間もないんだよ?」
「だけど…」
強い口調で言われ、少女は目の前の少年の反応に困惑してしまう。
「じゃ、君は違うの見れば!?」
涙をこらえ、何とか応える少女。。
「そんな風に言ったつもりはないの…ただ…」
普段仲のいい二人の小さな言い争いを落ち着かせようとリズもエリックも慌ててしまう。
「ちょっと… 二人とも落ち着いて…ね?」
リズに言われ、ファリアはうなずくがリチャードはそうでもなかった。
「ファリアは普段からパリに来てるし…観てるからそんな事言えるんだよ。」
少々すねた口調の彼に悲しくなった少女は席を立つ。
「ちょ…ちょっと、待って。ファリア。」
リズが追いかける。
「おい…リチャード。お前少し…頑固って言うかなんつーか…
あんな言い方ないだろ? 女の子相手に…いくら幼馴染でもさ…」
エリックの言葉にも応えない。
リチャードは自分が良かれと思って用意していたルートのことを否定されたと感じて、
あんなことを言ってしまった。
「勝手にすればいいさ…」
ふいと真っ暗な車窓を見つめていたエメラルドの瞳には後悔の色が浮かんでいた―
*
ファリアはデッキに立って涙汲んでいた。
「…ファリア… 大丈夫?」
優しくリズが声を掛けると涙を拭って振り向く。
「リズ… 私… そんなつもりなかったのに…
メイン以外にも素敵な作品があるから見て欲しいって思っただけなのに…」
ただでさえ、学年で一番下の小柄な少女が余計小さく見える気がした。
「そうよね… あんな言い方…すねてるだけだわ。
私はあなたと一緒に廻るわ。 気にしないで…」
親友のすぐ横に立ち笑顔を向ける。
その優しさがとても嬉しい。
「ありがとう…リズ。 でも、班を分割しちゃ先生に迷惑かけないかしら…?」
「大丈夫よ、たぶん♪」
パリ到着寸前まで席には戻らずにいた少女達。
*
パリに到着後、36名と引率の教師4人は一旦、ホテルへ。
昼食の為にレストランに行くが2人は終始無言。
リズとエリックが盛り上げようとするが、無駄だった。
到着日は団体行動。
チャーターバスでパリ観光。
エッフェル塔に上がり、降りてきてから記念撮影。
2日目午前中はポンピドーセンターへ。
午後、ルーブル美術館とオルセー美術館を廻ることになっていた。
たった3泊4日でパリとベルサイユを廻るために少々(?)強行ルート。
慌しくオルセー美術館を廻る。
1986年に開館となった美術館は元々駅舎。
それゆえに他の美術館と趣を異にしていた。
ファリアはあれから落ち込んだままでリチャードの顔を見ようともしない。
リズは心配でずっとついている。
オルセーの素晴らしい彫刻、絵画達を観て、
やっと少し笑顔を見せる親友ファリアを見てリズも嬉しくなった。
直後、不意にリチャード達とすれ違う少女達。
リチャードと一緒にいるエリックは少女たちを振り返る。
(なんでこんなに意固地になっているのか、ワケわかんないよ…
リチャード… 素直じゃないなぁ…)
集合時間に生徒36名と教師4人が集まり、次のルーブルへと移動する。
移動のバスの中、ファリアとリズはレポートの為にオルセーの図録を見ていた。
「ねぇ、やっぱり彫刻はプラディエールの<ザッフォ>よね。」
ファリアは自分の好きな作品名をリズに言う。
「私は… クリストーフの「仮面」かしら…」
「あ、でもセゴファンの「戦いの踊り」もいいわね。」
「私は絵画なら…「泉」かなぁ…」
「アングルの?? 私は「ヴィーナスの誕生」かしら…
あんなに美しい女性になりたいわよねぇ…」
「それには太らなきゃ!!」
リズの言葉で笑ってしまう。
「やだ〜!! 私、細い方がいい!!」
声を出して笑いあう美少女たち―
その二人の前のシートでリチャードとエリックは耳をそばだてていた。
「ねぇ、レディ達。 僕も「ヴィーナスの誕生」好きだなぁ〜。」
ひょこっとエリックが顔を出す。
一瞬驚いたが笑顔で突っ込んできたので二人は目を丸くしていた。
「「へ〜…」」
「あのセクシーなのがいいじゃない?」
「ぷ。やだ〜H。」
リズがそう言った事もあって3人は笑いあう。
リチャードはひとり、窓の外を見てむすっとしていた。
次は問題のルーブル美術館―
やっぱりリズと二人で行動する少女。
(ホントなら…4人で、仲良く廻りたかったのに…)
小さな溜息をつくファリアを見て、明るい声で話しかけるリズ。
「ね、ゆっくり廻ろうよ♪」
「えぇ…そうね。」
リチャードは自分で決めたルートをエリックと二人で廻っていた。
レポートのためのメモを取りながら。
「へ〜… ファリア。
あなたの選択…なかなかいいわね♪」
「そう?」
親友の言葉で笑顔になる少女。
「うん。メインの8点は時間があれば観ればいいし…
古代オリエントも古代エジプトも面白いわね☆」
「ふふ…」
小声で会話する少女達。
「同じレポート書くなら、人が書かないものを書いたほうが面白いでしょ?」
ファリアの言葉にうなずくリズ。
「そうよね…同じ様なの書いてちゃ比較されて…感じよね。」
「別にレポートだから、そういうわけじゃないけど…
人と違う着眼点持ってるって…いいかなと思っただけよ。」
「だからあのルート… イヤだったんだ。」
少し戸惑う顔を見せる。
「イヤっていうか… 定番過ぎるでしょ?
せっかく来たのに…」
「そうね。」
二人はレポートの為に熱心に鑑賞していた。
ふと気づく彫刻に見入る二人の少女の存在。
リチャードはサモトラケのニケの階段で少し反省し始めた。
「…。」
顔を合わせられるのに口を聞かない彼女に最初怒っていたが
淋しさを感じ始めていた。
そうさせたのは自分なんだと自覚する。
(いつも笑顔で…話聞いてくれたりしてるのに…
なんで僕、あんな事、言っちゃったんだろう…??)
思わず出る溜息にエリックが気づく。
「おや… やっと気づいたか?」
笑顔で突っ込まれ、正にその通りだったので面白くない。
つっけんどんに言葉が出た。
「…!? うるさいなぁ… もう…」
「…お前… そのうち本気で嫌われるぞ。そーゆーの。」
むっときてリチャードはすたすたと歩きだす。
一応、レポートのための鑑賞を終え、集合時間までリズとファリアはメイン8点を見て廻ろうとする。
少女達がモナ・リザの部屋に入ると大勢の人。
「やっぱり、メインは人が多いね〜。」
「そうなのよ…」
「そういや、ファリアって前に来てるんだっけ?」
「うん。お爺様とおばあ様と…2回。
オペラを観にパリまで来て…で、連れてきてもらったの。」
「そうなんだ…近くて遠いからねロンドンとパリってさ。」
「えぇ…」
次の部屋に行くと人は少ない。
「あ…」
リチャードとエリックがいた。
ファリアも少し元気を取り戻し、彼に声をかけようとするが
逃げるように展示室を出て行く彼。
その様子を見ていたリズ。
「また…チャンスあるよ。」
「うん…」
亜麻色の髪を揺らし、親友の肩を抱く少女・リズ。
夕方にはエントランスで40名は集合し、再びバスでホテルへと戻る。
ホテルのレストランで夕食となるが、みんなもいるので言い出せない二人…
夕食を終え、部屋へ引き上げるクラスメイト達。
リズとファリアも部屋へと引き上げる。
制服から私服に着替えた少女達は部屋でレポートの下書きを始めていた。
椅子に腰掛け、テーブルに向かい合って二人の少女は
黙ったままカリカリと下書きを書いていた。
「私、謝ってくる。」
「ファリア?!」
突然立ち上がった親友に驚く。
「あんなつまらないことで…こんな気持ちになるの…
やっぱりイヤ。
謝ってくる。」
「部屋…確かワンフロア下の…」
「うん。知ってる。行って来るね。」
「いってらっしゃい。」
親友リズの笑顔に見送られ少女は部屋を出た。
エレベータに乗り込み、ワンフロア下へ。
すでにカゴには二人の男の人がいたが何も思わずにいた。
ふいに何かを感じてファリアは男を見上げる。
男の一人が少女の口元にハンカチを当ててきた。
少女は遠くなる意識の中、両親と…リチャードの名を叫んでいた。
防犯カメラはあったが、小柄な少女の異変は男の身体が死角となり映らない…
意識を失った少女を抱きかかえ、男達は地下駐車場へ。
ワンボックスの後部に乗せると手を縛り上げた。
to -2-
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(2005/9/2)
(2015/04015 加筆改稿)
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