lovely baby -2- 〜oasis〜番外編
日に日に大きくなっていくお腹―
9ヶ月を過ぎた頃、ホセと常連のメンバーが
出産の為に休業をするフェアリーの最後のステージの日に
あるものを持ってきた。
「フェアリー…何も言わずに受け取ってくれ。
みんなからの祝いだ。」
受け取り開けると2万ドルと少しが入った通帳。
名義は勿論彼女の本名・ファリア=パーシヴァル。
「2万ドル?? どうして? こんな大金…」
ホセたちは笑顔で言う。
「みんなで寄付を募った。
ここにいる奴らだけじゃない。
村人みんなからの善意だ。出産費用はこの星ではかからんが…
生活がある。」
みんなの前でボロボロと泣き出す。
「ありがとう。ありがとう…みなさん。」
どうして生活していこうか不安だった。
住むところはバーの2階を主人のピーターとメリルが提供してくれているが
その他のことをどうしようか悩んでいた。
「みなさん…私、どうお礼を言っていいか…」
「じゃ、こういうのはどうだ?
村人全員、赤ん坊を1回は抱っこさせてもらう、っていうのは?」
嬉々としてメンバーの一人・タンブルが言う。
「え…?」
「おお、そりゃいい!!
フェアリーの子なら絶対可愛いからな!」
「あぁ、そうだな。」
みんな笑顔で笑いあっている中、乙女は泣いていた。
ホセが乙女のそばに行く。
「あぁ、あんまり泣くんじゃねぇ。腹の子に障るぜ。」
「でも私、嬉しくて…」
「そうか…」
他人の優しさがこんなに嬉しいものだと今まで思っていなかっただけに
余計涙が溢れた―
臨月に入り、メリルと村の産婆に連れられ首都イナルの大きな病院に診察に行く。
妊婦の診察の費用などはすべて無料。
人口を増やすためのフルシーミ星の政策でもあった。
これで診察8回目。
お腹の子の性別は知らせないで欲しいと医者には伝えてある。
一応、少し小さめだが順調だと言われ安心した。
画像を見せてもらうと元気に動いているのが解る。
帰りの車の中で乙女は笑顔を見せる。
「あ…」
「どうしたの?」
隣に座っているメリルに問われる。
「この子、今、ここ蹴ったの。ここよ。」
メリルの手を取り、お腹に当てると確かにとんっと蹴っているのが解った。
「ホントだ。 元気そうだね。男の子かもしれないね。」
「そうだと嬉しいわ。」
予定日は5月5日。
メリルや村の経産婦たちはまるで娘か妹が出産するかのようにその日を待ちわびていた。
***
予定日を過ぎても生まれない―
2日が過ぎた5月7日。
ファリアは一日でも早く生まれるようにと教会のマリア像に祈りを捧げる。
村の中を歩くと声を掛けてくる村人達。
6歳の少女・ペニーとその母アネットが彼女にオレンジを渡そうとする。
笑顔で受け取る彼女に微笑む母娘。
「ありがとう。ペニー、アネット。」
歩き出す彼女が急に立ち止まる。
(下腹部が…なんか…変…)
いきなり陣痛が始まり、うずくまる。
異変に気づいたアネットが駆け寄ると乙女がどういう状況かわかった。
「大丈夫? 陣痛、きたのね!? ペニー、人呼んで来て!」
「うん、ママ!」
母親に言われ駆け出す小さな少女。
「大丈夫よ!しっかり!」
「え…えぇ。」
男たち女たちが集まり、すぐ近くの家に運ばれる。
産婆のサンドラも駆けつけた。
「男たちは出て行きなさい!!
お湯沸かして、ジャネット。
あと、ロザンナ呼んできて!」
「「はい!!」」
女たちは動き出す。
みなこの村で出産している。
どう動けばいいのか解っている女たちばかり。
ジャネットの家のテーブルに載せられた。
少し痛みが治まった乙女にサンドラは問いかけた。
「陣痛、解らなかったのかい?」
「少し… お腹痛いかな…くらい。」
その言葉を聞いて少し安堵した。
「まあ、村の中だから良かったよ。
さ、今のうちにお手洗い行っておいで。」
「は…はい。」
また痛くなる。
「う…」
「もう予定日過ぎてるんだからいつ産まれてもおかしくないよ。
大丈夫、しっかりおし!」
「う、うん…」
万が一、出血が多くなってしまったときの為に村の医者も駆けつける。
「破水したね…」
「頑張るんだよ!!」
女たちが17歳で母親になろうとしている彼女に声を掛ける。
ジャネットの家の周りに村人が集まっていた。
乙女が運び込まれて小一時間が過ぎた頃…
「おぎゃあ…おぎゃあぁ…!」
産声が響くと集まっていた村人達から歓声が上がった。
***
「よかったね… フェアリー。よく頑張ったよ。
元気な男の子だよ。少し小さいけどね…2855グラムだよ。」
すぐ彼女の顔の横に産湯で綺麗にされた我が子を見せられる。
「あ…」
(あの人…そっくりの…金の髪!?)
ボロボロと涙が溢れる。
(嬉しい…あの人の…血なのね…)
「フェアリー、泣いているヒマないよ。
まだ後産があるんだからね。」
「…はい。」
***
なんとか出産を終えた彼女はホセに抱えられてバーの2階へ連れて帰ってもらった。
もちろん、赤ん坊も。
用意していたベビーベッドに下ろされる。
部屋にはバーの主人・ピーター&メリル夫妻。それに産婆のサンドラ。連れてきたホセの4人。
「それにしても…フェアリーは黒髪で子は金髪?」
ホセが疑問に思ったことを口にする。
「えぇ、彼そっくりよ。
この髪。」
笑顔で母となったフェアリーは言う。
お産でいきんだ為、目元は腫れ、口元は少し切れていた。
「そうか…」
ホセが呟く。
「それに…男の子で嬉しいわ。」
「今夜はサンドラがついてくれるから安心して。」
メリルが彼女に告げた。
「えぇ、よろしくお願いします。サンドラ…」
あんまりいては迷惑だろうと男たちは退室する。
メリルとサンドラが部屋に残った。
「ところでこの子の名… どうするんだい?」
「少し考えるわ。 顔見てから決めようと思ったんですもの。」
―夜中
初めてお乳をあげる。
小さな小さな赤ん坊。
ファリアにとって弟や甥姪とは違うと解る。
(私の…私と彼の子…)
まだ首がぐらぐらで身体も柔らかい。
半日前まで自分のお腹の中にいたなんて信じられなかった。
懸命に乳にしゃぶりつく赤ん坊。
そっと金の髪を撫でる。
(あなたの名… パパの名前…もらう?
"リチャード"って…
でもそのまますぎるわね…)
笑顔で乳をあげるその様子を見て、メリルたちも安心する。
「ねぇ、フェアリー。 あんた…赤ん坊抱き慣れてる?」
笑顔でメリルに尋ねられる。
「あ…そうかしら? 弟は…5歳下だったから少しだけ。
あとは、従兄弟が何人か生まれたときに抱っこさせてもらったから…」
「そっか…」
飲んでいたと思ったら、寝入ってしまった赤ん坊。
***
3日間悩んだ挙句、やっと決めた。
「メリルおばさん、サンドラさん。決めたわ…」
「決めたって何を?」
「この子の名前。」
「何ていうんだい??」
「リィ…よ。」
「「リィ??」」
「何でまた?」
サンドラが問いかける。
「父親の名前が…リチャードだから、一文字貰って"リィ"」
「へぇ…」
「父親と同じだと…ややこしいかもしれないと思って…」
「そうか…」
「私のリィ…」
胸に抱く幼い生後3日目の我が子の名を初めて呼ぶ。
「私のリィ… いい子ね。ママと頑張ろうね。」
まだ17歳の幼い母は愛おしそうに話しかけていた…
愛しい彼の面影を思い浮かべ、この子を育てようと決意した。
(あの日の…私たちの想い出なのね… リィ…)
フェアリーことファリアは村人達に支えられ、なんとかリィを育て始めた。
人の温かさに包まれ、幼い母と子は…フルシーミの大地で生きてく。
近い未来が二人を…いや、三人を待っていた―
End
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(2005/6/28)
*あとがき*
「oasis」のサイドストーリー…というか
出産ネタが描きたかった!!
17歳で出産させて…苦労させてすまんね〜姫。
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