-11- 「restness」
結局、明け方まで抱き合っていた二人。
朝日が昇る頃、ドナテルロに乗ってランスロット城へと帰っていく。
***
この日の午後は珍しく車で城を出た。
向かう先はローレン城。
今日は彼女だけでなくリィも連れて行く。
親子3人でランスロット城へと。
彼はリィを肩に乗せ、彼女の手を引く。
母・メアリの部屋へと。
ベッドの上の母・メアリは満面の笑みで迎える。
「まぁ、3人揃って来てくれるなんて…嬉しいわ。」
「お母様、お加減はいかが?」
「えぇ、随分いい気分よ。」
「よかった…」
リチャードは彼女と母親の会話を聞いて目を丸くしていた。
(え…? ”お母様”って言ったよな…?)
彼と同じエメラルドの瞳が微笑んで孫であるリィを見つめる。
「リチャード、私の孫を抱かせて頂戴。」
「え…えぇ。」
少し困惑している彼は母に息子を渡す。
きゃっきゃッとはしゃぐ赤ん坊を抱くメアリはとても元気に見える。
メイドに言ってスコーンとミルクを持ってこさせる。
すぐに皿に乗ったスコーンと哺乳瓶に入ったミルクがトレイに乗って運ばれてきた。
「え…? お母様、…哺乳瓶?」
「えぇ。用意させたのよ。」
「わざわざ??」
「そうよ。」
笑顔で答えるメアリにファリアは驚きの目を向けていた。
すっかり孫に入れ込んでいるのがわかる。
メアリの手で小さくしたスコーンをほおばり、ミルクを飲むリィ。
「まぁまぁ、食べっぷりがいいのもリチャードそっくりね。」
「そうなのですか?」
「えぇ。」
和やかな空気の中、ちらと息子・リチャードを見る母。
これは少しやばい雰囲気かもと察し、彼は逃げ出すことにした。
「ぼ、僕、ちょっと失礼します。」
リチャードは少し後悔していた。
本当は母に預けて二人で部屋にいようと思っていただけに
母と彼女がすでにお互いを認め、母と娘状態になっていることを知らなかったのが誤算だった。
メアリの部屋で二人は呟いていた。
「あら…リチャードったらどうしたのかしら?」
「そうですね…」
訝しがるメアリとファリア。
母の膝の上で口の周りを汚しながらスコーンを食べていたリィ。
「もう…リィったら…仕方ないわね。」
持ってきたバッグからタオルを出そうとするが母に止められる。
すぐにメイドが濡れタオルを持ってくる。
「あぁ、ファリア。紹介しておくわね。
実はね、この子の乳母をしてくれる事になったキャスリーン夫人。」
見覚えのある、メアリより少し年上の40代前半の夫人。
昔からランスロット家にいるのは知っている。
「え…?」
「こんにちは。ファリア様…若奥様。」
「あ、あの…」
「もう授乳期間は終わっているから彼女でいいでしょう?
キャスリーン夫人はリチャードの乳母だったんですもの。」
「えぇ。確かそう聞いていましたわ。」
「ですから…お嬢様。いえ、若奥様のことはよく存じております。」
突然”若奥様”と言われ戸惑いを隠せない。
「わざわざ…若奥様なんて言わないで。
まだ正式なランスロット家の嫁ではないのですから。」
その彼女の言葉に反論する夫人。
「何おっしゃっているんです?
リチャード様の立派なお子をお生みになっていらっしゃるのに…
聞きました…
辺境の星でお一人でリィさまをお生みになったと… さぞ…不安だったでしょう?」
今まで誰も言わなかった”不安”と言う言葉を聞いた途端、思い出す。
出産が怖かった、ひとりで育てていけるのか不安だった。
一気にあの時の気持ちが蘇る。
「私…私…」
ぼろぼろと涙が溢れる。
キャスリーン夫人はそんな彼女をふくよかな身体に抱きとめる。
「やっぱり…不安だったんですね…」
こくりとうなずく。
流れ出る涙を夫人がハンカチで拭う。
「決心したけれど…怖かった。
あの人の子を私一人で育てていけるか…不安だった。怖かった。
でもなんとか無事に生まれて…あの子の顔を見た時、間違ってなかったって…思ったの。
だってあの人と同じ金の髪… 黒髪で生まれてくるより…嬉しかった。
不安は拭いきれなかったけれど…」
彼女の肩を優しくさするキャスリーン夫人。
「ファリア様…女はみんな不安なんです。 出産のときも、育児の時も。
だから私たちのような先輩がいるのです。頼りにしてください。
リィさまをしっかり育てていきましょう…」
その優しさが自分を包んで育いくのが解る。
「あ、ありがとう… キャスリーン夫人。」
「私も勿論、リィの事は見るから…」
「お母様も、ありがとうございます。天国の私の母も…見守ってくれますよね?」
「もちろんよ。セーラ様は何よりも誰よりもあなたとアリステア君を愛してらしたわ。」
笑顔でメアリは言う。
その言葉で不意に思い出す。
「あ…私、お母様に…リィを見せに行ってないわ。」
「あら、じゃあリチャードに連れて行ってもらいなさい。
きっと喜ばれるわセーラ様…」
「はい。ありがとうございます。お母様…」
メアリはすぐに電話で息子を呼ぶ。
「母上?ファリア? 一体、何ですか?」
少々不機嫌な顔のリチャード。ヘソを曲げているのは明らかだった。
「リチャード。 ファリアをセーラ様のところへ連れて行ってあげて…」
「はい…?」
彼女に顔を向けるリチャード。
少々悲しげな顔を向ける彼女
。
「あのね… まだお母様のお墓に行ってなかったの。」
「あぁ、そういう事。 わかった…行こう。」
メアリからリィを受け取り彼と歩き出す。
「それじゃ、行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
メアリに笑顔で送り出される。
「若奥様、これを…」
キャスリーン夫人に濡れタオルを渡される。
「あ、ありがとう。」
汚れたリィの口元を拭く。
「さ、行きましょうか。」
「あぁ。」
3人はメアリ夫人の部屋を出る。
「何を話していたんだ?随分、盛り上がっていたみたいだけど?」
「あなたの乳母だったキャスリーン夫人がリィの乳母をしてくださるって…
引き合わせていただいていたのよ。」
彼は笑顔を彼女に向け、言った。
「そうか。僕も帰ってきた日に言われたよ。
対応早いよ、母上…」
「そうみたいね。随分、お元気そうだし…
この子がお母様やみんなを元気にさせてくれているとしたら…嬉しいわ。」
彼の肩にもたれかかりながら歩く。
穏やかな優しさが何より嬉しかった。
城を出て車で30分ほど行ったパーシヴァル家の教会の一角。
そこに埋葬されているかつてのパーシヴァル公爵夫人セーラ。
王室出身と言うこともあり立派な墓。
リチャードは葬式こそ出席しなかったが、何度か訪れていた。
ファリアは花束を捧げ、リチャードがリィを抱き上げる。
「お母様…遅くなってごめんなさい。
私…結婚するわ。 お母様も応援してくれていた彼と。
それに少し早いけど…お母様の孫を産んだの。
リィって言うの…
見て、彼そっくり。
私、彼とこの子のために頑張るわ。見ててね…」
墓に向かって話しかける彼女を見て彼はその細い肩を抱く。
「セーラ夫人… もう彼女を離しません。
絶対に幸せにします。見守っていて下さい…」
真摯な瞳で墓に向かって彼も言う。
思わず嬉しくなる。
「ごめん。僕も…君の母上に挨拶してなかった。
花婿失格かな?」
「ううん。そんなことない。」
リィは彼の腕の中ではしゃぎ出す。
「あぁ…リィ。 戻ろうか?」
「えぇ。」
風が通り抜ける―
不意に母の気配がしたような気がした…
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(2005/6/12)
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