Sympathy  -1-



 ―2079年7月

ガニメデ星に向かう宇宙客船・アテナU号

地球圏に侵略を進める異星人デスキュラの奇襲を受け、
乗客乗員の大半が行方不明となってしまった。


その中の行方不明者―――
ファリアとアリステア姉弟はひとつのカプセルに乗り込んでいた。

丸一日漂流した後、回収したのは…人身売買の商人の男。


アステロイド圏の首都でもあるセレス星に着いた後、姉弟は別々に売られそうになるが
まだ7歳の弟をひとりにしたくなかった姉は
無理にでも二人一度に引き取ってくれる人が現れるまで待った。


ピアノを弾く事が出来たのでそれで生計を立てるしかないと感じていた。
そして彼女たちを引き取ったのは…
まだまだ未開の星・フルシーミ星の鉱山の村のバーの主人。



姉・ファリアは12歳、弟・アリステアは7歳。
建前上は養子だったが二人とも下働きのために。

バーの主人は姉に期待していた。
12歳というのにどこか気品漂う美少女。
主人の思惑は別にあった…




彼女が15歳になると主人はウェイトレスとピアノ弾きをさせるようになる。

案の定、黒髪に白い肌、何処か神秘的なサファイアの瞳の美しい小さな少女はいつしか
客の男たちに「フェアリー<妖精>」と呼ばれていた。

どこか透明感のある、翳りのある少女を褒め称えての言葉。
このころから客からチップを受けるようになるが彼女はすべて残していた。


   ***



あの事件から6年という歳月が流れ、ファリアは18歳にアリステアは13歳の7月―




バーの2階で暮らす姉弟。
弟を村の学校ではなく隣の少し大きな街の学校に行かせていた。

村の学校なんかには入れさせたくはなかったからだ。





仕事を終え、深夜。

クローゼットの奥に隠しておいた袋の中身を見て呟く姉。

「やっと…貯まったわ…」


地球に帰るための資金。

フルシーミ星から地球に帰るためにはかなりの金額を要した。
この星からセレス星に行き、セレス星から火星。火星から地球に。
地球のポートから英国までの片道運賃。

ここまで貯めるのに3年かかった。


ベッドで眠る弟の寝顔に微笑みかける。


「これで…帰れるのよ…アリステア…」

やわらかな弟の黒髪を愛おしそうに撫でる。



弟を英国の家に帰すために頑張ってきた。

明日、午前中のうちに首都のスペースエアポートに連れて行くことを決心していた。




   ***

朝、ファリアはバーの主人に弟を学校に送ってくると車に乗り込む。
それはいつもの光景。




ハンドルを握る姉は静かに話し出す。

「今日は学校に行かないわ。」

「え?!」

姉の突然の言葉に驚く。

「あなたは…地球へ英国へ帰るのよ。いいわね。」

「え…姉さまは?」

「…私は帰れないわ。チケット代は一人分しかないもの。」

「!! ヤダよ!! 僕も働くから、稼ぐから…一緒に帰ろうよ!!」

「ダメよ。あなたは一日でも早くパーシヴァル家に帰らなければならない。」

「イヤだ!!」

駄々をこねる弟。
車を止め、そして弟の頬をはたく。
この6年、姉にそんなことをされたことのなかった弟は目を白黒させていた。

「アリステア、あなたはパーシヴァル家の跡継ぎなのよ。
一日でも早く帰って、勉強して、修行して…立派な人物にならなきゃダメなの!!」

涙をこらえながら弟に言い聞かせる。

「じゃ…僕、大人になったら姉さまを迎えに来るよ。」

「いいえ。」

きっぱりと言い切る。

「どうして!? 」

「私のことは死んだと思って諦めて頂戴。」

姉の言葉に狼狽する。

「姉さま!?」

「私は…バーで酒場で働いているのよ。
それだけでもパーシヴァル公爵家にとって不名誉だわ。」

顔を背け、絞り出すような声で告げられ、どう言っていいのか解らない弟。

「…姉さま…」

「だから、お願い。ひとりで帰りなさい。
私が願うのはあなたが立派な跡継ぎになること。
…ひとつだけ、伝言を頼まれて頂戴。」

「何?」

「彼に…リチャードに"愛してる"と伝えて。そして私は死んだと。」

「イヤだ!! そんな言葉、聞きたくない!! 伝えたくないよ!! 
直接、姉さまが言えばいいじゃないか!?」

弟に叫ばれても動じない。

「私はもう…彼にふさわしくないの。わかって頂戴。」

姉の悲痛な顔を見て、うなずくしかなかった。




   ***


スペースポートに着くとチケットを買う。
きっちり地球・英国までの片道分でお金は消える。

「さ、これをしっかり持って。
ロンドンに着いたら…タクシーでパーシヴァル邸に行ってくださいって言うのよ。」

チケットを渡し、何度も言い聞かせ抱きしめる。

「姉さま…」

発着ロビーにいる何人かの人に声をかける姉。
たった一人で行かせるのが不安だった。




「あの…地球まで行かれますか?」

「あぁ。」

やっと見つけた地球まで行く人物…40歳前くらいの優しげな男性。

「あの…すみませんけど、弟を地球へ行かせたいのです。
途中までで いいので一緒にいてやってもらえませんか?」

「地球の何処まで行かせたいの?」

「英国まで。」

「…私は仏国まで行きますから…いいですよ。」

笑顔で答えてくれたので安心した。

「よかった。すみませんが、よろしくお願いします。」


頭を下げる姉弟。
彼女の風体を見て問いかける男。

「あの、あなたはひょっとして、噂のフェアリー?」

この星に住んで2年の男性は一度だけ彼女のステージを見たことがあった。
なんとなく見覚えがあった。

「え、えぇ…」

「…じゃ、せめて想い出にというか記念に…キスしてもらえませんか?」

突然の申し出に驚くが応じる。

そっと男性の唇にキスする姉の姿を見て胸を痛める弟。
男性は嬉しそうに微笑み返す。

「ありがとう、フェアリー。弟さんは送りますよ。」

「よろしくお願いします。」

再び頭を下げる。



弟は男性と共にセレス星への定期船に乗り込む。

飛び立ってゆく宇宙船を見送る。

「さよなら…アリステア。 元気でね…」


飛び去る船をじっと見つめていた。
涙がひとすじ…頬を伝っていた。






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(2005/5/29)



To Love Sick