a  fleeting  love -1-








ここは貴族の子息が数多く在籍している名門学院。

数多くといっても1学年たった2クラス。
1クラスに20名いるかいないかの少人数。
それでも男子部と女子部に分かれている。

そのために校内で行われるイベントでは男子部女子部合同のものが多い。

もうすぐイースター(復活祭)ということもあり、校内は賑やかだった。




中等部女子1年に、現在の英国女王陛下の孫でもある
名門貴族パーシヴァル公爵家の令嬢が在籍していた。



人気がある… というより、周りからは一歩 敬遠されていた。

表面的には親しくても 本当の友人は少ない。



親友と呼べるのはエリザベス=マーシャル伯爵令嬢だけ。
あとは男子部在籍の幼馴染リチャード=ランスロットと彼の親友エリックとスコット…それくらいだった。



   ***


今度のイベントは男子部女子部合同の演劇発表会。

演目は「白雪姫」

男子達は「姫」を女子達は「王子」を投票で決める。


あとのキャストやスタッフは自薦他薦で決める事となっている。




女子部の中にはファリアのことをあまりよく思っていない者がいた。

彼女の祖父・アレクサンダー=パーシヴァル公爵が貴族院の議長を務めているのだが…
政敵の血縁者の娘・ジャスリン―
そしてその娘を取り巻く仲間たち。


「ねー、王子ってさ、普通ならリチャード=ランスロット君じゃない?」

「やっぱ、そう思う?」

「どうするの?多分、男子達さ、ファリア=パーシヴァルに投票するでしょ?」

リーダー格の女子…ジェスリンはそれが面白くない。

「…じゃ、わざと違うやつに投票しようよ。」

彼女の提案に仲間達が同意する。
ひとりが言い出した。

「スコット=フログリーなんてどうよ?」

「いいんじゃない?イケてないNo1だしさ!!」


そんな女子達の陰謀の中、投票が始まった。



―――結果

姫はファリア、そして王子はスコットに決まった。



姫は満票で決まったのに、王子はスコット9票、リチャード8票で決まったのだった。


「なんで僕なの??」

少々訝しさを感じるスコット。

「まぁ、決まったんだし、いいじゃないか。頑張れよ!!」

エリックに小突かれ、戸惑うスコットはリチャードに顔を向ける。

「投票で決まったんだし、堂々とすれば??」

リチャードはそんな彼の背を押す。

「でも…」

自分がそんな器でないことがよく解っているだけに何かがおかしいと思う。
そんなスコットを尻目に先生の言葉が決定打となる。

「じゃあ、姫はファリア=パーシヴァル。王子はスコット=フログリーで決まりですね!!」

先生の言葉で女子から拍手が起こった。
それにならい教室内の全員が拍手する。

「よろしく。Mr.フログリー。」

ファリアはスコットに微笑みかける。
その可愛らしさに思わず照れる。

「え、あ。よろしく…」

ちらりとリチャードに申し訳なさそうな顔を向けていた。

  (いいのかな…僕で…)


    ***


キャストが決まるとすぐに台本の読み合わせに入る。


ファリアの親友・リズが継母役となった。
リチャードとエリックは大道具係。



女子達の行動はエスカレートしていく。


衣装係となったのは例のジェスリンたち。
ファリアのドレスを作るが…出来上がったのはデ●ズニーも真っ青な原色バリバリのドレス。


それを渡されたのを見て、横にいたリズもこれには驚く。



練習を終え、帰るキャストメンバー。


「ねぇ、ファリア。 ちょっと、今日は一緒に帰ろうよ。」

「うん、いいけど?」

学内が復活祭のイベントに向けて動いているので部活も休み。
いつも一緒には帰れない二人だった。

「最近、ロンドンの家よね?」

「そうよ。朝早いし、帰りも遅いから…城に戻るの大変だしね。」

「じゃ、ちょうどいいんだ。」

「…?」

ファリアに笑顔を向けられると微笑を返すリズ。


二人連れ立って校門を出る。
ファリアもリズも何時に終われるか解らないので家の車は使わずにタクシーで帰っていた。
ロンドンのパーシヴァル邸とリズのマーシャル邸は車だと15分くらいしか離れていない。


車中、リズが問いかける。

「ねえ、渡された衣装、凄くない?」

遠まわしにえげつない配色だといいたいリズ。

「…そう?? 昔見たアニメの白雪姫ってあんな感じよね♪」

少々嬉しそうに応えるファリアを見て呆れてしまう。
  
   (って、マジでこんなこと言うか?)

「衣装係の子が頑張って作ってくれたんですもの。嬉しいじゃない。」

「そりゃーそうだけどさー…」

  (ダメだこりゃ…解ってない…)

隣の席で微笑んでいる親友の顔を見てこれ以上は言えなかった。




   ***


―上演4日前

練習は大詰めに来ていた。
ラストシーンで姫と王子のワルツ。
それを囲む7人の小人達…

なのだがどうも王子のステップが上手くならない。

そもそも姫役のファリアと王子役のスコットの身長差に問題があった。
彼女は元々小柄な方だがさらに3センチほどスコットが低い。


この日になってやっとスコットは監督役の先生に言い出す。

舞台の真ん中で叫ぶ。

「やっぱり先生〜、僕、無理です〜ぅ…」

「なんですって!?」

「ダンス苦手だし…僕じゃ彼女の相手は務まらないですよ〜」

情けなくも泣き出してしまう。
はあと溜息をつく先生。

「確か…王子役の次点はリチャード=ランスロットでしたわね…何処にいます?」

演出助手を務めている男子生徒に尋ねる。

「大道具の修理をしているはずです。」

「呼んできてください。」

「はい。」


大道具を直している場所まで走っていく男子生徒。
すぐに講堂にリチャードが姿を現す。

先生は笑顔で彼に話しかける。

「Mr.ランスロット…すみませんが、Mr.フログリーの代わりに王子役を引き受けてくれませんか?」

突然の言葉に驚く。

「…え? スコットは?」

「役を降りました。あと4日しかありませんが…引き受けてもらえませんか?」

シスター服の先生に問われる。
舞台上にいるファリアは不安そうな顔を向けていた。


「…はい。お引き受けします。」

その返事で安心した先生。

「そう。ありがとう。じゃ…セリフは…っと、誰かプロンプターをやってもらえませんか?」
                             
※プロンプター=セリフを教えてくれるスタッフのこと

「いえ、先生。その必要はありません。」

「何故です?」

「覚えていますから…台本。」

自信たっぷりのその顔で言われ納得する。

「…解りました。 衣装係は手直ししてください。」


すぐに舞台での練習に参加する。



    ***



舞台を降り、二人だけでワルツのシーンを練習中、小声でファリアは問いかける。

「なんでセリフ、覚えてるの?」

「…実は、やりたかったんだ。王子役。」

「何で?」

「君が相手だからさ。」

思わずどきっとした。






通しの舞台練習で二人の呼吸はぴったりだった。
セリフもよどみなく言えているリチャードに先生も周りも驚いていた。
問題のワルツのラストシーンもOKだった。





講堂の傍らでジャスリンたちが固まってその様子を見ていた。

「ちょっとぉ〜、こんなはずじゃ…」

「じゃ、ランスロット君の衣装に手を加えましょ。」

「へ?」

「…王子様らしく真っ白にするの。マント以外。」

「あ、なるほど。それいいかも。…あの原色の白雪姫じゃね〜。」

「でっしょ?」






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(2005/5/21)



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