affections




その日、なんとなく朝からビルの機嫌は悪かった。


朝一にデスキュラ出現で叩き起こされ、満足に朝食も摂れないまま
アローストライカーですっ飛んでいく。

進児とリチャードもロードレオンとドナテルロを駆って飛び出していく。

それはいつもの光景―




何とかデスキュラを撤退させる事は出来たが
奇襲を受けた村は壊滅してしまった。


「畜生!! デスキュラのヤツラ… どれだけ地球人を殺すんだ!?」

ビルはライトコンソールのシートに身を沈め、呻く様に呟く。

進児もマリアンもリチャードもやるせない気持ちでいっぱいになる。


「戦争をしているんだ… 僕達は…
辛くても悲しくてもな…」

ふと呟いたのはリチャード。

進児とマリアンは瞳を伏せる。しかしビルは違った。


「戦争してるから… 人が死ぬんだろ?? 
俺達の仲間が、友人が家族が奪われてるんだ。それを…」

「それを終わらせるために僕達は戦っている…そうだろう、ビル?」



正論ではあるが今日のビルは少し違った。

「じゃ、戦争を終わらせるために犠牲は仕方ないってか?
それが家族や友人かもしれないだろ!?
お前は… 大切な人を失くした事がないから…そんな事が言えるんだ!!」

「!!」

リチャードは一瞬目を大きく開いたあと、瞳を伏して拳を震わせていた。


「何だ?! 苦労知らずのお貴族様は奇麗事しか言えねぇんだろ?!」

正に売り言葉だった。
"ブツ"とリチャードの血管が切れた瞬間を進児は二人の間で解ってしまった。

進児は知っている。
彼にも失った大切な人がいることを。

「ビル…止めろ。」

目を細めてビルは進児を見る。

「なんだ…進児?  お前は俺の気持ちを解ってくれてると思ったんだがな…」

「解るさ。解ってる。
リチャードだって…解ってる。」

「いいや、解ってないね。
俺や進児は親をデスキュラに殺された。
マリアンは…ルヴェール博士を誘拐されてる。
リチャードのヤツは…何もねぇじゃねえかよ!!」


ビルの叫びを聞いてキッと睨みつける。

「おっ!? やるかリチャード? 
一度本気で決着をつけなきゃと思ってたからな!!」


しかし彼はレフトコンソールのシートから立ち上がるとビルに目もくれずに
コクピットから出て行く。

「お!おい…逃げるのか?」

「お前に…僕の気持ちは解らないだろうさ…」

淋しげに苦しげに呟いて彼は出て行った。



「リチャード…」

進児はその名を呟き、マリアンの奇麗なブルーの瞳には涙が滲んでいる。

「ビル… 言いすぎよ。酷いわ。」

「何だよ!? 俺だけ悪者かよ!!」


進児とマリアンの瞳には悲しみが浮かんでいた。






   ***



リチャードはひとり、3段ベッドの最上段にいた。
唯一のパーソナルスペースに置いてるシルバーのフレームを手に取る。


「…ファリア…」



彼のエメラルドの瞳には悲しみと孤独が浮かんでいた。

そっと指先で写真の少女の頬に触れると硬質な感触。
本物はやわらかくあたたかいのを知っているだけに切なさが込み上げる。



初めて少女の心の内にある愛情に触れた時、
自分もどれだけ愛しているのか理解した。


あの瞬間がずっと続くと思っていた。
失う事など考えられなかった。



本物の恋人同士になれたのは―――わずか7日間


彼女を見失った自分はただ暗闇の中を彷徨っていた――
どんなにその名を叫んでも応えてくれる声はない――



自分の手で守ると誓っていただけに、悔しさも喪失感も大きかった。


「ふ…  くっ…   ファ…リア…」



   (やっぱり僕は弱い人間だ…。
   君を失った瞬間を思い出しただけで… 苦しくて… 

   女々しいな…     )




ぽたぽたとフレームに涙が零れ落ちる。
笑顔の少女の瞳と頬を濡らしていた。


彼はフレームを元の位置に置き、部屋を出る。




ヘルメットを手に取り、ドナテルロに跨りマシンを飛び出していく。




   ***



コクピットの3人はリチャードがドナテルロで出て行ったのを見ていた。


「何だよ… リチャードのヤツ…
言い訳もしないでよ… 俺だけ…」

悔しげに呟くビルの視線はリチャードが行った方向を見つめている。


「ビル… 俺から話していいのか解んないけどさ…」

「何だよ…進児?」

「リチャードさ… デスキュラに奪われた大切な人、いるぜ。」

「え?!」

目を見開き驚くビル。

「な!? なんで…? そんな話知らないぜ。」


驚くビルにマリアンも告げる。

「私も…知ってる。」

「!?」

「ビスマルクチームのメンバー選出の時に…
ちらっと見ただけ…
ものすごく個人的なことだから、私の口からは…」

「マリアン…」

進児とビルがマリアンを見つめると悲壮な表情。


「何だよ? 俺だけカヤの外かよ!? 話せよ。」

「…進児君…」

マリアンは切ない瞳を進児に向ける。

「俺から… 話していいと思うか?マリアン…」

「…うん。 多分本人は…辛いから話せないのよ。
それにしても進児君は何で知ってるの?」

「う…ん。 たまたま…本人から聞いた。
あの時のリチャード…苦しそうで今にも泣き出しそうだった。」

「!? 進児… 聞かせてくれよ。」





   *



進児はメインコンソールのシートサイドに腰掛けビルに話し出す。


「あいつさ… 許婚を失ったんだよ。」

「!?」

「2083年の…"アテナU号事件" をお前も知ってるだろ?
ビルの両親の事件の翌日の…」

「あぁ…」

「リチャードの彼女…ソレの行方不明者なんだよ。」

「なんだって!?
ちょっと待てよ…許婚ってコトは婚約者?」

「あぁ、幼馴染で婚約したって言ってたな。」

「マジで?」

ビルは本気で驚いた。
彼には女の影がまったくないと思っていたから。

「あぁ… 相当、相手の事を好きだったみたいだぜ…」



ビルは進児の言葉を聞いてやっとさっきの態度に気付く。


「あ…!?」


淋しげな苦しげな表情―




「ビル… 確かに俺達は親を奪われた。悔しいさ…
平和でも、やっぱり親は先に亡くなっていく。
でも…リチャードは違う。
共に歩んでいこうとした愛する女性を奪われた。
俺達とは…違う意味の悔しさだろうな…」

瞳を伏せる進児の拳は震えていた。





「俺… 何も知らなかった…
リチャードのヤツ… そんな事、一言も…」

「多分…リチャードにとって一番辛く悲しい事なのよ。
だから… 話そうとしなかったんじゃないかしら…??」

一応、マリアンもなんとなく知ってはいるが
本人から聞いたわけじゃない。
軽々しく口に出来ないほどなのだと感じた。


「俺は… 深夜にコクピットで宇宙をジッと凝視してたのを見つけてさ…
あんまりにも…アイツが睨みつけてたから、どうしたんだろうって思って声掛けたんだ。
その時、ぽつりぽつりと話してくれたんだ。
あんなリチャード…アトにも先にも1回しか見たことなかった…」


「進児…」


ビルは遠い目をする進児を見つめている。


「俺達4人とも… 別々の形で大切な人をデスキュラに奪われてるんだな…」





ビルの呟きは進児とマリアンの心にも重く響いていた―





   *****



ドナテルロで壊滅した村の入り口まで出てきたリチャード。

夕陽の沈む中、ヘルメットを外す。

オレンジの残滓の空に乙女の面影を描く。




「…ファリア… 何処に… 何処に…」


嗚咽をあげて愛しい乙女の名を呼ぶ。


「……僕の姫君…」


あの日の健気で可憐な…女になった瞬間を思い出す。

初めて感じた温もりの奥、心の熱さが鮮やかに蘇る。



「…ファリアァぁーーーーっ!!」








沈み行く夕陽がすっかりいなくなり星空が空一面に広がる。


ひとりたそがれているとヘルメットからマリアンの声。

「デスキュラに襲われてるって基地から緊急連絡が入ったの! 戻って!!」


冷静な顔に戻りヘルメットを被って返事する。

「了解!  すぐ戻る。」



コクピットに駆け込むと4人とも戦闘モードの顔。


なんとかデスキュラの奇襲を受けている基地に駆けつける。
敵が巨大メカを出してきたため、ロボに変形して戦う。



「オルガニックフォーメーション発射ーー!!」


進児の叫び声と共に破壊されていくデスキュラ巨大メカ。


なんとか基地を守れた4人に笑顔が戻る。






   *


―その日の深夜


ビスマルクのコクピットにリチャードの姿があった。
移動の為にフロントの風景は宇宙空間。


   (ファリア… この漆黒の宇宙で… 何処に行ったんだ…?)




切ない溜息が出る。
ビルに言われた一言が胸に突き刺さっていた。


 
"お前は 大切な人を失った事がないから… そんな事が言えるんだ!!"



ファリアを失ったという現実の重みで胸が苦しくて潰れそうだ。


「くっ…」


フロントガラスを叩く手。


背後に人の気配を感じて顔を上げると暗いガラスに映りこむビルの姿。



「…何だ? まだ僕に文句があるのか…?」


リチャードの苦しんでる瞳には悲しみも浮かんでいることにビルは気づく。
昼の態度とはまるきり違うビルがいた。

「すまん… リチャード… 俺、何も知らなくてよ…」

「…え?」

「進児から…話は聞いた。
俺… お前がそんな過去持ってるなんて知らなくって…
すまん!!」

真剣な顔して謝るビルに驚いて振り返る。


「進児から…? どう聞いた?」

エメラルドの瞳を細めて問いかける。


「その…"アテナU号事件"で許婚を…
婚約者が行方不明になったって…」

「そうか…」

ビルの答えを聞いて瞳を閉じる。

「俺だけ、お前の過去知らなくて…
あんなコト言って悪かったよ。」

「もういい。
僕も…話してなかったからな、ビルとマリアンには。
マリアンはどう言っていた?
たぶん…ビスマルクチームのメンバー選出の時のデータでも見てたんだろう?」

「あぁ。そう言ってた。
リチャードにも失った大切な人がいるって…


お前に…婚約者ってコトは家同士のモノじゃねぇのか?」


リチャードは腕を組み、ビルの方に向く。。

「…確かに半分はそうだ。
けれど僕は彼女を愛してる。」

「!?」

今までリチャードの口から聴いたことのない単語を聴いて驚く。

「幼い頃から…漠然と彼女の事、好きだった。
でもある事件がきっかけで…
僕は彼女にプロポーズした。」

「え? そ、そーなんだ…
いくつでだよ?」

「僕が13で彼女が12だよ。」

「マジで?」

「その時は…両家の口約束だけだった。
けど僕が17、彼女が16の時に正式に婚約したんだ。」

「うっわ、早っ!!」

本気でビルは叫んでいた。

「…いろいろと事情があってね…」

「へ〜…」


ふと黙り込むリチャード。
ビルは目の前の彼の心情を察した。





「リチャード… 俺はさ、まだそこまで想える女がいねぇから…
少し羨ましいよ。」

「え?」

「たったひとりの女をそこまで想えるなんてさ…。」


珍しくしんみりと語るビルに彼は応える。


「ビル… 僕は彼女が死んだなんて思ってないよ。」

「へ?」

「行方不明なだけだ。きっと何処かで生きてる。
あれから2年、経ってしまったがな…」

「逢えるといいな…リチャード…」

ビルは目の前のリチャードを見てると本気でそう思う。

「あぁ…僕もそう願っている。
もう一度この腕に抱きしめたいって…」




しばらくの沈黙の後、ビルが切り出す。

「…なぁ」

「…うん?」

「お前…その… 婚約者の子と…キスはしてるんだよな?」

「え? あ、あぁ…」

思いがけない内容の質問につい応えてしまっていた。

「ひょっとして…それ以上も…?」

「それは応える義務はないな…」

「そっか…」


   (ってことは… してるんだな…コイツ…)




二人の沈黙を打ち破るように緊急コールが入る。

リチャードがリアコンソールに近づき、通信回線を開く。

デスキュラに襲われているという近くの星からの救援要請。


「進児!マリアン!  デスキュラだ!!」



すぐにプロテクトギアルームに駆け出すビルとリチャードの瞳に迷いはなかった。


戦いに明け暮れる戦士達の力強い瞳―





進児も駆け込んできてプロテクトギアを身に着けていく。


コクピットに4人が揃うと進児の声が響く。


「スーパーフライト Go!!」


果てない戦いに駆り立てられる彼らにいつ安らぎは訪れるのか
誰も知らない――――









Fin

____________________________________________________
(2005/9/6)

*あとがき*

一気に思いついて一気に書いたモノ。

初めはビルとリチャードをケンカさせようと書き出したら…
こんなんなっちゃったって感じです。
う〜む…

彼、一部語ってないけど彼の過去話…??

今までにないVerですな。





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